【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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2.鳳凰の導師

 ゴゥッ!!

 金色の風が吹き荒び、あらゆるものを吹き飛ばす。

「うわっ!?」

「ぐあああ!!」

「くぁぁ!!」

 ナルトとアケビ、レンは至近距離での衝撃により、木の葉のように軽々と吹き飛ばされる。

 離れた位置にいた騎士や騎獣、木ノ葉の忍達にも衝撃波は襲い掛かり、持っていかれそうになる体を何とか固定して耐える。皆が皆、敵味方関係なく苦悶の表情を浮かべていた。

 ナルトは吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直して水面に降り立ち、アケビとレンの手を掴んで岩場に留まる。

 キッと前方を睨んだナルトは、冷や汗を一筋流した。

 ナルトの凝視する先で、黄金の光を纏うアビスの姿が変わっていく。

 もともとガタイのよかった身体は歪に筋肉が膨れ上がり、体を巨大化させていく。鎧はさらに鮫に近くなっていくが、さらに刺々しく凶暴性を増した形状になっていく。

 グローブは左腕全体を覆うような形になり、牙もさらに鋭くなる。

 顔を守る兜もまた、鋭い牙を剥き出しにした凶悪な姿に変化していき、アビスはまるで人とは異なる異形へと変貌していった。

「ウオオオオオ!!」

 ズシン、と足を踏み鳴らし、アビスが吠える。

 そして、鮫の左腕を掲げると、その口に大量の水の塊を生成し始めた。身の丈よりも巨大な水の塊を持ち上げ、アビスはそれを撃ち放った。

 狙いも何もないそれは、あらぬ方向へと飛び、岩肌にぶつかって弾ける。

 ドパンッ!!

 水とは思えない凄まじい威力の水の爆発により、洞窟の壁が一撃で破壊されて全体が大きく震える。

 天井にまで破損が広がり、大量の瓦礫が騎士や忍達に降り注いだ。

「ぐあああ!!」

 崩落を受け、負傷者が多発する。

 瓦礫をよけながら、カカシはアビスの方を見た。

「アイツ……自分の味方もろとも攻撃したか……!?」

 悲鳴が聞こえる中、アビスは辺りを睥睨し、グローブの中に別のカードを挿入した。

ADVENT(アドベント)

 その瞬間、アビスの足元の水面が大きく歪んだ。

 そして、無数の怪物たちが出現した。

「!?」

「なっ……」

 目を見開くナルト達。

 その足元からも、同じように怪物たちが飛び出した。

 怪物たちは口々に奇声を発し、次々にその場にいた誰もに襲い掛かった。

 忍達は即座に苦無や武器を手にするも、連戦による疲労のためか動きが鈍い。果敢に怪物たちに立ち向かっていくも、その圧倒的な力と数の前に次々に倒れていく。

 それは、騎士達も同じだった。

「グオオオオオ!!」

 全身の怪物たちに組み付かれた融合体の騎獣が、悲痛な声とともに倒れていく。

 騎士達も武器を手に攻めるも、その全てを相手にするのは困難だった。

「オラァっ!!」

「ハッ!!」

 ナルトが螺旋丸で、アケビが火遁で怪物を倒し、背中を合わせて身構える。

 辺りはもう敵も味方もない。

「クソ!! あのヤロー味方まで!!」

「完全に、ブッ飛んじゃったみたいだね」

 アケビは軽口を叩くが、焦りを隠しきれないでいた。襲い掛かる怪物たちを次々と切り伏せながら、きりがない現状に歯噛みしていた。

 そこへ、細剣を振り抜き、蜘蛛型の怪物を倒したレンが合流する。荒い息をつきながら、ナルトとアケビに背を向ける。

「……それだけじゃない。奴の持つサバイブの力が、不完全な状態で使用したために暴走している。……こいつらの暴走もそのためだ」

 レンはそういって、ベルトから金色の翼のカードを引き抜く。

「だが、今の奴とサバイブの融合は不完全だ。…今ならまだ、止められる」

「…そのために、同じサバイブの力が必要なわけだね」

 アケビが口元に笑みを浮かべ、ベルトに手をかける。ちらちらと漏れる火の粉と共に、アケビは一枚のカードを抜いた。

 レンのものとよく似た、炎を纏う金色の翼が描かれたカードだ。

 それを見たレンが、フンと鼻で笑った。

「……やはり、お前が持っていたのか。喰えないやつだな」

「…パクったのは相棒だよ」

 心外だったのか、アケビは口を尖らせてレンを睨む。

 そこで、レンとアケビの脳に声が届いた。

『忠告しておくが、我々のリンクは同様に完全ではない。サバイブの全力を出せるのはせいぜい5分程度だと思っていた方がいい』

「……5分か」

 レンが腹の紋章の辺りを見下ろして呟く。

 アケビも、自身の腹のあたりに手を添えた。

『…オレも同意見だ。それに……気をしっかり持たねば、奴のように暴走するぞ』

「……」

 アケビは目を細め、次いでアビスを見やる。

 ズガン!!

 アビスの放った水球が、三人の至近距離で炸裂した。

 顔に当たる飛沫を拭いながら、アケビとレンはきっと表情を改める。

 二人で左腕を掲げ、それぞれに風と炎を纏わせる。

 レンの左腕には剣と盾が、アケビの左手には、龍の顔を模した銃が備わる。レンは盾の一部を、アケビは竜の顎を開き、そこに翼のカードを入れる。

 閉じる前に、二人はふっと笑い合う。

「……ここでやらなきゃ、私たちは死ぬ」

「選択肢は二つ。ここで死ぬか、戦って死ぬか」

 二人の言葉に、封じられた二体の魔獣は無言で目を細める。

 アケビとレンはそれに答えず、アケビがナルトの方を向いた。

「…先生、ごめんなさい。後のことは頼みます」

「アケビ……」

 ナルトは一瞬、悔しげに目を細める。

 圧倒的な力の差がある敵を前に、何もできない自分が情けない。そういった感情を見せながら、ニッと力強い笑みとともに親指を立てた。

「勝てよ!!」

 アケビは目を見開き、そして笑みを浮かべてこくんと頷いた。

「行くよ、レン。…今度は一緒に帰ろう」

 振り返りながら言うと、レンも頷いた。

「…ああ」

 ぶっきらぼうに答え、武器に手を添える。

 誓いを胸に並び立つ二人の騎士の姿を、二体の騎獣は黙って見つめる。

 そしてアケビとレンは、カードの力を発動させた。

 

 ドクンッ!!

 

 心臓が激しく脈動し、全身に衝撃が走る。

 すぐさま全身が熱く火照り、凄まじい量のチャクラが漲っていく。煮えたぎるような熱さで、二人は見る間に脂汗を流し始める。

「ぐぅっ…………!!」

「くっ…………!!」

 体を内側から押し潰されそうな気分に陥り、ぐらぐらと視界が歪んでいく。足元がふらつくほどの不快感が起こり、思わずギュッと胸を掴んで悶える。

 その直後、アケビとレン、二人の全身から黄金のチャクラが噴出した。

「うああああああああああ―――――――!!」

 強すぎる力に、二人は絶叫する。

 体が焼き尽くされるような恐怖に、鋼の心をもって耐え続け、抑えようとする。

 だがその刹那、全ての苦痛が一瞬で消え失せた。

「!?」

 アケビは目を見開き、自分の腕を見下ろす。

 レンも同じようで、戸惑ったように自分の体をペタペタと触っている。

 そこで二人は、周囲の景色が変わっていることに気が付いた。真っ暗なのだ。

 光源はないのに、足元に溜まる水と互いの姿がはっきり見える。だがそれだけで、二人のほかには誰もいない。アビスも騎士達も忍達も、ナルトの姿もどこにもない。

「……ここは」

 思わずつぶやいたアケビ。その眼が、何かを捕らえた。

「!」

 今まで誰もいなかったその場所に、見知らぬ一人の騎士と一体の騎獣が立っていたのだ。

 アケビとレンは正体不明の相手を前に、素早く身構える。だが、それぞれの手から武器が消えていることに気付き、大きく目を見開いた。

 けれどすぐに騎士に目を戻し、素手で構えをとる。そこで初めて、相手の姿を確認することができた。

 騎士は黄金の鎧を纏っていた。逞しい身体を、鳥類の翼を模した鎧で覆い、手に先端に翼を閉じた鳳凰の像が止まっている大きな錫杖を持っていた。

 そして騎獣は、黄金の鳳凰だった。金色の翼に、神々しい炎を纏い、羽ばたきながら滞空している。

 アケビたちは、冷や汗を流しながら双方を見つめた。

 謎の空間にいつの間にか移動し、身元の分からない騎士がいる。敵か味方かもわからない状況で、不安が胸中に広がっていく。

 その時、じっと二人を見つめていた騎士が、少し顔を挙げた。

『……何を望む、人の子らよ』

 頭に直接響いてくるような、不思議な声だった。

 二人はそれが、騎獣達が自分たちに使ってきたテレパシーに似たものだと気づいた。

「……お前は何者だ?」

 レンが、警戒を解かぬまま訪ねた。

 騎士はレンの方を向き、こう答えた。

『我が名はオーディン。力を欲するものを導く存在』

 意味の分からない答えに、アケビは首を傾げた。

「……導く…存在? なんのために?」

『無論、我らが(ことわり)を歪めぬために』

 オーディンはアケビの疑問にすぐさま答える。だが、その答えもよくわからない。

「分かるように言って!!」

 さすがに困惑を極めたアケビが怒鳴った。よくわからない空間に連れ込まれ、よくわからない相手に出会い、よくわからない問答を繰り返し、我慢の限界だった。

 隣でも、レンが小さく頷いていた。

 オーディンはしばし考え込み、再び口を開いた。

『…我らは互いに喰い合い、奪い合い、生き残るために争い合う存在。互いのチャクラしか食せぬゆえ、常に戦いが絶えぬ修羅の存在。己ら以外にチャクラを有する者が存在せぬゆえ、同類同士で喰らい合うほかにない畜生の存在。…故に我らは汝ら人柱力を導く。我らが生き残るために。…彼の男を討つために』

「……何?」

 アケビとレンは、同時に目を見開いた。

 目の前の騎獣と、自らに封じられた魔物の厄介さに、今更ながら気が付いた。

『喰らい合うことは、力を欲することは我らが理。故に我らはあの男を止めなかった。…だがあの男はそれを乱した。理を乱す獣は滅さねばならぬ』

「……それは、アビスのことを言っているの?」

 アケビの問いに、オーディンは頷いた。

『左様。彼の男は我が力を解き放った。従えられぬ力がもたらすはただの破壊のみ。ただの破壊に理はない。……長き時の間、幾度も同じようなことがあった』

 アケビもレンも、もう構えていなかった。ただ静かに、オーディンの話を聞いていた。

『交わらぬはずのこの世界と我らが世界は、かつて同じような愚者によって開かれた。我らを従え、支配を望んだ愚者は、従える術を持たずに喰われた……。我らは歓喜した。食せるチャクラを膨大に前にしたためだ。…それゆえに、我らは狂った。目の前の豊富な餌を前に我を見失い、二つの世界の調和を乱したのだ』

 オーディンはハァ、とため息をつき、宙を仰いだ。

『ハゴロモは…世を案じた。我らを封じ、二つの世界の境界を閉じた。我らの理は、一度正された。だが、彼の男は再びそれを乱そうとしている』

 ガシャン、とオーディンは怒りを表すように錫杖の先端を地面に叩きつけた。

『此度、彼の男は我らを外法にて縛り、時を越える力まで奪った。かつてと同じように我らを狂わせ、一つの国を滅ぼした。…既に、二つの世界の理は乱れた』

「……それは、鏡の国のこと、か」

 レンが呟き、眉を寄せた。

 二人の視線を受け、オーディンは頷いた。

『彼の男を、止めなければならぬ。我が翼を汝らに託すため、我らはここへ汝らを呼んだ。…だが、今一度問わねばならぬ。汝らは何を望む?』

 アケビとレンを見つめ、オーディンは問う。

『彼の男のように、お前たちは支配を望むか?』

「…………」

 アケビとレンは、じっとオーディンを見つめる。

 そして、その口を同時に開いた。

「アイツと一緒にするな」

『……』

 はっきりと告げられた言葉に、オーディンの目が細まる。

「…私たちはただ、生きたい。生き残りたいんじゃない…、ただ命のある限り、大切な人たちとともに、明日を生きたい」

「だが…、それを邪魔し、無差別に命を奪おうとしているあの男を、止めたい……」

『…………』

「…そして!」

『!』

 黙り込んでいたオーディンに、アケビが続ける。

「アビスに利用されて、狂わされている騎獣達を、放っておけない。…アイツらだって、生きてる。この世界の人たちと一緒で、生きるために懸命に、毎日真剣勝負してる。そんな奴らを、捨て駒みたいに扱っていいはずがない」

『…………!!』

 仮面の奥で、オーディンは目を見開いたようだ。

 まじまじとアケビを見つめ、返す言葉を探している。

『我らが同じだと……そう言いたいのか?』

「そうだよ。同じように必死に生きてる。修羅とか畜生とか言ったって、私たちと同じ戦士、戦う者だ。…だから、私はアンタ達も助けたい」

『…………』

 オーディンはただただ呆然とし、アケビを見つめていた。

 かつての人間は、ただ自分たちを〝力〟の塊として、化け物としてしか見なかった。都合のいい武器として、恐ろしい兵器としてしか、見ようとしなかった。

 だが、この少女は違うというのか。

 なぜ、本気でそんなことを言えるのか。

 オーディンには、まだ理解できなかった。

『考えても無駄だぞ、オーディン』

 そこへ、別の声が響いた。

 現れたのは、レンの中に封印された蝙蝠の騎獣・ダークウィングと、アケビに封印された黒龍…改め、紅色の龍だった。巨大な体を近づけ、アケビとレンを見下ろしてくる。

『このバカは…オレたちの常識なんぞ通用しねぇ。どこぞの超バカから飛んでもねぇーモンまで受け継いじまってんだからな』

「だれが馬鹿だ!!」

 鉄の爪でゴンゴンと頭を小突かれたアケビが龍に抗議するも、龍はどこ吹く風といった様子でニヤニヤ笑っていた。それも、どこか嬉しそうに。

『バカじゃなきゃ何だってんだ。殺されかけたり、実際に死んだりしてるやつが…オレたちみてーなバケモンと友達になろーなんざ』

「!」

「…フン」

 アケビがハッと振り向くと、顔を赤くしたレンが鼻で笑って顔を背ける。その姿を、蝙蝠がにやにやと嗤いながら見下ろしている。

 オーディンはその姿に目を細めていた。冷たい雰囲気が止み、慈愛の色が彼から漏れている。

『……そうか、これが、そうか』

 すると、騎士の方のオーディンが光の方へと移った。

 バサッと大きく翼を羽ばたかせ、二人と二体を見下ろす。

『……我も、汝らと同じ人であったなら……あやつとも』

 オーディンは高く飛翔し、キラキラとした光を撒き散らしながら旋回する。その光を浴びたアケビたちの身に、見る見るうちに力が湧いてくる。

 オーディンは、自身を見上げるアケビたちに再び目を向けた。

『…最後に聞かせておくれ、……お前が、そ奴にくれた名を。…我らを、対等の者として認めてくれた証を……』

 光に包まれながら、アケビは背後の龍と目を合わせる。じっと見つめてくる龍に、アケビは微笑みを見せながら拳を突き出した。

 龍はそれに答え、同じく拳を突き出し、合わせた。

「…行くよ」

『…行くぞ』

 笑顔を浮かべ、頷く。

 そしてアケビは、その名を呼んだ。

 

「――龍騎!!」

 

 騎士と騎獣が、互いの拳を合わせ、チャクラが繋がっていく。

 そして全てが、神々しい黄金の光に包まれていった。


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