【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
「シャアア!!」
咆哮とともに、紫色の鋼鉄の鞭が、ナルトたちに振り下ろされる。
「くっ!!」
同時に飛びのき、その一撃を躱す。その直後、振り下ろされた尾が叩き付けられ、粉塵と瓦礫を辺りにまき散らした。
「って!! またあいつかよ!?」
紫の大蛇ベノスネーカーと対峙しながら、ナルトは緊張した顔で悪態をつく。
ベノスネーカーは再び鎌首をもたげ、牙を剥いて襲い掛かる。
今度は、アケビに向かって。
「!」
アケビは即座に反応し、横っ飛びで回避する。大蛇の牙が瓦礫を噛み砕き、通り過ぎていく横で、アケビは例の箱を取り出して構える。
しかしその刹那、アケビに一つの影が迫った。
螺旋状の湾曲した刃を手に、小柄なフードを被った忍がアケビに斬りかかった。
だが、二人の間に苦無を持ったナルトが割り込み、その一撃を受け止めた。火花を散らし、フードの忍―――王蛇の勢いを止めた。
「っ……うずまきナルト!」
「お前……今度は何が目的だ!?」
ナルトは王蛇を睨みつけ、ぎちぎちと刃をかち合わせて拮抗する。
「お前に用はない! …用があるのは」
王蛇はギラリと目を光らせ、ナルトの苦無をはじく。そして、刃を構えなおして見据えたのは、箱を持ち直すアケビだった。
「お前だぁ!!」
「!!」
突然殺気を向けられ、硬直するアケビ。
ナルトの妨害を潜り抜け、王蛇の牙がアケビに迫る。
毒牙を模した剣が、アケビに突き刺さるその瞬間、アケビは大きく上半身をそらし、必死の表情で王蛇の剣を躱す。
「うぐっ…!!」
咄嗟のことで、バランスを崩して倒れこむ。
追撃を加えようとした王蛇が、再び剣を振り上げた、その時。
「しゃーんなろー!!」
構えたサクラが、チャクラで固めた拳を振り下ろしたのだ。
飛びのいた王蛇の足元に、金剛力の拳が叩き込まれ、轟音とともに岩盤ごと粉砕する。腹の底まで響く衝撃波が放たれ、倒れるアケビの髪をなぶる。
王蛇は舌打ちし、再び跳躍して廃墟の上に降り立った。
「チッ…すばしっこい!」
サクラは顔をしかめ、鋭い目で王蛇を見上げた。そして、起き上がろうとしていたアケビに声をかける。
「アケビ! 立てる!?」
「…な、何とか……」
頭を振り、ふらふらと立ち上がるアケビは、キッと照準の合わない目で王蛇を睨む。
対する王蛇は、その顔に黒い笑みを浮かべて佇む。
顔をしかめるアケビのもとに、ナルトが降り立つ。二人で苦無を持ち、アケビを庇うようにして前に陣取る。
「……胸糞悪ィ」
王蛇は憎々しげにそう呟く。二人に守られ、その後ろに立つアケビを見て、王蛇の苛立ちがさらに募っていく。王蛇の周囲でベノスネーカーがとぐろを巻き、威嚇の咆哮を挙げた。
ナルトは王蛇の目を真っ直ぐに睨みつけ、両手で十字の印を結んだ。
「多重影分身の術!!」
ボボボボボン、と無数の煙が立ち上り、同じ数だけのナルトの分身が出現する。
「ウオラァ!!」
「オラァ!!」
紫色の太い胴にナルトたちが組み付き、動きを止めようと奮戦する。尾に薙ぎ倒され、分身が見る間に消し飛ばされていく中、苦無を構えた
王蛇はベノスネーカーの体に飛び移り、ナルトの攻撃を躱す。
王蛇がベノスネーカーの胴を駆け上がり、その頭部に移って剣を構える。それを命令と認識し、ベノスネーカーはナルトに向かって牙を剥き、襲い掛かった。
「シャアア!!」
ナルトも苦無を盾に牙の攻撃を防ぎ、飛び跳ねて避け続ける。
再び喰らいつこうとするベノスネーカー。
その顔面で、突然大きな炎が弾けた。
「!!」
顔を覆った王蛇が、ぎろりと闇の中を睨む。
憎々しげに歪められた視線の先にいたのは、虎と呼ばれる印を結んだシンマの姿だった。
「シンマのおっちゃん!!」
ナルトが呼ぶと、頷いたシンマが親指を噛み切り、複雑な印をいくつも結んでいく。そして、赤い血の垂れる手のひらを地面に力強く叩き付けた。
「口寄せの術!!」
途端に、影分身とは比べ物にならない量の白煙が立ち上り、王蛇とベノスネーカーの視界を覆い尽くしていく。王蛇は歯を食いしばり、白煙を剣で振り払う。
そして、白煙の中から現れたのは、赤い躰を持つ長い蛇に似た何か。ベノスネーカーにも劣らぬ巨体を有したそいつは、長く伸びた口から赤い炎を漏らす。
シンマの口寄せ獣の真紅のタツノオトシゴが、王蛇とベノスネーカーに向かって高々と咆哮を挙げた。
「竜じいぃぃ!! 力貸してくれ!!」
竜じいは頭に飛び乗ってきたシンマを睨み、次いで目の前の大蛇に目を向ける。
「……シンマ、久々に呼び出したと思ったら、なんじゃあの鉄の塊は」
「見ての通り敵だ!! 行くぞ!!」
「いわれずとも!!」
竜じいが鼻息荒く答える間に、ベノスネーカーが再び顎を開き、喉の奥から凄まじい臭気を放つ液体を吐き出した。
竜じいは口先から高温の火炎を掃き、その毒液を相殺する。高熱が加わった毒液は、両者の間で広範囲の爆発を起こした。
ベノスネーカーは声高く吠え、竜じいに食らいつこうと牙を剥く。
竜じいは跳躍してそれを躱し、口先から大量の空気を取り込み、体内に溜めていく。
「シンマぁ!! 火じゃァ!!」
「オウ!!」
竜じいの頭の上で、シンマは火遁の印を組み、同時に竜じいが竜巻の
―――灼遁・灼火砲!!
竜巻に向かって、シンマが豪火球を放つ。炎を取り込んだ竜巻はその威力を倍増させ、火の柱となってベノスネーカーを包んでいった。
ゴウッ、と凄まじい熱波が辺りにまき散らされ、ナルトたちの髪と衣服をなぶる。
だが、炎を吐き続けていた竜じいの体に、突如強い衝撃が加えられた。腹の唐突な一撃を食らい、バランスを崩した龍じいは瓦礫の山に倒れこんだ。
「ぐおおっ!?」
「龍じい!?」
ズズンッ、と地響きを立てて倒れる龍じい。
シンマが危うく下敷きになる寸前で飛び降り、その傍に駆け寄る。だが、その時さらなる地鳴りが彼らを襲った。
唐突に起きた大きな地揺れに、ナルトたちも警戒を強める。
「!? なんだってばよ!!」
思わず叫んだナルトに応えるように、ナルトたちの周囲の瓦礫の山が突如吹き飛んだ。地中から現れた何かによって、噴火のように上空に瓦礫が吹き上げられたのだ。
「のわっ!?」
最初に現れたのは、緑色の巨人だった。右手に巨大な砲身を、左手に巨大な蟹のハサミのような指を持つ、金色の湾曲した角を有した鋼鉄の巨人だ。
ズシン、ズシンと地を踏みつけて近づいてくる巨人、マグナギガという名のそいつの肩には、大砲を掲げたカラクリの鎧の忍と、斧を持った白い忍、二足歩行の虎に似た怪物が乗っていた。銀色のカラクリじみた鎧を纏う緑の彼の砲身からは、白煙が立ち上っている。
竜じいは、これに撃たれたのだ。シンマはすぐに理解した。
身構えたシンマと、起き上がりかけた竜じい。
その背後で、何者かが降り立つ気配がした。
振り向いたシンマの目の前で、純白のマントが翻る。
月光に照らされ、青く反射する白い鎧を纏ったくノ一が、レイピアと呼ばれる剣と盾を構えてシンマに突進した。
「ハァッ!!」
「ぐっ!?」
シンマは咄嗟に刀でそれをはじき、刺突を回避する。
だがくノ一は連続で刺突を放ち、避けられなかった刃がシンマの衣服を裂く。
倒れ伏した竜じいは、それを見て怒りを募らせる。
「…お…の……れ」
だが、起き上がった体に、再び衝撃が襲い掛かる。今度は、自身の真下からだ。
「ぐああ!!」
とがった何かが腹に刺さり、竜じいは悲鳴を上げる。
地面を破り、竜じいに鋭い何かを刺した元凶が現れる。見覚えのある螺旋状の尾を突き立てたのは、ベノスネーカーだった。地中を掘り進んで竜じいの火炎を回避し、不可視の一撃を放ったのだ。
再び倒れていく竜じい。
それを見ながら、鍔迫り合いを切り広げるシンマが叫ぶ。
「ナルトぉ!! アケビちゃんを連れて逃げろォ!!」
くノ一の剣をはじき、シンマはナルトの方から引きはがす。
「シンマのおっちゃん!!」
文字通り火花を散らせる先輩に叫ぶが、ナルトはその指示に従うことにする。
顔をしかめながら、ナルトはアケビの手を引いて走り出す。
「追え!!」
ベノスネーカーに乗る王蛇が、剣を構えて命じる。即座に答えたベノスネーカーが、牙を剥いてアケビに襲い掛かった。長く太い躰をくねらせ、瓦礫を薙ぎ倒して追っていく。
ナルトは一度足を止め、十字の印を結ぶ。
「アケビ、逃げろってばよ!!」
「ナルト!」
声を上げるアケビを先に促し、ナルトは再び多重影分身を繰り出す。
ナルトの影分身は二人一組になり、一方が差し出した掌の上に、もう一方がチャクラを巻き込む動作を行う。途端に沿いチャクラの球体が出来上がり、手のひらの上で嵐のように暴れ狂う。
螺旋丸を準備したナルトたちは、一斉にベノスネーカーに向かって跳躍する。空中でさらに螺旋丸を大きくしながら、ナルトたちは大蛇の化け物を迎え撃つ。
「大玉螺旋多連丸!!」
迫る来る無数の青い球体に、王蛇とベノスネーカーが目を見開く。
そして、青い閃光が炸裂し、辺りを明るく照らし出した。
ナルトに背中を押されたアケビは、一心不乱に廃墟の間を駆け抜ける。荒い息をつきながら、怪物たちの手から逃れるべく走り続けていた。
何が理由なのかは分からないが、彼らの狙いは自分であるのは明らかだ。
圧倒的な力を有する彼らに真っ向から挑むのは自殺行為で、護られたままではナルトの足手まといになる。そう自分で判断し、アケビは必死に逃げていた。
だがついに、アケビの足が徐々に遅くなった。走り続けた疲労が、限界に達したのだ。
廃墟の壁に手をつき、胸に手を当てて荒い呼吸を繰り返す。
だが、苦しげに歪められていた顔が、ハッと上げられた。
何かがいる。背後から誰かが近づいてくる。
アケビはバッと身体を翻し、姿勢を落として身構える。何一つ忍具は持ち合わせてはいないが、自分の身ぐらいは守らなければならない。
廃墟の陰に潜んでいたその誰かが、ゆっくりと歩を進める。その姿が、月明かりのもとに徐々に表れていく。
そしてアケビは、細めていた眼を見開き、顔を青ざめさせた。
闇の中から現れたのは、己の顔。
銀の髪をなびかせ、黒い忍装束を身にまとった自分が、曲刀を手に自分に近付いてきたのだ。氷のような冷たい目に、憎悪の炎を燃やしながら。
「もう…、逃がしはしない」
「ヒッ……!!」
ギラリと光る、リュウガと呼ばれていた少女の目に、アケビは小さく悲鳴を上げる。
リュウガは曲刀を構え、切っ先をアケビに向けて言い放つ。
「その肉体………よこせ!!」
いうが早いか、リュウガは地面を踏み砕き、突進する。
その刃を、アケビに向けて。