【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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2.夜明けの雛鳥

 窓から光が差し込み、少年の顔を照らす。眩しさに顔を思いっきりしかめ、唸りながら、うずまきナルトは起き上がった。

「……あー。いやな夢見たってばよ」

 悪態をつきながら、のろのろとベッドから降りる。

 寝起きは悪くない方のはずだが、今朝の悪夢のせいでひどく機嫌が悪い。

 大きく欠伸をしながら、ゴミの散乱する床を歩いて、洗面所に向かう。水をいっぱいに張り、そのまま盛大に水飛沫をあげながら顔を洗う。

 乾いたタオルで水気を拭うと、少しだけすっきりした。

 顔を上げると、澄んだ青い目とつんつん尖った金髪が目に入り、鏡の向こうでニッと笑った。

 素早く網シャツとズボンをはき、オレンジと黒の上着を羽織る。

 最後に木の葉のマークが彫られた額あてをしっかりと巻き、忍者ナルトは準備を終えた。

「……よっしゃ!!」

 盛大に音を立てて玄関のドアを開け、階段に向かって急ぐ。

「今日も張り切って、任務だってば……よぉ!?」

 恰好がついた、と思った矢先。ナルトはいきなり何かに躓いて、そのまま二、三歩飛び跳ねる。努力もむなしく、ナルトは顔面から勢いよく転んだ。

「でっ!! ……いってぇー、誰だってばよ。こんなところにゴミ置いた奴ぅ……」

 激しく打ち付けた鼻を押さえ、ナルトは原因となったソレを睨みつけた。

 黒いぼろ布の大きな塊が、ドアの前に転がっている。

「? 何だってばよ、これ……」

 ナルトは恐る恐る、ぼろ布の端をめくってみた。すると、中から現れたのは、

 白い、人間の足だった。

「…………ギャ――――――――!! し、し、死体ぃぃ〰〰〰〰〰!?」

 目を剥いて、ズザザザザッと後ずさる。

 しかしすぐに意を決して、再度ボロ布に近づいて行った。

「…いやだってばよォ、朝っぱらからこんなスリルとサスペンス……」

 ぼやきながら、先ほどとは反対側、つまり顔があると思われる方をめくってみる。

(……まぁ、顔が無かったらもっと怖ェんだけども)

 ゆっくりと、ボロ布の中身を露わにしていく。

 すると、中から一房の金糸が流れ出た。

 全てを露わにすると、中から現れたのは、綺麗な少女だった。

 長いまつ毛と整った顔立ち、きりっとした眉毛は、全体にバランス良く配分され、つやつやとした肌は、まるで玉のようだ。桜色の唇は、僅かに開いている。そして目元には、紅色の牙のような模様が浮かんでいた。

 長い金髪は乱れていたが、それもまた滑らかだ。

「…かわいそうになぁ―。俺とほとんど一緒くらいなのに……」

 思わず、しみじみと呟いた。せめてと思って、少女の顔をよく拝んでおく。

 見れば見るほどかわいい娘だ。惜しいのは、どうやってもその瞳の色が見られそうにないことか。どんな声をしているのか、知れないことか……。

 成仏してくれってばよ、と手を合わしたその時。

「…………スー……」

「え?」

 微かな、呼吸音が聞こえた。

「ッ……生きてる!?」

 目の色を変えたナルトは、少女の肩を掴んで乱暴に揺さぶった。

「おい! しっかりしろ! おい!」

 ナルトの声が届いたのか、少女はうめき声をあげて、僅かに目を開いた。だがそれも短い時間で、すぐにまた眠りについてしまった。

「……大変だってばよ!」

 急いでナルトは少女を抱え上げた。

 何者かどうかなど、関係ない。目の前に困っている者がいるなら助けたい。

 それもまた、彼の忍道なのだ。

 

 

 果てしなく暗い、闇の中だ。

 その声はとても必死で、どこか懐かしく感じる。

 ふいに、柔らかい日差しが瞼の裏を照らし、少女はゆっくりと目を開いた。

 ぼんやりとした視界に、薄暗い天井が映る。

「……気が付いたか?」

 突然聞こえた声に、少女はバッと体を飛び退かせる。ドンッと窓際にぶつかりながら、少女はナルトを凝視した。

 その様子に、ナルトは慌てて距離を置いた。

「ぁああ、大丈夫だって!! 何もしねーから!!」

 少女はナルトの必死な様子に、強張らせていた肩から力を抜いて、ほっと息を吐き出した。俯く瞳は、よく見れば深い海のような青だ。

 少女が落ち着いたのを見計らって、ナルトは少女と目を合わせた。

「お前、なんで俺ん家の前で倒れてたんだ?」

「………………」

 少女はしばらく悩んでいたが、険しい表情で首を傾げたまま固まってしまった。

「……憶えてねーのか?」

「…………うん」

 コクリと小さく頷く。その目は不安げに揺れていた。

 ナルトは参ったな、という顔で頭をかく。すると、忘れていたとばかりに身を乗り出し、自分を指差した。

「俺は、うずまきナルト。忍者だってばよ!」

「…ナル、ト」

「そ! ナルト。……お前の名前は?」

「な、まえ…………」

 少女は小さく復誦すると、また困惑するように俯いてしまった。

 不安げな少女に、ナルトは尋ねる。

「……名前も忘れちまったのか?」

「………………うん」

 消え入りそうな声で、少女は答える。

 ナルトは、さてどうしようかと腕を組む。

 困っている奴は、助けたい。

 一度背負い込んでしまったからには、自分がどうにかしてやらねば。と、ナルトは覚悟を決めた。悩んでもしょうがない。

(……つっても、名前が無いんじゃな~)

 名前を呼べなければ、コミュニケーションもままならない。

 少女には悪いが、即席の呼び名だけでもつけてやろうか、と思ったが。

(……ネーミングセンスに自信が無ぇ…)

 自分の付けた呼び名と言えば、〝ゲジマユ〟だの〝激マユ〟だの。女の子につける名前ではない。

(……どうしよう)

 消沈しながら、自分の部屋を見渡す。

 脱ぎ散らかした寝巻に、散乱するインスタントフードの残骸。相変わらず汚い。

 テーブルの上には、これまた食べ終わったカップラーメンの容器に、空の牛乳パック(期限切れ含む)。

 壁には、昔書いた『目指せ火影!』という汚い字の掛け軸。

 それらを見ながら、ナルトは脳をフル回転させる。

(……ラーメン、火影……。火…炎……ん?)

 そこで、ハタと気づく。

 キッチンの上に乱雑に置かれる物。その中に混じる、前に友人がくれた果実。

 アレの名前は確か……。

 乏しい知識をひたすら探り終えると、ナルトはニッと笑った。

「…よし、決めた!」

 ポン、と手を叩いたナルトを、少女はきょとんとした様子で見つめる。

 そんな彼女に、ナルトは明るく笑いかける。

「〝アケビ〟! 〝朱灯〟って書いて、アケビ。お前の名前だってばよ!」

 少女はその言葉に、びっくりしたように目を丸くする。

「……アケビ。…私の……名前」

 確かめるように、その名を呟く。

 すると少女―――アケビは、まるで花が綻ぶように、ふんわりと笑った。


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