仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】 作:スパークリング
ちょっと時間がないのでコメントは後で纏めて返します。
時刻は午後1時12分。
世田谷区駒沢のセントラルアリーナ、地下駐車場。そこには3台の覆面パトカーとビートチェイサー2000が停まっている。そしてセントラルアリーナの地下駐車場出口付近で、雄介、一条、杉田、桜井の4人が作戦会議を開いていた。
「さっき俺がアリーナの中を見て回ったんだが、そしたら第47号と、一条を襲ったと思われるB9号の怪人体が激しく争っていた」
「今度はB9号とですか?」
「ああ。第46号といい第47号といいB9号といい、奴らの中で大きな内乱が起こっているのは間違いない」
そのおかげで人的被害を抑えられているのだが。と、杉田は付け足した。
世間的にかなりの反響を呼んだ第46号の事件といい、今回の第47号の事件といい、やはり一筋縄ではいかないようだ。手口が複雑化し、敵が強力になるに従って色々と複雑になってきた連中の事情。もう少しで今までの奴らのゲームとは違った、もっと大きな事件が起こるような、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「そうですか……こうなったら『神経断裂弾』が来るまで待つしかないですね」
「ですね。第46号のことを踏まえた、新型の『神経断裂弾』の開発も成功したと連絡を受けました。今、科警研から送られてきます」
クウガを二度も退かせるほどの実力と耐久力を誇った第46号に、大怪我を与えることができたが致命傷には至らせられなかった『神経断裂弾』。その結果を聞いた開発者の榎田はショックを受けた。
椿からの連絡を受け、絶対に一発で仕留める心算で作った『神経断裂弾』。結構な自信作だったそれが思った以上に効果を発揮しなかった上に、それがもう二度と第46号に効くことがないからだ。
「榎田さん、かなり燃えていましたよね……あれからほぼ、徹夜を続けてたとか……」
申し訳なさそうに言う雄介。だがその彼女の執念は実り、最近になってようやく開発されたのだ。新型の『神経断裂弾』が。一体どんな弾になったのか、まだこの場にいる4人は誰も知らなかった。
「とにかく『神経断裂弾』が来るまで待ちましょう。待っている間にどちらかが倒される可能性もありますから」
「できりゃ、第47号のほうが負けてほしいが……そうなっちまうとB9号の強さが、
ただ単に第46号でなく、『あの』第46号と無意識のうちに強調してしまう杉田。彼らにとって第46号は、どうしようもないほどの強敵だった。実力は勿論のこと、自分たち警察をいとも簡単に欺いてしまうほどの天才的な頭脳を持ち、かつては世間一般を丸ごと味方につけ、つい先程の第47号との戦闘によって再び世間からの支持を受けてしまうほどのカリスマ性まで見せ付けた、まさに完璧超人だったのだ。
そしてその
「考えていても仕方ないですよ。大丈夫! 俺も休んでいる間に電気ショックを受けましたし、榎田さんが作った新しい武器だって完成したんですから!」
暗くなってしまった雰囲気を払拭させるために、少しだけ大きな声で「大丈夫」といって、笑顔でサムズアップをする雄介。
「……ああ、そうだな」
「……はい。きっと大丈夫ですよね」
それを見た杉田と桜井は、僅かに頬を緩ませた。
何の根拠もないが、雄介の笑顔はいつだってそうだった。彼が笑顔で「大丈夫」と言うと、それを聞いた人間たちは見た安心することができた。いや、根拠ならあるのかもしれない。実際に雄介はその笑顔を決めた後、目の前に立ちはだかる強敵を倒してきた。1回だけでない。今まで何度もだ。
実績だけじゃない。雄介にも第46号とは違った、ある種のカリスマ性を持っていた。いつだって前向きで、どんな人間相手にも差別しないで自然体で接し、純粋にみんなの笑顔を守りたいと言う、ただそれだけの願いのために身体のことなど気にせずに自分にできる限りの無茶をすることができる、誰よりも心優しく、一緒にいるだけで元気をもらえる青年。それが五代雄介なのだ。だからこそ彼は、一条や杉田、桜井といった警察の人間や優秀なドクターの椿、科警研所長の榎田などのさまざまな人物に自然と関わり、大きな信頼を得ることができた。
「今は状況が動き出すまで待ちましょう。下手に突入しても連中を刺激するだけですから」
最後に一条が締めくくり、今彼らがすべきことは決まった。
ただ待つ。状況が変化するまで、新型の『神経断裂弾』が到着するまで、このセントラルアリーナを見張る。それが彼らのできる一番の選択だった。
――――・――――・――――
時刻は午後1時46分。
品川区、品川火力発電所。そこの大型変圧器の中から、白い人影が出てきた。
「……5分、オーバー。でも、上出来」
どこか恍惚とした表情で、首に垂らしている金の懐中時計を見る白い影――ユニゴ。僅かであるが、今の彼女の全身からは電流のようなものがバチバチと音を立てている。
「ガドルや、クウガも、こんな感覚だったのかな」
手をグッパーグッパーとさせるユニゴ。握られるたびに電流のようなものが身体中を迸り、不思議な、しかし強力な力が身体の奥底から沸き上がってくるような、そんな感覚が変圧器の中で電流を浴びている間からずっとしていた。
「凄い。全然、今までと違う」
限界に感じ、キリの良いタイミングで外に出てきたユニゴは、電流を浴びる前と浴びた後での身体の感覚がまるで違っていることに気付き驚いた。まさか、電気を浴びるだけでここまで変わるなんて、想定していなかったからだ。これじゃあ、あのガドルに勝てるわけがない、完全に舐めていたと、ユニゴは反省した。しかし、この感覚はどこかで何度も感じたことがある、とある感覚に似ていた。
それは遥か昔、昇格するたびに報酬として得た力が身体に馴染んだときのような、あの自分の中に封印されていた力のリミッターが外れていくような、あの感覚に。だが流石のユニゴも、そのこととこの電気の力の因果関係は掴めず、ただ少し「似ているな」と感じただけで終わってしまった。
「少し、休もう」
自分の顔が世間に知られていることを理解しているユニゴは、すぐさま俊敏体に変身。持ち前の高い脚力と体力を使って品川から、ゲゲルをしていたときに利用していた文京区の空き家まで一気に移動した。掛かった時間はたったの2分。1分間でおおよそ7.5kmの距離を移動した計算である。
「うっ……」
空き家に到着したユニゴは、少し気分が悪そうな顔をしながら胸を押さえて、少しふらついてしまった。電気には身体は適応したが、溢れ出る力の感覚にまだ身体は慣れておらず巨大な力が彼女の中で弾け、一気に身体への負担となってきたのだ。
急ピッチで自分の身体に新しい力を宿らせ、更に変身して15kmの距離を疾走し、無理をした結果だった。この目的のためならば自分の身体を犠牲にする性格は、どこかの誰かに似ている気がする。
「しばらくは……変身、できないかな……。……ふぅ」
久々に座ったかつてのアジトの椅子。ボロボロで決して高いものではなかったが、なぜか、ユニゴには心地よく感じた。ふと、部屋の一角を見ると、そこには隠すようにして4袋の紙袋があった。ああ、そういえば、あったな。懐かしく感じながら、その紙袋を見つめるユニゴ。
紙袋の中にあったのは幾つもの壱萬円札の束だった。
板橋家から飛び出してしばらく経った時、財布を落としてしまった老人にその財布を届け、お礼でいくらかのお金を貰った。ユニゴはそれの使い方を知っていた。板橋と買い物に行っていたときに、彼女がそれを使って物を入手しているのを何度も見てきたからだ。
やがて、歩いた先にやってきたのは競馬場だった。ユニコーンの特性を持っているゆえに馬に興味があったのだろうか、妙な引力に引かれてユニゴはその中に入った。このときには既に日本語を読むことも理解することもできていたユニゴは、復活して1ヶ月で競馬に挑戦。予測という、ゲゲルにとっては重要な力を鍛えられることを知り、また、彼女自身が生粋のグロンギだったために、暴力以外の勝負事と聞いたら血が疼いてしまったのだ。
結果は快勝。全て的中した。見る目を持っていた彼女はすぐに光っている馬を探すことができ、さらに芝や風の向きなども経験で計算できていたために予測は見事に的中。貰った1万円のうちの1000円が16万になって返ってきた。そしてその後、興味本位で入ったオープンカフェが気に入り、普段はそこで過ごし、お金がなくなりそうになったときや暇なときは競馬をするという典型的ダメ人間生活が始まった。これが成立していたのは、ユニゴの競馬が百発百中で的中していたからだ。絶対に真似をしてはならない。未確認生命体第39号こと、生粋のギャンブラーだったゴ・ガメゴ・レと競馬予想の勝負をし、時に手を組んで倍プッシュをしまくったのはいい思い出だ。尤も、そのせいで競馬場のブラックリストに載ってしまったのだが。
そこからは気に入った懐中時計を買い、財布を手に入れ、ノートパソコンを未確認生命体第44号ことゴ・ジャーザ・ギから貰って、それを入れるためのバッグも手に入れた。懐中時計を買ったのは時間を常に把握するため、ノートパソコンを手に入れたのはさまざまな情報を入手でき、かつ自分の番になったら有効に使えるようにするためだ。その膨大な情報のせいで、「何故人間を殺してはいけないのか?」という疑問が浮上してしまったのだが。とまぁ、ユニゴの過去話はここまでにしておこう。
とにかく、趣味と遊びで始めた競馬がド当たりしてしまったために、ユニゴは軽いお金持ちになってしまった。3つの紙袋の中には100万円の束がそれぞれ40個ずつ、もう1つには10束と少しだけ入っており、合計1億5000万弱の貯金がユニゴにあったのだ。コーヒーを1日中がぶ飲みしたり、毎日銭湯を利用したり、お世話になった板橋家に定期的に仕送りしていたのにまだこれだけ残っているのだから、どれだけぼろ儲けをしたのか。これでは出禁になって当然である。
「どうしようかな、お金」
1億5000万なんて大金、もうユニゴには必要のないものだ。だからと言って、埋蔵金にしてしまうのは勿体無い。うーむ、と悩むユニゴ。板橋に全部渡す?……いや、こんな大金をいきなりボンと出されても困ってしまうだろう、却下。クウガや警察に全部渡す?……クウガはともかく、警察はまずい気がする。直感が訴えている。今警察に行くのは危険と。やめておこう。
「……あ」
そういえばあった。この近くに、このお金を有効に使ってくれそうな人間たちがいる場所が。適当に使って適当に集めていたせいで、お金の価値の概念がゲシュタルト崩壊してしまっている自分よりも、きっと有効に使ってくれそうな、自分とお話をしてくれた人間たちがいる場所が。
「話したいことも、あるし……少し、いいかな」
どうせ、今の自分が変身したところで中途半端な力しか発揮できない。それに、会って話すのも最後になる。少しぐらい、我儘な行動をしてもいいかなと思ったのだ。
「行こう。残り少ない自由な時間、少しでも償えるなら、やらないと……」
やることを決めたら行動が早いのがユニゴのいいところだ。休んでいた身体を2本足で支え、隅っこに置いていた紙袋を4つ両手で持って、移動を開始した。
――――・――――・――――
文京区、喫茶ポレポレ。
時刻は午後2時6分。ピークの時間が過ぎ、一段落しているのは玉三郎に奈々、そしてみのりの3人が
「そういえば、また新しい未確認が現れたらしいじゃないの」
ふと今日の昼間のニュースを思い出した玉三郎が、その話題を持ち出した。
「あぁ、第46号が第47号から警官を護ったっていうアレ?」
「そうそう、それそれ。第46号ってアレだろ? 1ヶ月前にうちに来た」
「うん。確か……ユニゴちゃん、だったよね」
この3人にとっては絶対に忘れることはない12月21日の出来事。
ピークが過ぎて休んでいる最中、なんと当時世間を騒がせていた未確認生命体第46号がこのポレポレに来店して、しかも話をしたのだ。日本語で。
あの時は雄介と桜子もここにいたが、直接話をしたのはこの3人だ。奈々は声を荒げて、玉三郎はそんな奈々を庇いながら恐る恐る、みのりはしっかりと目を合わせて、どんな形であれその第46号と会話をした。未確認生命体と会話をするという、ある意味とんでもない快挙を成し遂げたのだ。
「今考えたら、ちょっと勿体無いことしたなぁ思うわ。ほとんど私、一方的やったし」
少し後悔したように溜息をつく奈々。あのときの奈々は、自分の恩師を殺した未確認生命体を憎むあまり第46号に対して当り散らしてしまったのだ。そのおかげで、彼女の事情や人間を殺している理由も聞くことができたわけだが。
とにかくそのせいで、言葉が通じて、しかも大人しい未確認生命体と会話するチャンスを逃してしまったのだ。
「あのときはなんか、俺死ぬのかなって思っちゃったよ。いや、なんも悪いことしていなかったけど、いきなり来たら……ねぇ、みのりっち」
「えっ。あ、はい。そうですよね」
何の脈絡もなく話を振られたみのりは少し戸惑いながらも、なんとか返した。
「また来てくれへんかなぁ、第46号。ちょっと謝りたいわぁ、八つ当たりしてもうたし」
冗談半分にそんなことを言う奈々。「そんなこと言うと、本当に来ちゃうかもしれないよ?」と冗談で返そうとしたみのりだが、そのとき。カランカラン。誰かが来店したことを告げる鈴の音が店内に響く。
「いらっしゃいませ、オリエンタルな味と香りの――」
ピキンッ。いつもの売り文句を言おうとした玉三郎がその客を見た瞬間に固まってしまった。
この反応、奈々とみのりには心当たりがある。「え……ホンマ?」「まさか、ね?」と小さく呟いて入り口を見ると……1ヶ月前のデジャビュだろうか、固まった。
入り口から店内に入ってきたのは、両手に紙袋を2つずつ持っている白いワンピースを着た金髪碧眼の少女。こんな真冬にワンピース1枚というありえない格好をする人物は、この3人が知っている中ではたった1人しか該当しない。先程話題に出していた、未確認生命体第46号。その人間態の少女しか、この3人は知らなかった。
「……あ」
来店した未確認生命体第46号ことゴ・ユニゴ・ダ……今は昇格してラ・ユニゴ・ダは、3人のうちの1人……奈々を視界に捉えると、両手に持っていた紙袋を全部床に置いて……
「ごめんなさい」
彼女に向かって90度直角に身体を折って頭を下げ、謝罪した。
いきなり謝られた奈々は「え、ええっ」と戸惑ってしまう。さっきまで八つ当たりして悪かったなと思っていた対象であるユニゴが、逆に自分に謝ってきたのだ。この突然の謝罪には奈々だけでなく、玉三郎もみのりも驚いてしまう。
「私、勝手な理屈で言い訳してた。間違っていたの、私なのに。だから……」
本当に申し訳なさそうに、しょぼんとした声で謝るユニゴ。そんな彼女の言いたいことに真っ先に気が付いたのは、以前会ったときに一番話をしたみのりだった。
「あの、癌細胞が……ってやつかな?」
「ん……」
こくりと頭を下げたまま、ユニゴは頷いた。そしてようやく、奈々も玉三郎もどうして彼女が謝ってきたのかがわかった。
「帰ってくれ」と訴えた奈々を心理的に分析して、彼女の身に何が起こったのかがわかったユニゴ。しかし、ユニゴはその先の奈々の感情までは理解することができなかった。人間の心理がわかっても、感情はわからなかったのだ。しかし……
「私、なにも考えてなかった。貴女の気持ち、全く理解してなかった」
もともと頭が良く、頭の回転も速かったユニゴは、1つのことがわかるとあとはドミノ倒しに物事を理解できる。だからこそ気が付いたのだ。自分がやってきたこと、考えてきたこと、言ってきたことが、すべて間違いだったという、自分の価値観全てをひっくり返る答えに。
まだ最終的な答えは、完全なものには到達していない。だけど、不完全なままでも充分すぎた。
「許してなんて言わない。だけど私、貴女たちと会うの、最後になる、と思うから。だから、せめてその――」
「ま、待った待った!」
まだまだ続くユニゴの謝罪を、玉三郎が少し強引に止めた。
「まぁまぁその、ほら。ここ座って。ね?」
とりあえず、落ち着いてゆっくりと話をさせるためにカウンター席の1つを指差して、ユニゴを手招きする玉三郎。
「奈々。今日はもうお終いだから。看板、しまってきて」
「あっ、うん。わかったよ、おっちゃん」
急いで外に飛び出して、メニューの書かれた看板を店の中に入れて『OPEN』から『CLOSED』に変えた。ユニゴを新しいお客さんの注目の的にさせないように気を遣ったのだ。
一方、ユニゴは予想していなかった展開にポカンとしてしまっていた。てっきり殴られるのかと、責められるのかと思っていたからだ。
「ほら、座って」
奈々とみのりが座っている席の間にある、1つの空席。おそらく、ここに座れということなのだろう。戸惑いながらも、ユニゴはこくりと頷いて紙袋を持ってその席に座った。
「あの……その……」
言葉が詰まって、どうすればいいかわからなさそうな表情を浮かべているユニゴ。そんな彼女に、謝られた奈々が最初に話しかけた。
「その、な。もういいんよ? あのとき興奮しとったの私やし、な?」
「でも……」
「それに私の先生殺したん、ユニゴちゃんやないんやろ? そやったらユニゴちゃんを責めるん、おかしいし……私こそ、ごめんな?」
「……?」
ユニゴは目をぱちくりさせて驚いた。自分が悪いのにどうして謝ってくるんだろう、と。まだまだ人間の感情全てを把握していないユニゴにとって、この奈々の行動は理解ができなかった。
「ユニゴちゃん、さ。なにか、あったの?」
またしてもユニゴの顔を覗き込むようにして視線を合わせるみのり。少し近かったからか、ユニゴは顔を赤くして、そして更に申し訳なさそうにして視線を逸らす。
「実は……」
ユニゴは今日、自分が見たこと、感じたことを3人に話し始めた。
――To be continued…