【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『自分の忍道を、
 つらぬき守り通すとき!!』

               ―――ロック・リー


3.鋼の獣

 ―――キィィィィィン!!

 耳障りな甲高い音が、里中の鏡という鏡から聞こえてくる。音は共鳴し、やがて大きな一つになって、人々に恐怖を刻み込んでいく。

 そして、やがて〝奴ら〟は現れた。

 様々な形状の動物を模した鎧を纏った異形たちが、ギチギチと鋼をこすれあう音を鳴らしながら、ずるりと平面の中から抜け出してきたのだ。

 まるで水中から現れたかのように、怪物たちはその姿を現し、

 そして、吠えた。

「シャアアアアアアアアアアア!!」

「ウォオオオオオオ!!」

 蜘蛛の下半身に、人間の上半身が生えた化け物。猪の顔が付いた異形。イモリやヤモリを無理矢理二足歩行にしたような怪異。

 それらが一斉に、木の葉の里の人々に襲い掛かった。

「ウワァァァ!!」

「化け物だァ!!」

 里は一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄と化した。人々は我先にと逃げ惑い、悲鳴と絶叫が辺りに響き渡る。破壊音と叫び声が、奇妙に重なりあった。

 怪物たちはその音に歓喜し、唸り声とともに爪を、牙を、刃を振り上げた。

 混乱の中、一人の少女が足を取られて転んだ。母親らしき女性が助け起こすも、そのすぐ近くに螺旋状の角を持つ、シカのような怪物が迫った。鋭い爪を振り上げる怪物を前に、母親は娘を抱えた身を固くする。

 だが、それを止める碧き猛獣の姿があった。

「木ノ葉剛力旋風!!」

 ガイとリーの連携技が、旋風を巻き上げて、母娘に襲い掛かろうとしていた怪物の一体に炸裂した。

 ズシン!! と音を立てて倒れた怪物を前に、二人の猛獣はポーズを決める。

「この青き野獣と猛獣がいる限り!!」

「里で勝手はさせません!!」

 台詞を決め、二人の獣は猛然と怪物たちに立ち向かう。

八卦空衝(はっけくうしょう)!!」

 ネジが白眼を発動し、怪物に遠距離からの掌底を放つ。

 背後から襲いかかってきた怪物に即座に反応し、チャクラを全身から放ちながら回転を始める。ネジの奥義、回天の構えだ。

「八卦衝回天!!」

 チャクラの渦が竜巻のようになり、怪物達を吹き飛ばす。360度見渡せる白眼で、相手の狙うポイントを特定し、点穴からチャクラを放って攻撃をいなすネジの絶対防御だ。

「ハァッ!!」

 テンテンが巻物を開くと、そこから無数の忍具が飛び出し、怪物たちに襲い掛かる。刃の嵐に、鎧の怪物たちも流石にたじろいだ。

 四人は大きく跳び、一ヵ所に集結する。

「うじゃうじゃいるぞ!!」

「これは……一筋縄ではいきそうにないですね」

 それぞれで構えを取り、周囲を取り囲む怪物たちを見据える一同。

 その時、四人の頭上を、影が覆った。

「!!」

 四人は危険を察知し、一斉に別方向に飛びのく。その直後、四人がいた場所の中心に銀灰(ぎんかい)色の何かが降り立った。

 ザザッ、と地を滑りながら、四人はそれを凝視した。

「……!?」

「な……何なのよ、コイツ!?」

 思わず呟いたテンテンの目の前で、ソイツはゆっくりと立ち上がった。銀灰色の鎧を纏い、左肩から紅い角のようなものを生やした騎士は、同じく角の生えた仮面をガイ達に向けた。

「……よもや、こんな形でご対面するとは、思いもよらなんだ」

 (サイ)に似た騎士は、鋼鉄の鎧を光らせ、仮面の下で笑う。

「日向ネジ、マイト・ガイ。こうして会えるとは身に余る光栄。願わくば我と死合(しお)うてはもらえぬか?」

「何?」

 思わず呟いたネジの前に、ガイが立つ。挑戦を受けた以上、ここで退くのは自身の矜持に反する。

「……ならば名乗れ。俺は木ノ葉の気高き碧き猛獣、マイト・ガイ」

「……奇遇だな、我が名も(ガイ)だ」

 言うが早いか、犀の騎士、凱は一枚のカードをベルトから抜き、左肩の鎧の隙間に挿入する。

STRIKE VENT(ストライク・ベント)

 直後、現れた犀の顔を模した鋼鉄の手甲が、凱の右腕を覆い、赤い目を光らせる。鋭い角を備えた手甲の一撃が、ガイに襲い掛かった。

「オオオオオ!!」

「ぬおおおお!!」

 二人は雄叫びを上げ、ぶつかり合った。

 ガイは懐からヌンチャクを取り出し、凱の鉄甲を迎え撃つ。

「ガイ先生!!」

 リーが駆け寄ろうとしたその時、凱はショルダーアーマーに新たなカードを挿入した。

ADVENT(アドベント)

「口寄せの術!!」

 凱は地面に手を叩き付け、白煙を立ち上げた。

 途端に、巨大な質量の何かが出現し、リーたちがいたビルを倒壊させた。

「うわぁ!?」

 リー達は落下しながら、瓦礫を足場に安全な場所に着地する。そして体勢を立て直し、煙の中から身を起こしたその怪物を見上げた。

 それは、銀灰の鎧を纏う、二足歩行の犀だった。

 身構えるリーたちに、凱は告げる。

「主らの相手は、そやつが務める。……行け。メタルゲラス」

 凱の命令に、メタルゲラスは低く轟く咆哮で応えた。

 

「どわぁっ!?」

 衝撃をもろに受け、キバが盛大に転がった。

「キバくんっ!」

 ヒナタとシノがその隣に立ち、庇うように身構える。

 ガシャリと音を立てて、紫色の鎧が立つ。

「……ムシャクシャする」

 右手に持つ、紫色の蛇を模した杖をカツン、と地面に突き立て、その小柄な忍は小さく呟いた。

 毒蛇(コブラ)を模したフードの下から、黒い瞳を光らせ、憎悪と怨みに満ちた視線をキバ達に向ける。どす黒い闇の色に、キバ達は蛙のようにその身を縮こまらせた。

「胸の中が……、ムカムカする!!」

「何…いってやがんだ?」

 キバが眉を寄せる前で、忍のコブラの杖が音を立てて展開し、忍はその中にカードを差し込む。

ADVENT(アドベント)

「何もかもが気に入らねェ!! お前らも、あの野郎も!!」

 忍は右手のひらを地面に叩き付け、犬歯を剥き出しにする。

「口寄せの術!!」

 その途端、忍の足もとに白い煙が立ち上り、辺りの視界を遮る。そして、白煙の中から、太く長い巨大な影が起き上がった。

 巨大な口と、広がった胸。長い二本の牙に、紫色の鋼鉄の肉体を持つ、蛇の怪物が、キバ達に向けて牙を剥いたのだ。

「シャ―――――!!」

「喰い尽くせ、ベノスネーカー。王蛇(おうじゃ)の名のもとに!!」

 酸の毒の唾液をまき散らし、紫の鎧の毒蛇は吠える。そして地面を粉砕しながら、太く硬い体をしならせ、襲い掛かった。

 

 ボガンッ

 地面が砕け、建物が大きく崩壊する。

 かと思えば、突如巨大な影が周囲を覆う。

 赤紫色の、平たいひし形の怪魚が、その鰭であらゆるものを斬り裂いていく。また刺々しい鞭のような尾で、忍達を薙ぎ倒していく。

「ぐああああっ!!」

 忍達の悲鳴が響く中、怪魚の上に立つ鎧の忍は口元をにやりと歪めた。

 

 白衣を纏った者達が、資料や書類、巻物を持って書物庫の中を駆け回る。情報部や、研究部の者達だ。

「急げ!! 大事な資料を守れ!!」

 足をもつれさせながら、紙資料を持って走る、走る。

 と、その時。一人の女性の後ろに、音もなく銅褐色の鎧が立った。

 ドスッ、と音がして、女性は意識を失い倒れる。

 銅褐色の鎧の忍は、蟹の爪を模した手甲を上げ、資料の散らばる書物庫を見渡した。

 

 爆音が轟き、地響きが続く木ノ葉の里。

 湖のほとりにいたナルト達は、その異様な光景に目を奪われていた。

「…な、なんなの? 何が起こってるのよ!?」

「また…、ペインみてーな奴が来てんのか、コレ!?」

 サクラと木ノ葉丸は、表情を強張らせて身構える。その時、木ノ葉丸が呟いた一言に、ナルトは表情を険しくして駆け出した。

「クソったれ!!」

「あっ……ちょっとナルト!」

 サクラが止める間もなく、金の短髪とオレンジの背中はみるみる遠くなっていく。サクラは呆れるも、すぐに表情を改め、木ノ葉丸とアケビの傍を離れず、苦無を構えた。

 二人の耳に、あの音が聞こえてきたからだ。ガラスをこすりあわせるような、気持ちの悪い音が、辺り一帯から聞こえてきていた。

 アケビは不安げに眉を寄せ、辺りを見渡しながら後ずさる。

「……なに、この音?」

 震える声が漏れる。

 耳障りな音のはずなのに、体が反応する。自分の知らない何かがこの音を知っていて、何かを求め、呼ばれているような気になる。

 何故か、恐くて怖くて仕方がない。震える体を、思わず抱きしめる。

 その時だった。

 その声が聞こえてきたのは。

 

「見つけた……」

 

「!」

 背後から聞こえてきたその声に、アケビたちはバッと振り向いた。

 そして、驚愕に目を見開く。

 湖の水面上に、大きく波紋が広がっていく。

 その中心に、一人の少女が立っていた。長い銀髪を降ろした、黒い忍装束を纏ったその少女は、黒いマフラーと腰布をはためかせ、青い炎の模様を揺らす。

 その姿は、忍装束を纏ったアケビの姿と瓜二つ。違うのは、その忍装束がより漆黒に近く、鉄仮面の上には、竜の顔が表されていること。

 そして鉄仮面の下にある顔は、アケビと同じものだった。

「!!」

「えっ……アケビ……!?」

「どうなってんだ、コレ!?」

 まるで鏡に映したように現れた少女の姿に、アケビたちは凍りつく。

 三つの視線を受けながら、少女は炎のような赤い瞳を、真っ直ぐアケビの方に向け、アケビの碧眼と合わせる。その瞬間、少女の顔が憎悪の形相に歪んだ。

「見つけた……!!」

 少女は歯を剥き出しにし、目を鋭く光らせる。

 憎悪の感情を真っ向から受け、アケビはビクッと縮こまる。

「アケビっ……」

 サクラはアケビを背に庇い、少女を睨みつける。

「……あんた、何者よ」

「サクラ……」

「…………」

 少女は答えず、左腕の籠手に一枚のカードを挿入する。

STRIKE VENT(ストライク・ベント)

 低い声とともに、少女の右腕に黒い竜の首が飛来し、装着される。

「!」

 サクラと木ノ葉丸は目を見開き、一歩後ずさる。

 そして少女は竜の首を構え、拳を握りしめる。

「…邪魔だ」

 呪詛のような低い声で呟き、姿勢を落として竜の顔を構える。

「お前たちに用はない、どけェ!!」

 その瞬間、竜の(あぎと)の歯の間から、青い炎が溢れ出る。少女は左手で印を結び、竜の首をサクラに向けて振りかぶる。

 ―――火遁・業火絢爛(ごうかけんらん)!!

 竜の口から蒼炎が噴き出し、辺りを青く照らし出す。

 炎はまるで竜のような形へと変わり、アケビたちに襲い掛かった。


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