【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
「ブオオオオオオ!!」
野太い咆哮とともに、犀の魔獣メタルゲラスがナルト達に迫る。
その前に、チョウジが両手を合わせて立ち塞がった。
「倍化の術!!」
術で見る間に巨大化していくチョウジの肉体。巨人となったチョウジが、太く逞しい腕でメタルゲラスの突進を受け止めた。鋭い角が振り回されるのを躱し、強烈な張り手を顔にかます。
「八卦空衝……ハァ!!」
百眼を発動させたネジとヒナタが、シザースに向けて空衝を放つ。ドゴンッという鈍い音とともに、シザースの体が吹き飛んだ。
「牙通牙!!」
螺旋回転する牙となったキバと赤丸が、ベノスネーカーの腹に直撃する。体に傷はつかなかったものの、術の威力でその巨体は水面に倒れこんだ。
水飛沫が上がる中で、無数の虫たちが天を舞う白鳥に纏わりつき、その純白の翼を黒く染めていく。シノの虫により、もがくブランウィングは徐々に失速していった。
墜落するブランウィングの上へ飛び、ファムとカカシが激突する。バチバチと放電する貫手と
木ノ葉の忍達と、騎士達がぶつかり合う。
湖上に突き出した岩の上に立ち、腕を組むアビスは、その光景をにやにやと嗤いながら眺めていた。
「くくっ……馬鹿な奴らだ。そんな
とんとんと指で腕を叩くアビス。
その頭上に、二人の闘士が跳躍し、その後右脚を振り上げた。
「木ノ葉剛力旋風!!」
ガイとリー、師弟のコンビ技がアビスに向かって放たれる。
だがそれは、両者の間に割り込んだタイガと凱によって阻まれる。
「ぐっ!」
爪と籠手で受け止められ、跳ね返された二人は空中で一回転してから湖面に降り立つと、肉体の〝
「八門遁甲、第六景門!!」
「開ぃぃ!!」
全身からチャクラが噴出し、ガイとリーの肌が赤く染まる。肉体の限界ギリギリの力を発揮し、二人の猛者は凱とタイガに立ち向かった。
「土遁・
「氷遁・
対して凱は籠手に岩石を纏わせて巨大化させ、タイガは息も凍るほどの冷気を爪甲に放たせ、ガイとリーを迎え討つ。
「朝孔雀!!」
ガイは自身のチャクラを高速で連続して放ち、まるで孔雀の尾羽のような拡散攻撃を放つ。
タイガが一歩前に立ち、両腕の爪甲を振るう。すると、吹雪のような冷気が放出されて朝孔雀と激突し、相殺し合って大量の水蒸気と化した。
両者の間で煙幕のように立ち込める蒸気。
それを突っ切り、リーが凱に接近した。
「うおおおおっ!!」
リーの渾身の拳が、岩石と同化した凱の籠手に炸裂し、ひびを入れる。さらに放たれた回し蹴りが直撃し、粉々に砕いた。
「ぐおっ!?」
衝撃でよろめく凱の肩を蹴り、リーはすぐさま離脱する。
そこへ、シンマとレンヤが向かい、それぞれで印を結んだ。
―――火遁・火竜一閃!!
―――風遁・風虎一閃!!
二人の口から放つ炎と風が竜と虎を形作り、凱とタイガに襲い掛かる。
獲った、そう思った瞬間。
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[
ベルトから抜いたカードの力が、瞬時に発動する。
その直後、シンマの火竜が凍り付き、レンヤの風虎が砕け散った。
「…はっ、え? え!?」
「何!?」
突然の状況に、二人は大きく目を見開いて狼狽する。
景門までも閉じたガイとリーも、驚愕に目を見開いた。
「術を無効化した……だと!?」
「そんなことまで!?」
思わず口にすると、凱はうっすらと苦笑した。
「……あまり好まぬ手だがな」
が、すぐに笑みを消し、タイガとともに再び四人に迫った。
再び武器と拳をかち合わせる六人の背後で、赤い衣の巨人が盛大に水飛沫を上げて仰向けに倒れこんだ。メタルゲラスの突進を、チョウジがもろに受けたのだ。
「のわあああっ!?」
悲鳴を上げるチョウジの前で、メタルゲラスは勝利の咆哮を挙げる。
さらに追撃を加えようとするが、突如その首にチャクラの鎖が出現し、メタルゲラスを締め上げ始めた。同時に、ほかの場所にいた毒蛇ベノスネーカー、巨大エイ・エビルダイバー、そして王蛇のもその体を縛る鎖が出現した。
「ぐっ……クソが!!」
王蛇は鎖を発現させているアビスを睨みながら、忌々しげにその命令を実行する。ベルトから一枚のカードを抜き、杖に差し込む。
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声が響くと、それに呼応するように凱とライアのベルトから光が飛び出し、王蛇のベルトの中に吸い込まれていく。
王蛇は再びベルトに手をやると、また新たなカードを抜いて忍具に装填した。
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その瞬間、鎖に繋がれた三体の魔獣たちが一斉にビクンと身体を震わせた。
「ブオオオオオ!!」
「シャアア!!」
「ギギィィ!!」
ベノスネーカーは巨体をくねらせてメタルゲラスに這い寄り、その背中に登る。そしてその頭部を守る兜のような武装をかぶって融合する。最後にエビルダイバーがひれの一部を展開させ、ベノスネーカーの背に翼のように張り付いて融合する。
犀と、蛇と、エイの三体の魔獣が一つと化した新たな魔物が、ここに誕生した。
「キュワアアアアアアアアン!!」
凶悪さに磨きをかけた怪物は、凄まじい咆哮を放つ。それだけで、善戦していた他の騎獣や、木ノ葉の忍達をまとめて吹き飛ばした。
忍達は呻き声を上げ、湖へドボンドボンと落ちていく。
何人かは衝撃に耐えていたが、彼らは怪物の長い尾の一撃をまともに喰らう羽目になった。
「ぐああっ!?」
ナルトも直撃を食らい、岩壁に激しく叩きつけられた。
「ナルト君!!」
最初の咆哮で吹き飛ばされ、尾の一撃を受けずに済んだヒナタが、ナルトの傍に駆け寄る。その背を押し、ナルトの体を抱き起す。
そこへ、ズンッという足音が響く。
魔獣ジェノサイダーが、それを操るアビスが、標的をナルトに定めたのだ。
アビスの嘲笑が、やけに響いた。
「なかなか善戦していたがこれまでだ……まず、英雄殿には消えてもらおうか」
それに従うように、あるいはお前が仕切るなと言わんばかりに、怪物は大きく吠える。
ヒナタはキッと表情を変え、ナルトの前に立ちはだかった。
「…ナルト君は、殺させない!!」
「ヒナタ……やめろ!!」
ナルトは止めようと知るも、ダメージが大きすぎて立ち上がれない」
「ナルト君!」
「ヒナタ!!」
仲間たちが助けに向かおうとするも、起き上がってきた騎獣が壁となって、いっこうに近付けないでいた。
笑みを深めたアビスが、王蛇に目をやった。
「さぁ、やれ。…できるだけ惨たらしく殺してやれ。娘と一緒にな」
「…………」
王蛇は顔をしかめながら、ベルトに手を伸ばした。
緊張が走り、ナルトの周囲から音が消えた。自分の鼓動音がやけに大きく聞こえるが、仲間たちの声も、自分がヒナタを止める声も、戦闘の音も聞こえない。
目に見える光景の中で、ナイトが自分を、そして王蛇を見上げている。
王蛇が一枚のカードを抜き、杖の中に入れ、発動させたその瞬間。
その声だけが、はっきりと聞こえた。
[
「何!?」
アビスが初めて、驚愕したように振り向いた。
そこへ、王蛇の杖からまるで悪魔のようなおどろおどろしい腕が生え、アビスに向かって伸びた。
腕はアビスを貫き、何かを掴んで即座に戻っていった。
「ぐぅっ……おのれぇ!!」
激高したアビスが、王蛇の鎖を引く。
だがその直前、王蛇は悪魔の腕が手にし、奪ったそれを下に向かって投げた。ヒュンヒュンと回転して跳んでいく一枚のカードを、細くしなやかな少女の手がビッと掴んだ。
掴んだ手をゆっくりと下していく少女の姿を見たアビスが、大きく目を見開く。
「……貴様、裏切ったのか、ナイト」
ナイトはそう呟いたアビスを冷ややかに睨みつける。
掴んだカードが裏返されると、一枚の風を纏う黄金の翼の画が露になる。
すぐさまアビスが鎖を発現させ、ナイトの体を戒める。
だが、ギチギチと軋みを挙げる体を無理やり動かし、ナイトは腰に下げた剣に手をかける。その瞬間、剣に疾風が纏わりつき、ナイトの体を縛っていた鎖を粉々に破壊した。それだけでなく、剣を風が覆い隠してその中で形を変えていく。
風が晴れた時、ナイトは左腕に剣と盾が一体となった武具を備えていた。
「……裏切った覚えなどない」
パラパラと落ちていくチャクラの鎖の欠片を払い、ナイトは冷たく告げる。
「私はいつだって、……ただ一人のことを思ってきた。裏切りと呼ばれようと、何を敵に回そうと、曲げられぬ約束のために、ここに来た」
盾を横に構え、一部を開く。そして、その中に翼のカードを差し込む。
「同じ夢を語り合ったアイツの……友のために、ここに来た」
彼女の脳裏に、ノイズがかかった記憶が蘇る。
激しい組手の後に、指を組んで和解の印を結ぶ、自分と少女。
一つの鈴を求めて、競い合った試験。
初の任務で、人を初めて殺め、その虚しさと悲しさを共に涙した日。
意見の食い違いで、激突した瞬間。
そして。
―――その力を使うのか?
剣を抜こうとした少女を、一つの声が止めた。
青い風のチャクラが形作る、蝙蝠の影が少女に問いかけた。
―――友を傷つけ、殺めた力を使うつもりか?
ナイトよ。
ナイトの脳裏に、一つの記憶が蘇った。
豪雨の中、仰向けに倒れる少女。
そして、少女の腹部についた
「…………違う」
小さく呟く、ナイト。
カチャリと、剣の柄をゆっくりと抜いていく。
「私は、ナイトじゃない」
スラリと刃を抜き、ナイト―――少女は言う。
ギン、とその目に赤く鮮やかな光が灯った。
「私は――――――――レンだ」
[
少女―――レンの声に、剣が答える。同時に、荒々しいほどの神風が吹き荒れた。