【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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3.竜の真実

 ガキン!!

 アケビの細い剣と、リュウガの曲刀がぶつかり、激しい火花を散らす。

 二人で長い髪を振り乱し、刃をかち合わせる。互いを狙う剣を受け流し、長い長い時間、アケビとリュウガはぶつかり続けていた。

 ―――そうだ、これが全ての始まりだった。

 リュウガの眼をじっと見つめ、アケビは思い出した。

 ―――私は木ノ葉の忍だった。

    ナイトは……レンは、友達だった。

    でもレンは捕まって…、私はアイツと戦わされて……。

    私は一度、死んだ。

「うおおおお!!」

 雄叫びを上げ、リュウガは曲刀を振り下ろす。

 その一撃を受け止め、アケビは刀を押さえつけながら目を合わせる。

 ―――でも人柱力としてこの子が封印されて、仮初の魂を吹き込まれた私の肉体は生き返り、私の魂も、消滅せずに残った。

    ……でも、あの時。

 

 

 ドカン、と火遁の炎が爆ぜる。

 木ノ葉を模したマークが刻まれた額当てを巻いた忍達が、雄叫びとともに走り、異なる忍装束を纏った忍達を制圧していく。

 刃を構えた忍達に、白とオレンジの影が向かう。

「螺旋丸!!」

 青いチャクラの渦が、忍達を吹き飛ばす。

 凄まじい風の奔流が飛び交い、白い外套がはためく。黒い字が刺繍されたそれを翻し、その〝影〟は先へと向かう。

 そして、奇妙な紋章が辺り一面に刻まれた空間に辿り着く。

「………アビス!!」

 紋章の中心に立つアビスを睨み、影はチャクラを全身に漲らせる。

 だが、影の前に十一人の鎧を纏った忍達が現れ、アビスを庇うように剣を構えだした。ギチギチと鳴り響く金属音に顔をしかめ、影は拳を握りしめる。その中の二人に気付き、歯を強く食いしばる。

「テメー……何がしてぇんだ!! 何のためにあいつらを攫った!!」

「知れたこと……神の力を手に入れたのだ。支配以外にあるか?」

 鮫の籠手を手に、アビスは嗤う。自身の前に並び立つ戦士たちを睥睨し、歪めた口元から歯をむき出しにする。

「俺は今、全てを破壊し、創り変える力を得た!! 火影……お前にはもう止められない!! お前のすべてを……、これより破壊してやる!!」

「させるか!!」

 アビスに向かって、火影は急ぐ。

 だがアビスは、黒い笑みとともに一枚のカードを籠手に差し込んだ。

TIME VENT(タイム・ベント)

 時計が描かれたカードが、光を放つ。

 それと共鳴するように、空間の紋章が同じような光を放っていく。

 眩い光の中に、アビスと騎士たちは包まれていく。

「ッ!! 待ちやがれ!!」

 影がその後を追おうとするも、光の流れに遮られて近づけない。

 騎士達とともに光に呑まれながら、アビスは両手を挙げて高らかに笑う。

「さらばだ英雄!! 永遠にな!!」

 レンとリュウガもまた、その中に消えていく。

 だが、その時。

 バチィッとリュウガの体に紫電が走った。

「!?」

 目を見開くリュウガを、突然強い衝撃と浮遊感が襲った。そして、激しい違和感が痛みのように全身を襲い、意識を持っていかれそうになる。

「ぐっ……ぐぅぅぅ!!」

 流れに乱されながら、リュウガは歯を喰い縛って激痛に耐える。

 その瞬間だった。

 リュウガが、二人に分かれたのは。

「なっ……!?」

 目を見開いたリュウガは見た。自分が入っていた器たる少女が、自分と分離するのを。

「くっ……!!」

 リュウガは驚愕しながら、離れていく少女に手を伸ばす。

 だが少女は、光の激流に飲み込まれ、離れていく。川の流れに投じられた木の葉のように、少女の体は光の彼方に流されていった。

「おのれぇぇぇぇ!!」

 光の中で、リュウガの叫びだけがむなしく響き渡った。

 

 

 ―――無理な時空間忍術の行使で、二つの魂が入って不安定になっていた

    私の体は拒絶反応を示し、私とあの子の二人に分かれた。

    そしてあの子は、なぜかアビスの支配から逃れ、

    ……私は、ショックで記憶の大半を失ってしまった。

 剣を押さえつけながら、アケビは記憶の海から帰還する。

 リュウガはそれを力尽くで振り払い、再びアケビに刃を振るう。

「ウオオオオ!!」

 強力な一撃がアケビに叩きつけられるも、アケビは辛うじてそれを受け止める。

 だが、そこでアケビは気づいた。

 リュウガの眼が、深い悲しみを帯びていることに。

 ―――リュウガから逃げ続けながら、私は一心不乱に走った。

    走って走って、走り続けて……。

    そして辿り着いた。

    あの人のもとに。

「何故だ……」

 ギャリンッと刃を弾き、アケビはリュウガから距離をとる。その時、リュウガがアケビを見つめながら小さく呟いた。

「何故お前は、……折れない」

「…………」

 アケビはリュウガの眼を見つめ、刃を下ろして眉を寄せる。

「何度傷つこうとも、己を見失おうとも、……何故お前は、理不尽に屈しない……?」

 キッと目を鋭くし、アケビに殺気を向ける。

「そんなになってまで、何故戦う!? なぜ折れない!? 何がお前をそこまで駆り立てる!?」

 向けられた鋭い眼を、アケビはじっと見つめ返す。目をそらすこともなく、ただただリュウガの思いを受け止め続ける。

 やがて、ゆっくりと口を開いた。

「……約束を、守るため」

 その答えに、リュウガは顔をしかめた。

 苦笑したアケビは、構えを解く。緊張を解き、警戒をやめる。

「すべてを失った私に、…あの人は、あの人たちはいろんなものをくれた。空っぽだった私に、暖かいたくさんのものをくれた……私を満たしてくれた」

 胸の前で手をぎゅっと握り、記憶を思い出すように目を閉じる。

 蘇る記憶に、温もりも戻ってくる。

 友達(レン)と続けた修行。

 先輩と交わした会話。

 恩師に教わった日々。

 亡き父母の前で祈った朝。

〝あの人〟と拳を合わせ、語り合った夕暮れの時。

「……私は、守りたい。私を私にしてくれたあの人たちを。世界なんて大それたものじゃない、私の大切な人たちを、守りたい。自分に誓ったんだ。この温もりを……この愛を、みんなに何倍にして返すんだって……!!」

 キッと目を見開き、リュウガを見つめ返す。

「私はアケビ!! あの人から受け継いだ、不屈のド根性を持った忍だ!!」

「……お前に、お前に何ができる!? 己の身すら守れぬお前に、何ができる!?」

「できるかどうかじゃない……やると決めたんだ!!」

 リュウガの否定を、アケビは真っ向から強く否定する。

 その時、アケビの姿が誰かとブレた。

「………まっすぐ」

 ―――まっすぐ。

 金色の髪の青年の姿が、アケビに重なる。

「………自分の言葉は曲げない!!」

 ―――自分の言葉は曲げねェ!!

 ビッと自らの額当てに親指を向け、アケビは言い放つ。

 どこかの、誰かのように。

「それが、私の忍道だ!!」

 アケビは刃を掲げ、リュウガを迎え撃つ。

「私は守るだけ……自分への誓いを、約束を!!」

「ふざけるなァァァァァァ!!」

 ブルブルと震える刃を掲げ、リュウガはアケビを睨みつける。

 その顔は、泣いていた。

 まるで、子供のように。

「あああああああ!!」

 泣き叫ぶような怒号とともに、リュウガは加速する。足場が爆発したように陥没し、衝撃波が発生するほどの速度で、アケビに振り下ろす。

 怒りのままに、感情のままに放たれる斬撃は、徐々にその速度を速めていく。刃の軌跡が光の筋となって見えるほどのスピードで、アケビに無数の刃が迫る。

 アケビはそれを、紙一重で躱し、剣で弾き、まるで舞うように回避し続ける。

 甲高い金属音が、二人だけの無機質な世界に響き渡り、光が火花のようにあたりに飛び散っていく。キラキラと輝き、二人を照らす。リュウガの涙が混じり、雫に光が反射して、世界に小さな色を残す。

 キィィィィィンッ!!

 一際大きい、それでいて美しい音が鳴り響き、二人の持つ刃が空へと舞った。

 連撃の最中、ぶつかり合った刃が弾けたのだ。

 リュウガは歯を食いしばり、キッとアケビを睨みつける。

「ウオオオオ!!」

 雄叫びとともに、握りしめた拳を振り上げる。様々な思いが混ざり、ぐちゃぐちゃになった心で、アケビに拳を振るう。

「あああああ!!」

 アケビもまた、思いの丈をすべて込めた拳を挙げて吠える。

 互いに傷つけあい、傷つけられ合い、ボロボロになりながら、二人の戦士は向かい合う。血の滲んだ拳を掲げ互いの意思を叩き付ける。

 ズガンッ!!

 二人の拳が、激突した。

 凄まじい、骨と骨がぶつかり合う音が反響し、衝撃が風を起こす。ビリビリと大気と地面が震え、二人の鼓膜を揺らす。

 力は、互角だった。二人とも微動だにせず、互いに拳を止めていた。

「!?」

 その時、リュウガが目を見開いた。

 激突した拳から、力が抜けていくのを感じた。アケビの拳と合わせた部分から、リュウガのチャクラが抜けだし、アケビの方へと流れていっていた。

 リュウガは即座に拳を引き、アケビを睨みつけた。

「……お前、何をした」

 アケビはその問いに、ニッと笑った。

「……かつて木の葉の英雄は、自身の中に封印された九尾と対決し、そのチャクラを我が物とした。自分の精神世界で、九尾とチャクラの取り合いをしてね」

 アケビは背筋を伸ばし、リュウガに向き直る。

 すると、その姿が見る間に変化し始めた。灰色に近かった装束が炎を纏い、ズボンと手袋が赤く染まる。首元からは黒いマフラーが現れてはためき、腰には黒い生地に赤い炎が躍る布が垂れさがる。

 最後にベルトのバックルと額に、竜の顔を模した紋章が出現し、アケビの瞳が真紅に染まる。

「それと同じことをしただけだよ」

 チャイナドレスに似た忍装束を翻し、アケビは再び身構える。

 目を見開いたリュウガは、その言葉に呆然となり、次いでその眼に怒りの炎を燃やし始めた。ブルブルと身体を震わせ、ベルトからカードを乱暴に引き抜いた。

「貴様ァァァァァァァ!!」

FINAL VENT(ファイナル・ベント)

 リュウガの絶叫と籠手の声とともに、リュウガに巻き付くように青い炎を纏う黒龍が出現し、リュウガの体を浮かび上がらせる。

 アケビも、ベルトからカードを抜き、籠手に挿入する。

FINAL VENT(ファイナル・ベント)

 アケビの隣にも、同じようにとぐろを巻いた龍が現れる。だが現れたのは、赤い炎を纏った真紅の龍だった。

 アケビは両手を胸の前に突き出すと、竜の顎のように上下に重ねる。そして、懐に気を溜め込むように移動させ、姿勢を低く低く落としていく。

「ハッ!!」

 気合とともに、アケビはその場で高く跳躍した。同時に赤龍も螺旋を描きながら舞い上がり、アケビを追う。竜の螺旋の中でアケビはクルクルと回転し、右足を抱え込む体勢になる。

 空中に浮かび、龍を従えた二人の忍が互いににらみ合う。

 そして、両者の背後に陣取った二体の龍が、赤と青の炎を吐きだす。竜の息吹を背に受けた二人は、一気に加速しながら必殺の蹴撃の構えをとった。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

「ハァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 炎を身に纏い、放たれた矢のように互いに迫る、アケビとリュウガ。

 白と黒に彩られた無機質な世界で、二つの炎が激突した。


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