【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『木ノ葉をになうこれからの子供達……それが〝玉〟さ』

               ―――奈良シカマル


2.暗雲

 同日。火影邸で三人の上忍の報告を聞いた綱手は、驚愕の声をあげた。

「何ィ? (おぼろ)の連中が全滅したと言うのか?」

 三人の忍は神妙な顔で頷く。

 それは、暁と同じく、数人の抜け忍で構成された傭兵団の名称だ。一人一人が相当な戦闘能力を有し、第二次、第三次忍界大戦で幾度も戦乱に介入し、名を上げてきた歴史のある忍達だ。世襲制らしく、今存在するのは三代目だと聞いている。

 実力は暁には及ばないにしても、相手にするには厄介な相手のはずだった。

 それが、一夜にして全滅した。

「はい。我々も信じられなかったのですが、確認したところ、三代目朧に間違いないかと……」

「……まさか、アイツらが……」

 綱手を含む、かつての伝説の三忍もまた、戦場で二代目朧と対峙していた。相手の半数に、味方をほとんど倒され、命辛々逃げ帰ったこともある。

「俺たちが行った時には、奴らのアジトはほぼ全滅していまして。……青い炎がまだそこで燃え続けていました」

 カカシの隣で、上忍・城戸シンマがそう報告すると、綱手は腕を組んで考え込む。

「青い炎か……」

「いかがなさいますか?」

 同じく上忍、秋月レンヤが尋ねると、綱手は鋭い目を向けた。

「引き続き、はたけカカシ、城戸シンマ、秋月レンヤ、三名には下手人の調査を命じる。準備ができ次第、現場に向かってくれ」

「了解!!」

 ダンッ、と両足を揃え、カカシとシンマ、レンヤは応える。

 だがその後、シンマが遠慮がちに手を上げた。

「……あのー、綱手様? その前にちょっといいですか?」

「ん?」

 訝しげに、綱手は声を漏らした。

 対してシンマは、にへらと気の抜ける笑みを浮かべて頭をかいた。

「その前に、嫁さんと娘に会ってきていいですか? しばらく会ってなかったんで恋しくて恋しくて……いだっ!?」

 締まりのない顔が、レンヤとカカシの手によってガクンと沈んだ。

「…スイマセン、すぐ出発します」

「ホラ、行くよ」

 レンヤは心底呆れた表情で、シンマを羽交い絞めにし、ズルズルと火影室から引き摺って言った。当然、シンマも力の限り抵抗し、暴れた。

「やっ…やめろぉ!! 離せぇぇ――!! 嫁にっ…嫁に会わせろォォ――!!」

「やかましい!!」

「……なんかもう、ほんとにスイマセン」

 何とも締まりのない空気の中、綱手は天を仰ぎ、がっくりと項垂れた。あの三人に任せて本当によかったのだろうか。カカシはしっかりフォローしてくれるだろうか。もう、不安しかなかった。

 シズネもまた、三人の上忍が去った扉を見やってため息をついた。

「……大丈夫なんですか? あの人たち」

「ああ…、たぶんな」

 綱手は後悔しつつも、シンマとレンヤの実力に関しては熟知している。

 シンマは家族のことになると、恐ろしいほどに思考が狭まるが、その分生き残るということに大きく力を発揮できる。

 レンヤも、冷静な思考を駆使し、これまで何度も暴走するシンマのストッパーになってくれた。カカシもいるし、今回もその役目をこなしてくれるはずだ。

「別に下手人を討てと言っているわけじゃない。情報だけでも持ち帰ってくれればいいんだ」

「はぁ……」

 シズネは曖昧に答え、しばらく黙る。

 すると、ふいに綱手の耳に口を寄せた。

「…ところで綱手様? ちょ~っとお聞きしたいことが……」

「なんだ?」

 訝しげな顔で、綱手はシズネの言葉を待つ。

 何か気になる事があるのか、と思った時、シズネは至極真面目な顔で。

「……レンヤ君って、今フリーでしょうか?」

 などとのたまった。

「何の話をしとんだぁぁ―――!!」

「アヒィ―――!!」

 

 火影邸に打撃音とシズネの悲鳴が響き渡った頃。

 里の外に繋がる門に向かっていたレンヤが、「へっくし」と大きなくしゃみを漏らした。

「どうした? 風邪か?」

「……いや、なんか寒気が」

 レンヤは困惑した顔で腕をさする。

 するとシンマは、満面の笑顔でレンヤの肩を叩いた。

「しっかりしろよ! お前んとこの嫁さんと娘さんが不安になるぞ?」

「…ああ、父親がしっかりしていなくてはな」

 そう言って、二人は拳をぶつけ合う。

 カカシはそんな二人に、目を細めてほほ笑んだ。

「そうか、3歳ぐらいだったかな?」

「ウス! 超可愛いっす!!」

 さっそく惚気るシンマに、カカシは肩を叩いて激励する。

「じゃ、しっかり終わらせてさっさと帰ってあげなくちゃね」

 三人は笑うと、門に向かって走り出した。

 

 シンマとレンヤ、カカシが門を出るのとすれ違うように、里に戻ってきた者達がいた。

 奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いの。三人合わせて猪鹿蝶トリオと呼ばれる班だ。

「あー、疲れたぁ……」

「僕、お腹すいちゃったよ」

「アンタはいつもでしょうが」

 気の抜けた会話をするいのとチョウジに、心底面倒くさそうな顔でシカマルが振り向いた。

「もう少し気張れよ。五代目様に報告を終えるまでが任務だろ。ああ、面倒臭ぇ……」

 ガシガシと頭をかき、シカマルはぼやきながら歩を進める。いのは「ハイハイ」とこたえ、チョウジは腹の虫の声で応える。シカマルはマイペースな自分の班員に呆れた目を向け、ため息をつく。

 と、その時、シカマルの足が急に止まった。

「? どうしたのさ、シカマル」

 チョウジが首を傾げてシカマルを見やると、シカマルは「シッ」とチョウジの口を手で制した。

 いのもシカマルの様子を不審に思い、足を止めて見つめる。

「……なにか、変な音が聞こえねぇか?」

「変な音?」

「どんな?」

 いのとチョウジが尋ねると、シカマルは辺りを見渡して考え込む。

「ガラスをひっかくみてぇな、気味の悪ぃ音だ」

 いのとチョウジは、それを聞いて耳をそばだてる。

 すると確かに、甲高い金属音のようなものが耳に届き始めた。

 ……ィィィン

 どこからかはわからないが、至るところからその音は聞こえてきた。

「…ほんとだ、聞こえる」

「なんか…、僕気持ち悪くなってきたよ」

 不安げな表情で、チョウジが辺りを見渡す。

 里の住人達も、その音に気付き始めたらしい。訝しげな、不安げな表情で、皆辺りを見渡していた。人だけでなく、犬や猫も辺りに吠え掛かり、威嚇を続けていた。

 シカマル達は、何か嫌な予感に襲われ、走り出した。

 

 走り去っていく、三人の忍達。

 その途中、通り過ぎた町家の窓ガラスに、何かが映った。

 鉄のような体を持った人型の何かが、ガラスに映った里の中に潜んでいた。そしてそれは、一体だけではなかった。

 里中の全ての鏡に、その怪物たちは映り込み、里にいる人々を見つめ、佇んでいた。

 そしてその見つめる先には、建物の屋上で組み手を行う緑の網タイツの二人もいた。

 

「ホァ―――っ!!」

「でやァ――!!」

 おかっぱに太い眉毛と濃いまつ毛という濃い顔の師弟。マイト・ガイとロック・リーは、辺りの汗をまき散らしながら、全力の組手を行っていた。

「まだまだァ―――!! 俺たちの青春はぁ、こんなもんじゃないぞリィィィィ!!」

「はいっ、ガイ先生!!」

 ガシンッ、と蹴り同士をぶつけ合いながら、ガイとリーは拳を交わす。組手というより本物の戦闘に近いが、本人たち曰く〝真剣勝負〟で問題ないらしい。

「…よくやるわ」

 同じ班の武器使い、テンテンが頬杖をつきながら呟く。見慣れたものだが、毎回呆れ果てる他にないほどの熱血さだ。

 テンテンの隣で腕を組んで立っていた青年、日向ネジも目を細めながら呟く。

「今日はもう任務もないからな。…いろいろと有り余っているんだろう」

「ハァ、今日はもう休めると思ってたのに……」

 盛大に溜息をつき、テンテンは嘆く。

 と、その時、ネジが何かに気付き、顔を上げた。途端にそのこめかみ辺りに無数の血管が浮かび、白眼が発動した。

 チームメイトの様子の変化に、テンテンは眉を寄せた。

「ネジ……!?」

 そして、テンテンもまた異変に気付いた。

 真剣勝負の最中だったガイとリーも、異変を察知して手を止めた。

「! ガイ先生!!」

「ああ、何か来るな」

 真剣モードではなく、本気モードになった二人は、拳を構える。

 敵だ、と本能で気付いていた。

 

 音は広がる。

 鏡となるもの全てを伝って。

 窓からも、水面からも。…そして、池からも。

「……何だってばよ。この音……」

 アケビ、木ノ葉丸と共に修行を続けていたナルトも、この異変に気付いた。音は木々に反響し、至る所から聞こえてくる。

「ナルト!」

「サクラちゃん…、動かねー方がいいってばよ」

 駆け寄ってきたサクラにそう言い、ナルトは苦無に手をかける。

 そんな中、アケビは木ノ葉丸にしがみつき、フルフルと小刻みに震えていた。顔は青ざめ、目は焦点が合っていない。その表情は、恐怖だ。

「…アケビ?」

 木ノ葉丸が呼びかけた時。

 風もない中、池の水面に波紋が広がった。

 

 里には、困惑が広がっていった。

 徐々に大きくなっていく謎の金属音。正体も分からないうえ、どこにいても聞こえるようになっていく。

「クソッ!! 何だってんだこの音は!!」

 キバも耳を襲うこの不快な音に反応し、赤丸とともに牙を剥いて唸る。

「耳塞いでも聞こえてきやがるじゃねぇか!!」

「グルルル……」

 その後ろで、ヒナタも胸に手を当てて、不安気な表情を浮かべていた。

「これは、一体……?」

「…分からん。だが、ただごとではないのは確かだ」

 シノが真剣な声色で呟く。表情が見えないだけに、その深刻さが伝わってきた。

「なぜなら、蟲達のざわめきが尋常じゃないからだ」

 

 奇妙な金属音とともに、ざわざわと騒ぎ始めた里の人々。

 そんな中、並ぶ建物の窓の一つ。その中に、一つの影が姿を現した。

 銅褐色の殻のような鎧を纏ったその影は、左腕に備えた爪型の手甲を構え、口を開いた。

「やれ」

 すると、次の瞬間。

 木の葉の里が、突如轟音とともに爆ぜた。


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