【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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5.鉄騎衆

 ギィン、とシンマの刀が火花を散らす。

 鎧のくノ一との戦況は、彼女の方に軍配が上がりつつあった。

 シンマのいかなる刀術も、ファムという名のくノ一のレイピアによっていなされ、僅かな隙を突かれて刺突の雨に襲われる。辛うじて致命傷は避けてはいるが、無数の刃の攻撃がシンマの体力をどんどん削り、徐々に窮地に陥れられていく。

 刹那、シンマの腹に鋭い蹴りが叩き込まれ、吹き飛ばされる。

 苦悶の表情を浮かべて倒れるシンマを見据えながら、ファムは一枚のカードを取り出し、レイピアの一部を開いて挿入する。

[SWORD VENT]

 途端に、ファムの手に金色の双刃を持つ白い薙刀が出現する。

「ハァ!!」

 薙刀をギュルンと回転させ、ファムはシンマに再び襲い掛かる。確実にとどめを刺しに、金色の刃が真っ直ぐにシンマに向かう。

 だが、激しい火花とともにその一撃が止められる。

 シンマとファムの間に割り込んだレンヤが、剣でファムの薙刀を受け止めたのだ。

「うおおおお!!」

 渾身の力で刃を振りぬき、ファムの薙刀を弾く。

 ファムは同時に大きく跳躍し、剣と薙刀を前後に構えて体勢を立て直す。仮面の下から、シンマとレンヤをじっと見据える。

 レンヤもまた剣を構え、ファムを見据える。

 そして両者は走り出し、激しい火花とともに激突した。

 

「雷切!!」

 カカシが手にまとった青い雷が、大気をも切り裂きながら迫る。

 チッチッチッと千の鳥が囀るような音とともに、次々と自身に襲い掛かる鋼の怪物の装甲を破壊し、貫いていく。穿たれた穴から大きく罅が入り、蜘蛛の怪物たちは見る間にその数を減らしていった。

 だが、怪物たちは次々に湧いて出てくる。今度は蜘蛛ばかりではなく、螺旋状の角を持つ鹿に似た怪物や、蜥蜴に似たもの、鳳凰を模したような怪物も現れてくる。

「木遁!!」

 ヤマトが自身の腕を木に変化させ、強烈な突きを怪物たちに放つ。そして倒れた怪物に木が絡みつき、纏めて拘束していった。

 

 それでも向かってくる敵の姿に、ヤマトは荒い呼吸とともに口を開いた。

「…はぁ……はぁ……きりがないですね」

 チャクラの浪費で疲弊しながら、その目は真っ直ぐに敵を見据える。それは、背中合わせに降り立ったカカシも同じだった。

「でもやっぱり、ここと奴らに関係があるってのは確かのようだ」

 カカシは写輪眼を発動させ、怪物たちの動作を待つ。

 これで奴らと、鏡の国の間に関連性があるという確証は得た。現在の戦力でこれ以上の調査は望めそうにない。

 早々に撤退したいところだが、あいにく敵もそれを許す気はないらしい。

「グオオオオオ!!」

 一体の蜘蛛型の怪物の怒号を号令に、怪物が一団となって一斉に迫る。

 足音が津波のように轟き、地面が揺れる。

 カカシとヤマトは覚悟を決める。何としても、一人になっても生き残り、情報を持ち帰らねばならない。そして、ナルトたちを守らなければならない。

 それが()を生きるものとしての役目だ。

 だがそんな彼らの頭上で、一つの影が躍る。

 目を見開いたカカシの前で、巨大な斧の刃が光る。青と白に彩られた、虎を模した鎧を纏う山伏に似た格好の忍が、カカシとヤマトに襲い掛かる。

 カカシとヤマトは即座に跳躍し、その忍の一撃を躱す。

 虎の忍の一撃が地面に直撃した瞬間、凄まじい衝撃波が生じて辺り一帯を吹き飛ばす。地面が陥没し、粉砕された岩石や衝撃波が、怪物たちをも巻き込んであらゆるものを薙ぎ払った。

 カカシとヤマトは廃墟の上に降り立ち、驚愕の表情で目の前の光景を凝視する。

 砂塵の中、斧を担いだ忍―――タイガがゆっくりと立ち上がる。

「…さすがは写輪眼のカカシ殿だ。一筋縄ではいかんようだ」

 野太い声で、タイガは素直に称賛する。

 警戒する二人は、さらなる気配が出現したことに気付いた。

 白虎の忍と、カカシとヤマトを挟むように、三人の忍が音もなく姿を現す。

 茶褐色の毛皮のついた鎧と、レイヨウを模した兜、左ひざに忍具らしきカラクリを装着した忍、インペラ―。

 一度木の葉で姿を見せていた、(ガイ)と名乗っていた銀の鎧を纏った忍。

 赤紫色の鎧に、房の生えた兜をかぶった忍、ライア。

 四人がカカシとヤマトを取り囲み、各々の武器を構える。

「この地で戦闘は避けたかったが、侵入者は排除せねばならん。……お二人にはここで退場してもらいたい……永遠にな」

「……できるなら、うちの子たちを連れてさっさと里に帰りたいんがけどね。そうさせてはくれないんでしょ?」

 皮肉を返し、カカシはヤマトと背中を合わせて身構える。

 四対二。圧倒的に不利な状況だ。勝つことも逃げることすらも、ままなりそうにない。

 だが。

「悪いけど、君らの言うことには従えないね」

 バチチッと雷電を手にまとわせ、カカシは告げる。

「こっちは、若い奴らの命背負ってるからね」

「……そうか」

 タイガは担いでいた斧を下ろし、両手で持って体勢を低く落とす。

 インペラ―と凱、ライアもまた、各々のベルトからカードを引き抜き、忍具に装填する。

SPIN VENT(スピン・ベント)

STRIKE VENT(ストライク・ベント)

SWING VENT(スウィング・ベント)

 声が響くと同時に、三人の元にそれぞれ二又の槍、犀の顔を模した籠手、棘のついた長い鞭が出現する。そしてタイガの元にも、爪の生えた白虎の籠手が現れ、装着された。

 その途端、四人の忍から、凄まじい殺気が放たれた。

「ならば、加減はせんぞ!! 氷遁・連雪山!!」

 タイガが籠手を地面に向けて叩き付ける。直後、地面から巨大な氷の山がいくつも生え、カカシたちに向かっていく。岩盤からまるで牙のように突き出していく氷の山が、カカシとヤマトをついに吹き飛ばした。

「ぐわっ!!」

「ぐはぁ!!」

 あまりの威力に、ダメージを相殺しきれなかった二人は、砕けた地上に盛大に倒れる。

 起き上がる暇も与えず、得物を構えたインペラ―達が襲い掛かる。闇夜に武装の光沢が光り、耳障りな金属音が鳴り響いた。

 

 自身が想像した鷹の墨絵に乗り、サイが天空を舞う。

「…これは、まずいですね」

 ひとり呟き、巻物を開いて別の絵を描こうと筆を滑らせる。

 だが、暗部時代に培われた勘が、サイに警鐘を鳴らした。背後に感じた殺気をそのまま信じ、振り向きながら小太刀を一閃する。

 ガキン!!

 金属音が鳴り響き、サイはバランスを崩して鷹の上から滑り落ちる。

 だが、そこには何もいないように見えた。

「!?」

 目を見開いたサイは、落下しながらその場所が揺らいでいるのを目にした。

 地面に落下する前に新たに鷹の絵を描き、術を発動させてその上に乗る。滑空して落下速度を殺したサイは、地面すれすれで飛び降りて着地した。

 小太刀を構えなおすサイに、声が届く。

「ありゃりゃ~。気づかれちゃったネ」

 サイの目の前で、ぐにゃりと空気が揺らいだ。透明な人型の何かが徐々に色を取り戻し、その姿を露にしていく。

 黄緑色の鎧とチャイナドレスを纏い、爬虫類の目のようなぼんぼりで髪を縛った女が、くすくすと笑いながらサイを見ていた。

「勘のいい子はやりづらいネ」

 女、ベルデはそういいながら、ベルトからカードを引き出すと、太腿に巻き付いたカラクリから引き出したコードを括り付け、引っ張って収納させた。

HOLD VENT(ホールド・ベント)

 ベルデの手にヨーヨーのようなカラクリが出現し、彼女はそれをもてあそぶ。

 サイは小太刀を構えながら、深いため息をついた。

「……本当に、まずいですね」

 

 夜の闇に、白いマントが翻る。

[ADVENT]

 新たなカードをレイピアに挿入し、ファムは地面に手のひらを叩き付ける。

 そしてレンヤも自らの指を噛み切り、地面に手を叩き付けた。

「口寄せの術!!」

 術の名を口にした瞬間、二人の足元から白煙が立ち上った。

 その中から、純白の翼を持つ巨大な鋼鉄の白鳥と、漆黒の体毛を生やした巨大な蝙蝠が出現する。純白(しろ)漆黒(くろ)の翼の巨獣が、空中で互いに対峙した。

「キュオオオン!!」

「ギィイイイ!!」

 巨獣たちはそれぞれの主を頭にのせ、天空へその身を躍らせる。

 大地の砂塵を巻き上げ天高く飛び立つと、白鳥と蝙蝠は羽ばたきを繰り返し、激突する。衝撃波を辺りに放ち、巨獣達は何度もぶつかり合う。

 そのたびに、頭の上に載っているファムとレンヤも剣を交え、激しく火花を散らす。

 巨獣と忍が夜天で暴れ狂い、凄まじい轟音が辺りに鳴り渡る。

「キュオオオオ!!」

「ギィイイイイイ!!」

 二体の巨獣の咆哮が、互いに重なり合った。

 

 上空でぶつかり合う巨獣たちの下で、ナルトと王蛇の戦いも熾烈さを極めていた。

 螺旋丸と剣が激突し、嵐のような衝撃波が辺りに吹き荒れる。ナルトと王蛇は互いににらみ合い、互いを遠くに吹き飛ばした。

「ウオラァ!!」

 ナルトは苦無を抜き、王蛇に斬りかかる。

 王蛇は剣で苦無を受け、鍔迫り合いで押しとどめる。細見からは想像もできない膂力に、ナルトは苦無を押し付けながら顔をしかめた。

「……お前の仲間も、苦戦しているようだぞ? 木の葉の英雄よ」

「てめーら……、なんでアケビを狙ってんだ!?」

「お前に言うつもりは……ねぇ!!」

 王蛇はそう吠え、ナルトの苦無を弾く。

「くっ……」

 苦無を取り落とし、素手になったナルトが身構える。

 だが、その時、ナルトの視界で何かが光った。そう思った瞬間、青い爆炎が柱のように天に向かって突き立った。すさまじい、通常の炎とは比べ物にならない熱波が、辺りに波のようにまき散らされた。

「!!」

 驚愕したナルトが振り向いた先では、弾けた炎の中に二つの人影が見えた。

 廃墟の上で仰向けに倒れ、足場の端から腕を垂らして落ちそうになっているアケビともう一人。

 青い炎を纏う、リュウガだ。

「アケビ!!」

 向かおうとしたナルトが振り向く、が。

 それよりも早く、王蛇が動いた。

「!」

 ベノスネーカーの上に乗り、王蛇のほうが早くアケビとリュウガの元へ向かった。

「そぅらお出ましだぁ!!」

 巨大な体をくねらせ、瓦礫を粉砕しながら大蛇は突き進んでいく。

 ナルトは目を見開き、すぐさま後を追った。

「なっ…あいつまさか!!」

 自身もアケビの元へ急ぎながら、ナルトは理解した。

 王蛇、もとい敵の狙いはアケビではなく、アケビを囮にして、彼女を狙うリュウガをおびき出すということだということに。

「チクショウ!!」

 

「……く、う……」

 倒れたアケビは、呻き声をあげながら目を開ける。そして、視界に入ってきたのは、ゆっくりと近づいてくる黒い己の姿。自分を狙うリュウガの姿だ。

 逃げようとするも、痛みで体に力が入らない。

 そんな彼女にリュウガは近付き、左手でアケビの首を掴み、持ち上げた。

「ぐっ……うっ……!!」

 首を掴む腕を弱々しく掴み返しながら、アケビはリュウガを睨む。

 首を掴んで持ち上げたアケビをリュウガはじっと見つめ、おもむろに右手を持ち上げる。そして、突如その手をアケビの腹に突き立てた。

「がっ!!」

 アケビは目を見開き、身を震わせる。そして、貫かれた部分から何かが侵入していく感覚に恐怖した。とてつもない嫌悪感で、アケビの目じりに涙がにじむ。

 アケビを貫いたまま、リュウガは嗤う。

「くく……ようやくだ。ようやく捕らえた。……お前は、オレのものだ」

 高々と言い放ち、リュウガはアケビを掲げる。

 だがその表情が、瞬時に変わった。

 青い閃光が、アケビとリュウガの間に割った入り、その地に刃を突き立てたのだ。

 リュウガは咄嗟にアケビを貫いたまま、大きく跳躍して後退する。だらりとうなだれたままのアケビは、弱々しく割って入った少女を見やり、僅かに目を見開く。

 リュウガもまた、その少女を睨みつけた。

「……あの野郎」

 ベノスネーカーを駆っていた王蛇が、目を細める。獲物を横取りされたような不機嫌さだ。

 ナルトもまた、その少女に目を瞠った。

「あいつは…あの時の!」

 剣を突き立てたのは、ナイトと名乗った青い忍。

 ナイトは剣を抜き、リュウガを睨みつける。そして、リュウガに捕らえられたアケビに、何かを思うように目を細めた。

「やはり…、この時を狙ってきたな、リュウガ」

 剣を展開し、二枚のカードを続けざまに挿入して、ナイトは備える。

SWORD VENT(ソード・ベント)][WING VENT(ウィング・ベント)

 ナイトの手に、騎乗槍と呼ばれる大型の剣が、背に巨大な蝙蝠の翼が張り付き、漆黒のマントとなって風にはためく。

 リュウガの手にも一振りの剣が出現し、黒い刃が月光に照らされた。

「またお前か……しつこい女だ」

「もう前のようにはいかん……今度こそ」

 剣を構え、ナイトは目を閉じる。そして本気の殺気を込め、再びカット目を開いた。

「……お前を捕らえる!!」

 地を蹴り、ナイトは疾走する。大剣を構え、一気に加速する。

 蝙蝠の騎士と、黒龍の騎士。黒い髪と白い髪の少女。

 二人の騎士が再び、激突した。


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