魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート   作:tomato

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前の話でお気に入りとユニークアクセスと評価が急増した。コワイ。
ランキングにも乗った。加点式で一位だった。コワイ。
森崎アンチで評価されるなんて、みなさんの森崎に対する殺意が見えますわ。コワイ。

今回の話は前回に続いてアンチと、捏造設定、と言うより過去捏造です。
ちょっと無理があるかもしれませんが、難しく考えないで読んでやってください。
森崎とほのかからして、あんな簡単に魔法使っちゃうなら、こんな事件が起きててもおかしくないよねって話です。

それと感想なんですが、一気に量が増えたんで返せそうにないっす。
作者はネットでも人見知りを発動しちゃう人間なんで、感想を返すのに多大な労力を必要とします。
一応、全ての感想には目を通してます。
感想返して更新が滞りそうなら、執筆を優先したほうがイイよね?


第九話

真由美達の姿が見えなくなるまで見届けてから、義飾は振り返った。

もう言いたい事は全部言ったし、騒動も決着が着いた。あとは帰るだけだと思っていた義飾の視界に、達也と例の男子生徒が向かい合ってる姿が映った。

 

「・・・・・・僕の名前は森崎 駿だ。お前の名前は?」

 

「・・・司波 達也だ」

 

何故いまさら達也の名前を聞いたんだ?と思ったが、そういえば元々の騒動の発端は、深雪と一緒に帰りたいがそれだと二科生の達也が邪魔だ、というものだった。色々ありすぎてて忘れていた。

生徒会長達が去り、本来の性格を完全に取り戻した森崎は、鋭い視線で敵意を持って達也を睨んでいる。その視線を達也は無表情のまま受け流している。

今にも先ほどの騒動の再現が始まりそうな雰囲気だが、森崎の頬にはまだ涙の跡が残ってるのでイマイチ締まらなかった。

 

「僕は森崎の本家に連なる者だ!」

 

 

 

「“森崎”ってなんだよ?」

「たぶんあれよ、クイックドロウで有名な。映像資料見たことあるわ」

「ふ、二人共静かに・・・」

 

達也の反応に焦れたのか、森崎が声を上げて自己紹介を補強する。それを受けても達也の顔に変化はなかったが、その後ろでレオが疑問をこぼし、エリカがそれに答える。声が小さく内緒話をしているみたいなので、それを見咎められることを恐れた美月が慌てて窘めた。

 

「司波 達也、僕はお前を認めない。司波さんは花冠(ブルーム)だ。お前たち雑草(ウィード)と一緒にいれば、いずれ枯れてしまう。司波さんは僕たちと一緒にいるべきなんだ!」

 

レオとエリカのやり取りは当然聞こえているはずなのだが、とりあえず用件を済ませようと思ったのか、森崎がさらに声を張り上げる。話している内に感情が高ぶってきたのか、だんだん語気が強くなっている。そして、最後は叩きつけるように吐き捨てると、乱暴に振り返って背中を見せた。

 

「いきなりフルネームで呼び捨てか」

 

「それに、随分ポエミーな表現で口説くじゃねぇか。顔に似合わずロマンチストなのか?・・・それで、甘い言葉で愛を囁かれた司波妹の答えは?」

 

「へぇ?いや、あの・・・」

 

「なるほど、そうだよな。魔法の才能云々の前に、校則や法律を守れない奴は嫌だよな。・・・ということで、一般常識を身に付けてから出直してこい」

 

しかし、達也と義飾のダブルパンチで踏み出しかけた足が止まりそうになった。言いたい事はいっぱいにあるだろうに、捨て台詞を吐いた手前、もう一度振り返る事は出来ない。

結局、立ち止まらず、森崎とその他一科生はそのまま立ち去った。森崎の背中は気落ちしているように見えたが、それは気のせいだろう。

 

一科生が立ち去ったことで、ようやく達也達の空気が弛緩する。

森崎を煽るのに深雪を利用されて、達也は棘のある視線を義飾に送るが、相変わらずの軽薄な笑顔が見えて、文句言うことは諦めた。

疲れていたからめんどくさかったのもあるが、騒動が終わったのに同じ二科生の仲間である義飾と言い争うのはどうかと思ったからだ。

 

「やっと帰れるな」

 

「・・・・・・あぁ。・・・それじゃぁ、レオ、千葉さん、柴田さん、帰ろう」

 

割り切れない思いをなんとか飲み込んで、義飾の言葉に答える。そして、義飾と達也が他の面々を先導するように歩き出す。

行く手を遮るように事態を悪化させた女子生徒がいたが、義飾が軽く視線を送っただけで脇へどいた。どうやら、義飾に対してかなり苦手意識を持ったようだ。・・・当然の事だが。

女子生徒を横目に、今度こそ帰途につこうとした義飾達だったが、

 

「あ、あ、あのっ!!」

 

その女子生徒に呼び止められて、またもや足を止めることになった。

達也達は、もう関わりたくないというのがありありと見える辟易と表情で振り向くが、ただ一人、義飾だけは嗜虐の色を多分に含んだ笑顔で振り返る。

その顔を目の当たりにして女子生徒は小さく悲鳴を上げて後退ろうするが、その後ろで待機していた別の女子生徒に背中を押され、後ろに下がる事はできなかった。

自分から呼び止めたにもかかわらず女子生徒は、少しの間、目を彷徨わせ口元をまごつかせていたが、意を決したように勢い良く頭を下げた。

 

「さ、さっきは失礼なことを言ってすいませんでした!!」

 

うなじが見えるほどの深いお辞儀。深い謝罪の気持ちによるものなのだろうが、義飾への苦手意識が、義飾を視界に入れることを全力で拒んだようにも見える。

突然の大仰な謝罪に達也達は面食らった。先ほど、騒動を悪化させようとしていたので、彼女のことは平均的な一科生、つまりエリート意識が高いだろうと思っていたからだ。こんな風にプライドを投げ捨てて二科生(下の人間)に頭を下げるとは思わなかった。

女子生徒の予想外の行動に達也達が返事に窮しているなか、義飾は白けた顔でそっぽを向いていた。彼女が反省せずにグダグダと抜かしてきたら、喜々として迎撃するつもりだったのだが、反省しているならどうでもいい。

 

「あ、あの、私、光井 ほのかって言います。さ、さっきは本当にすいませんっ。そ、それと、ありがとうございました。庇ってくれて、う、嬉しかったです。それと、あの、その―――」

「ほのか落ち着いて」

 

返事が無いことを不安に思い、その気持ちと、達也達が返事をしないことで生まれた沈黙を誤魔化そうと、ほのかが必死に言葉を紡ぐ。しどろもどろになりながら言葉を続ける姿はかなり痛々しく、悲壮感を誘う。

見ていられなくなったほのかの後ろに控えていた女子生徒が、ほのかの肩を叩いてなだめる。

なだめられて我を取り戻したほのかは、顔を少し赤くし、大きく息を吸って今度は落ち着いて口を開いた。

 

「さっきは本当にすいません。それと、許していただいて、本当に有難うございましたっ!それに、お兄さんには庇っていただいて、本当に感謝しています」

 

最初の謝罪を繰り返すように深く頭を下げるほのか。同じように見えるが、落ち着いた口調で変な気負いをせずに行われたので、今度は悲壮感は湧いてこない。そして、一緒にいる女の子もそれに続いて頭を下げた。

 

さすがに、二度も同じものを見せられれば返事には困らない。

今度は返事に窮することなく、名指しされた達也がそれに答えた。

 

「どういたしまして・・・・・・って言っていいのかな?一応、庇った形になったけど、結局意味はなかったから。それと、お兄さんはやめてくれ。同じ1年生なんだ」

 

「分かりました。では、なんとお呼びすれば・・・?」

 

「達也、でいいから」

 

なんというか、同じ学年の会話に見えない。二人の会話を聞いて真っ先の思ったことがこれだ。

ほのかと同じクラスに、達也の妹がいるからある程度は仕方ないと思うのだが、ほのかはへりくだりすぎだと思う。感謝以上の念が透けて見えるようだ。

 

「分かりました。・・・それで、その・・・・・・、駅までご一緒してもいいですか?」

 

謝罪と感謝が受け入れられ、次は同行を請うほのか。

正直に言って、彼女との間には未だ隔たりはあるのだが、覚悟を持った顔で請われれば、断ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予期せぬ同行者を連れて達也達は駅までの道を歩く。達也達二科生組五人と、深雪、ほのか、そして北山 雫と名乗った女子生徒の、一科生組三人の計八人の大所帯だ。

最初こそ微妙な空気が流れていたが、優劣に差はあっても同じものを学ぶ者同士、話のネタは尽きず、今はほどほどに打ち解けた空気が流れている。

深雪のCADを達也が調整しているという話から、エリカの持ってる警棒が実はCADだという話に会話が移っていくのを、義飾は打ち解けた空気の外から眺めていた。

未だ、ほのか達に対して割り切れない思いを抱えているのが理由なのだが、あそこまで言った手前、仲良く話しかけるなんて出来なかったからだ。

駅に着くまで無言の姿勢を崩さないつもりの義飾だったが、話が一段落着いて、新たな会話のネタを探していたエリカにそれは崩された。

 

「て、あんたはいつまで黙ってるつもりなのよ。謝ってくれたんだから、もう許しなさいよ。終わったことにグチグチ言うのはどうかって、あんたが言ったんじゃない」

 

義飾の脇腹に肘鉄を軽く入れながら会話の矛先を義飾に向けるエリカ。そのせいで七つの視線が義飾に集中した。

エリカの攻撃によろけることはなかったが、その視線には少したじろいでしまう。

その視線には非難の色が乗っているような気がして、義飾はバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「・・・別に、そんなつもりじゃねぇよ。話が専門的だったからついていけなかっただけだ。さっきのことはもう気にしてねぇよ」

 

「ふ~ん、どうだか」

 

義飾の答えにエリカは納得がいっていない様子だ。その様子を見て義飾はさらに頭を掻きむしる。

確かに、義飾の言葉は嘘が混じった建前なのだが、これみよがしにこんな反応をされると対応に困ってしまう。それに、言葉にしないだけで他の面々もエリカと同じで、義飾の言葉を飲み込めていない。

頭を描きながら件の当事者であるほのかに視線を送る。義飾と目が合ってほのかは、大げさに肩を揺らした。

義飾が彼女に対して割り切れない思いを抱いてるのと同じように、ほのかも義飾に対して苦手意識を持っている。

変な禍根を残さないために、ある程度は本心を語った方がいいのかもしれないと思って、義飾は頭を掻いていた手を下げた。

 

 

 

「魔法師は・・・・・・いや、・・・怪物の定義って知ってるか?」

 

「「「へぇ?」」」

 

改めて口を開いた義飾だったが、その内容はあまりにも突飛すぎたためボケた声が周りから上がる。その反応に小さく笑みを浮かべて義飾は話を続けた。

 

「そうだな・・・一世紀以上前の娯楽小説で怪物とは、喋ってはいけない、正体不明でなければならない、不死身でなければならない、って語られてるんだがこれは、人を恐怖させる条件として並べられたものだ。意思の疎通が出来ず、姿形も曖昧で、死なない存在ってのは確かに悪夢だよな。まぁ、つまり怪物ってのは、大前提として人に恐怖を与えるモノだってことだ」

 

話が進んでも、義飾の言いたいことの核心は掴めない。いや、最初に義飾が零した言葉から、話がどこに向かってているのかはある程度想像出来るのだが、なんとなく、口を挟むことは憚られた。

 

「そして、怪物って聞いて真っ先に思い浮かぶであろうフランケンシュタインの怪物。有名なのにあまり内容が知られてないから大雑把に説明するが、フランケンシュタインに作られた怪物が、自分の創造主に粗雑に扱われ、復讐するって話だ。この物語を誇大解釈すると、怪物ってのは“大きな括りから外れた、手に負えない存在”・・・つまり、社会のルールを守らない犯罪者こそが、怪物だと見ることが出来る。・・・さすがにこれは暴論だがな」

 

犯罪者、という先ほどの騒動を思い起こさせる言葉を使われて、ほのかは顔を青くして俯いた。しかし、穏やかな語り口からはほのかを責める意図は見えず、表情も、嗜虐の色が一切ない。

しかし、達也は義飾のその表情に、いや、その目に小さい違和感を覚えた。顔はこちらを向いてるのに、目は別の所を見ている。なんとなくだが、そんな風に感じるのだ。

その様子は、今語っている話は達也達でなく、別の誰かに向けて話をしているみたいだ。

 

「一八世紀のフランスの博物学者によって、怪物はもっと直接的に定義された。その人物曰く怪物とは、過剰によるモノ、欠如によるモノ、そして部位の欠損、もしくは誤った配置によるモノ、どれか一つの要素を持っていれば、あるいは組み合わされていれば、怪物として認められると語った」

 

そこで一旦、言葉を切って達也達を見る義飾。話に付いて来れてるかの確認みたいだが、やっぱりその目はどこを見ているのかわからない。

 

「人間ってのは、猿から進化して今の形をとってるが、進化の過程の、どの部分で猿と分けられるかは今も研究が続けられてる。ホモ・サピエンスっていう学名自体は一人の学者が考えだしたものだが、ヒトの定義は長い時間をかけて、偉い学者さん達が色々と考えている。・・・・・・かの偉人達が、その当時秘匿されていた魔法の存在を知っていたとは思えない。つまり、数多あるヒトの定義は、魔法を一切考慮に入れていない。だったら・・・・・魔法は、ヒトにとって過剰(・・)なものだと、そうは言えないか?」

 

予想と違わないところに話が落ち着いて、達也達は息を呑んだ。予想はしていても、ここまで面と向かって言われれば、ショックを受ける。

達也達の表情の変化を確認した義飾は、顔を背けて話を続けた。

 

「魔法の才能は血筋が大きく関わってくる。優れた者同士を掛け合わせ、より優れた者を作り出してるからだ。人為的な定向進化の果てに今の魔法師があるわけだが・・・、その過程で魔法師がヒトから外れた存在になっていてもおかしくない。例えば、ウマは分類学上同じ括りに入れられてても、種類によっては体高一メートルの差がある。この両端の二種を全く同じ生き物とは言えないだろ。実際、魔法師と一般人には演算領域の有無っていう大きな違いがあるしな」

 

顔を背けたのは、話のせいで達也達と顔を合わせられないからと思ったが、声に動揺してる響きがないのでどうやら違うようだ。

顔を背けたことでさらに、義飾が誰に向かって話しているのかわからなくなった。

 

「喋ってはいけない。意思の疎通は出来ても、意識に大きな違いがあれば会話に齟齬が生まれる。

正体不明でなければならない。一般人にとって、魔法の知識は生きていくのに全く必要ない。そして、魔法は一世紀前まで秘匿されていた。

不死身でなければならない。不死身ってのは最も原始的な力の象徴だ。それに、魔法師は不死身って訳ではないが、一般人と比べて死に難いのは事実だ。

魔法師ってのは、どうやってもヒトの恐怖を煽るようなデザインになってるんだよ。そんな存在が悪事を働けば、そりゃもう怪物だって言われても仕方ない」

 

過激な話をしているはずなのに、そんなことを思わせないような穏やかな口調。なんとなく、自虐的な色を含んでいるように感じる。

 

「魔法は、現在兵器として運用されることが主流だ。一般人にとって魔法を使える存在ってのは、拳銃を携えてるのと変わらない。視線の向きがそのまま銃口で、起動式は撃鉄。引き金は当人の意思で、安全装置は倫理観だ。拳銃と違うのは、法律で所持を禁止出来ないことだ。使用の判断が本人に委ねられてるなら、拳銃以上に扱いには気を使うべきだ。あの時、光井は騒動を収めるために閃光魔法を使おうとしたが、周りを宥めるだけなら閃光魔法じゃなく、大声を出すだけで事足りたはずだ。・・・・・・魔法ってのは最後の手段にした方がいい。あの場は魔法科高校の敷地内で、周りにいる人間も魔法科の生徒ばっかりだったから俺があそこまで言っても結局は大きな問題にならなかったが、あれが街中で、周りに一般人しかいなかった場合、有無を言わさず警察を呼ばれていた」

 

自虐の色が含んでるのではなく、実際自虐なのだろう。義飾も第一高校に入学してる以上、今話されてる内容と無関係ではない。

話が進むにつれ、義飾の語り口には自虐だけでなく、懇願の色が加えられた。

 

 

 

「お前たちが思ってる以上に、一般人の魔法に対する認識は穿ったモノだ。攻撃目的じゃなくても、魔法を使われること自体に恐怖を抱く人間がいることを憶えておいたほうがいい」

 

 

 

もう話は終わったという風に、義飾はが背けていた顔を戻す。その顔は薄い笑みが浮かんでおり、それがさらに自虐の色を増長させていた。

達也達は何も言わない。いや、言えない。まるで金槌で殴られたような衝撃が、頭の中を反響しているからだ。

 

達也達は魔法師だ。たとえ今は学ぶ段階にあって卵と評されようと、出来る順に並べられ劣等生のレッテルを貼られても、魔法演算領域を持っている以上、彼らは世間一般的には魔法師に分類されるし、自分達でもそうだという自覚がある。

彼らが、魔法師と非魔法師の問題について考えた際、当然だが魔法師の側に立って考える。

魔法が兵器運用されてるせいで魔法師の社会的地位が低い。そのことについて意見があっても、一般人がどのように感じているかについて考えたことはない。

義飾が今語った内容は、一般人の側に傾いてるどころか、完璧に魔法師としての立場を排した意見だ。

その内容も然ることながら、魔法科高校に入学している義飾がこんな考え方をしていることにも衝撃を受ける。

 

唖然としたまま何も話さない達也達を見て、義飾は諦めたように顔を背け息を吐いた。

 

「・・・スマン。説教臭くなったな。今言ったことは気にしなくていい。戯れ言みたいなもんだ。一般人側に傾いた意見だから正論ってわけでもないしな」

 

義飾が慰めの言葉を言うが、そこには隠し切れない落胆があった。

何か言わないと、と思っても混乱の抜けていない頭では適切な言葉は思い付かない。いや、混乱していなくても、今まで一般人の立場になって考えた事のない達也達では、反論も肯定も出来なかっただろう。

 

「それじゃあ、またな」

 

達也達がまごついてる内に、一同は駅に着いた。

義飾は達也達の答えを聞かずに駅の構内へと立ち去る。その姿が見えなくなってようやく、達也達の思考は回復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くっ、あいつは一体なんなんだっ!!」

 

生徒会室のドアが閉まったのを確認してから、風紀委員長の渡辺 摩利は声を荒げて今まで押さえ込んでいた感情を爆発させた。

校門前で揉め事が起こっている、と通報を受けたので現場に急行したら、そこには確かに揉め事が起こっていたが、もっとドギツイ存在が待ち受けていた。

 

「問題を大きくしようとするっ!言葉遣いはなってないっ!!制服は着崩している!!!髪は茶色い!!!!アクセサリーをジャラジャラ着けてる!!!!!あと、声が大きい!!!!!!」

 

おそらく新入生であろう少年に、コテンパンに言い負かされた摩利の怒りは頂点を突破していた。

校門から生徒会室の着くまでの間は忍耐の時間だった。感情に任せて喚き散らすのをなんとか我慢して、生徒会室に誰もいないことを確認してから、激情を解き放った。

隣にはまだ真由美がいるが関係ない。と言うより、真由美もあの場にいたので、同じような感情を抱いてるはずだ。自分の激情に同意の言葉が飛んで来ることことを期待していた摩利だったが、予想外の言葉が飛んできた。

 

「・・・彼の名前は、化生 義飾君よ」

 

まさか自分の疑問とは言えない文句に答えが返ってくるとは思っておらず、慌てて真由美の方に振り返る。振り返った先には疲れた顔をしてため息を吐いている真由美の姿があった。

自分と同じように激情を抱え込んでいると思っていたので、その姿を見て摩利の頭が少し冷える。

 

「なんだ真由美、あいつの事を知っていたのか?」

 

頭が冷えたと言っても、胃が灼けつくような感情は残っている。冷えた頭にあの一年を思い浮かべただけで、もう一度沸騰しそうになる。

摩利の質問を受けて真由美はすぐには答えず、もう一度大きく息を吐いた後、情報端末の前に座った。

 

「知ってる、わけじゃないんだけど、実は昨日も似たことがあって、彼のことは少し調べてたのよ」

 

端末の前に座った真由美は、慣れた手つきで電源を付けて端末を操作し出した。

話の流れから真由美が何をしているのかわかった摩利は、真由美の後ろに回り込んで端末の画面を覗き込む。

そこには予想通り、あの男子生徒の情報が映し出されていた。

 

化生(けしょう) 義飾(ぎしき)・・・・・・随分珍しい名前だな。昨日も似たことがあったって、こいつは入学式に生徒会長に喧嘩を売ったのか?」

 

「彼が喧嘩を売ったっていう言い方は正しくないわね。元々、悪かったのは司波さんの都合を無視してしまった私達だし。まぁ彼が問題を大きくしようとしたけどね」

 

真由美の説明を聞いて摩利が得心がいったという風に頷く。そして、端末に視線を戻し、鋭い視線で義飾のプロフィールを眺める。

そこには名前の他に、生年月日などの一般的な情報に加え、入試成績、出身中学、中学時代に通っていた魔法塾が映しだされている。

それを眺めながら、摩利は絞りだすような声で義飾のプロフィールに対する感想を言った。

 

「・・・・・・以外だな。成績はかなりいいほうだ。実技は壊滅的だが、筆記で挽回するような点をとっている」

 

摩利の声色は絞りだすというより、渋々といった響きだ。たとえ事実であっても、義飾を褒めるような事を言いたくないのがよく分かる。

 

「これ・・・今は合計点しか映してないけど、内訳を見ればもっと驚くわよ」

 

そう言って真由美は端末を軽く操作する。

切り替わった画面を見て摩利は目を剥いて驚きを表した。

 

「なん・・・だ、これ。一般科目、五教科満点・・・!?。何かの間違いじゃないのか?」

 

「生憎、間違いでもなければ、バグでもないわ。それにカンニングの可能性も低い。魔法理論と魔法工学も、一般科目の点数と比べれば見劣りするけど、十分高い・・・いえ、平均以上。筆記試験の点数だけで言えば上から数えた方が早い点数よ。それに、驚くのはまだ早いわ」

 

摩利の驚嘆の声を確認した真由美は、もう一回端末を操作し、再度、義飾のプロフィールを画面に映す。そして、その一箇所を直接指で指し示した。

 

「この部分、この欄には通っていた魔法塾が書かれてるはずだけど、見て分かる通り、何も書かれていないわ。

空欄の場合は魔法塾に通っていなかったことを表すんだけど・・・。つまり独学で、魔法理論と魔法工学で平均以上の点数を叩きだしたことになるわ」

 

真由美が告げた内容に摩利は口を開けて驚愕した。

魔法教育において、指導者の存在はかなり大きい。

入学した時点では、一科生と二科生にそこまで差があるわけではないが、卒業する頃には、もう埋められない差が出来ている。

これは実技だけかと思うかもしれないが、魔法は感覚的な部分が多い以上、実技の成績はそのまま理論の成績に比例することがほとんどだ

魔法を独りで学ぶことは出来ても、それを点数に出すなんて、困難を通り越して異常だ。

摩利は言葉を発しようとするが、喉に何かが詰まったように声が出せない。一度大きく嚥下して、ようやく声が出せるようになった。

 

「おいおい、さすがにそれはおかしいだろっ!なんでカンニングの可能性が低いなんて言えるんだ!?」

 

「確かにその通りなんだけど・・・実は、先生達の間でもそういう話が持ち上がったらしいわ。でも、試験の監督を担当した先生曰く、怪しいそぶりを見せた生徒はいなかったそうよ。それに、彼の成績は中学から良かったらしいのよ。中学では三年間学年一位を守っていたらしいわ」

 

真由美のフォローを聞いても、とても飲み込めるモノではない。その心情を表すように摩利は首を振りながら言葉を続けた。

 

「それにしたっておかしいだろ。一般科目はそれで説明つくが、魔法科目を独学でこの点数なんて・・・」

 

「まぁ、本当に独学だったかはわからないわよ。優秀な指導者がいたから、塾に通う必要がなかった場合もあるし・・・」

 

そうは言うが、真由美は自分で言った可能性を信じていない。

魔法の指導者を家庭で用意出来るのは、魔法師の家系の中でも地位が高い家系に限られる。百家以上でないと難しいだろう。

しかし、化生という家には聞き覚えがない。ここまで珍しい名字だと一回聞けば憶えているだろう。

十師族の一つである七草家の長女である真由美は、魔法師の家系を全て覚えている、わけではないが二十八家までなら全て覚えているし、百家でもほとんどは一度ずつ関わったことがあるはずだ。

その真由美が知らないなら、化生という家は特別魔法に秀でた家系ではない。

それに、義飾が独学だろうと言い切れるにはもう一つ大きな理由がある。

 

「・・・ところで摩利。彼の出身中学を見て何か思うことは無いかしら?」

 

「出身中学・・・?」

 

急な話題の転換に摩利は訝しげな声を上げながら端末を覗き込む。

真由美に示された出身中学を見るが、特別な中学だとは思えない。普通の公立学校だ。

しかし、記憶を掘り起こしていくと、この中学の名前を遠くない昔に見たような気がする。

魚の骨が喉に刺さったような不快感だ。その不快感を消すために色々と考えるが中々答えは出ない。仕方なく真由美に答えを聞こうとしたところで、唐突に答えが沸いてきた。

 

「あーーっ!!ここはあれか、二年前のっ!!!」

 

この中学自体は何の変哲もない学校だ。しかし、ここに“魔法”という要素が加われば、摩利達に限らず、魔法師にとって、いや、魔法師と非魔法師、両者にとって記憶に新しい事件を思い起こさせる。

 

「ええ、そうよ。“女子中学生集団魔法暴行事件”。この学校は、この事件の舞台になった学校よ」

 

真由美は沈痛な面持ちで摩利の言葉に頷いた。

 

 

 

“女子中学生集団魔法暴行事件”

この事件は2093年の夏頃に起こった。この事件が未だ人々の記憶に新しいのは、事件が起こってそこまで時間が経って無いこともそうだが、事件の非道さと、その手口が一番大きな理由だ。

この事件は名前にある通り、犯行に魔法が使われた。それも、使用に一等厳しい規制が敷かれている精神干渉魔法と情動干渉魔法が、だ。

 

 

 

「この事件のことはよく憶えている。魔法師の少年三人、非魔法師の少年五人の計八人が、一人の女子中学生に対して性的暴行を働いた。精神干渉魔法で自由意思を奪い、情動干渉魔法で強い多幸感を植え付けた上でな。下衆い手段のせいで、この時、世論が荒れに荒れまくってたな・・・・・・まさか化生はこの事件のっ――――――」

「そんなわけないでしょ、摩利。実力重視の第一高校でも、さすがにこんな事件の犯人を、成績が良くたって入学させないわよ。それに、この事件の加害者は事件の後に全員転校してるわ。・・・名前もわかってるしね。化生君は事件の加害者じゃなくて、おそらく関係者よ」

 

この事件の加害者の少年八人は、未成年ということで実名報道されていないが、ネットに彼らの個人情報が流出したので、彼らの名前は日本人なら誰でも知っていることだ。

流出した個人情報は名前だけに留まらず、顔写真、住所、家族構成、親の仕事、その勤務先、果ては趣味や嗜好といったモノまで、加害者達のありとあらゆる情報がネットに流れた。

ごく最近に戦争が起こってフラストレーションの溜まっていた人々は、喜々としてこの事件に食い付き、親の仇をとったようなお祭り状態になった。

加害者の少年達には非難の言葉が集中し、その親も職を追われて、住んでいる所を逃げるように引っ越したが、その引っ越した先もネットに流出し、彼らの安息の地は日本になくなった。今現在も、彼らがどこにいるかは定期的にネットに流れている。

 

「関係者って、加害者以外にこの事件で関わった男なんて・・・いや、一人いるな」

 

「ええ、犯行現場を目撃して加害者達を取り押さえた男子生徒。おそらく化生君は、この男子生徒よ」

 

この事件がここまで騒ぎ立てられた理由に、この事件を鎮圧した、英雄的な働きをした男子生徒の存在が大きく関係してくる。

加害者八人、内三人は魔法師にも関わらずその全てを無力化し、被害者の女子生徒を助けた男子生徒には世間から賞賛の声が上がった。

一部魔法師からは、無力化するにしてもやり過ぎだったのではという意見があったが、圧倒的物量の世論に押し潰されて、そういう声は次第になくなっていった。加害者の少年達は、骨折以上の大怪我を負っていたのでそういう意見が出てくるのは当たり前だが。

最初はこの少年も過剰防衛で罰されそうになったが、相手の方が人数が多かったこと、相手にCADを装備した魔法師がいたこと、そして何より、その装備していたCADに殺傷性の高い魔法が登録されていたことで、少年の正当性は認められた。

その少年も魔法師であったが、加害者の少年達とは比べるまでもなく魔法力が劣っており、魔法教育を受けた過去がなかったので、それは考慮に入らなかった。

 

「この事件に関わっていたのなら、魔法師に良い印象を持ってなくて当然だ。あの時のあいつの対応も・・・まぁ頷ける。だが、どうして化生がこの男子生徒だとわかったんだ?男子生徒の名前は公表されてないはずだが・・・。七草の伝手でも使ったのか?」

 

「そんなもの使わなくても少し調べたらわかったわよ。彼の地元では有名な話みたいだし、それに、彼は一年生の時と三年生の時は無遅刻無欠席の皆勤賞だけど、二年生の時は何日か休んでるわ。ちょうど、事件のあった時期にね」

 

義飾が独学で魔法を学んだと言い切れる理由はこれだ。こんな事件に関わっていたのなら、魔法師に対して良い感情を持ってないことは明白。そんな人間が魔法師の指導者を雇うとは思えない。

それに、この事件の加害者に対する報復を鑑みれば、事件以前から魔法師に憎悪の感情を持っていた可能性もある。

加害者八人、その八人全てがどこかしらの骨を折られて無力化されているが、魔法師と非魔法師でその程度には大きな差がある。

非魔法師の五人は一箇所、多くて二箇所の骨折だが、魔法師の三人は少なくても五箇所の骨が折られれていた。

一人は顎の骨を砕かれ少しの間喋れなくなり、流動食での食事を余儀なくされた。

一人は日常生活を営むためには必要な部分の骨を軒並み折られ、例え完治したとしても骨は変形したままだろう言われていた。

そしてもう一人、主犯格と思われる少年は脊髄を損傷しており、あわや下半身不随に陥る所だったが、魔法による治療で事無きを得た。

 

 

 

 

「・・・化生のあの態度の理由はわかったが、また新しい疑問が沸いてきたな。どうして化生はこの学校に入学したんだ?」

 

「魔法の才能があったから・・・・・・ってわけじゃないわよね。言ってはなんだけど、化生君の魔法力はかなり低いわ。実技試験の結果は、下から指を折って数えて、片手の内に入ってるでしょうね。感情を無視してここに入ってくる理由としては薄いわ。それ以外の理由があるはずだけど・・・さすがにこれだけの情報だけだと予想もつけられないわ。聞いてみないとわからないわね」

 

そう言って真由美は唇に指を当てて思案する。おそらくこちらに悪感情を抱いているであろう義飾と話す方法を考えているのだが、良い案は思い浮かばない。

真由美が思案にふけったので、手持ち無沙汰の摩利が端末を操作して画面を切り替える。義飾の筆記試験の順位が気になったからなのだが、切り替わった画面に最初に映し出された人物を見て、摩利の手は止まった。

 

「ん?・・・こいつは・・・司波達也?確かあの場にもいたな。展開された起動式を読み取っていたが・・・。こりゃまたとんでもない点数だな。二位とかなり大差が着いてるじゃないか」

 

「あぁ、彼すごいわよね。魔法理論と魔法工学で満点だなんて、とてもじゃないけど私じゃ取れないわ。・・・・・・化生君と司波くんは同じクラスなのね・・・」

 

摩利の声に思案を中断して、画面に視線を移した真由美の目に怪しい光が宿る。そして、良い案が思いついたという笑顔を浮かべた。

真由美の性格を知っている摩利は、また悪知恵が思い浮かんだなと呆れた表情で見ていた。

 

「実はまだ、新入生総代の深雪さんに生徒会入りの打診をしてないのよね。明日の昼食の時に予定をとって言おうと思ってたんだけど、その時にお兄さんである司波君・・・達也君も誘ってもおかしくないわよね。それに、一年生が生徒会室に二人で来るなんて緊張するだろうから、友達を誘うように言ってもいいわよね」

 

「ハァ・・・いいんじゃないか。その時は私も同席させてもらうがな」

 

一つ一つ確認するように理由を並べていく真由美に摩利は疲れたようなため息を吐いた。しかし、反論があるわけでもないので、おざなりに同意して、同席の約束を取り付ける。自分も、義飾の事は気になるし、起動式を読み取った達也から話を聞いてみたい。勿論、新入生総代の深雪と会っておきたいという気持ちもある。

明日の予定が決まった真由美は楽しそうな笑顔で、どういう風に誘おうか考えた。

 




【悲報】森崎、告白してないのにフラれる。

【朗報】折れた昼食フラグが回復する。



【悲報】主人公にぼっちフラグが立つ。

みたいな話だしたね。

途中で主人公が語ってた話は“怪物”でググッて、出てきた検索結果をいい感じに繋げただけです。
だから難しく考えず、魔法使う時はもっとよく考えようぜ、ぐらいの意味だと思っていただいて大丈夫です。
ってか色々間違ってそう。間違ってたらすぐ修正します。

そして、事件の方なんですけど・・・性に多感な中学生が魔法っていう手段持ったら、当然こうなりますよね。
原作でこんな事件あったと語られててもおかしくない。
そして劣等生の世界にも鬼女はいるもよう。コワイ。

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