【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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4.再臨

 ドォォォォン!!

 モノクロの世界で、紅蓮の閃光が走り、轟音が鳴り響く。

 爆炎が起こした衝撃波が世界をビリビリと震わせる中、黒煙の中から二つの人影が飛び出し、地面に向かって落下していく。

 その一方が、マフラーをたなびかせて無事に着地し、もう一方は無様に墜落する。

 着地した方の忍は―――リュウガだった。

 立ち上がったリュウガは、背後で墜落したアケビの方を振り向き、

 そして、倒れた。

「……ってて」

 墜落したアケビは、頭をさすりながら起き上がり、リュウガの方へ向く。

 だが、その眼が大きく見開かれた。

「うああああああああああ!!」

 悲鳴を上げるリュウガが、そこにいた。その細い体に、紫のチャクラの鎖が突き刺さり、巻き付いていく。咎人を縛り付けるように、重く、厚く、巻き付いていく。

 同時に、無機質だった灰色の世界が、黒く塗り潰されていく。

 墨を落としたように染められていく天空を仰ぎ、アケビは息を呑む。そして、鎖に巻き付かれ、闇の中に沈められていくリュウガの体を目にした。

「嫌だ……嫌だ!! もう……もうそこに縛られるのは!!」

 リュウガはそれに抗い、鎖を鳴らして暴れる。だが、何本も重なったチャクラの鎖はびくともせず、ずぶずぶと闇の中に沈んでいく。

 駄々をこねる子供のようにリュウガは暴れ、鎖に中から必死に手を伸ばす。

「イヤだ……イヤだ……あの闇に沈むのは……一人になるのは……」

 誰も、助けてくれる者はいない。

 ここにいるのは、自分とアケビ(あいつ)だけ。

 誰も、手を掴んでくれるものなどいない。

 でも、それでも。

「だれか……誰か、助け、て……」

 願わずには、いられなかった。

 自由を求め、翼をもがれた龍は、目の前で萎んでいく光に手を伸ばし続けるほかにできなかった。しかしその光も、闇に呑まれていく。

 そして、光が完全に呑み込まれ、鎖が視界を覆い尽くしていく。

 その時だった。

 呑み込まれていくリュウガの手を、掴む手があったのは。

「…………え?」

 顔の半分を鎖に巻き付かれたリュウガが、呆然とした表情で顔を挙げた。

 目の前で手を掴み、強い力で引っ張っているのは、今の今まで肉体を狙い、何度も傷つけ、刃を合わせてきた相手―――アケビだった。

「…お前、何をしているんだ」

 訳が分からず、リュウガは尋ねるほかになかった。

「何故……、お前がオレを助ける? オレは…、敵だったんだぞ?」

「……関係ないよ」

 ギシギシと鎖の退く力に抗いながら、アケビは告げる。

「目の前で泣いてる人がいて、その人が同じ苦しみを背負っているなら、……私にとって、敵とか味方とか関係ないよ」

 ギン、と目に力を込め、リュウガの目を見つめ返す。

「最初から決めてたんだ。アンタを助けるって」

 その言葉が、黒龍の心を打った。

 誰もが皆、自分のことをただの力だと、兵器だと決めつけ、挙句封印し酷使しようとしてきたのに。蔑んだ目で、見てきたのに。

 この娘は、そんな目をしていない。

「…何故、お前はそんなにも強い」

 涙が止まらない。止められない。

 自分を認めてもらえた気がして、受け入れてくれた気がして。

 ただ、どうしてそんなことができるのか、分からない。

「何故、オレをそんな目で見れる……オレが、恐ろしくはないのか」

「…強くなんてないよ」

 口角を挙げながら、アケビは言う。

「私も、ただの人間。時の流れには逆らえず、無力に死ぬちっぽけな存在。…でもあんたが強いと思うのは、私が強くなりたいと思っているから」

 リュウガの手を掴む力を強め、引き上げる。ギシギシとなるチャクラの鎖を睨みながら、アケビはリュウガから手を離さない。

「人は変わる……自分で変われるんだ。弱っちくても、独りぼっちでも、人は願えば、何にだってなれるんだ。自分を信じて、願いが叶うまで耐え忍べば、人は変われるんだ!!」

 筋肉が震え、汗が伝う。アケビの力が、痛いほど伝わる。

 リュウガの前に、光が差す。闇にとらわれた二人のもとに、輝く光が届く。

「アンタだって、同じだよ。自由を願えば、なれるはずなんだ。だれだって〝変身〟できるんだ……!!」

 ビシッと音が聞こえる。リュウガを縛る鎖に、徐々にひびが入り始めているのだ。

「一人じゃ無理かもしれない。…でもその時は、私が……仲間がいるよ。手を伸ばせば、きっと届く!!」

 バキンッ。

 一際大きな音とともに、鎖の欠片が飛ぶ。

「リュウガ…アンタがまだ信じられないなら、私が何度でもアンタの手を掴む。アンタの願いに届くまで、何度でも手を貸してやる!!」

 バキン、バキンッ!!

 音が続く。リュウガの耳だけではない、魂にまで響いてくる。

「…オレは、変われるのか?」

 その問いに、アケビは満面の笑顔で答える。

「信じられないなら、それでもいい。先ずは……私がアンタに名前をあげる」

 闇が晴れていく、光が差していく。

 リュウガはそれが、ひどく心地いいと思った。

「アイツがつけた名前じゃない……アンタだけの名前を」

 笑顔のアケビが、口を開く。

 

「アンタの名前は、――――」

 

 その瞬間、世界が弾けた。

 身を縛るすべての鎖の呪縛が砕け散り、世界の闇が晴れていく。

 光の放つ眩さと温かさが、少女たちを包んでいく。

 アケビが、かつてリュウガ(・・・・)と呼ばれていた少女の手を引き、光の中へ走り出した。

「さぁ、行こう!!」

 

 

 ドォン、ドォン、ドォン!!

 洞窟の中で、激しい爆発が立て続けに起こり、大気を震わせる。

「くっ……」

 マントを翻したレンが、飛翔しながらゾルダの砲撃を躱し続ける。だが、あまりの数に圧倒され、回避が困難になり始め、ついには右足に被弾してしまった。

「くあああ!!」

 黒い煙を上げながら、レンは湖面上に墜落していく。ザブン、と水中に沈むも、もう片方の足で水を蹴って浮上し、剣を構えなおす。

 だが、既にレンの周囲は技を構えた騎士達に取り囲まれていた。

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 忍具の声とともに、それぞれの術が発動する。

 ゾルダの喚び出した牛の巨人の砲門が全て一斉に火を噴き、

 ベノスネーカーの吐き出した酸の毒に乗った王蛇が蹴りを繰り出し、

 タイガが虎の怪物と共に冷気を纏った爪を振るい、

 エイの怪物(エビルダイバー)に乗ったライアがそのまま突撃し、

 インペラ―の召喚した無数のレイヨウ型怪人軍団が一気に突進し、

 薙刀を持ったファムが刃を振るい、

 ワイヤーを天井に繋げたベルデが空中で加速して蹴りを放ち、

 蟹の怪物(ボルキャンサー)に放り上げられたシザースが回転して体当たりし、

 そして、アビスの呼び出した水でできた巨大な鮫が殺到していく。

 全ての騎士たちの総攻撃を受け、レンの鎧は耐えきれなかった。

「ああああああああ!!」

 悲鳴を上げ、レンの体が吹き飛ばされる。

 ズン、という音を立ててレンの体が壁に激突し、めり込む。

 ボシュゥゥ……と翼の鎧が消え去り、力を使い果たしたレンは真下に落下する。そのすぐ傍に、金色の翼のカードが力なく落ちた。

「ぐっ……くっ……」

 レンは全身を襲う激痛に呻きながら、血の流れる顔を挙げてカードに手を伸ばす。

 アビスはそれを待たず、剣を召還しながら近づいていく。

「…意表を突かれたぞ……まさか写輪眼の幻術を己にかけて呪縛を解くとは……だが、惜しかったな。お前といえどこの力の差は覆すことはできなかったか」

「くっ……」

「実に惜しいが、使えぬ駒は処分するほかないだろう……」

 刃を肩に担ぎ、アビスは一歩一歩近づいていく。レンの眼の前に立つと、いやな金属音を立てながら、鮫の牙の並んだ剣を振り上げた。

「死ね」

 一言だけ言い放ち、アビスが刃を振り下ろす。

 レンは悔しげに歯を食い縛り、無念をかみしめながら目を閉じた。

「ウオラァァァァ!!」

 だが一人の青年の咆哮がその流れを叩き切った。

 螺旋丸を構えたナルトが、そのままアビスの顔面に右手を振り抜いたのだ。

「!?」

 圧縮されたチャクラの塊を受け、アビスの体がたまらず吹き飛ぶ。凄まじい轟音が鳴り響き、アビスの体がザブンと音を立てて沈んだ。

 レンは目を見開き、目の前の青年を凝視した。

「……何故、だ?」

 レンの問いに、ナルトは背を向けたまま肩をすくめた。

「……そうだよな。お前の手で助けたかったよな」

「……!!」

「友達なんだもんな。…自分の手で、助けたかったよな。俺じゃ確かに、助けらんねーよな」

 ナルトは拳を握りしめ、自分の言葉を反芻する。

 後ろにいる少女は、自分だ。自分と同じなのだ。

 サスケを救いたいと願いながらも、長い間その願いがかなえられずにいる自分と同じなのだ。

「俺も同じだ。助けたくて、ずっと頑張って…でも手が届かねぇ。最近知り合ったばっかの俺に、横から手なんか出されたくねーよな」

 ふっと自嘲気味に笑い、次いで表情を引き締める。

「だったら、なおさら諦めんじゃねーってばよ」

「!!」

 レンはナルトの背から迸る怒りに気付いた。それはアビスに、そしてレンに向けられていた。

「アイツは…アケビはこんなところじゃ終わらねぇ。あいつは、もっと強くなる。なんでかわかんねーけど、俺はそう思える。一番の友達のお前が、それを信じねーでどうすんだ」

 

 その声が、沈黙していた彼女に届いた。

 ピクリと手が動き、ゆっくりと握られていく。

 

「…アイツにはもう、俺が師匠から受け継いだもんがちゃんとある」

 

 ゆらゆらと赤い陽炎が揺らめき、衣服が赤く染まり、変化していく。

 髪が蠢き、白銀だったそれが黄金色に染まっていく。

 

「転んでも、踏みつけられてもぜってー折れねぇ」

 

 チャクラが燃え上がり、熱く強い鼓動が蘇っていく。ドクン、ドクンと血潮が体中を駆け巡り、力が沸き上がっていく。

 そして、赤く燃え上がる炎が、龍の紋章を形作る。

 

「何度でも立ち上がる、ド根性だ!!」

 

 その瞬間、アケビは炎とともに覚醒した。

 赤く輝く瞳を開き、その奥に熱い烈火をたぎらせる。

 レンを庇うナルトに向かって、アビスが再び刃を構えて突進する。怒りを混ぜた渾身の一太刀が、振り下ろされようとした時、両者の間に赤い影が舞う。

 ガキンッ!!

 甲高い音とともに、アビスの斬撃が、一本の曲刀に止められた。

 銀の刀身に黄色い模様が入った、真紅の柄の刀を掲げ、一人の少女が立ちはだかる。

 赤龍の騎士、アケビはニッと笑った。

 

「……ただいま戻りました、先生」

 

 ナルトも、ニッと笑って返した。

 

「遅せーってばよ、アケビ!!」


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