【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『やっぱりこの想いだけは、
 朽ちてくれないんだよ…』

               ―――綱手


6.鏡の国

「……これは、予想以上でしたね」

 火影室の綱手の前で、カカシは思わず呟いた。

 異変を感じ、シンマ達と戻ってみれば、里はかつてのペイン強襲を思わせるほどの壊滅を受けていたとは。忍、民間人共に負傷者は6割を超え、家屋も5割以上が倒壊。死者が出なかったのは幸いだが、受けた傷痕ははるかに深い。

 何よりカカシに効いたのは、カカシが戻った時、敵は既に退き、全てが終わっていたということだ。

 つまり、敵が侵入して何らかの目的を果たすまで、少ししか時間が経っていないということになる。そんな短時間で、愛すべき里をめちゃくちゃにされた。仲間を傷つけられた。

 自分が傷つくよりも、ずっと痛い。

「お前が戻るよりも早く、向こうの決着がつくとはな。……目的も正体も掴めなかった。我々の完全敗北だ。あのコオロギ鎧で油断していたが、ここまで強敵だったとはな……」

「…こ、コオロギ?」

 ナルトとアケビの戦いの詳細を知らないカカシは、綱手の愚痴を困惑しながら聞き流す。

 綱手が深くため息をつくと、カカシは書類に目を通す。

「表で暴れていた怪物……呼称『シザース』『王蛇』『ライア』『ガイ』…そして、『ナイト』と『リュウガ』。報告を見る限り、シザース他三名と四体の怪物は、単に暴れて破壊を繰り返していただけ。ナイトとリュウガは、互いに戦闘を繰り広げた。……もっとも不可解なのが、このリュウガと実際に呼ばれた、黒い少女」

 カカシは報告書を手に、目を細める。

「……アケビと瓜二つの、くノ一」

「ああ。奴は何故か執拗にアケビを狙い、そして自身もナイトに狙われていた……」

「……もう、無関係とは言えませんねぇ…」

 眉尻を下げ、困り顔でカカシは答える。

 そして、ふと思い出したように表情を改めた。

「……そう言えば、綱手様。報告によると、書物庫に侵入された形跡があるとか……?」

 カカシが尋ねると、綱手は「…ああ」と不機嫌そうに答えた。机の上に肘をつき、苦い顔でカカシを見やる。

「……それを踏まえて、お前とシンマ、レンヤ、第七班に新たな任務を言い渡す」

「え?」

「書物庫を調べた結果、いくつかの巻物が奪われていることが分かった」

 綱手はそう言うと、カカシの前に奪われた巻物のファイルを見せた。

「半分はなんという事のない、伝承や伝説を記したものだったが…、もう半分の書物で、調べるべきところを特定できた」

「……伝承とは?」

「今回とどう関係するのかは知らんが、海の向こうの大陸に伝わる、怪異に関する書典だそうだ。まぁ、おいおい調べるとしよう」

「はぁ……」

 気の抜けた返事をするカカシを見つめ、綱手は再び口を開く。

「本題に入ろう。盗まれた書物には、ある国についての記録が残されていた。今回の任務は、その国の跡地に赴き、何らかの手掛かりを持ち帰ることだ」

「? ……跡地……ですか? そこは一体……?」

「…………」

 綱手は目を瞑り、険しい表情で一旦口を閉じる。

「……かつて、時空間忍術を極め、とくに高度な口寄せ忍術を開発し、他里、他国から一目置かれていた小国。そして、第二次忍界大戦において、敵国連合から総攻撃を受けて滅亡した、古の技術を封ずる国…」

 重い口を開き、綱手はその名を口にする。

「失われた都、鏡の国だ」

 

 

 深く、暗い闇の中。

 僅かな光に照らされて、水晶のような仄かな輝きを反射する岩肌。天然の鍾乳洞の空間を利用した部屋の中心に、その男はいた。

 黒い外套を纏い、玉座に尊大に座る端正な顔立ちの美丈夫は、口元に笑みを浮かべながら目の前の忍達を見下ろした。

「ご苦労だったな、お前ら。まさかこれほど早く事が進むとは……」

 男は手の上の巻物をいじり、クツクツと喉の奥から笑い声を漏らす。

 忍たちは男の前で膝をつきながら、全くの無表情で首を垂れる。ただ一人、王蛇と名乗っていた紫色の忍装束の者だけが、苦虫を噛み潰したような顔で黙っていた。

「これで俺の計画が一歩進む……」

 男は巻物をしまい、忍達に手を振る。

「もういいぞ、下がれ」

 あまりにも、不遜な態度。にもかかわらず、忍たちは文句ひとつ言わず、男の前から一人、また一人と立ち上がってっ去っていく。最後に残った王蛇のみが、鋭い目で男を睨みつけていた。

「…………」

「…ん? どうした、早く行け」

 傍若無人な主に、王蛇は「チッ…」と舌打ちすると、荒々しく足を踏み鳴らしてすぐに去っていった。

 男は小馬鹿にするように笑う。

「…もう少し従順になるよう、体に教え込むべきか。…いや、それはいつでもいいか」

 男は玉座に背を預けると、葉巻に火をつけて咥える。口から煙を吐き、中を見上げてからさらに笑みを深める。美丈夫に似合わない、醜悪な笑みだった。

「……ナイト共々、あの小生意気な顔を完全に服従させてやるのも一興だな」

 小さな明かりの中、男の笑い声だけが響いていた。

 

 所変わって、外の満天の星の下。

 ナイトと呼ばれる少女は、風に髪を揺らしながらぼんやりとしていた。

 思い出すのは、今日の戦闘。

 任務は失敗したが、思わぬ収穫もあった。

 金髪碧眼の少年と少女。…もう逢わないだろうと思っていた、あの二人。

「……次こそは、必ず」

 ナイトは決意とともに、小さく呟いたのだった。


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