【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
朽ちてくれないんだよ…』
―――綱手
「……これは、予想以上でしたね」
火影室の綱手の前で、カカシは思わず呟いた。
異変を感じ、シンマ達と戻ってみれば、里はかつてのペイン強襲を思わせるほどの壊滅を受けていたとは。忍、民間人共に負傷者は6割を超え、家屋も5割以上が倒壊。死者が出なかったのは幸いだが、受けた傷痕ははるかに深い。
何よりカカシに効いたのは、カカシが戻った時、敵は既に退き、全てが終わっていたということだ。
つまり、敵が侵入して何らかの目的を果たすまで、少ししか時間が経っていないということになる。そんな短時間で、愛すべき里をめちゃくちゃにされた。仲間を傷つけられた。
自分が傷つくよりも、ずっと痛い。
「お前が戻るよりも早く、向こうの決着がつくとはな。……目的も正体も掴めなかった。我々の完全敗北だ。あのコオロギ鎧で油断していたが、ここまで強敵だったとはな……」
「…こ、コオロギ?」
ナルトとアケビの戦いの詳細を知らないカカシは、綱手の愚痴を困惑しながら聞き流す。
綱手が深くため息をつくと、カカシは書類に目を通す。
「表で暴れていた怪物……呼称『シザース』『王蛇』『ライア』『ガイ』…そして、『ナイト』と『リュウガ』。報告を見る限り、シザース他三名と四体の怪物は、単に暴れて破壊を繰り返していただけ。ナイトとリュウガは、互いに戦闘を繰り広げた。……もっとも不可解なのが、このリュウガと実際に呼ばれた、黒い少女」
カカシは報告書を手に、目を細める。
「……アケビと瓜二つの、くノ一」
「ああ。奴は何故か執拗にアケビを狙い、そして自身もナイトに狙われていた……」
「……もう、無関係とは言えませんねぇ…」
眉尻を下げ、困り顔でカカシは答える。
そして、ふと思い出したように表情を改めた。
「……そう言えば、綱手様。報告によると、書物庫に侵入された形跡があるとか……?」
カカシが尋ねると、綱手は「…ああ」と不機嫌そうに答えた。机の上に肘をつき、苦い顔でカカシを見やる。
「……それを踏まえて、お前とシンマ、レンヤ、第七班に新たな任務を言い渡す」
「え?」
「書物庫を調べた結果、いくつかの巻物が奪われていることが分かった」
綱手はそう言うと、カカシの前に奪われた巻物のファイルを見せた。
「半分はなんという事のない、伝承や伝説を記したものだったが…、もう半分の書物で、調べるべきところを特定できた」
「……伝承とは?」
「今回とどう関係するのかは知らんが、海の向こうの大陸に伝わる、怪異に関する書典だそうだ。まぁ、おいおい調べるとしよう」
「はぁ……」
気の抜けた返事をするカカシを見つめ、綱手は再び口を開く。
「本題に入ろう。盗まれた書物には、ある国についての記録が残されていた。今回の任務は、その国の跡地に赴き、何らかの手掛かりを持ち帰ることだ」
「? ……跡地……ですか? そこは一体……?」
「…………」
綱手は目を瞑り、険しい表情で一旦口を閉じる。
「……かつて、時空間忍術を極め、とくに高度な口寄せ忍術を開発し、他里、他国から一目置かれていた小国。そして、第二次忍界大戦において、敵国連合から総攻撃を受けて滅亡した、古の技術を封ずる国…」
重い口を開き、綱手はその名を口にする。
「失われた都、鏡の国だ」
深く、暗い闇の中。
僅かな光に照らされて、水晶のような仄かな輝きを反射する岩肌。天然の鍾乳洞の空間を利用した部屋の中心に、その男はいた。
黒い外套を纏い、玉座に尊大に座る端正な顔立ちの美丈夫は、口元に笑みを浮かべながら目の前の忍達を見下ろした。
「ご苦労だったな、お前ら。まさかこれほど早く事が進むとは……」
男は手の上の巻物をいじり、クツクツと喉の奥から笑い声を漏らす。
忍たちは男の前で膝をつきながら、全くの無表情で首を垂れる。ただ一人、王蛇と名乗っていた紫色の忍装束の者だけが、苦虫を噛み潰したような顔で黙っていた。
「これで俺の計画が一歩進む……」
男は巻物をしまい、忍達に手を振る。
「もういいぞ、下がれ」
あまりにも、不遜な態度。にもかかわらず、忍たちは文句ひとつ言わず、男の前から一人、また一人と立ち上がってっ去っていく。最後に残った王蛇のみが、鋭い目で男を睨みつけていた。
「…………」
「…ん? どうした、早く行け」
傍若無人な主に、王蛇は「チッ…」と舌打ちすると、荒々しく足を踏み鳴らしてすぐに去っていった。
男は小馬鹿にするように笑う。
「…もう少し従順になるよう、体に教え込むべきか。…いや、それはいつでもいいか」
男は玉座に背を預けると、葉巻に火をつけて咥える。口から煙を吐き、中を見上げてからさらに笑みを深める。美丈夫に似合わない、醜悪な笑みだった。
「……ナイト共々、あの小生意気な顔を完全に服従させてやるのも一興だな」
小さな明かりの中、男の笑い声だけが響いていた。
所変わって、外の満天の星の下。
ナイトと呼ばれる少女は、風に髪を揺らしながらぼんやりとしていた。
思い出すのは、今日の戦闘。
任務は失敗したが、思わぬ収穫もあった。
金髪碧眼の少年と少女。…もう逢わないだろうと思っていた、あの二人。
「……次こそは、必ず」
ナイトは決意とともに、小さく呟いたのだった。