【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『今度は、私の後ろ姿を―――…、
 しっかり見ててください』

               ―――春野サクラ


4.黒い写し身

 蒼の炎が爆ぜる。普通の火を遥かに超える高熱が、アケビ達に襲い掛かった。

 辺りを青く染める竜の牙が、アケビに喰らいつかんと咢を開く。

 だが、その寸前、アケビの前へ桜色の髪の少女が立ちはだかった。

「しゃ―んなろォォォ!!」

 雄叫びとともに、サクラは金剛の拳を大地に穿った。

 衝撃が地中に駆け巡り、岩盤がごっそり捲れて起き上り、サクラ達の盾になって炎を受ける。熱が大気を伝わり、衝撃が爆風となって髪をなぶる。

 三人は顔を覆い、衝撃に耐える。

 唐突に炎が止み、上空から少女が岩を跳び越えて襲い掛かった。

SWORD VENT(ソード・ベント)

 少女は黒い湾刀を召喚し、頭上から振り下ろす。

 しかしその時、湾刀とサクラの間に木ノ葉丸が入り、苦無で湾刀を受け止めた。火花が散って弾き飛ばされるも、剣の軌道をそらし、サクラを守ることに成功した。

 木ノ葉丸は焦げた草の上を転がり、苦無を持ち直して立ち上がる。

「りゃっ!!」

 木の葉丸は苦無を投擲し、少女を狙う。

 少女はそれに横目だけを向け、籠手に新たなカードを挿入する。

GUARD VENT(ガード・ベント)

 少女の右肩に、竜の腕の付いた盾が装着され、苦無はキンッと音を立てて弾かれた。

「……っ、邪魔を……」

 少女は怒りの形相で、湾刀の柄を握りしめる。途端に、その刀身に青い炎が纏われた。

「するな!!」

 少女は吠えると同時に、炎が包む湾刀をサクラ達に向かって振るった。炎が波となって、容赦なくサクラ達に襲い掛かる。

 成す術無く、目を瞑って覚悟するサクラ達。

 だが、その時。

「螺旋丸!!」

 青いチャクラの衝撃が、少女の炎を打ち破った。

「……!!」

 少女は目を見開き、乱入した金髪の青年を凝視した。

 ナルトはサクラ達を庇うように前に出て、仁王立ちする。その後ろで、サクラ達はナルトの影分身に支えられていた。

「大丈夫か、サクラちゃん! 木ノ葉丸、アケビ!」

「ナルト!」

 ナルトはサクラの声に安心すると、キッと少女を鋭く睨みつけた。

 少女もまた、炎の揺れる赤い瞳を、少しも揺らがせずにナルトに向けていた。

「…お前、何者だってばよ」

「…………」

 少女は何も言わず、ナルトの碧眼を見つめ続ける。その目に一瞬だけ陰が入り、憤怒ではない、別の感情が僅かに覗いた。

「ぐっ……!」

 と、突然少女は頭を押さえ、苦しげに表情を歪めると、数歩後ずさった。

「……ん?」

 訝しげな顔をするナルトの前で、少女は歯を食いしばり、頭を押さえて呻き声をあげる。目だけはナルトに釘付けにしたまま、獣じみた声を漏らし続けていた。

「……うず、まき……ナルト……」

 震える声で少女は呟くと、湾刀を口に咥えて腰に手をやる。ベルトのバックルからカードを引き抜くと、左腕の籠手に差し込んで右手のひらを地面に叩き付ける。

ADVENT(アドベント)

「口寄せの術!!」

 ボフン、と煙が巻きあがり、少女を覆い隠す。そして煙の中から、黒く長い、鋼の尾が伸びる。鋼鉄の蛇の肢体と、トカゲの四肢が蠢き、ガチャガチャと金属音が甲高く鳴り響く。

 黒龍だ。

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 巨大な咢を極限にまで開き、ズラリと並ぶ牙を見せると、黒龍はナルトに向かって吠えた。

 ビリビリと震える大気の中、ナルトは気圧されながらも踏ん張る。ここで退くわけにはいかない。自分の後ろには、仲間の命がかかっているのだ。

「うずまきナルト……」

 龍の頭の上に乗りながら、少女は鋭い目を向ける。

 右腕に竜の首、左手に湾刀、両肩に盾を装備し、マフラーをたなびかせながら、少女は龍の頭の上で身構える。

「お前に用は無い!! どいてくれ!!」

「ゴアアアアア!!」

 少女が叫ぶのと同時に、龍が咆哮とともにナルトに喰らいかかった。

「!」

 ナルトは咄嗟に、後ろにいた木ノ葉丸のマフラーを掴み、サクラの方に投げ飛ばす。

 サクラとアケビが同時に動き、木ノ葉丸を受け止めて後退する。それと同時に、黒龍は大きく口を開き、ナルトに喰らいついた。

「ぐっ!!」

 ナルトは瞬時に苦無を両手に持ち、黒龍の両顎の牙を受け止める。

 ガキンッ

 火花が散り、上下から強力な力がかけられる。万力のような重量で押し潰されそうになりながら、ナルトは黒龍を受け止める。

 だが、少しの拮抗の後、黒龍はナルトの抵抗を破り、食いついたまま宙を飛んだ。

「うぉわっ!!」

「ナルトぉ!!」

 ナルトの声と、アケビの悲鳴じみた声が重なる。

 黒龍はナルトを咥えたまま宙へ舞い上がり、徐々に噛む力を強めていく。ナルトの持つ苦無がギシギシと嫌な音を立て、ナルトの腕にも限界が近づいていく。

「ぐっ……うおりゃああああ!!」

 ナルトは渾身の力で黒龍の顎を開き、空中で横っ面を蹴り飛ばす。

「グオオ!!」

「チッ…」

 よろめく黒龍、その背で舌打ちする少女。体勢を立て直そうと湾刀を構える。

 と、その時、少女の持つ湾刀に、鉄線付きの手裏剣が飛び、巻きついた。

「!!」

 鉄線の先を辿ると、手裏剣を放ったのは、落ちかけていたナルトだった。

「どりゃあ!!」

 ナルトは鉄線を引き、自分を重力に任せて落下させる。

 鉄線で繋がれた少女は目を見開くも、急にかけられた力に耐えられず、黒龍の上から投げ出された。

「うっ…あっ!!」

 少女は宙に投げ出されながら、湾刀に巻きついた鉄線を斬る。そこへすかさず黒龍が舞い、少女を背にのせて旋回した。

 

 その真下では、キバ達第八班が王蛇と毒蛇(ベノスネーカー)を相手に戦闘を繰り広げていた。

SWORD VENT(ソード・ベント)

 王蛇は螺旋状の刃を持つ剣を召喚し、杖と共に構えて、キバと赤丸に斬りかかる。

「ッシャアアア!!」

「うぉっ!?」

「ガルルル!!」

 キバと赤丸が斬撃を躱すと、王蛇の剣からどす黒い液体が飛び散った。

 液体が辺りの地面や壁にかかると、ジュウッという音とともに煙が上がり、溶け始めた。

「!? 酸か!」

 落ち着く暇もなく、今度はベノスネーカーが牙を剥いて襲い掛かる。

 キバは垂直に高く跳び、地面を抉る威力のベノスネーカーの攻撃を避ける。だが、宙に舞った直後、ベノスネーカーの巨大な尾が風切り音と共に近づいた。

「げっ!?」

 顔を引きつらせるキバ。成す術無く叩きつけられそうになったその時、赤丸がキバの襟首を加え、瞬時に離脱する。

 その隙に、シノが蟲達を操り、毒蛇の目に纏わりつかせる。

「シャアアアア!!」

 ベノスネーカーは視界を奪われてのた打ち回り、尾を振り回して辺りに叩き付け始める。鋼鉄の紫の尾が壁や地面、家屋を粉砕し、瓦礫を辺りに撒き散らした。

 キバ達は慌てて飛んでくる瓦礫を躱し、新たに苦無を取り出す。

 だがその最中、ヒナタの足に瓦礫の一部が当たり、彼女は大きくバランスを崩した。

「キャッ……」

 ヒナタは碌な受け身もとれず、盛大に転んでしまった。

「! ヒナタ!」

 顔をしかめるヒナタ。その前に、王蛇が剣を手に立ちはだかった。

「あ……」

 目前に掲げられた鋼を目にし、ヒナタは凍りついた。

 倒れ伏すヒナタを見下ろす、王蛇の氷のような目に、ヒナタは完全に硬直した。

「ヒナタぁ!!」

 キバが叫ぶも、非情にも王蛇の剣は、ヒナタに向かって振り下ろされる。

 覚悟し、目を瞑ったヒナタだったが。

「ウオラァァァ!!」

 突如、男の掛け声とともに王蛇の体が吹っ飛ばされた。

 王蛇はフードの下で目を見開きながら、建物の壁に激突し、中へと突っ込んだ。

 ヒナタは目を見開き、自身を救った金髪の青年を凝視した。

「大丈夫か、ヒナタ!!」

 ナルトはヒナタの方に振り向き、案じる目を向けた。

「な…、ナルト君……」

 ヒナタは思わず、緊急事態にもかかわらず、頬を赤らめて見とれた。

 ナルトはヒナタに近づくと、強引にその手を取る。ヒナタは驚くも、頬をさらに赤くしてちょっと嬉しそうに顔をほころばせる。

 が。

「…先に謝っとくわ。ヒナタ、ゴメン!」

「え?」

 ナルトが言うが早いか、上空から青い炎が膨れ上がった。

 ナルトはヒナタを抱き寄せ、即座にその場から離脱する。その直後、青い炎を吐き散らす黒龍が、ナルト達がいた場所に喰らいついた。

「ナルト!」

「キバ、ヒナタを頼むってばよ!!」

 ナルトはキバとシノの前に降り立つと、ぐったりしたヒナタを託し、再び黒龍に立ち向かっていった。

 キバはヒナタを抱え、安否を気遣う。

「ヒナタ、大丈夫か!?」

「…………」

 鬼気迫る勢いで心配するキバを余所に、ヒナタは顔を真っ赤にして、幸せそうに気絶していた。「はぇえ……」という情けない声まで聞こえてきた。

「…大丈夫だ。なぜなら、平常運転だからだ」

「…………」

 呆れ果てた顔になったキバは、激しい爆音を聞いて我に返る。

 建物の屋根を伝い、ナルトは駆ける。

 それを追い、少女と黒龍は空を舞う。そして、黒龍は青い火球を吐き、少女は龍の首から火炎放射を放つ。蒼炎はナルトを追い、建物の壁や屋根に炸裂して、閃光と熱と轟音を響かせた。

 ナルトは歯を食いしばり、少女の猛攻を躱し続ける。

 ドカン、ドカンと幾つも青い爆発が起き、一瞬でナルトは炎に包みこまれた。

 だが、突如炎の中から数枚の手裏剣が飛来し、少女に向かった。少女はそれらを湾刀で弾き、叩き落とす。

 そこを、上空からナルトが急襲した。目を見開く少女を、黒龍の背の上から蹴り飛ばし、ナルトは掌の上でチャクラを練り上げる。

 少女は地面に難なく着地し、バックルからカードを抜き出して籠手に装着する。

STRIKE VENT(ストライク・ベント)

 右手の竜の口から青い炎が漏れ、中で白熱していく。

「火遁……!!」

 腰を低く落とし、最大火力の火遁忍術を放つ構えを取る。

 ナルトの方も、空中でチャクラの球体を練り上げていく。青いチャクラが嵐のように荒れ狂ったまま、完全な球体を保った、ナルトの必殺の一撃。

「業火絢爛!!」

「大玉螺旋丸!!」

 荒れ狂う黒龍の息吹と、暴れ回る風の弾丸が、対峙する。

 ナルトと少女が、今まさに激突せんとする。

 その時だった。

 

「―――風遁・胡蝶乱舞」

 

 凶悪な風の力が、ナルトと少女を一度に纏めて吹き飛ばした。

「のわっ!?」

「ぐああ!!」

 互いの技を横からかき消され、二人は同じ方向に飛ばされる。

 すぐにナルトは起き上がり、攻撃の主を探した。

「なんだ!? 誰だってばよ!?」

「……!!」

 辺りを見渡すナルト。その横で少女は、何かを感じて身構えた。

 その二人に、ある声が届く。

「……やはり、ここに戻ってきたか」

 凛とした、ハスキーな声。

 声のした頭上を見上げると、残った電柱の上に一人の少女がいた。

 藍色の忍装束に、銀の鎧を纏ったくノ一。その姿に、キバは目を見開いた。

「アイツ……!!」

 その姿は、以前里の領内に侵入し、戦闘を繰り広げた者だった。

 何故ここに、という疑問よりも先に、キバはその下にいる少女の様子に目を奪われた。

 少女は震えていた。

 表情は引きつり、目は限界まで開かれ、藍色のくノ一に固定されていた。怯えているように、キバには見えた。

 そんな少女を藍色のくノ一は静かに見下ろす。そして、その隣にいるナルトの方を見やった。

「……うずまきナルト。先に接触されていたか……。誤算だったな」

 呟きながら、藍色のくノ一は腰につるされた剣の柄に手をかける。

リュウガ(・・・・)……、いや、もはやこの名に意味はないか……」

 スラリと刃を抜き、藍色のくノ一はその切っ先を少女に向けた。氷よりも、極寒の空よりも冷たい、深紅の瞳とともに。

 そして少女は宙へ舞う。震える少女を標的に、刃を煌かせて。

「仕方がない。拘束して連れて行かせてもらう」


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