【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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4.木ノ葉の英雄

「アケビ―――――――!!」

 ナルトの叫び声が、洞窟の中で響き渡る。

 彼の目の前で、貫かれたアケビの体がぐらりとよろめいて、膝が折れる。

 と、次の瞬間、剣を突き立てていたリュウガの体が陽炎のように揺らいだ。そしてリュウガは、黒い炎となって貫かれた腹部の紋章へと吸い込まれるようにして消え去った。

 アケビはだらりと両腕を下げたまま膝をつき、がっくりと項垂れるとそのまま沈黙する。

 垂れ下がった彼女の金髪が、みるみるリュウガと同じように白く染まっていった。

 変わり果てた妹のような存在の姿に、ナルトは茫然となる。

「アケビ……」

 小さく名を呟き、ギリッと歯を食いしばる。

 守るべき存在を、守れなかった、自分が許せない。

 その後ろで、ナイトはただ静かに、膝をつくアケビを見つめていた。だが、その眼は敵に向ける刺々しいものではなく、ただただ真剣な、ゆるぎないものだった。

 そのさらに向こうで、アビスは鋭く舌打ちした。

「チッ……リュウガめ。あの状態で器に己を封じるとは……」

 目を細め、アビスは薄く笑う。

「……まぁいい。どちらが残ろう(・・・・・・・・)とも、オレの縛りから逃れることはできん」

 意味深な言葉を残しながら、アビスは騎士たちに見えるように片手を挙げる。

 それを合図に、騎士達はそれぞれの忍具にカードを挿入していった。

SWORD VENT(ソード・ベント)][SWING VENT(スウィング・ベント)][SWORD VENT(ソード・ベント)][ADVENT(アドベント)][STRIKE VENT(ストライク・ベント)][WING VENT(ウィング・ベント)][SPIN VENT(スピン・ベント)][STRIKE VENT(ストライク・ベント)][SHOOT VENT(シュート・ベント)][GUARD VENT(ガード・ベント)][ADVENT(アドベント)

 剣を、盾を、槍を、翼を、槍を、爪甲を、大砲を、そして異形たちをも召喚し、騎士達はアケビとナルトを見据える。

 バシャッと湖上を踏みつけ、カメレオンと人が混じった異形が一歩近づく。

 ナルトは全力で駆け、項垂れるアケビの前に立ち塞がり、少しだけ目を向ける。

 髪で隠れたその横顔を見つめ、ナルトは顔を歪める。

 そして、思い出した。

 彼女の言葉を。

 ―――…大丈夫。すぐに、戻るから。

 その言葉を思い出したナルトは、きっと表情を改めて前を向く。

 目前に集う、異形と騎士達。

 対して自分は、一人。孤立無援の状態。

 でも、退けない。

「…やはり貴様は馬鹿らしいな、ナルト。この状況でたった一人で俺たちを相手にするつもりのようだが……勝算でもあるのか?」

「…………」

 ナルトはアビスを睨み、ゆっくりと開いた。

「約束したんだってばよ。もう……、一人にしねーって」

 ギュッと拳を握りしめ、ナルトはパンッと片手の平に叩きつける。

 何が起きているのかは分からない。アケビが、何を思って何をしているのかも。

 だが、そんなことは関係ない。

「アケビには、指一本触れさせねぇ!!」

 指を十字に組み、仕込んでおいた〝切り札〟を発動する。待機させておいた影分身がボンッと音を立てて消滅すると同時に、ナルトの体が白煙に包まれて隠され、凄まじい勢いで拡散していった。

「ぬぅおおお!!」

 煙を浴びながら、凱が右腕に犀の頭部を模した籠手を出現させ、真っ直ぐに突き出した。鋭く尖った犀の角が煙の中へ突き刺さったその時、ガイの体がガクンと停止した。

 衝撃で白煙が晴れる中、凱は仮面の中で大きく目を見開く。

 突き出された鋭角が、ナルトの手によって止められていたのだ。橙色の生地に、黒い炎の刺繍が入った羽織を纏い、目の周りの隈取と蛙のように広がった瞳孔が目を引く姿のナルトが、赤い角を押さえつけている。

 ナルトの切り札、自然エネルギーを身に宿した力、仙人モードだ。

「おらぁぁぁ!!」

「ぐぅ!?」

 ナルトは怒号とともに掴む力を強め、籠手ごと凱を持ち上げる。ナルトの体が沈むほどの重量の巨漢を抱え上げ、ナルトは渾身の力で投げ飛ばした。

 重量に加え、投げ飛ばされた速度により、湖に落下した凱は激しい水飛沫を立てた。

「チィッ!!」

ADVENT(アドベント)

 飛沫を浴びながら、王蛇は忌々しげに舌打ちし、杖にカードを装填してベノスネーカーを呼び出す。水面から出現した大蛇の頭部に飛び乗り、剣を掲げ襲い掛かる。

 ナルトは羽織を翻し、湖の淵を沿うように走り出す。

 王蛇とベノスネーカーもそれを追うように、波を立てて水中を泳ぐ。ライアとファムもそれを追い、エイと白鳥を召還した。

 駆けるナルトは背後から迫るベノスネーカーを見やり、影分身の印を結ぶ。

 二体の分身を生み出したナルトは、水面を滑って減速し、一気に三人に向かって跳躍して接近する。そして、三体の騎獣の上に乗る騎士達に殴りかかった。

「おらぁぁ!!」

 仙術チャクラで強化された拳が、王蛇達の鎧にダイレクトにぶつけられる。あまりの衝撃でファムは空中に投げ出され、ライアと王蛇は騎獣ごと吹き飛ばされる。

 騎獣達の背中を蹴ったナルトは、墜落していく白鳥を見下ろしながら集合する。

 そして本体(オリジナル)を中心に手を合わせ、チャクラの渦を作り上げていく。それだけでなく、チャクラの球体から四つの刃が生え、徐々に巨大に広がっていった。

 キィ――――ンとさらに高くなった音のなるチャクラの刃を掲げ、ナルトは白虎と蟹の騎士を見据える。

「仙法・風遁螺旋手裏剣!!」

 ボン、ボンッと消える影分身を置き、ナルトは全力の投擲を放つ。ズシンと一歩踏み出し、風をも裂く螺旋手裏剣を撃ち放つ。

「うおらァァァ!!」

 投げ飛ばされた螺旋手裏剣が、地面をすれすれに滑空しながら、異形たちに向かっていく。

 近づいてくる膨大なチャクラの塊に、その威力の脅威に気付いた異形たちは逃れるべく別々に動き出す。防具を持つ者は身構え、武器を持つ者は相殺せんと構える。

 だがその瞬間、ナルトの目が鋭く尖る。

 騎獣達が集う中心で、螺旋手裏剣が膨れ上がり、弾ける。そして、無数の刃を放つ爆発となって騎士達に襲い掛かったのだ。

 強烈な爆風が、無数の刃をはらんで四散し、騎士達に喰らいつく。

 鎧が甲高い音を立てる中、ベノスネーカーの巨体を盾にして舌打ちする王蛇は、視界の端で動く影に気付いた。

ADVENT(アドベント)

 螺旋状の槍を持ったインペラ―が、新たなカードを足の忍具に挿入する。

 途端に水面から数体の異形、シカやレイヨウ型の怪人が出現し、ナルトに襲い掛かったのだ。

 ナルトは迫りくる爪や拳を躱し、逆に掌底で反撃する。張り倒した一体を吹き飛ばし、背後の二体に回し蹴りを叩き込む。

 振り返ってもう一体を殴り倒し、ナルトはアビスの方へ向かう。

 だが、突如彼の目の前で激しい爆発が生じた。

「!? のわっ!?」

 目前で立て続けに起こる爆発で、ナルトの体が宙に浮く。

 何とか体勢を立て直したナルトが水面上に着地すると、爆発による煙を割いて銀の刃が急速に接近した。

「くっ……!!」

 咄嗟に躱すも、ナイトの突き出した刃がナルトの頬を鋭く切り裂く。

 鮮血を散らしながら、ナルトは次のナイトの刺突を躱す。ギリギリで剣の刃を躱し、一歩強く踏み込んで正拳を突き出す。

 ナイトはそれを後ろに飛んで躱し、マントを翻して飛翔する。

FINAL VENT(ファイナル・ベント)

 ナイトは大剣を召還して足元に向けると、空中で横回転を始め、マントを捻るように纏う。螺旋状の鋭角と化したナイトが、ナルトに迫った。

「風遁・疾風斬!!」

 風の刃を纏ったナイトが、巨大な螺旋の砲弾となってナルトに向かって襲い掛かる。

 迫りくる風遁の一撃に、ナルトの動きが一瞬止まる。ナイトの放つ風が、ナルトの髪と衣服を揺らし、鋭い牙がナルトを穿つために迫る。

 景色が一瞬、遅く動いて見えた、そう思った瞬間。

 ゴウッ!!

 凄まじい炎が、ナルトとナイトの間で壁のように広がった。

「!!」

「!?」

 ナルトとナイト、双方が大きく目を見開く。

 そんなナイトを、炎が無慈悲に呑み込んだ。

「くっ!」

 剣を払い、ナイトは炎の中から離脱する。そして、自身とナルトの間に立ち塞がったその人物を鋭く睨みつけた。

それは、ナルトも同じだった。膝をつき、目の前に立つ忍を凝視する。

「……………………シンマの、おっちゃん」

 火遁でナイトの一撃を破ったのは、城戸シンマだった。シンマはナルトに振り向き、親指を立ててニヤリと笑った。

 さらに二人の周りに、よく知る者たちが次々に降り立った。

「大丈夫、ナルト!?」

「遅くなったね!」

「ったく…メンドクセーことに巻き込まれてやがんな!!」

 ナルトを守るように、いの、チョウジ、シカマルがシンマの隣に並び立つ。

「ナルト君! 助けに来ましたよ!!」

「どうしてこう面倒ごとばっか持ってくんのよ、アンタは!!」

「今更な気もするがな!」

 膝をつくナルトの右横に、リー、テンテン、ネジが並ぶ。

「な…ナルト君、大丈夫!?」

「手ェ貸しに来てやったぜ、コラァ!!」

「ワンッ!!」

「あまり先走るなよ、キバ。赤丸。なぜなら、奴らの強さは既に身をもって知っているからだ」

 さらにナルトの左横に、ヒナタ、キバ、シノが降り立つ。

「悪いねー、ナルト。遅くなっちゃって」

「すまない、準備に手間取ったんだ」

 ナルトの後ろに、カカシとヤマト、ガイが立つ。そして、さらにサイとサクラ、レンヤが到着した。

「でも間に合ってよかった!!」

「すぐに回復させるから!」

 そういってサクラが、ナルトの背後に回ってチャクラを手に纏わせる。そして、疲弊したナルトの体力とチャクラを回復させ始めた。

「サクラ……ちゃん……」

 麻痺していた疲労と痛覚が戻ってきたのか、荒い息をつくナルトは、サクラに目を向けて呟く。だが、すぐに四肢に叱咤して立ち上がる。

 治癒していたサクラが、慌ててそれを止めた。

「ナルト! アンタの傷はまだ……」

「…ンなこと、言ってられっかよ」

 ふらつく身体を制し、ナルトはアビスを鋭く見据える。そして、はるか後方にいるアケビを見やった。

 ピクリとも動かず、項垂れたまま沈黙する少女の姿に、サクラとサイも気づいた。

「……アケビ? 何があったの?」

「髪もあんなことに……どうして」

 サクラとサイが目を見開く傍で、ナルトは拳を握りしめる。

「…アケビは今、……自分の戦いに行ってんだ。自分との戦いに、決着をつけるために」

 キッと目に力を込め、アビスたちを睨む。

「アイツはさっき言った。必ず戻るって。…俺は、オレのもう一人の弟子の言葉を信じてぇ。…だから、休んでなんかいられねぇ」

 そして、周りに集まる仲間たちを見つめる。

 仲間たちは、何も言わずニッと笑う。ガイは、濃ゆい笑顔でぐっと親指を立てた。

 ナルトはうなずき、スッと敵を見据える。

「……雑魚共が群れおって」

 吐き捨てるアビスが、片手を挙げる。

 途端に、騎獣達と騎士達が、一斉に木ノ葉の忍達に向かってきた。轟く咆哮とともに、木ノ葉の忍達に真っ向から迫ってくる。

 パンッと拳を掌に撃ち、ナルトは吠える。

「こっから先へは行かせねー…。アケビの邪魔はさせねぇ!!」

 強く告げ、騎士と異形たちに突撃する。

 アケビが戻ってくるのを、ただ信じて。


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