【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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3.記憶の欠片

 日が傾いでいく。

 徐々に青紫色に代わっていく夕暮れのオレンジを見上げ、サクラはため息をついた。

 気温は随分と下がって肌寒く、吐いた息が暖かい。リーリーと高く響く鈴虫の鳴き声を耳にしながら、すぐそばに横になる少女を見下ろした。

 アケビは、悪夢でも見ているのだろうか、吐く息は荒く、汗がとめどなく流れては服を濡らしている。

 不安げな顔でアケビを見下ろすサクラのそばに、シンマが近づいた。

「…どうだ? 嬢ちゃんの様子は?」

「シンマさん…、まだ、目を覚まさないんです」

 シンマはうなると、サクラの隣に腰を下ろした。

「……この子には、ちぃと刺激が強かったのかね」

「何か、関係があるんでしょうか?」

「……さぁな」

 頭の後ろで腕を組み、シンマは空を仰いだ。僅かに見える星々を見上げながらため息をつき、目を細める。

「……だが、今のこの子にこれ以上無理をさせるのは逆効果かもしんねぇ」

「そう、ですね……」

 歯切れ悪く、サクラは答える。

 シンマは胸の前で腕を組み、頭を下げてうなる。

「…何があったかは知らねぇが、気の毒だよな。殺し殺されのこの世の中、こんな娘がごろごろしてんのはわかるが……、どうにも他人の気がしなくてなァ…」

 シンマはそういって、アケビの頭を撫でる。優しさに満ちたその目と、撫でるその姿は、娘を思う父親のように見えた。

 サクラはその様子を見ながら、ふと思う。

 なぜ、アケビは倒れたのか。紋章を見て、何かを思い出していたかのように見えた。だがすぐに、それに苦しんでいるように見えた。

 アケビを苦しめる記憶とは、いったい何なのか。何が彼女を苦しめているのか。

 サクラがぼんやりとアケビを見つめていると、その場へナルトが戻ってきた。

「ただいま、サクラちゃん、シンマのおっちゃん」

「あ…ナルト」

「よう」

 疲れた表情で戻ってきたナルトは、二人の一歩手前で急に立ち止まった。その表情を一気に驚愕に染め、二人の間に割り込んだ。

「アケビ!!」

「えっ!?」

 驚いたサクラが振り向くと、悪夢に苦しんでいたアケビがいつの間にか目を覚まし、頭を押さえながら起き上がろうとしていた。ナルトが傍に寄ってそれを助け、支えてやると、アケビはナルトの目を見返した。

「ナルト……」

「大丈夫か?」

 ナルトが顔を覗き込むと、アケビは「うん、大丈夫」とはっきり答えた。

「心配したのよ? 急に倒れて…」

「気分は悪くねーか?」

 サクラとシンマが尋ねると、アケビは宥めるように微笑みを返した。

「大丈夫だよ。サクラ、シンマさん。もう頭は痛くないから」

「そ……、そう?」

 サクラはアケビの返事に、一瞬虚を突かれてどもった。

 見ればアケビの目はシャキッと開かれ、瞳の光は前より明るくなっている。不安げに縮こまっていた背筋や方も伸び、芯が通っているように見える。

 少しだけ、前より大人びたというか、歳早々になったように見えた。

 ナルトはアケビの前でしゃがみ、目を合わせた。

「なぁ……、何があったんだ?」

「……わからない」

 アケビは頭を振り、額に手を当てて俯く。

「いきなり断片的な記憶が大量に流れ込んできて、押しつぶされそうになって、そのまま気が遠くなって……、気が付いたら、ここで寝ていたから……」

「ふ〰〰ん…」

 ナルトは頭の後ろで手を組み、座りなおす。

 アケビは手を下ろすと、「でも」と唐突に口を開いた。

「あれを見た瞬間、少しだけ思い出したことがあったんだ」

「!」

「何なの!?」

 アケビの言葉に、三人はどよめく。詰め寄ったナルトたちに、アケビは頷く。

「断片的に見えただけだけど、あの黒い私と戦っていた……、写輪眼を持った青いくノ一。あの子と私は……、どこかで会ったことがある」

「なっ……」

 アケビの告白に、サクラたちは言葉を失った。

 凍り付く一同に頷き、アケビは先を続ける。

「記憶の中で私とあの子は、……戦っていた」

「…敵、だったのか?」

「分からない…。でも、あの子が泣いていたのは覚えてる」

 ナルトは天を仰ぎ、低い声でうなった。アケビもまた頭を押さえて何かを思案する。

 サクラはその横顔を見ながら、真剣な表情で口を開いた。

「……あんた、本当に何があったの? さっきと別人みたいよ?」

「え?」

 自覚がなかったのか、アケビは目を丸くした。その仕種さえも、以前のように首を傾げるといった子供っぽいものではなく、アケビの外見相応の反応に代わっていた。

 サクラの目に、不安げな色が見えた。

「…アケビ。アンタ…いったい…」

「…………」

 真剣なサクラの目を、アケビは困惑を含んだ目でじっと見つめ返す。

 静かな風が吹く、数秒が立つ。

 先に目をそらしたのは、アケビの方だった。

 一瞬で目に刃のような鋭さをたたえ、片膝を立てて身構えた。

 様子の変わったアケビに、サクラの警戒心が高まった。

「…どうしたのよ」

「…………」

 サクラには答えず、アケビは地面に手を当てて目を閉じる。そして石造のようにじっと、微塵も動かずに、何かを探るように佇む。

「……?」

 ナルトが首を傾げながら待っていると、耳を澄ましていたアケビが、突如目を見開いた。蒼の瞳が、爛々と輝いたと思うと、一言呟いた。

「…来る」

 その瞬間、どんっと大きな衝撃が地面に走り、揺れた。

「!」

 ほぼ同時に、遠くから腹の底まで轟くような爆音が鳴り響いた。

 ナルトたちは異変に身構え、辺りを見渡した。真剣な表情で、苦無や刀、剣を手に周囲に警戒を巡らせる。

 地響きは、まるで地中で何かが蠢いているかのように移動し、地上のナルトたちをグラグラと揺らす。

 そして次の瞬間、巨大な、長い紫の物体が、地を割りながら姿を現した。

「クワァァァ!!」

 長い二本の牙を掲げ、紫の鋼鉄の大蛇―――ベノスネーカーが、長い尾をしならせて、ナルトたちに襲い掛かった。


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