【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
1.敗北
ゴウゴウと燃える炎。
火の壁と壁の間、僅かな空間で大きな瓦礫が動いた。石の壁が浮き上がり、反対側にズンッと倒れていくと、ピンクの髪の娘が汚れた顔を見せた。
「ハァ……ハァ……なんて威力なのよ……」
サクラは荒い呼吸のまま辺りを鋭く見渡す。
見れば、カカシたちも無事だ。瓦礫の隙間に身を潜め、柱に掴まって津波をやり過ごしたらしく、探すのに苦労した。
シンマとレンヤは、彼らの口寄せ獣が盾になってくれたらしい。周りの被害に比べて軽傷だった。
「……すまん、シンマ。ワシはこれまでだ」
対して、盾になった竜ジイとオオコウモリはボロボロだった。
「すまねぇ、竜ジイ。無理させちまって…」
「…言うな。この老いぼれに」
皮肉を口にし、竜ジイと大コウモリは白煙に包まれて消えた。
サクラはすぐに駆け出し、シンマとレンヤの傷を診る。
「今、回復させます」
「ああ…すまん」
「俺も頼む」
サクラは跪くと、チャクラを手に纏わせて傷跡にあてる。
回復忍術を施しながら、サクラは思う。アビスと名乗った男のことを。
(アイツ…、味方まで巻き込もうとしてた)
サクラは顔をしかめ、醜い表情の美丈夫の顔を思い浮かべた。
あの水遁の威力に味方を気遣うような様子はなかった。むしろ、巻き込んでも構わないようにも感じられた。鎖で縛りつけられた、彼女たちでさえも。
「サクラ!」
集中していたサクラのもとに、サイがカカシとヤマトを連れて駆け寄った。
三人とも、目立つ負傷は見られないが、切迫した様子だった。
「あいつらは?」
「もういない。向こうの拠点に戻ったみたいだ」
「こっちも、追いかけるだけの余裕はないしね。危ないところだったよ」
カカシが肩をすくめ、そう呟く。だが、すぐに真剣な表情に戻って辺りを見渡した。一番目立つ二人が、この場に見当たらなかったからだ。
「ナルトは? アケビも見当たらないようだけど」
「…それが、さっきから姿が見えなくて」
一応の手当てを終えたサクラが、汗を拭ってから答える。
チャクラの消費が激しい。このままでは今後の戦闘は厳しくなるだろう。
「……仕方がない。いったん体制を整えて出直そう。今の状態じゃどうにもできない」
「カカシ先生!! ……はい」
カカシの決断に、サクラは苦しげな表情で頷く。
仲間を、そして託された少女を置いて退却などしたくない。だが、今のままでは敵にあっという間に殲滅され、潰されるのがおちだ。
それに、サクラは思う。
ナルトなら、そう簡単にはやられたりしまい。そう信じている。
「シンマさん、レンヤさんの治療が終わり次第撤収しましょう」
「…ああ。スマネェ」
「分かった。……仕方がない」
二人は頷くと、目に見えて肩を落とした。
カカシもまた、右目に悲痛な色を落として俯く。
と、そこへ、ヤマトが駆け寄った。
「カカシさん、ちょっと……いや、かなり重要なものが」
「何?」
ヤマトの表情に何かを感じたカカシが、その後を追う。
瓦礫と炎の障害を乗り越え飛び越え、カカシは
「……これは」
自然と、カカシの声が漏れる。
目の前に広がるもの、それは巨大な穴だった。まるで地獄まで繋がっていそうなほど深く大きな穴が、目の前で広がっている。
アビスと名乗った男の水遁の技で切り裂かれ、砕けた地にあいた穴が、カカシとヤマトの目の前でぽっかりと口を開けていたのだ。
その奥に、光が見える。
淡くしみわたるような怪しい光が、穴の奥の奥から見えていた。
「……なるほど、ここか」
カカシは、目を細めながらそう呟いた。
今回、短いです。
とはいえ、ようやく物語の半分くらいまで来ました。できればもう少しだけ、本稚作をお楽しみください。