【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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5.誰がために

「ブオオオオオオ!!」

 野太い咆哮とともに、犀の魔獣メタルゲラスがナルト達に迫る。

 その前に、チョウジが両手を合わせて立ち塞がった。

「倍化の術!!」

 術で見る間に巨大化していくチョウジの肉体。巨人となったチョウジが、太く逞しい腕でメタルゲラスの突進を受け止めた。鋭い角が振り回されるのを躱し、強烈な張り手を顔にかます。

「八卦空衝……ハァ!!」

 百眼を発動させたネジとヒナタが、シザースに向けて空衝を放つ。ドゴンッという鈍い音とともに、シザースの体が吹き飛んだ。

「牙通牙!!」

 螺旋回転する牙となったキバと赤丸が、ベノスネーカーの腹に直撃する。体に傷はつかなかったものの、術の威力でその巨体は水面に倒れこんだ。

 水飛沫が上がる中で、無数の虫たちが天を舞う白鳥に纏わりつき、その純白の翼を黒く染めていく。シノの虫により、もがくブランウィングは徐々に失速していった。

 墜落するブランウィングの上へ飛び、ファムとカカシが激突する。バチバチと放電する貫手と細剣(レイピア)がかち合い、辺りが火花で何度も照らし出された。

 木ノ葉の忍達と、騎士達がぶつかり合う。

 湖上に突き出した岩の上に立ち、腕を組むアビスは、その光景をにやにやと嗤いながら眺めていた。

「くくっ……馬鹿な奴らだ。そんな時代遅れ(・・・・)な術で()に敵うものか」

 とんとんと指で腕を叩くアビス。

 その頭上に、二人の闘士が跳躍し、その後右脚を振り上げた。

「木ノ葉剛力旋風!!」

 ガイとリー、師弟のコンビ技がアビスに向かって放たれる。

 だがそれは、両者の間に割り込んだタイガと凱によって阻まれる。

「ぐっ!」

 爪と籠手で受け止められ、跳ね返された二人は空中で一回転してから湖面に降り立つと、肉体の〝(リミッター)〟を開いて限界まで力を引き出した。

「八門遁甲、第六景門!!」

「開ぃぃ!!」

 全身からチャクラが噴出し、ガイとリーの肌が赤く染まる。肉体の限界ギリギリの力を発揮し、二人の猛者は凱とタイガに立ち向かった。

「土遁・一犀轟砕(いっさいがっさい)!!」

「氷遁・虎氷天征(こひょうてんせい)!!」

 対して凱は籠手に岩石を纏わせて巨大化させ、タイガは息も凍るほどの冷気を爪甲に放たせ、ガイとリーを迎え討つ。

「朝孔雀!!」

 ガイは自身のチャクラを高速で連続して放ち、まるで孔雀の尾羽のような拡散攻撃を放つ。

 タイガが一歩前に立ち、両腕の爪甲を振るう。すると、吹雪のような冷気が放出されて朝孔雀と激突し、相殺し合って大量の水蒸気と化した。

 両者の間で煙幕のように立ち込める蒸気。

 それを突っ切り、リーが凱に接近した。

「うおおおおっ!!」

 リーの渾身の拳が、岩石と同化した凱の籠手に炸裂し、ひびを入れる。さらに放たれた回し蹴りが直撃し、粉々に砕いた。

「ぐおっ!?」

 衝撃でよろめく凱の肩を蹴り、リーはすぐさま離脱する。

 そこへ、シンマとレンヤが向かい、それぞれで印を結んだ。

 ―――火遁・火竜一閃!!

 ―――風遁・風虎一閃!!

 二人の口から放つ炎と風が竜と虎を形作り、凱とタイガに襲い掛かる。

 獲った、そう思った瞬間。

CONFINE VENT(コンファイン・ベント)

FREEZE VENT(フリーズ・ベント)

 ベルトから抜いたカードの力が、瞬時に発動する。

 その直後、シンマの火竜が凍り付き、レンヤの風虎が砕け散った。

「…はっ、え? え!?」

「何!?」

 突然の状況に、二人は大きく目を見開いて狼狽する。

 景門までも閉じたガイとリーも、驚愕に目を見開いた。

「術を無効化した……だと!?」

「そんなことまで!?」

 思わず口にすると、凱はうっすらと苦笑した。

「……あまり好まぬ手だがな」

 が、すぐに笑みを消し、タイガとともに再び四人に迫った。

 再び武器と拳をかち合わせる六人の背後で、赤い衣の巨人が盛大に水飛沫を上げて仰向けに倒れこんだ。メタルゲラスの突進を、チョウジがもろに受けたのだ。

「のわあああっ!?」

 悲鳴を上げるチョウジの前で、メタルゲラスは勝利の咆哮を挙げる。

 さらに追撃を加えようとするが、突如その首にチャクラの鎖が出現し、メタルゲラスを締め上げ始めた。同時に、ほかの場所にいた毒蛇ベノスネーカー、巨大エイ・エビルダイバー、そして王蛇のもその体を縛る鎖が出現した。

「ぐっ……クソが!!」

 王蛇は鎖を発現させているアビスを睨みながら、忌々しげにその命令を実行する。ベルトから一枚のカードを抜き、杖に差し込む。

UNITE VENT(ユナイト・ベント)

 声が響くと、それに呼応するように凱とライアのベルトから光が飛び出し、王蛇のベルトの中に吸い込まれていく。

 王蛇は再びベルトに手をやると、また新たなカードを抜いて忍具に装填した。

ADVENT(アドベント)

 その瞬間、鎖に繋がれた三体の魔獣たちが一斉にビクンと身体を震わせた。

「ブオオオオオ!!」

「シャアア!!」

「ギギィィ!!」

 ベノスネーカーは巨体をくねらせてメタルゲラスに這い寄り、その背中に登る。そしてその頭部を守る兜のような武装をかぶって融合する。最後にエビルダイバーがひれの一部を展開させ、ベノスネーカーの背に翼のように張り付いて融合する。

 犀と、蛇と、エイの三体の魔獣が一つと化した新たな魔物が、ここに誕生した。

「キュワアアアアアアアアン!!」

 凶悪さに磨きをかけた怪物は、凄まじい咆哮を放つ。それだけで、善戦していた他の騎獣や、木ノ葉の忍達をまとめて吹き飛ばした。

 忍達は呻き声を上げ、湖へドボンドボンと落ちていく。

 何人かは衝撃に耐えていたが、彼らは怪物の長い尾の一撃をまともに喰らう羽目になった。

「ぐああっ!?」

 ナルトも直撃を食らい、岩壁に激しく叩きつけられた。

「ナルト君!!」

 最初の咆哮で吹き飛ばされ、尾の一撃を受けずに済んだヒナタが、ナルトの傍に駆け寄る。その背を押し、ナルトの体を抱き起す。

 そこへ、ズンッという足音が響く。

 魔獣ジェノサイダーが、それを操るアビスが、標的をナルトに定めたのだ。

 アビスの嘲笑が、やけに響いた。

「なかなか善戦していたがこれまでだ……まず、英雄殿には消えてもらおうか」

 それに従うように、あるいはお前が仕切るなと言わんばかりに、怪物は大きく吠える。

 ヒナタはキッと表情を変え、ナルトの前に立ちはだかった。

「…ナルト君は、殺させない!!」

「ヒナタ……やめろ!!」

 ナルトは止めようと知るも、ダメージが大きすぎて立ち上がれない」

「ナルト君!」

「ヒナタ!!」

 仲間たちが助けに向かおうとするも、起き上がってきた騎獣が壁となって、いっこうに近付けないでいた。

 笑みを深めたアビスが、王蛇に目をやった。

「さぁ、やれ。…できるだけ惨たらしく殺してやれ。娘と一緒にな」

「…………」

 王蛇は顔をしかめながら、ベルトに手を伸ばした。

 緊張が走り、ナルトの周囲から音が消えた。自分の鼓動音がやけに大きく聞こえるが、仲間たちの声も、自分がヒナタを止める声も、戦闘の音も聞こえない。

 目に見える光景の中で、ナイトが自分を、そして王蛇を見上げている。

 王蛇が一枚のカードを抜き、杖の中に入れ、発動させたその瞬間。

 その声だけが、はっきりと聞こえた。

 

STEAL VENT(スチール・ベント)

 

「何!?」

 アビスが初めて、驚愕したように振り向いた。

 そこへ、王蛇の杖からまるで悪魔のようなおどろおどろしい腕が生え、アビスに向かって伸びた。

 腕はアビスを貫き、何かを掴んで即座に戻っていった。

「ぐぅっ……おのれぇ!!」

 激高したアビスが、王蛇の鎖を引く。

 だがその直前、王蛇は悪魔の腕が手にし、奪ったそれを下に向かって投げた。ヒュンヒュンと回転して跳んでいく一枚のカードを、細くしなやかな少女の手がビッと掴んだ。

 掴んだ手をゆっくりと下していく少女の姿を見たアビスが、大きく目を見開く。

「……貴様、裏切ったのか、ナイト」

 ナイトはそう呟いたアビスを冷ややかに睨みつける。

 掴んだカードが裏返されると、一枚の風を纏う黄金の翼の画が露になる。

 すぐさまアビスが鎖を発現させ、ナイトの体を戒める。

 だが、ギチギチと軋みを挙げる体を無理やり動かし、ナイトは腰に下げた剣に手をかける。その瞬間、剣に疾風が纏わりつき、ナイトの体を縛っていた鎖を粉々に破壊した。それだけでなく、剣を風が覆い隠してその中で形を変えていく。

 風が晴れた時、ナイトは左腕に剣と盾が一体となった武具を備えていた。

「……裏切った覚えなどない」

 パラパラと落ちていくチャクラの鎖の欠片を払い、ナイトは冷たく告げる。 

「私はいつだって、……ただ一人のことを思ってきた。裏切りと呼ばれようと、何を敵に回そうと、曲げられぬ約束のために、ここに来た」

 盾を横に構え、一部を開く。そして、その中に翼のカードを差し込む。

「同じ夢を語り合ったアイツの……友のために、ここに来た」

 彼女の脳裏に、ノイズがかかった記憶が蘇る。

 激しい組手の後に、指を組んで和解の印を結ぶ、自分と少女。

 一つの鈴を求めて、競い合った試験。

 初の任務で、人を初めて殺め、その虚しさと悲しさを共に涙した日。

 意見の食い違いで、激突した瞬間。

 そして。

 ―――その力を使うのか?

 剣を抜こうとした少女を、一つの声が止めた。

 青い風のチャクラが形作る、蝙蝠の影が少女に問いかけた。

 ―――友を傷つけ、殺めた力を使うつもりか?

    ナイトよ。

 ナイトの脳裏に、一つの記憶が蘇った。

 豪雨の中、仰向けに倒れる少女。

 そして、少女の腹部についた(おびただ)しい量の地と、己の剣と手を汚す鮮血の光景。

「…………違う」

 小さく呟く、ナイト。

 カチャリと、剣の柄をゆっくりと抜いていく。

「私は、ナイトじゃない」

 スラリと刃を抜き、ナイト―――少女は言う。

 ギン、とその目に赤く鮮やかな光が灯った。

 

「私は――――――――レンだ」

 

SURVIVE(サバイブ)

 少女―――レンの声に、剣が答える。同時に、荒々しいほどの神風が吹き荒れた。


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