【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
青い疾風が駆け抜ける。
洞窟の中で荒れ狂う風の中にいる少女が、それを身に纏っていくのだ。
まとめていた髪がほどけ、青い炎のように変化すると、三つ編みになって揺れ動く。
衣服もまた青く発光し、その上に金の装飾の付いた
鉄仮面も変化して、その下で少女の瞳も変化していった。三つ巴の模様から、六弁の花びらのような黒い模様が、赤い瞳を彩っていく。
うちは一族の秘された力―――万華鏡写輪眼だ。
風を全身に受けながら、アビスは表情を険しくした。
「…〝サバイブ〟の片翼と、万華鏡写輪眼か……!!」
ギリッと歯を食いしばり、アビスは怒りを露にする。今までの馬鹿にしていた態度と打って変わった様子に、忍達は眉を寄せていた。
「なっ……なんだこの風は!!」
「急に力が上がった!?」
顔を腕で覆い、ガイとカカシが声を漏らす。
一方で、ヒナタの背後で立ち上がったナルトは、大きく目を瞠っていた。
「あれってばまさか……尾獣モード!?」
信じられないといった様子で、ナルトが驚愕する。自身が九尾と直接ぶつかり、ようやく手に入れたチャクラで生まれた力。
それと酷似した力をナイト、いや、レンが目の前で使っているというのか。
驚愕のために硬直する忍達の前で、レンは前屈姿勢になり、そして一気に踏み出した。
ズンッと地面を砕き陥没させるほどの勢いで、レンは騎獣たちの間へと躍り出る。再び地面を踏み砕いて停止すると、抜いた剣を渾身の力で振るった。
ズバッと大気ごと切り裂き、風遁の斬撃が騎士と騎獣たちに向かって放たれる。元の姿とは桁違いの一撃が、目標に寸分違わずに食らいつく。
急所に一撃喰らっただけで、王蛇や怪物たちが体から火花を散らせて倒れていった。
「ぬぅおおお!!」
アビスは剣でそれを受け止め、後ずさりながら耐えきる。風の刃をはじき返しながら、アビスは苦々しく舌打ちした。
「小娘がァ……、この俺を裏切るとはいい度胸だ……!!」
ギリギリと歯をきしませ、手に出現させたチャクラの鎖をこの場にいるすべての騎士達につなげて縛り上げていった。
繋がれた鎖に引っ張られるように、
レンはそれを一瞥すると、盾に一枚のカードを装填する。さらに指で印を組み、術を発動する。
[
レンの体がぶれ、数体の分身が出現する。影分身ではない、本当の分身だ。
それぞれの分身が剣を抜き、ゼール達に相対する。突き出された槍を受け流し、すれ違いざまに胴を薙ぐ。刃が鋼の体を切り裂き、激しい火花を散らすと、ゼール達は絶叫とともに砕け散った。
他の分身もゼールの群れを殲滅し、湖上に打ち捨てていく。
水中に沈んだゼール達は、内なるチャクラを暴発させて爆散し、湖上に盛大な水飛沫の柱を立てた。
壁のようにそそり立つ水の柱を剣で切り裂き、レンはきっと辺りを睨む。
「ぬうらぁぁぁ!!」
「うおおおお!!」
「ハァァァ!!」
凱、タイガ、ファムがそれぞれの得物を手にレンに襲い掛かる。
レンは剣と盾を構え、腰を低く落としてそれを迎え撃つ。ジャキンと剣を鳴らし、三人の騎士に向かって駆けだす。
ファムの刺突を空中に飛んで躱し、タイガの斧を受け流し、凱の籠手を盾で受け止める。
爆発のような火花を散らせながら、レンは凱の一撃を微動だにせずに受け止め、そのまま力尽くで押しやる。
盾を横にそらし、開いた胸に剣の一閃を加える。ゴキンッという鈍い音とともに凱の巨体が吹き飛び、水中に盛大に沈む。
背後から迫るタイガとファムも、二本の光刃によって切り伏せられ、水上に叩きつけられる。
「うおおおお!!」
怒号とともに、一閃。
覇気を纏わせた風の斬撃が三人を吹き飛ばし、湖上に大きな波を立たせる。
暴風が吹き荒れる中、水滴の付いた刃を払い、レンは再び周囲を見据える。
「化け物か!?」
残ったシザース、ゾルダも焦りをあらわに構える。ゾルダが砲撃を放つも、砲弾ごとレンに切り裂かれる。斬られた砲弾が水上で爆ぜる中、奇襲をかけたシザースが軽くあしらわれ、切り捨てられる。
遠く離れたゾルダには、渾身の斬撃を風に乗せて飛ばす。
直撃を受けたゾルダは、小さく呻き声をあげながら倒れていった。
斬撃の余波を食らい、仰向けになった王蛇は、胸に繋がれた鎖を睨みながら舌打ちする。
「…くそったれが」
起き上がりながら、王蛇は杖を掲げる。
「いけオラァ!!」
それにこたえ、犀・蛇・エイの合成怪物がレンに迫った。兜をつけた首を伸ばし、レンの体を牙で貫かんと襲撃する。
対してレンは、マントを翻してやすやすと躱し、盾に新たなカードを装填する。
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「風遁・白嵐砲!!」
レンは大きく息を吸い込み、圧縮して限界まで肺にため込んでいく。
そして、首を戻そうとしている怪物の横腹に強烈で巨大な風の一撃を叩き込んだ。
ゴウゥッ!!
怪物の体に、まるで砲弾の爆発を食らったかのような衝撃が加えられ、巨体が大きく吹き飛ばされる。怪物はそのまま、洞窟の壁に激突して辺りに地響きを伝達させた。
反動に耐えるレンは、剣を盾の鞘の中に収める。
その背に向かって透明な影が二つ、迫る。透明化したベルデと、カメレオン型の怪物が、ワイヤー状の武器を振るう。
だがそれよりも早く、レンが振り向いた。
盾にカードを装填し、剣の柄を二体の襲撃者に向ける。
[
盾の側面が展開し、弓矢に似た形状に変わる。そして、剣の柄に風遁のチャクラが集束・凝縮し始めた。
「風遁・風花ノ矢」
呟くと同時に、レンの盾から鋭い矢が放たれた。
ドウンッと大気を震わせる矢の一撃が、ベルデと怪人の躰を貫く。そして、岸壁に撥ね飛ばすとそのまま磔にしてしまった。
レンは再び剣を抜き、その刀身に風を纏わせ始めた。
「……許せ、同志たちよ」
キィィィィィィィィィィィン!!
甲高い音とともに、剣が震える。レンはそれを、横なぎに振るった。
「風遁・風神乱舞!!」
猛る荒々しい風の刃が、巨大な大鎌のように騎獣達に食らいついた。鋼の鎧を砕き、まるで木の葉のように吹き飛ばし、岸壁に激突させていく。
ズドォォン、と凄まじい土煙を立てるのを眺め、レンは刃を下ろした。ゼェゼェと荒い息をつきながら、熱く煮えたぎる怒りのこもった眼で睥睨するレンは、聞こえてくる男の含み笑いに振り向いた。
「クククッ……やはり桁違いの力だな、サバイブの力は」
岸壁を盾に、風を防いでいたアビスが立ち上がる。
その顔を笑みに歪め、レンを見下ろす。
「だが所詮、それは力の片鱗。しかも覚醒したてのお前は俺の敵ではない」
「…………」
嗤う鮫の騎士に、翼の騎士は冷たい魔眼を向ける。
その眼を、アビスはじっと見つめ返す。
「…写輪眼。そういえばお前は先祖返りと呼ばれていたな。呪われた一族の末裔足る証拠……」
そこで、無表情だった彼女の顔が、初めて歪んだ。不快を露にするレンは、知らぬ間にカチャリと剣を鳴らしていた。
「かくも美しい眼だ……。先の攻防、その眼の力も上乗せされていたのだろう? ……友を殺め、手に入れたその力で、果たしておまえは誰かを救うことなどできるのだろうかなぁ?」
「……黙れ」
「お前の命が惜しいがために、友の命すらも奪ったというのになぁ」
「黙れ……!!」
「お前の逝った友も思っているだろうな……。お前が憎いと―――」
言いかけたアビスのすぐ横を、風が薙いだ。
ビシッと傷の入った仮面を撫で、アビスの目が鋭く光った。剣を振りぬいたレンを見下ろし、拳をきつく握りしめる。
「……お前がアイツを語るな」
「……いい返事だ」
ニヤリと顔に笑みを、胸の内には憎悪を燃やし、アビスは鎖を引く。
[
ザバァァァッ!!
アビスの号令の直後、湖面が盛り上がって何かが浮上する。
肩にゾルダを乗せた、緑色の鋼鉄の巨人だ。金色の角を生やし、全身に武器を積んだ機械の巨人が、レンにすべての砲門を向ける。
[
別の場所から、今度は爪と甲羅を備えた、蟹型の怪物が現れ、シザースの隣に立つ。
「…………」
レンは剣を払い、辺りを見渡す。
アビスと話している間に、体勢を立て直した騎士たちが取り囲んでいた。
全員が
レンは、ふぅと深く息を吐き、再び身構える。
「この場における全てが敵……か。私にふさわしい」
自嘲するように口角を挙げ、全身にチャクラを漲らせる。
味方などいない。ここにいるのは打つべき敵と仇のみ。
「ナイ……レン!!」
異なる名を呼びかけたナルトが、こちらに向かおうとしているのが見える。
だが、それを見たアビスが新たに鎖を増やして引いた。
「処刑の邪魔をするな。お前らの処分は後だ」
アビスが命じると同時に、湖面から無数の人型の何かが飛び出した。
「うわ!?」
飛び出しかけたナルトの前に、いつかの蜘蛛が立ちはだかる。鋼鉄の爪と足をわしゃわしゃと動かしながら、ナルトや木の葉の忍達に襲い掛かった。
忍達も、再び起こった猛攻に盛んに応戦するも、あまりの数に圧倒されて、徐々に分散させられていく。
「レ―――――――ン!!」
ナルトは叫びながら、レンに加勢しようとしているのか必死に蜘蛛に立ち向かう。
だがクナイはもう底をつき、仙人モードは時間切れだ。
それでも、ナルトはレンの元に向かおうとしている。
「……やはり、お前は馬鹿だ。ナルト……」
ちらりと一瞥しながら、レンは呟く。
その口元が緩むのを隠すように、レンはナルトに背を向ける。己が仇敵を打つために、その騎士という名の奴隷たちと相対する。
アビスは嗤う。
目の前にいる、反逆の騎士を蹂躙せんと。その光景を脳裏に思い浮かべて。
「眠れ、ナイト。永遠にな」
アビスは告げる。別れの言葉を。
対してレンは、真っ直ぐに敵を見据えながら落ち着いていた。
自分はきっと、死ぬ。
そう最初から分かっていたから。最初から分かっていて、無茶な賭けに乗り、圧倒的に不利な勝負に挑んだのだ。
だが、たとえ死ぬとしても、あの男だけは生かしてはおけなかった。許してはおけなかったのだ。
自分の大切なものに手をかけ、全てを奪ったあの男だけは、許せなかった。
だから、戦うことを選んだ。
命ある限り戦い続け、死んでもあの男を殺すことを選んだ。
同じ夢を語り合い、競い合った、ただ一人の友のために。
「―――――――――――――――アケビ」