【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

2 / 38
『…確かに、忍者の世界でルールや掟を破る奴は、クズ呼ばわりされる。
 けどな…。
 仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ』

          ―――うちはオビト


第一章 『焔』の少女
1.宵闇の訪問者


 淡い青色に包まれた世界。

 夜明けも近い夜を、いくつもの影が駆けていた。

 大木の枝から枝へと、獣のように跳ねては、前方を跳んでいく黒い影を睨みつけ、低い唸り声を漏らす。

 犬塚(いぬづか)キバは、振り返ることもせず逃走する侵入者に、忌々しげに眼を向けた。

「クソッ! 追いつけねェ!!」

「焦るな、キバ。作戦通りだ。俺達の役割を忘れるな」

 隣に並んだのは、顔をすっぽりとフードで覆った青年、油女シノ。

 黒いサングラスの奥の目は、冷静に侵入者の方に固定されていた。

 任務に置いて、三人一組(スリーマンセル)で行動することには、チームワークが大いに要求される。

 個人に課せられた役割をどれほど完璧にこなせるかで、作戦の成功率は左右される、シノはそう暗に伝えた。キバも渋々了承し、追跡を再開する。

 それにしても、侵入者は異常に速かった。何者かはまだ不明だが、これまでに戦ったどんな敵よりも優れた足を持っている。

 何よりも、何故か木の葉の森をよく知っている様子があった。

「……何者なんだ、アイツは」

 キバには、侵入者から知っているような匂いを感じられた。

 誰の匂いかは、まだ思い出せなかった。

「分からん。だが、何故か蟲達がしきりに騒いでいる」

 律儀に答えるシノも、フードの下で眉をひそめる。

 遥か先を行く侵入者は、キバとシノの方を見やってから、さらに速度を上げる。

 侵入者が向かう先を見て、キバは思わずほくそ笑んだ。

 ―――今だ!!

 次の瞬間、侵入者の前に大きな影が躍り出た。

「ガウウ!!」

 影は大きく吠えると、鋭い牙の並んだ顎を開き、侵入者に喰らいつく。

 真っ白い体に、垂れた耳と細目が特徴的な、キバの相棒にして忍犬、赤丸だ。

 赤丸の牙が、侵入者の纏う外套に穴を開け、ビリビリと引き裂いていく。侵入者の方も必死に引きはがそうとするが、赤丸はその力をゆるめない。

 思わず足を止めた侵入者は、自ら外套を破り捨て、赤丸を振り払った。しかし、その死角からまた新たな追い忍が襲い掛かった。

 ―――柔拳!!

 白眼と呼ばれる眼力を全開にし、日向ヒナタは侵入者に掌底を叩き込もうと腕を振るう。柔拳で戦闘不能にして拘束し、正体を突き止めるためだ。

 チャクラの流れをせき止める掌底が炸裂する、と思った瞬間。

 カシャン、と音がしたと思った途端。突如起こった突風が、死角にいたヒナタを軽く吹き飛ばした。

「え? ―――きゃあっ!!」

 バランスを崩しながらも、ヒナタはどうにか枝の上に着地する。

 すぐさま、白眼を発動して侵入者のチャクラを探る。

 外套がボロボロになり、細身の体が晒された侵入者は、腰に手をやりながら、ヒナタをじっと見つめていた。

 腰の手に握られているのは、細い刀身を持つ銀の剣。それが、鞘から少しだけ抜き出され、月光に照らされて光を反射している。

 その剣から、かなりの量のチャクラが流れ出しているのが見えた。

「…なに、あの剣……?」

 ヒナタは戸惑いながら、すぐさま柔拳の構えを取る。

 侵入者もまた、ヒナタを見下ろしながら、腰の剣をゆっくりと抜いていく。

 リーン、と刀身が弾かれて、美しい音を奏でる。

 剣を構え、侵入者は前屈の姿勢を取った。

 と、思った時には、侵入者はヒナタの目前にいた。

「!?」

 目を見開いたヒナタに、刃が迫る。

 咄嗟に弾いた直後、今度は侵入者から掌底が放たれた。必死にこれを躱すも、次々に繰り出される攻撃は恐ろしく速くて正確だった。

 再び突風が起こり、攻防はヒナタが競り負けた。

「うあっ……!!」

 吹き飛ばされたヒナタは、地面に打ち据えられて、そのまま気を失った。

「ヒナタっ……んの野郎ぉ!!」

 追いついたキバが、激昂する。それより先に、シノが動いた。

 ―――蟲邪民具(むしじゃみんぐ)の術!!

 袖口を大きく開くと、隙間から黒いもやが噴き出していく。

 シノの体内に棲む無数の小さな羽虫たちが、黒い大きな影のように群がり、侵入者の周囲に纏わりついて、視界を奪う。

 侵入者は手を振り、蟲を払いのけようとするも、風の忍術を使うには近すぎた。

 その隙に、キバが駆ける。走りながら印を結ぶと、赤丸が白い煙に包まれ、もう一人のキバに変化した。

「行くぞ、赤丸!」

 並んで走る二人が、その勢いを保ったまま高く跳ぶ。

 空中で体を捻ると、キバと赤丸は竜巻のように猛烈な回転を始めた。岩をも砕く螺旋の牙が、目を剥いた侵入者に襲い掛かる。

 ―――犬塚流獣人コンビ体術奥義……

「牙通牙!!」

 獰猛な破壊の牙が、侵入者の肉体をずたずたに引き裂く、その寸前。

 侵入者は、まるで展開を知っていたかのように、静かな動きで牙通牙を見切り、紙一重でそれを避けた。

「なっ……!?」

 目を見開くキバは、信じられない気持ちで侵入者を凝視した。

 その時、侵入者の纏う外套のフードがビリビリに引き裂かれて、侵入者の顔が露わになる。それを見た瞬間、キバは心臓が止まる気がした。

 黒く短い髪に、美しく整った顔。切れ長の目の娘が怒気を帯びた目でキバを鋭く睨んでいた。大半の男は、その美しさに息を呑みそうだ。

 しかしその瞳は、もはやこの世では数人しか持っていないはずの目だった。

 赤い血のような目に浮かぶ、3つの黒い巴模様。

 その瞬間、先ほどまでの違和感が繋がった。

 端麗な顔立ちと、赤い魔眼は、ありえないほど〝彼〟に似ていた。

 キバたちの、かつての仲間に。

「サスっ……!!」

 動揺したキバは、コントロールを失って、そのまま大樹の幹に激突する。

 攻撃を回避することができた彼女は、フッと不敵な笑みを浮かべた。

 しかし、突然目を見開いたかと思うと、憎々しげに顔をしかめて舌打ちする。すると次の瞬間、ボンと煙が上がって、娘は霞のように消え失せた。

「待て……!! どこに!?」

 復活したキバが、娘のいた場所を探る。

 そこへ、シノが目を覚ましたヒナタを連れて合流した。

 ヒナタはすぐに白眼を発動して周囲を探索する。すると、彼女の眼が途端に大きく見開かれた。

「……! そんな……、消えた……!?」

「は!? そんなはずあるか!?」

 ヒナタの白眼を以てしても、侵入者の足取りは探れなかった。

 しかし、それほど速く逃亡できることなど、ありえないはずだった。

「……おそらく、逆口寄せの術を使ったのだ」

「!! ……クソっ」

 シノの推理に、キバは思わず大樹の枝を殴りつけた。

 得体の知れない曲者に、里の領内に侵入された上に、戦闘でも敗北し、まんまと逃げられた。これ以上に悔しいことはなかった。

「……どちらにせよ、時間切れだ」

 シノが呟くと、森が淡い光に包まれ始めた。夜明けだった。清々しいはずの朝日が、憎らしく昇っていくのが見える。

 得体の知れない不安の波紋を、三人に残して。




オープニングは「風のように 炎のように/AIRI」でいこうと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。