【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
ガキン!!
アケビの細い剣と、リュウガの曲刀がぶつかり、激しい火花を散らす。
二人で長い髪を振り乱し、刃をかち合わせる。互いを狙う剣を受け流し、長い長い時間、アケビとリュウガはぶつかり続けていた。
―――そうだ、これが全ての始まりだった。
リュウガの眼をじっと見つめ、アケビは思い出した。
―――私は木ノ葉の忍だった。
ナイトは……レンは、友達だった。
でもレンは捕まって…、私はアイツと戦わされて……。
私は一度、死んだ。
「うおおおお!!」
雄叫びを上げ、リュウガは曲刀を振り下ろす。
その一撃を受け止め、アケビは刀を押さえつけながら目を合わせる。
―――でも人柱力としてこの子が封印されて、仮初の魂を吹き込まれた私の肉体は生き返り、私の魂も、消滅せずに残った。
……でも、あの時。
ドカン、と火遁の炎が爆ぜる。
木ノ葉を模したマークが刻まれた額当てを巻いた忍達が、雄叫びとともに走り、異なる忍装束を纏った忍達を制圧していく。
刃を構えた忍達に、白とオレンジの影が向かう。
「螺旋丸!!」
青いチャクラの渦が、忍達を吹き飛ばす。
凄まじい風の奔流が飛び交い、白い外套がはためく。黒い字が刺繍されたそれを翻し、その〝影〟は先へと向かう。
そして、奇妙な紋章が辺り一面に刻まれた空間に辿り着く。
「………アビス!!」
紋章の中心に立つアビスを睨み、影はチャクラを全身に漲らせる。
だが、影の前に十一人の鎧を纏った忍達が現れ、アビスを庇うように剣を構えだした。ギチギチと鳴り響く金属音に顔をしかめ、影は拳を握りしめる。その中の二人に気付き、歯を強く食いしばる。
「テメー……何がしてぇんだ!! 何のためにあいつらを攫った!!」
「知れたこと……神の力を手に入れたのだ。支配以外にあるか?」
鮫の籠手を手に、アビスは嗤う。自身の前に並び立つ戦士たちを睥睨し、歪めた口元から歯をむき出しにする。
「俺は今、全てを破壊し、創り変える力を得た!! 火影……お前にはもう止められない!! お前のすべてを……、これより破壊してやる!!」
「させるか!!」
アビスに向かって、火影は急ぐ。
だがアビスは、黒い笑みとともに一枚のカードを籠手に差し込んだ。
[
時計が描かれたカードが、光を放つ。
それと共鳴するように、空間の紋章が同じような光を放っていく。
眩い光の中に、アビスと騎士たちは包まれていく。
「ッ!! 待ちやがれ!!」
影がその後を追おうとするも、光の流れに遮られて近づけない。
騎士達とともに光に呑まれながら、アビスは両手を挙げて高らかに笑う。
「さらばだ英雄!! 永遠にな!!」
レンとリュウガもまた、その中に消えていく。
だが、その時。
バチィッとリュウガの体に紫電が走った。
「!?」
目を見開くリュウガを、突然強い衝撃と浮遊感が襲った。そして、激しい違和感が痛みのように全身を襲い、意識を持っていかれそうになる。
「ぐっ……ぐぅぅぅ!!」
流れに乱されながら、リュウガは歯を喰い縛って激痛に耐える。
その瞬間だった。
リュウガが、二人に分かれたのは。
「なっ……!?」
目を見開いたリュウガは見た。自分が入っていた器たる少女が、自分と分離するのを。
「くっ……!!」
リュウガは驚愕しながら、離れていく少女に手を伸ばす。
だが少女は、光の激流に飲み込まれ、離れていく。川の流れに投じられた木の葉のように、少女の体は光の彼方に流されていった。
「おのれぇぇぇぇ!!」
光の中で、リュウガの叫びだけがむなしく響き渡った。
―――無理な時空間忍術の行使で、二つの魂が入って不安定になっていた
私の体は拒絶反応を示し、私とあの子の二人に分かれた。
そしてあの子は、なぜかアビスの支配から逃れ、
……私は、ショックで記憶の大半を失ってしまった。
剣を押さえつけながら、アケビは記憶の海から帰還する。
リュウガはそれを力尽くで振り払い、再びアケビに刃を振るう。
「ウオオオオ!!」
強力な一撃がアケビに叩きつけられるも、アケビは辛うじてそれを受け止める。
だが、そこでアケビは気づいた。
リュウガの眼が、深い悲しみを帯びていることに。
―――リュウガから逃げ続けながら、私は一心不乱に走った。
走って走って、走り続けて……。
そして辿り着いた。
あの人のもとに。
「何故だ……」
ギャリンッと刃を弾き、アケビはリュウガから距離をとる。その時、リュウガがアケビを見つめながら小さく呟いた。
「何故お前は、……折れない」
「…………」
アケビはリュウガの眼を見つめ、刃を下ろして眉を寄せる。
「何度傷つこうとも、己を見失おうとも、……何故お前は、理不尽に屈しない……?」
キッと目を鋭くし、アケビに殺気を向ける。
「そんなになってまで、何故戦う!? なぜ折れない!? 何がお前をそこまで駆り立てる!?」
向けられた鋭い眼を、アケビはじっと見つめ返す。目をそらすこともなく、ただただリュウガの思いを受け止め続ける。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……約束を、守るため」
その答えに、リュウガは顔をしかめた。
苦笑したアケビは、構えを解く。緊張を解き、警戒をやめる。
「すべてを失った私に、…あの人は、あの人たちはいろんなものをくれた。空っぽだった私に、暖かいたくさんのものをくれた……私を満たしてくれた」
胸の前で手をぎゅっと握り、記憶を思い出すように目を閉じる。
蘇る記憶に、温もりも戻ってくる。
先輩と交わした会話。
恩師に教わった日々。
亡き父母の前で祈った朝。
〝あの人〟と拳を合わせ、語り合った夕暮れの時。
「……私は、守りたい。私を私にしてくれたあの人たちを。世界なんて大それたものじゃない、私の大切な人たちを、守りたい。自分に誓ったんだ。この温もりを……この愛を、みんなに何倍にして返すんだって……!!」
キッと目を見開き、リュウガを見つめ返す。
「私はアケビ!! あの人から受け継いだ、不屈のド根性を持った忍だ!!」
「……お前に、お前に何ができる!? 己の身すら守れぬお前に、何ができる!?」
「できるかどうかじゃない……やると決めたんだ!!」
リュウガの否定を、アケビは真っ向から強く否定する。
その時、アケビの姿が誰かとブレた。
「………まっすぐ」
―――まっすぐ。
金色の髪の青年の姿が、アケビに重なる。
「………自分の言葉は曲げない!!」
―――自分の言葉は曲げねェ!!
ビッと自らの額当てに親指を向け、アケビは言い放つ。
どこかの、誰かのように。
「それが、私の忍道だ!!」
アケビは刃を掲げ、リュウガを迎え撃つ。
「私は守るだけ……自分への誓いを、約束を!!」
「ふざけるなァァァァァァ!!」
ブルブルと震える刃を掲げ、リュウガはアケビを睨みつける。
その顔は、泣いていた。
まるで、子供のように。
「あああああああ!!」
泣き叫ぶような怒号とともに、リュウガは加速する。足場が爆発したように陥没し、衝撃波が発生するほどの速度で、アケビに振り下ろす。
怒りのままに、感情のままに放たれる斬撃は、徐々にその速度を速めていく。刃の軌跡が光の筋となって見えるほどのスピードで、アケビに無数の刃が迫る。
アケビはそれを、紙一重で躱し、剣で弾き、まるで舞うように回避し続ける。
甲高い金属音が、二人だけの無機質な世界に響き渡り、光が火花のようにあたりに飛び散っていく。キラキラと輝き、二人を照らす。リュウガの涙が混じり、雫に光が反射して、世界に小さな色を残す。
キィィィィィンッ!!
一際大きい、それでいて美しい音が鳴り響き、二人の持つ刃が空へと舞った。
連撃の最中、ぶつかり合った刃が弾けたのだ。
リュウガは歯を食いしばり、キッとアケビを睨みつける。
「ウオオオオ!!」
雄叫びとともに、握りしめた拳を振り上げる。様々な思いが混ざり、ぐちゃぐちゃになった心で、アケビに拳を振るう。
「あああああ!!」
アケビもまた、思いの丈をすべて込めた拳を挙げて吠える。
互いに傷つけあい、傷つけられ合い、ボロボロになりながら、二人の戦士は向かい合う。血の滲んだ拳を掲げ互いの意思を叩き付ける。
ズガンッ!!
二人の拳が、激突した。
凄まじい、骨と骨がぶつかり合う音が反響し、衝撃が風を起こす。ビリビリと大気と地面が震え、二人の鼓膜を揺らす。
力は、互角だった。二人とも微動だにせず、互いに拳を止めていた。
「!?」
その時、リュウガが目を見開いた。
激突した拳から、力が抜けていくのを感じた。アケビの拳と合わせた部分から、リュウガのチャクラが抜けだし、アケビの方へと流れていっていた。
リュウガは即座に拳を引き、アケビを睨みつけた。
「……お前、何をした」
アケビはその問いに、ニッと笑った。
「……かつて木の葉の英雄は、自身の中に封印された九尾と対決し、そのチャクラを我が物とした。自分の精神世界で、九尾とチャクラの取り合いをしてね」
アケビは背筋を伸ばし、リュウガに向き直る。
すると、その姿が見る間に変化し始めた。灰色に近かった装束が炎を纏い、ズボンと手袋が赤く染まる。首元からは黒いマフラーが現れてはためき、腰には黒い生地に赤い炎が躍る布が垂れさがる。
最後にベルトのバックルと額に、竜の顔を模した紋章が出現し、アケビの瞳が真紅に染まる。
「それと同じことをしただけだよ」
チャイナドレスに似た忍装束を翻し、アケビは再び身構える。
目を見開いたリュウガは、その言葉に呆然となり、次いでその眼に怒りの炎を燃やし始めた。ブルブルと身体を震わせ、ベルトからカードを乱暴に引き抜いた。
「貴様ァァァァァァァ!!」
[
リュウガの絶叫と籠手の声とともに、リュウガに巻き付くように青い炎を纏う黒龍が出現し、リュウガの体を浮かび上がらせる。
アケビも、ベルトからカードを抜き、籠手に挿入する。
[
アケビの隣にも、同じようにとぐろを巻いた龍が現れる。だが現れたのは、赤い炎を纏った真紅の龍だった。
アケビは両手を胸の前に突き出すと、竜の顎のように上下に重ねる。そして、懐に気を溜め込むように移動させ、姿勢を低く低く落としていく。
「ハッ!!」
気合とともに、アケビはその場で高く跳躍した。同時に赤龍も螺旋を描きながら舞い上がり、アケビを追う。竜の螺旋の中でアケビはクルクルと回転し、右足を抱え込む体勢になる。
空中に浮かび、龍を従えた二人の忍が互いににらみ合う。
そして、両者の背後に陣取った二体の龍が、赤と青の炎を吐きだす。竜の息吹を背に受けた二人は、一気に加速しながら必殺の蹴撃の構えをとった。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァァ!!」
炎を身に纏い、放たれた矢のように互いに迫る、アケビとリュウガ。
白と黒に彩られた無機質な世界で、二つの炎が激突した。