【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
ガキン!! 刀が激突する。激しい火花と衝撃が辺りに散漫し、大気が波のように震える。
同時にナイトは、大きく目を瞠った。
メリメリと膨れ上がり、硬化した筋肉を振るい、リュウガはナイトを吹き飛ばした。
「ぐはっ!?」
驚愕した表情のまま、ナイトは宙返りで体勢を立て直す。
強張った顔のナイトに、リュウガは底冷えする笑みを見せた。
「クククッ……クハハハハハハハ!!」
笑い声とともに、リュウガは頬を大きく膨らませ、特大の青い炎を吐いた。
ナイトは即座にマントを翻し、炎を遮る。だが、凄まじい熱と風圧により、呆気なくその体は押され、激流に流される木の葉のように吹き飛ばされた。
炎を吐き切ったリュウガが、口元をぺろりと舐める。
そこへ、牙を剥きだしたベノスネーカーと剣を構えた王蛇、そしてしがみつくナルトが向かう。
「喰らいやがれェェェェェ!!」
ベノスネーカーの上に乗ったまま、王蛇が剣を振り下ろす。大蛇の体重とスピードが加わった斬撃が、リュウガを押さえつけるはずだった。
だがリュウガは、それを頭上に片手で掲げた剣一本で受け止めてしまった。
微動だにしなかった相手に、王蛇は大きく目を見開く。
リュウガは犬歯を剥いて笑い、剣を振るう。
それだけで、王蛇もベノスネーカーも、ナルトまでもをまとめて吹き飛ばした。
「のわあああ!!」
「ぐはっ!?」
衝撃が二人の忍を地べたに叩き落し、大蛇を押し倒す。ズズン、と地が震えてベノスネーカー 倒れ伏した。
肩を押さえた王蛇が、憎々しげに目を細めながら汗を垂らす。
「あの野郎……依代を得ちまったか!!」
呟く王蛇。
その横を、苦無を持ったナルトが駆け抜けていった。
「あ! てめっ!」
王蛇が慌てて、ベノスネーカーを置いて走り出した。
ナルトは瓦礫の山を足場に、リュウガに向かっていく。そしてリュウガに向かって数本の苦無を投擲した。
「アケビを離しやがれ!!」
怒りの声とともに投げ放った苦無は、簡単にリュウガに弾かれる。
ナルトは投擲とともに接近し、弾かれた苦無を再び掴んで斬りかかる。リュウガは片手でそれをいなし弾き、火花を散らしながら躱す。
アケビはなおも、捕らわれたままだ。
「誰が渡すか…これは元々オレのものだ」
「ふっざけんな!!」
黒い笑みを浮かべてそう言ったリュウガに、ナルトの怒りが爆発する。
渾身の拳を叩き込もうと振るうが、それよりも早くリュウガの鋭い蹴りが突き出された。ナルトは唾液を吐きながら吹き飛ばされ、背をしたたかに打ち付けて倒れる。
腹を抱えて悶絶するナルトに、リュウガは冷たい笑みを見せる。
そこへ、今度は左右から刃が迫った。ナイトと王蛇が、それぞれの剣を携えて襲い掛かったのだ。
だがリュウガは、ナイトの騎乗槍を跳躍して躱し、上から踏みつけて押さえつける。そして、王蛇の剣を自身の剣で受け止めた。
ナイトはすぐさま騎乗槍を離し、自身の剣を抜く。
リュウガは受け止めていた王蛇の剣を受け流し、よろめいた王蛇を蹴り飛ばして離脱した。
倒れこんだ王蛇に邪魔され、ナイトも一緒に倒れこむ。
「くっ…」
「クソが!!」
口々に悪態をつき、剣を杖に立ち上がる。
その姿を見ながら、リュウガは嗤う。
「ククク…いいぞ。力が漲る。オレの力が…戻ってくる……」
リュウガは、自身の力におぼれていた。
捕らえたアケビに何が起こっているのかは分からないが、彼女の存在を利用してリュウガは強化されているらしい。それがアケビに悪影響を及ぼしているのは一目瞭然だった。
起き上がったナルトが睨む前で、リュウガは剣に切っ先を二人のくノ一に向けた。
「お前たちにオレは捕らえられん。オレの自由は、だれにも縛れんぞ」
「てめえ……!!」
ナルトは眉間のしわを険しくし、リュウガに怒りを露にする。
ふん、と鼻で笑うような嘲笑の表情のリュウガ。
その目が、急に見開かれた。
ナルトたちの周囲を、青い影が覆ったのだ。
ハッと振り向いた四人と、ぐったりとしたまま顔を僅かに上げるアケビ。
その目に飛び込んできたのは、廃墟そのものを覆い、飲み込むことのできるほどの規模の水の壁―――津波だった。
―――水遁・
一瞬我を忘れかけたナルトたちを嘲笑うように、巨大な津波は廃墟ごと彼らを飲み込んだ。
激流にもまれ、ナルトたちは一気にバラバラに分断される。
アケビも例外なく、リュウガの拘束から離れる。
リュウガはもう一度手を伸ばすが、それよりも早くナルトがアケビの手を掴んだ。激流の中で大きな瓦礫を掴み、波をやり過ごす。
やがて激流が収まると、ナルトとアケビは盛大にむせ返り、何度も呼吸を繰り返した。
「ゲホッ…ゲホッ!! あ…アケビ、大丈夫か!?」
「ゲホッ……う、うん……」
咳き込むアケビの安否を確認し、ずぶ濡れのナルトはほっと安堵する。
少し離れた位置には、伏せて倒れながら呻き声を漏らすナイトと王蛇、よろよろと立ち上がろうとするリュウガがいた。
ナルトは三人を警戒したまま、振り向く。
先ほどまで戦闘を行っていた廃墟は、すでに波の威力で粉々に砕け、崩れている。
その上に、一つの影が立っていた。
月光に照らされたその影は、侍のような着物の上に水色の刺々しい鎧を纏っていた。流線型で、薄い突起をいくつか生やしたその姿は、獰猛なサメを思わせる。
左腕には全体を覆う、鮫を模したグローブを備え、水滴を滴らせていた。
その影は、兜の下の端正な顔を歪ませ、下卑た笑みをナルトに見せた。
「あまりに配下が遅いと思って来てみれば…、やはり貴様が来ていたか。木の葉の英雄」
低く轟く男の声に、ナルトはアケビをそっと横たえさせながら眼を鋭く細める。
この男は、何か危ない。直感でそう思った。
「……お前がこいつらの親玉だな。何者だってばよ」
鋭く睨みつけながら、ナルトは男に問う。
対する男は、余裕の態度を全く崩さない。
「俺の名はアビス。…だが、親玉などというものではない。あえて言うなら……」
そう言いかけた男―――アビスは、おもむろにナルトの背後のナイトたちに向かって手を伸ばした。
途端にジャラン、という音がして、ナイトと王蛇の胸から青白いチャクラの鎖が現れた。二人の忍とアビスを繋ぐ鎖が引かれた直後、二人の忍は苦悶の表情を浮かべて胸を押さえた。
「ぐぅぅぅ……!!」
「クソがぁぁ!!」
明らかに苦しんでいる二人の忍をにやにやと見ながら、美丈夫は嗤う。
「飼い主、といったところか」
「てめえ!!」
人を物のように扱うアビスに、ナルトは怒りの声を挙げた。敵といえど、非道な扱いを見ておけるほど腐っていたくはない。
拳を握るナルトに、アビスは下衆な目を向ける。
「命令もこなせぬ飼い犬には、躾が必要だろう? そして…」
その目が、もう一人の少女、リュウガに向かう。
「逃げ出した飼い犬にもな」
アビスは鎖を消し、ベルトから一枚のカードを引き抜く。そして、左腕のグローブの鮫の口の中へと突っ込んだ。
[
アビスの手に、一振りの剣が現れる。ギザギザした牙が並んだ、
剣を担ぎながら、アビスはナイトと王蛇に目を向ける。
「ほれ、役立たずども…さっさと逃げたほうが身のためだぞ?」
「ぐっ…!!」
「このくずが……!!」
三人はよろめきながら、アビスの前から退く。
アビスはにんまりと笑い、ゆっくりと剣を振り上げた。
ナルトは我慢ならなかった。もはや動けそうにない少女に刃を向ける男の所業が、絶対に許せなかった。
一気に走り出し、アビスに殴りかかる。
「やめろ、この野郎!!」
その拳に怒りを込め、ナルトは駆ける。
「ナルト!」
アケビが呼ぶのも聞かず、ナルトは憤然とアビスに向かう。
その時、アビスの目がギラリと光った。
「…忠告は前にもしたぞ、英雄」
ナルトの拳が、あともう少しで届くその瞬間。アビスの剣が振るわれた。
「水遁・乱波」
鋸の刃が、水を纏う。振るわれた刃が、圧力により鋭利な斬撃となって辺りにまき散らされる。駆けるナルトの前で、地面にピシピシと線が走っていき、岩盤そのものが切り刻まれた。
そして同時に、凄まじい衝撃が走って地が砕け、激しい暴風が全てのものを吹き飛ばした。暴風が残っていた炎を燃え上がらせ、廃墟を破壊していく。
アケビは吹き飛ばされながら、衝撃に耐えるナイトと王蛇を。斬撃をモロに受け、全身から血を吹いて倒れるリュウガを。
そして、崩落に巻き込まれ、落ちていくナルトを見た。
「ナルトぉぉぉ――――――!!」
アケビの絶叫が響く。
ゴウゴウと燃える中、リュウガは一人沈黙していた。
全身を血で汚した彼女のもとに、アビスが近づく。何の反応も返さない彼女に、アビスはその笑みを深めた。
「……やぁ、おかえり」
闇に魅入られた笑顔を浮かべ、アビスは、そう言った。
戦いは加速する。
鉄の獣たちと、襲われる忍達。
その光景を、アケビは一人、茫然と見つめていた。