【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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4.紫苑の王蛇

「シャアア!!」

 咆哮とともに、紫色の鋼鉄の鞭が、ナルトたちに振り下ろされる。

「くっ!!」

 同時に飛びのき、その一撃を躱す。その直後、振り下ろされた尾が叩き付けられ、粉塵と瓦礫を辺りにまき散らした。

「って!! またあいつかよ!?」

 紫の大蛇ベノスネーカーと対峙しながら、ナルトは緊張した顔で悪態をつく。

 ベノスネーカーは再び鎌首をもたげ、牙を剥いて襲い掛かる。

 今度は、アケビに向かって。

「!」

 アケビは即座に反応し、横っ飛びで回避する。大蛇の牙が瓦礫を噛み砕き、通り過ぎていく横で、アケビは例の箱を取り出して構える。

 しかしその刹那、アケビに一つの影が迫った。

 螺旋状の湾曲した刃を手に、小柄なフードを被った忍がアケビに斬りかかった。

 だが、二人の間に苦無を持ったナルトが割り込み、その一撃を受け止めた。火花を散らし、フードの忍―――王蛇の勢いを止めた。

「っ……うずまきナルト!」

「お前……今度は何が目的だ!?」

 ナルトは王蛇を睨みつけ、ぎちぎちと刃をかち合わせて拮抗する。

「お前に用はない! …用があるのは」

 王蛇はギラリと目を光らせ、ナルトの苦無をはじく。そして、刃を構えなおして見据えたのは、箱を持ち直すアケビだった。

「お前だぁ!!」

「!!」

 突然殺気を向けられ、硬直するアケビ。

 ナルトの妨害を潜り抜け、王蛇の牙がアケビに迫る。

 毒牙を模した剣が、アケビに突き刺さるその瞬間、アケビは大きく上半身をそらし、必死の表情で王蛇の剣を躱す。

「うぐっ…!!」

 咄嗟のことで、バランスを崩して倒れこむ。

 追撃を加えようとした王蛇が、再び剣を振り上げた、その時。

「しゃーんなろー!!」

 構えたサクラが、チャクラで固めた拳を振り下ろしたのだ。

 飛びのいた王蛇の足元に、金剛力の拳が叩き込まれ、轟音とともに岩盤ごと粉砕する。腹の底まで響く衝撃波が放たれ、倒れるアケビの髪をなぶる。

 王蛇は舌打ちし、再び跳躍して廃墟の上に降り立った。

「チッ…すばしっこい!」

 サクラは顔をしかめ、鋭い目で王蛇を見上げた。そして、起き上がろうとしていたアケビに声をかける。

「アケビ! 立てる!?」

「…な、何とか……」

 頭を振り、ふらふらと立ち上がるアケビは、キッと照準の合わない目で王蛇を睨む。

 対する王蛇は、その顔に黒い笑みを浮かべて佇む。

 顔をしかめるアケビのもとに、ナルトが降り立つ。二人で苦無を持ち、アケビを庇うようにして前に陣取る。

「……胸糞悪ィ」

 王蛇は憎々しげにそう呟く。二人に守られ、その後ろに立つアケビを見て、王蛇の苛立ちがさらに募っていく。王蛇の周囲でベノスネーカーがとぐろを巻き、威嚇の咆哮を挙げた。

 ナルトは王蛇の目を真っ直ぐに睨みつけ、両手で十字の印を結んだ。

「多重影分身の術!!」

 ボボボボボン、と無数の煙が立ち上り、同じ数だけのナルトの分身が出現する。

 本体(オリジナル)が先行し、ベノスネーカーに影分身のナルトたちが次々に挑みかかり、組み付いていった。

「ウオラァ!!」

「オラァ!!」

 紫色の太い胴にナルトたちが組み付き、動きを止めようと奮戦する。尾に薙ぎ倒され、分身が見る間に消し飛ばされていく中、苦無を構えた本体(オリジナル)のナルトが王蛇に肉薄する。

 王蛇はベノスネーカーの体に飛び移り、ナルトの攻撃を躱す。

 王蛇がベノスネーカーの胴を駆け上がり、その頭部に移って剣を構える。それを命令と認識し、ベノスネーカーはナルトに向かって牙を剥き、襲い掛かった。

「シャアア!!」

 ナルトも苦無を盾に牙の攻撃を防ぎ、飛び跳ねて避け続ける。

 再び喰らいつこうとするベノスネーカー。

 その顔面で、突然大きな炎が弾けた。

「!!」

 顔を覆った王蛇が、ぎろりと闇の中を睨む。

 憎々しげに歪められた視線の先にいたのは、虎と呼ばれる印を結んだシンマの姿だった。

「シンマのおっちゃん!!」

 ナルトが呼ぶと、頷いたシンマが親指を噛み切り、複雑な印をいくつも結んでいく。そして、赤い血の垂れる手のひらを地面に力強く叩き付けた。

「口寄せの術!!」

 途端に、影分身とは比べ物にならない量の白煙が立ち上り、王蛇とベノスネーカーの視界を覆い尽くしていく。王蛇は歯を食いしばり、白煙を剣で振り払う。

 そして、白煙の中から現れたのは、赤い躰を持つ長い蛇に似た何か。ベノスネーカーにも劣らぬ巨体を有したそいつは、長く伸びた口から赤い炎を漏らす。

 シンマの口寄せ獣の真紅のタツノオトシゴが、王蛇とベノスネーカーに向かって高々と咆哮を挙げた。

「竜じいぃぃ!! 力貸してくれ!!」

 竜じいは頭に飛び乗ってきたシンマを睨み、次いで目の前の大蛇に目を向ける。

「……シンマ、久々に呼び出したと思ったら、なんじゃあの鉄の塊は」

「見ての通り敵だ!! 行くぞ!!」

「いわれずとも!!」

 竜じいが鼻息荒く答える間に、ベノスネーカーが再び顎を開き、喉の奥から凄まじい臭気を放つ液体を吐き出した。

 竜じいは口先から高温の火炎を掃き、その毒液を相殺する。高熱が加わった毒液は、両者の間で広範囲の爆発を起こした。

 ベノスネーカーは声高く吠え、竜じいに食らいつこうと牙を剥く。

 竜じいは跳躍してそれを躱し、口先から大量の空気を取り込み、体内に溜めていく。

「シンマぁ!! 火じゃァ!!」

「オウ!!」

 竜じいの頭の上で、シンマは火遁の印を組み、同時に竜じいが竜巻の息吹(ブレス)を放つ。

 ―――灼遁・灼火砲!!

 竜巻に向かって、シンマが豪火球を放つ。炎を取り込んだ竜巻はその威力を倍増させ、火の柱となってベノスネーカーを包んでいった。

 ゴウッ、と凄まじい熱波が辺りにまき散らされ、ナルトたちの髪と衣服をなぶる。

 だが、炎を吐き続けていた竜じいの体に、突如強い衝撃が加えられた。腹の唐突な一撃を食らい、バランスを崩した龍じいは瓦礫の山に倒れこんだ。

「ぐおおっ!?」

「龍じい!?」

 ズズンッ、と地響きを立てて倒れる龍じい。

 シンマが危うく下敷きになる寸前で飛び降り、その傍に駆け寄る。だが、その時さらなる地鳴りが彼らを襲った。

 唐突に起きた大きな地揺れに、ナルトたちも警戒を強める。

「!? なんだってばよ!!」

 思わず叫んだナルトに応えるように、ナルトたちの周囲の瓦礫の山が突如吹き飛んだ。地中から現れた何かによって、噴火のように上空に瓦礫が吹き上げられたのだ。

「のわっ!?」

 最初に現れたのは、緑色の巨人だった。右手に巨大な砲身を、左手に巨大な蟹のハサミのような指を持つ、金色の湾曲した角を有した鋼鉄の巨人だ。

 ズシン、ズシンと地を踏みつけて近づいてくる巨人、マグナギガという名のそいつの肩には、大砲を掲げたカラクリの鎧の忍と、斧を持った白い忍、二足歩行の虎に似た怪物が乗っていた。銀色のカラクリじみた鎧を纏う緑の彼の砲身からは、白煙が立ち上っている。

 竜じいは、これに撃たれたのだ。シンマはすぐに理解した。

 身構えたシンマと、起き上がりかけた竜じい。

 その背後で、何者かが降り立つ気配がした。

 振り向いたシンマの目の前で、純白のマントが翻る。

 月光に照らされ、青く反射する白い鎧を纏ったくノ一が、レイピアと呼ばれる剣と盾を構えてシンマに突進した。

「ハァッ!!」

「ぐっ!?」

 シンマは咄嗟に刀でそれをはじき、刺突を回避する。

 だがくノ一は連続で刺突を放ち、避けられなかった刃がシンマの衣服を裂く。

 倒れ伏した竜じいは、それを見て怒りを募らせる。

「…お…の……れ」

 だが、起き上がった体に、再び衝撃が襲い掛かる。今度は、自身の真下からだ。

「ぐああ!!」

 とがった何かが腹に刺さり、竜じいは悲鳴を上げる。

 地面を破り、竜じいに鋭い何かを刺した元凶が現れる。見覚えのある螺旋状の尾を突き立てたのは、ベノスネーカーだった。地中を掘り進んで竜じいの火炎を回避し、不可視の一撃を放ったのだ。

 再び倒れていく竜じい。

 それを見ながら、鍔迫り合いを切り広げるシンマが叫ぶ。

「ナルトぉ!! アケビちゃんを連れて逃げろォ!!」

 くノ一の剣をはじき、シンマはナルトの方から引きはがす。

「シンマのおっちゃん!!」

 文字通り火花を散らせる先輩に叫ぶが、ナルトはその指示に従うことにする。

 顔をしかめながら、ナルトはアケビの手を引いて走り出す。

「追え!!」

 ベノスネーカーに乗る王蛇が、剣を構えて命じる。即座に答えたベノスネーカーが、牙を剥いてアケビに襲い掛かった。長く太い躰をくねらせ、瓦礫を薙ぎ倒して追っていく。

 ナルトは一度足を止め、十字の印を結ぶ。

「アケビ、逃げろってばよ!!」

「ナルト!」

 声を上げるアケビを先に促し、ナルトは再び多重影分身を繰り出す。

 ナルトの影分身は二人一組になり、一方が差し出した掌の上に、もう一方がチャクラを巻き込む動作を行う。途端に沿いチャクラの球体が出来上がり、手のひらの上で嵐のように暴れ狂う。

 螺旋丸を準備したナルトたちは、一斉にベノスネーカーに向かって跳躍する。空中でさらに螺旋丸を大きくしながら、ナルトたちは大蛇の化け物を迎え撃つ。

「大玉螺旋多連丸!!」

 迫る来る無数の青い球体に、王蛇とベノスネーカーが目を見開く。

 そして、青い閃光が炸裂し、辺りを明るく照らし出した。

 

 ナルトに背中を押されたアケビは、一心不乱に廃墟の間を駆け抜ける。荒い息をつきながら、怪物たちの手から逃れるべく走り続けていた。

 何が理由なのかは分からないが、彼らの狙いは自分であるのは明らかだ。

 圧倒的な力を有する彼らに真っ向から挑むのは自殺行為で、護られたままではナルトの足手まといになる。そう自分で判断し、アケビは必死に逃げていた。

 だがついに、アケビの足が徐々に遅くなった。走り続けた疲労が、限界に達したのだ。

 廃墟の壁に手をつき、胸に手を当てて荒い呼吸を繰り返す。

 だが、苦しげに歪められていた顔が、ハッと上げられた。

 何かがいる。背後から誰かが近づいてくる。

 アケビはバッと身体を翻し、姿勢を落として身構える。何一つ忍具は持ち合わせてはいないが、自分の身ぐらいは守らなければならない。

 廃墟の陰に潜んでいたその誰かが、ゆっくりと歩を進める。その姿が、月明かりのもとに徐々に表れていく。

 そしてアケビは、細めていた眼を見開き、顔を青ざめさせた。

 闇の中から現れたのは、己の顔。

 銀の髪をなびかせ、黒い忍装束を身にまとった自分が、曲刀を手に自分に近付いてきたのだ。氷のような冷たい目に、憎悪の炎を燃やしながら。

「もう…、逃がしはしない」

「ヒッ……!!」

 ギラリと光る、リュウガと呼ばれていた少女の目に、アケビは小さく悲鳴を上げる。

 リュウガは曲刀を構え、切っ先をアケビに向けて言い放つ。

「その肉体………よこせ!!」

 いうが早いか、リュウガは地面を踏み砕き、突進する。

 その刃を、アケビに向けて。


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