【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
けどな…。
仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ』
―――うちはオビト
1.宵闇の訪問者
淡い青色に包まれた世界。
夜明けも近い夜を、いくつもの影が駆けていた。
大木の枝から枝へと、獣のように跳ねては、前方を跳んでいく黒い影を睨みつけ、低い唸り声を漏らす。
「クソッ! 追いつけねェ!!」
「焦るな、キバ。作戦通りだ。俺達の役割を忘れるな」
隣に並んだのは、顔をすっぽりとフードで覆った青年、油女シノ。
黒いサングラスの奥の目は、冷静に侵入者の方に固定されていた。
任務に置いて、
個人に課せられた役割をどれほど完璧にこなせるかで、作戦の成功率は左右される、シノはそう暗に伝えた。キバも渋々了承し、追跡を再開する。
それにしても、侵入者は異常に速かった。何者かはまだ不明だが、これまでに戦ったどんな敵よりも優れた足を持っている。
何よりも、何故か木の葉の森をよく知っている様子があった。
「……何者なんだ、アイツは」
キバには、侵入者から知っているような匂いを感じられた。
誰の匂いかは、まだ思い出せなかった。
「分からん。だが、何故か蟲達がしきりに騒いでいる」
律儀に答えるシノも、フードの下で眉をひそめる。
遥か先を行く侵入者は、キバとシノの方を見やってから、さらに速度を上げる。
侵入者が向かう先を見て、キバは思わずほくそ笑んだ。
―――今だ!!
次の瞬間、侵入者の前に大きな影が躍り出た。
「ガウウ!!」
影は大きく吠えると、鋭い牙の並んだ顎を開き、侵入者に喰らいつく。
真っ白い体に、垂れた耳と細目が特徴的な、キバの相棒にして忍犬、赤丸だ。
赤丸の牙が、侵入者の纏う外套に穴を開け、ビリビリと引き裂いていく。侵入者の方も必死に引きはがそうとするが、赤丸はその力をゆるめない。
思わず足を止めた侵入者は、自ら外套を破り捨て、赤丸を振り払った。しかし、その死角からまた新たな追い忍が襲い掛かった。
―――柔拳!!
白眼と呼ばれる眼力を全開にし、日向ヒナタは侵入者に掌底を叩き込もうと腕を振るう。柔拳で戦闘不能にして拘束し、正体を突き止めるためだ。
チャクラの流れをせき止める掌底が炸裂する、と思った瞬間。
カシャン、と音がしたと思った途端。突如起こった突風が、死角にいたヒナタを軽く吹き飛ばした。
「え? ―――きゃあっ!!」
バランスを崩しながらも、ヒナタはどうにか枝の上に着地する。
すぐさま、白眼を発動して侵入者のチャクラを探る。
外套がボロボロになり、細身の体が晒された侵入者は、腰に手をやりながら、ヒナタをじっと見つめていた。
腰の手に握られているのは、細い刀身を持つ銀の剣。それが、鞘から少しだけ抜き出され、月光に照らされて光を反射している。
その剣から、かなりの量のチャクラが流れ出しているのが見えた。
「…なに、あの剣……?」
ヒナタは戸惑いながら、すぐさま柔拳の構えを取る。
侵入者もまた、ヒナタを見下ろしながら、腰の剣をゆっくりと抜いていく。
リーン、と刀身が弾かれて、美しい音を奏でる。
剣を構え、侵入者は前屈の姿勢を取った。
と、思った時には、侵入者はヒナタの目前にいた。
「!?」
目を見開いたヒナタに、刃が迫る。
咄嗟に弾いた直後、今度は侵入者から掌底が放たれた。必死にこれを躱すも、次々に繰り出される攻撃は恐ろしく速くて正確だった。
再び突風が起こり、攻防はヒナタが競り負けた。
「うあっ……!!」
吹き飛ばされたヒナタは、地面に打ち据えられて、そのまま気を失った。
「ヒナタっ……んの野郎ぉ!!」
追いついたキバが、激昂する。それより先に、シノが動いた。
―――
袖口を大きく開くと、隙間から黒いもやが噴き出していく。
シノの体内に棲む無数の小さな羽虫たちが、黒い大きな影のように群がり、侵入者の周囲に纏わりついて、視界を奪う。
侵入者は手を振り、蟲を払いのけようとするも、風の忍術を使うには近すぎた。
その隙に、キバが駆ける。走りながら印を結ぶと、赤丸が白い煙に包まれ、もう一人のキバに変化した。
「行くぞ、赤丸!」
並んで走る二人が、その勢いを保ったまま高く跳ぶ。
空中で体を捻ると、キバと赤丸は竜巻のように猛烈な回転を始めた。岩をも砕く螺旋の牙が、目を剥いた侵入者に襲い掛かる。
―――犬塚流獣人コンビ体術奥義……
「牙通牙!!」
獰猛な破壊の牙が、侵入者の肉体をずたずたに引き裂く、その寸前。
侵入者は、まるで展開を知っていたかのように、静かな動きで牙通牙を見切り、紙一重でそれを避けた。
「なっ……!?」
目を見開くキバは、信じられない気持ちで侵入者を凝視した。
その時、侵入者の纏う外套のフードがビリビリに引き裂かれて、侵入者の顔が露わになる。それを見た瞬間、キバは心臓が止まる気がした。
黒く短い髪に、美しく整った顔。切れ長の目の娘が怒気を帯びた目でキバを鋭く睨んでいた。大半の男は、その美しさに息を呑みそうだ。
しかしその瞳は、もはやこの世では数人しか持っていないはずの目だった。
赤い血のような目に浮かぶ、3つの黒い巴模様。
その瞬間、先ほどまでの違和感が繋がった。
端麗な顔立ちと、赤い魔眼は、ありえないほど〝彼〟に似ていた。
キバたちの、かつての仲間に。
「サスっ……!!」
動揺したキバは、コントロールを失って、そのまま大樹の幹に激突する。
攻撃を回避することができた彼女は、フッと不敵な笑みを浮かべた。
しかし、突然目を見開いたかと思うと、憎々しげに顔をしかめて舌打ちする。すると次の瞬間、ボンと煙が上がって、娘は霞のように消え失せた。
「待て……!! どこに!?」
復活したキバが、娘のいた場所を探る。
そこへ、シノが目を覚ましたヒナタを連れて合流した。
ヒナタはすぐに白眼を発動して周囲を探索する。すると、彼女の眼が途端に大きく見開かれた。
「……! そんな……、消えた……!?」
「は!? そんなはずあるか!?」
ヒナタの白眼を以てしても、侵入者の足取りは探れなかった。
しかし、それほど速く逃亡できることなど、ありえないはずだった。
「……おそらく、逆口寄せの術を使ったのだ」
「!! ……クソっ」
シノの推理に、キバは思わず大樹の枝を殴りつけた。
得体の知れない曲者に、里の領内に侵入された上に、戦闘でも敗北し、まんまと逃げられた。これ以上に悔しいことはなかった。
「……どちらにせよ、時間切れだ」
シノが呟くと、森が淡い光に包まれ始めた。夜明けだった。清々しいはずの朝日が、憎らしく昇っていくのが見える。
得体の知れない不安の波紋を、三人に残して。
オープニングは「風のように 炎のように/AIRI」でいこうと思います。