【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『俺は、1度全てを失った…
 もう俺の目の前で…大切な仲間が死ぬのは、見たくない…』

               ―――うちはサスケ


5.蒼ノ剣

 ジャキン、と剣が音を立てて、白銀の煌きを見せつける。

 藍色の鎧を纏うくノ一は、刃を構えながら片手で印を結ぶ。

「風遁・花鳥風月(かちょうふうげつ)

 藍色のくノ一は刃を振るい、少女に向かってチャクラを練りこんだ風の刃を放った。

 唸りをあげながら迫る刃を、少女とその至近距離にいたナルトはとっさの判断で左右別々に飛び退いた。ナルトは地面を転がり、手裏剣を構えてくノ一を睨みつける。

 だが、藍色のくノ一が標的にとらえていたのは、少女だけだった。

 くノ一は少女を鋭く睨みつけ、剣で斬りかかった。

「!」

 少女はくノ一の剣を受け止め、力技で押し返す。火花を散らしながら、金属同士が甲高い音を辺りに響かせた。

「チッ……」

 少女は舌打ちしながら、自らくノ一に斬りかかる。

 くノ一は何度も振るわれる少女の斬撃を、無駄のない流麗な動きで躱し、いなしていく。一度隙をつけば、細い刃が少女の頬を薄皮一枚かする。

 くノ一の剣技に、始めは猛烈だった少女の勢いが衰え、押され始める。

「―――!! 火遁・豪火球の術!!」

 少女はくノ一の剣を受け、片手で印を結び、手で筒を形作る。そして、口から至近距離で火球を放った。

 ボウン!! と顔面に火球の爆発を受け、くノ一も流石に後ずさる。

 少女は大きく跳躍して離れ、くノ一に向かって剣を構える。

 案の定、傷一つない鉄仮面を被ったくノ一の姿が煙の中から現れ、少女は小さく舌打ちする。実力の差は、分かっていた。

 くノ一は鉄仮面を頭にずらし、漆黒の瞳を向ける。

「……存外、耐えるな」

「くっ!」

 少女は歯を食いしばり、視線を鋭くする。

 くノ一は目を細め、前髪をかきあげて目を閉じた。

「…すまんが、これ以上付き合っている時間はない―――終いにしようか」

 そう言ったくノ一の両目は、血のように深紅に染まり、黒い三つの巴模様が映っていた。

「!」

「しゃ…写輪眼!?」

 戦いを傍観していたナルト達は、その〝眼〟の存在に目を瞠る。

 写輪眼は、「うちは」の一族にのみ現れる特殊体質。あらゆる忍術・幻術・体術の全てを読み解き、コピーするという三大魔眼の一つである。故に使いこなすものは最強と呼ばれ、木ノ葉の里においても強い地位を有した。

 だが、そんな一族も、もう二人しかいない。

 里を抜けたうちはサスケと、世界に宣戦布告したうちはマダラ。この二人を除いて、もう写輪眼を有する者はいない。木ノ葉にクーデターを起こすことを画策したことを事前に察知した上層部と、自ら裏切り者の汚名を被ったうちはイタチにより、粛清され、この世から姿を消した、筈だった。

「なんでっ……!!」

 サクラの声にも応えず、くノ一は剣を携えて少女に歩み寄る。

「…………!!」

 少女はくノ一が近づくたびに後ずさり、冷や汗を流す。

 その時、ふいにその目が、一人の少女を映した。少女は方向を急転換し、全速力で駆け出した。

 アケビに向かって。

「貴様の体を寄越せぇぇ―――!!」

「……しまっ…」

「!!」

 突然の展開で、サクラと木ノ葉丸は咄嗟の反応ができなかった。くノ一も予想外だったのか、はたまた別の理由か、明らかに狼狽しながら、剣を振り上げて駆け出していた。だが、そんな三人よりも少女の刃が届く方が速い。

 目を見開いて硬直するアケビに、鋭く尖った刃が刺さりかけた、その瞬間。

「ウオラァァァ!!」

 風よりも速い、オレンジの閃光が、アケビに迫る少女を蹴り飛ばした。

「!?」

 少女は目を見開きながら、剣を手放して地面を転がった。

「くっ…」

 少女はフラつきながら起き上がり、頭を押さえながらナルトを睨みつける。しかし何が目的か、それでも執拗にアケビを狙い、向き直る。

 だが、その喉元に細い剣の切っ先が突き付けられた。

「ッ!」

 少女は表情を強張らせ、凍りついた。一歩でも動けば、鋭い刃が喉を斬り裂く。

 くノ一の顔は、もう目と鼻の先だ。

「抵抗するな。大人しくすれば、必要以上に傷つけはしない」

 そういうくノ一の瞳の巴模様が、六弁の花のような手裏剣の模様に変化する。

 特殊な条件下で発現する進化した写輪眼、万華鏡写輪眼だ。

 それに気づいた少女は、慌てて目をそらす。

 目だけを動かすと、偶然くノ一がアケビを背に庇うような位置に立っていた。

「…………!!」

 少女の顔が、怒りに歪む。ギリギリと歯を食いしばり、アケビを睨む。

「……こんな、ところで……!!」

「残念だったな」

 くノ一の言葉が、冷たく突き刺さる。

 ナルトは険しい表情で、二人の戦況を見守る。と、その時、ナルトの足もとに落ちていた少女の剣が、ズリズリと動いているのに気付いた。

「!」

 そして、その剣からチャクラの糸が伸び、少女の手と繋がっているのに気付き、理解した。

 その瞬間、少女はニヤリと笑った。

「!?」

 驚愕の表情を浮かべるくノ一の前で、少女は指をクイ、と引いた。チャクラ糸で繋がれた剣が、宙に飛び上がって回転しながら、くノ一に向かって飛来する。

「くっ!」

 くノ一は咄嗟に剣で払い、後方に跳び退る。

 少女もまた弾かれた剣を受け止め、くノ一と距離を取って対峙する。

「…………」

「…………」

 双方は互いに睨みあい、剣を携えてじりじりとにじり寄る。

 そして、ほぼ同時に駆け出し、刀を振り上げる。少女は湾刀を横薙ぎに、くノ一は細剣を刺突の構えで構え、風を切りながら走る。

 しかし、ぶつかり合うその寸前。

「肉弾戦車ぁ!!」

 毛の生えた、赤い大きな玉が、少女とくノ一に向かって転がってきたのだ。

「!?」

 ギョッとなる二人は、急ブレーキをかけて慌てて飛び退る。

 チョウジの肉弾戦車の勢いは止まらず、建物に突っ込んでようやく止まった。

 少女とくノ一は地面を滑りながら、手を地についてチョウジを睨みつける。だが、足元に向かって黒い影が伸びてくることに気付き、慌てて跳躍して回避した。

 自身の影真似の術が失敗し、シカマルは小さく舌打ちした。

「チッ、外したか」

 拘束に失敗し、顔をしかめるシカマルは、跳び上がって少女の背後に降り立った。睨む少女に、小馬鹿にするような笑みを見せる。

 一方くノ一の背後にも、サクラ達を庇うようにいのが降り立った。

「サクラ、大丈夫!?」

「いの!」

 その時、建物に突っ込んでいたチョウジも立ち上がった。シカマル、いの、チョウジの三人で、ナルトやサクラ達を庇って立つ。三角形を描きながら、少女とくノ一を取り囲むフォーメーションを取る。

「さーて」

「もう」

「逃がさねーぜ」

 息の合ったテンポで、猪鹿蝶トリオは二人の侵入者を鋭く睨む。

 少女とくノ一は悔しそうに三人を睨み、剣の柄を握りしめる。

 捕獲のために、シカマルが再び影真似の術を準備した。その時、少女が突如、身を翻して建物に向かって走り出した。

「逃がすか!!」

 シカマルが影を操り、少女を捕えにかかる。建物の上に跳ぼうとも、空中にいようとも、影さえあれば捕まえられる。その後は、チョウジの倍化の術か、いのの心転身の術で終了だ。

 だが、シカマルの予想は裏切られ、少女は跳躍せずに全速力で建物に向かっていく。正確には、その割れたガラスの面に向かって。

 そして少女は、ガラスの表面に入り込んでしまった。

「!?」

 驚愕に目を見開く一同を余所に、鏡の中に入った少女。一度アケビを一瞥すると、脇目もふらずに駆け出していった。

「…どうなってんだ」

 開いた口が塞がらないナルトは、目の前で取り囲まれながら剣を下ろしたくノ一の姿に気付いた。

「……撤退、だな」

 くノ一はそう呟き、剣を咥えて両手で印を結ぶ。

「風遁・速駈(はやがけ)

 くノ一は剣を咥えたまま、ぐるんとその場で一回転する。一陣の旋風が巻き起こり、くノ一の体を包み込むと、一瞬にしてその姿が掻き消えた。

「! しまった……」

 シカマルは歯を食いしばり、ダンッと拳を地面に叩き付けた。

 

 くノ一の撤退を皮切りに、木ノ葉の里を襲っていた怪物たちも退き始めた。現れた時と同じように、唐突な破壊活動をやめ、鏡の中に潜り始めたのだ。

 その中には、鎧の忍達の姿もあった。

 ボゥン、ボゥンと煙を上げ、犀やエイ、毒蛇の怪物たちが消えていく。

 王蛇はフードの下で歯を食いしばりながら、キバ達の前から走り出した。

「待ちやがれ、テメー!!」

 キバが追って駆け出す。その間に、王蛇はさっさと手頃にあった鏡面の中に入って行ってしまい、勢いを止められなかったキバは、そのまま鏡と激突した。

「でっ!!」

「キバくん! 大丈夫!?」

 ヒナタとシノが駆け寄る中、周辺にいた怪物達は尽く姿を消していた。

 

 犀の怪物(メタルゲラス)と凱も、ガイとリーの前で両手を広げると、やれやれといった風に首を振って肩をすくめた。

「……残念。もう少し楽しみたかったのだがな……」

 犀の怪物の後に続き、凱も鏡の中に片足を入れながら言う。

「…また会おう」

「オオ!!」

「望むところです!!」

「いや、趣旨変わっちゃってるよ!!」

「いったい何をしてるんだ……」

 鏡の向こうに消えていく凱に、ガッツポーズを返すガイとリーに、ネジとテンテンは即座に突っ込んだ。

 

 数刻もせず、木の葉は静寂に包まれた。痛々しい傷痕を残しながら、里はただただ静かだった。

「……一体、なんだったんだってばよ」

 思わず漏れる、ナルトの言葉。

 そんな中アケビは、震える我が身を抱きながら、不安げな表情を浮かべていた。


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