魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート   作:tomato

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第四話

「お兄様、お待たせいたしました」

 

「早かったね・・・?」

 

義飾のたちの話が終わるのを見計らったように、四人の輪の外から声が掛けられた。生憎、義飾はその声に聞き覚えがなかったが、掛けられた言葉から、声の主が今さっき話に出ていた達也の妹だということがわかった。

声が掛けられた方に顔を向けると、達也の妹らしき美少女と、その後ろをゾロゾロと着いて来ている集団が見えた。

妹はともかく、後ろにいる集団は予想外だったのか、達也の返す言葉が疑問形になっている。集団の内の一人が、その達也の言葉に応えるような形で声を掛けた。

 

「こんにちは、司波くん。また会いましたね」

 

女性にしても小柄な体格に、腰まで届く波立った黒髪。最初は同じ新入生だと思った義飾だが、落ち着いた雰囲気と、左腕にある幅広のブレスレット―――術式補助演算器から、上級生、しかも何らかの役員だろうと当たりを付けた。もっとも、入学式で寝ていなければ彼女が生徒会長・七草真由美だということは簡単にわかったのだが、生憎、頭の中で行われた推理にツッコめる者はいなかった。

人懐っこい笑顔で真っ先に達也に声を掛けたので、達也とは旧知の仲かと思ったが、達也は会釈しただけだったのでその考えは否定された。

達也の愛想のない対応にも気分を害した様子はなく、生徒会長は微笑みを崩さない。笑顔がポーカーフェイスになっているのか、それともこれが生徒会長の普段通りなのか、わからない。しかし、興味もないので義飾はすぐに視線を逸らした。

逸らした先にいたのは、新入生総代である達也の妹だ。改めて、その姿をじっくり見る。背中を覆うストレートの黒髪。着痩せしているが、それでも十分発育がいいスタイル。そして、前世を含めても中々お目にかかれないほど端正な顔立ち。

 

(兄の方には悪いけど、似てないな)

 

視界の端に映っている達也と比べて、心の中で呟く。達也も確かに整った容姿をしているが、目の前の美少女と比べると、どうしても何歩か劣ってしまう。二人を並べて見て、兄妹だと看破出来る者は何人いるだろうか?それ程に似ていない兄妹だ。しかし、

 

(オーラの面差しが似てる、か・・・・・・確かにそうだな。二人は顔立ち云々じゃなく、もっと根本的な所が似てる)

 

美月が言っていた事を思い出し、それに強く同意する。

 

(腹にイチモツ抱えてるのはもちろん、隠し事も兄と一緒で多いな。それに秘密を共有・・・いや、同じ秘密を抱えてるのか。兄妹で一緒ってことは家関連か?もう少し目を凝らせば見えるだろうが、さすがにやめとくか)

 

ジッと目を細めて、達也とその妹に焦点を合わせる。その時、彼の瞳孔が片方は収縮し、片方は膨張するという不可思議な動きをしたが、幸い、それを見取った者はいない。そうやって二人の奥にあるものを覗こうとした義飾だが、全てを暴く前に視線を外した。

 

「お兄様、その方たちは・・・・・・?」

 

もう少しで個人情報を全て知られそうだったとはつゆ知らず、達也の妹が兄に問い掛ける。

 

「こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。そして化生義飾くんだ。同じクラスなんだ」

 

妹の問いに達也が半身になって同伴者を紹介していく。最後に紹介された義飾は、キャラに合わない君付けをされて背中にむず痒いものが走ったが、話の腰を折るのもアレなので何も言わなかった。

 

「そうですか・・・・・・早速、クラスメートとデートですか?」

 

小首を傾げて再度、問い掛ける達也の妹。その仕草は彼女の美貌も相まってかなり魅力的だが、何故か不穏な雰囲気を感じる。

 

「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだって。そういう言い方は三人に対して失礼だよ?」

 

妹の不穏な雰囲気の原因に思い当たったのか、達也がなだめるような口調で妹を窘めた。達也の言葉に妹は、一瞬ハッとした表情を浮かべ、すぐに佇まいを直し、お淑やかな笑顔を取り繕った。

 

「はじめまして、柴田さん、千葉さん、けしょう(・・・)くん。司波深雪です。わたしも新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね」

 

「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「よろしく。あたしのことはエリカでいいわ。貴方のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」

 

「ええ、どうぞ。苗字ではお兄様と区別がつきにくいですものね」

 

三人の少女が、改めて自己紹介を交すのを義飾は黙って見ていた。さすがに、女性の輪の中に混じっていくほど、空気が読めないわけでもない。それに、自己紹介が必要だとも思わなかった。

達也の妹といってもクラスが違うし、何よりあっちは一科生だ。そこまで親交が出来るとも思わない。もし、予想を外れて関わる機会が多いなら、その時に改めてすればいい。

 

「あはっ、深雪って見掛けによらず、実は気さくな人?」

 

「貴方は見た目通りの、開放的な性格なのね。よろしく、エリカ。柴田さんも私の事は名前で呼んでもらって構わないわ。そのかわり、私も名前で呼んでもいいかしら?」

 

「あっはい、大丈夫です!」

 

姦しい、という言葉が頭に思い浮かぶ状況だ。正確には、気が合った深雪とエリカが盛り上がり、美月がそれに追随しているのだが、三人で仲良くしてることには変わりない。

達也と置いてけぼりにされ、傍観に徹していた義飾だったが、以外なことに深雪はそれをよしとしなかった。

 

けしょう(・・・)君も、よろしくお願いします」

 

エリカと美月に向けていた顔を体ごと向き直し、真っ向から義飾と向かい合う深雪。義飾の容姿に対する恐れは全く感じられない。

声をかけられるとは思ってなかった義飾は、一瞬言葉に詰まったが、なんとかすぐに応える事が出来た。

 

「・・・・・・化生(・・)だ。化けるに生きるで化生っていう。アクセントは前に置く。お前の発音だと化粧になっちまう」

 

わざわざ言うほどの事では無いが、他に返す言葉も思いつかなかったので、とりあえず間違いを指摘しておく。

少しぶっきらぼうな言い方になったのは、発音を間違われて気に障ったわけではなく、容姿と一緒で指摘する機会が多いからうんざりしただけだ。

間違いを指摘しながら、義飾は彼女がこちらに声をかけてきた理由を考えた。とは言え、理由はなんとなく察しが付いていた。恐らく、兄のクラスメイトになる人物を見定めるためだろう。

義飾は自分の容姿をしっかりと自覚している。勿論、それが起こす不都合も。

制服を着崩し、ピアスをジャラジャラと付けて、染髪したような明るい髪色。顔にある小さいキズも、前述した特徴を踏まえれば、悪い想像をかきたてる。

そんな人物が兄の隣にいれば、妹としては気になるのは仕方ない。特に彼女はかなりブラコンの気があるようだ。短い時間しか見ていないが、それを察するには十分な材料を提供された。

 

(お兄様って・・・・・・リアルで初めて聞いたわ。アニメの中にしか存在しない言葉じゃないんだな。育ちがいいんだろうな。・・・それだけが理由じゃなさそうだけど)

 

考えがまとまり、やっぱりちゃんと見ておくべきかと思ったが、すぐに却下した。知らずの内に自分の全てが覗かれるなんて自分がされたら嫌だ。

『自分の嫌な事は、人にしてはいけない』まるで小学校で掲げる目標みたいだが、人としては最低限の礼儀だ。母にもよく言われていた。

特殊な能力を持つ以上、それを使う際は厳しく気を使う必要がある。それは秘匿的な面でもそうだし、人道的な意味でもある。

 

「それはすいません。化生(・・)くん・・・これで大丈夫ですか?」

 

「あぁ、完璧だ。ってかそこまで気にしてないから、そんなに申し訳無さそうにしなくていいぞ。よく間違われるからな」

 

義飾の指摘に、深雪は申し訳無さそうに顔を歪め、謝罪してから名前を言い直した。その様子に無愛想過ぎたかと、頭を掻いて反省する。義飾としては今までと同じように指摘したつもりだったのだが、彼女に対する警戒や猜疑が出てしまったようだ。ここまで丁寧に謝られたら、今度はこちらに奇妙な罪悪感が湧いてくる。その罪悪感から逃れるように、義飾は早々に話を切り上げた。

 

「ところで、後ろの連中はほっといて大丈夫なのか?親交を深めにきたってわけじゃなさそうだが」

 

罪悪感から逃れるための話の転換だが、気になっているのは本当だ。後ろに目を向ければ、未だ笑みを絶やさない生徒会長と、少しイライラしている様子のその他集団が見える。義飾の言葉に深雪は慌てて後ろを振り向く。しかし、深雪が何かを言う前に、生徒会長が義飾の言葉に応えた。

 

「大丈夫ですよ」

 

微笑みをさらに深くし、問題ないと言う生徒会長。それが、待たされた事に対するものなのか、これからの予定に対するものなのかは言及していないが、恐らく両方だろう。続いた言葉でそれが証明された。

 

「今日はご挨拶させていただいただけですから。深雪さん・・・・・・と、私も呼ばせてもらってもいいかしら」

 

「あっ、はい」

 

謝罪の言葉を言おうとした深雪だが、振り返った先にある人懐っこい笑顔に制された。さらに、その笑顔のまま心理的な距離を詰められ、思考が回復してないこともあって容易く了承してしまう。まぁ、元々拒否する理由は無いのだが。

生徒会長の言葉に、後ろにいる集団は不満なようだ。刺々しい雰囲気がさらに鋭くなる

 

「では深雪さん、詳しいお話はまた、日を改めて」

 

結局、最後まで笑顔が崩すことなく、軽く会釈をして生徒会長がこの場を去ろうとする。しかし、生徒会長が踵を返した所で、耐え切れなくなった集団の内の一人、一番近くに侍っている一科の男子生徒が生徒会長を呼び止めた。

 

「待ってください会長、それではこちらの予定が・・・・・・」

 

男子生徒の言葉に、成り行きを見ていた義飾の眉間にシワが寄る。

普通、用事がある場合は事前に伺い立てるのが常識だ。たとえ友人同士で遊ぶ場合でも、事前に電話やメールで連絡するだろう。しかし、男子生徒の言葉と今の状況から、それを行っていないことは容易にわかる。つまり、人として最低限の礼儀を守っていないことになる。義飾は気の長い方ではないが、たとえ義飾でなくても男子生徒の言葉に不愉快を覚えるはずだ。

整っていて、厳つい義飾の顔が敵意を持って歪めば恐ろしい形相になる。それを目の当たりにした集団の内の女子生徒が、自分に視線が向いてる訳でもないのに身を強張らせた。

 

生徒会長が男子生徒を窘めようとするが、それに割り込むようにして、義飾が不快を吐き出した。

 

 

 

「おい、お前、アポイントメントって知らねぇのか?社会に出れば、必須の礼儀なんだが。魔法科高校ってのは魔法は教えてくれても、礼儀や常識は学ばねぇのか?」

 

「何ぃ?」

 

義飾の言葉に、今度は男子生徒の顔を歪む。いや、男子生徒だけではない。この場にいる全員、義飾の声を聞いた者の顔が驚愕に歪んだ。みんな一様に驚愕したが、そこからの表情の変化はかなり違った。義飾の近くにいる美月たちは心配の色が顔に浮かべるが、その反対側、深雪が引き連れてきた集団は敵意によって更に、顔を大きく歪める。唯一人だけ、振り返った生徒会長は笑顔が一瞬崩れただけで、それ以上の変化はない。

 

集団の敵意を全身に浴びるように、義飾が数歩前に出る。顔は先程と変わらず不快に歪んでいるが、僅かに口角が上がっている。前に出た際、深雪を庇う形になったのは意図したことではないが、後の事を考えるとその方が都合がいい。

義飾が前に出てきたことに男子生徒は一瞬怯んだが、ナメられてはいけないと思い、表情を引き締めて義飾に相対しようとする。しかし、再度踵を返した生徒会長が頭を下げた事で、それはかなわなかった。

 

「確かに礼を失していましたね。気分を害してしまったのなら謝ります。すいません」

 

生徒会長が頭を下げた事に男子生徒の目が大きく見開かれる。それは会長が頭を下げたことに愕然としたのと、自分の発言が原因で会長が頭を下げるはめになったという、後悔に似た罪悪感を抱いたからだ。

会長が頭を下げている以上、自分もそれに続かなくてはならない。それが自分の失態が原因ならなおさらだ。しかし、――――――自分をなじってきた者に視線を向ける。その人物は、控えめに言っても、いや、どれだけよく言おうと立派な人物であるはずがない。世間一般的には不良と呼ばれる類の人間だ。そんな人物に自分が悪いとはいえ頭を下げるのは、彼の自尊心に大きなキズがつく。それに、彼の制服には成績優秀の証であるエンブレムはない。つまりは二科生。そのことが更に、彼が頭を下げることを躊躇させる。

肥大化し、凝り固まったプライドと同様、彼の身体も硬くなり、次の行動をとれないでいた。

 

そんな男子生徒の葛藤が見なくてもわかった義飾は、既に彼から視線を――――――意識から外している。義飾が目を向けるのは、まだ頭を下げたままでいる生徒会長だ。男子生徒が会長と呼んでいたので、彼女が生徒会長であることはわかっている。自分の予想が当たった事で気分を良くしている義飾は、このまま謝罪を受け取ってもいいと思っている。いや、受け取った方がいいと考えている。

入学初日で問題を起こすことの愚は義飾も十分理解している。しかも相手は生徒会長だ。今ならばまだ、謝罪を受け取れば後腐れなく別れることが出来るだろう。これ以上問題を長引かせば義飾だけでなく、周りの人間にも迷惑がかかってしまうかもしれない。

だが、ここで引いても意味は無いとも思っている。

 

(もう十分敵愾心を煽っちまったから、今更友好的にってもなぁ。それに、隣の男は歪んだ選民思想と差別意識の塊みたいなやつだ。俺がどんな対応をしても気分を良くしないだろう。生徒会長に恨みは無いが、いけるとこまでいくか。・・・・・・自制も限界だ)

 

「・・・確か、司波妹は新入生総代だったよな?だったら、準備やリハーサルのために俺らよりずっと早い時間に学校に来てたはずだ。実際、何時に来たのかは知らねぇけど、今日の予定を聞く時間ぐらいはあっただろ。少し、段取りが悪いんじゃねぇの?」

 

考えが纏まった義飾は、矛先を男子生徒から生徒会長に向け、非難の言葉をさらに口から出す。その口は、隠し切れないほど釣り上がっており、目には蔑む色が多分に乗っている。

その顔を見て生徒会長の眉がピクリと動く。彼が自分達を窘めるためでなく、自らの愉悦のために非難しているのではと思ったからだ。

 

「・・・・・・その通りかもしれませんね。失念していました。こちらの配慮が至らなくて申し訳ありません。それでは私達はこれ」

「それと」

 

しかし、それと態度に出す訳にはいかない。彼の思惑がどうであれ、悪いのは自分達だ。誠意を持って謝るしかないだろう。

そして、事が長引けば彼のためにもならない。改めて謝罪をして、この場をすぐに立ち去ろうとした会長だったが、義飾が言葉を続けたことでそれはかなわなかった。

 

「その、大人数で来たのはどういう意図があるんだ?まさか、司波の妹にどんな予定があったとしても、威圧して、そっちの都合を優先させるためか?だとしたら、かなり不愉快だな」

 

はっきり言って義飾の指摘は、言い掛かりのようなものだ。かなり穿った捉え方をしない限り、そんな風に思う者はいないだろう。やはり愉悦目的だったかと、会長の眉が僅かに歪む。

まじめに受け答えする必要は無いかもしれないが、否定しておかないと禍根を残す事になる。立ち去るために上げていたつま先をもう一度地に付けた。

 

「そういう意図はございませんが、そう見えたのならすいません。重ねて謝罪させていただきます」

 

短い時間で都合三回目の謝罪となるが、今回が一番深く頭を下げた。言葉も出来るだけ丁寧なものを選び、相手の不興を買わないようにする。しかし、その丁寧な言葉が、隠し切れないトゲを露出させていた。

頭を下げたまま義飾の顔を窺う。相変わらず侮蔑と愉悦の色が見える。彼の容姿も相まって、軽薄そうな笑顔だ。

何かを言う様子はないが、彼の場合、文句があるなら遠慮無く言うだろう。一応、謝罪に満足したという事か。

下げていた頭を上げ、今度こそこの場を去るために、生徒会長は踵を返した。

 

「では、私達はこれで」

 

振り返ったその顔に、今まで崩さなかった笑顔はなかった。




前半はコピペ、後半はアンチ。
とりあえず、はんぞー君は泣かす。
真由美もついでに泣かす。
森崎は当然泣かす。
ほのかも泣かす。
十文字はボコる。
風紀委員長は知らん。

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