魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート 作:tomato
周りがだんだん賑やかになっていく。その喧騒が意識を撫でるように覚醒を促す。まどろみまではすぐに引き上げられたが、未だ覚醒には至らない。
心地よく睡魔に攻められる感覚は胎内での最初の覚醒を思い出す。懐古の気持ちが、引き上げられた意識を再度落としていく。
もう一度意識が落ちきるところで、肩を叩かれて一気に覚醒まで引き上げられた。
「んあぁ?」
「あっ起きられましたか?」
寝起きでボヤケた視界に何かが映る。何か言われた気がするがあいにく聞き逃してしまったので、それに応えることができない。睡魔を追い払うために眉間の下を強く揉みほぐす。そしてやっと今の状況を把握出来た。
「あぁーー寝てたのか。式は・・・もう終わってるか」
「は、はい、さっき終わった所で、今からIDを受け取りに行く所です。終わったのに動く様子がないので心配しましたよ。」
「助かったよ柴田さん。起こしてくれなかったら日が暮れてるところだ。ありがとな」
「いっいえ、大したことはしてないです」
晴れた視界に映ったのは義飾の顔を覗きこんでいた美月だ。肩を叩くために近寄っていたので、美月と義飾の目が近い距離で合う。美月はその傷の多い整った容姿に二重の意味でドギマギしつつ、義飾の目が左右で色が違うことに気付いた。左目は一般的な黒色だが、右目は透けたような明るい茶色をしている。コンタクトを着けているのかと思ったが、そんな様子もない。
美月はその事が気になったが今は優先することがあるので、彼の目のことは端に追いやり義飾に今の状況を説明した。
義飾が美月に礼を言って、立ち上がって大きく伸びをする。美月は予想以上に義飾の身長が大きいことに目を白黒させるが、彼の関節から小意気のいい音を鳴った事で意識が戻ってくる。
音が鳴らなくなった頃、ようやく義飾の頭が働くようになった。ポケットから出していた左手を人の目に触れる前に再度しまう。一番近くにいた美月もそれを見ることはかなわなかった。
改めて義飾が周りを見渡すと壇上には人はおらず、席もまばらに人が抜けており式が終わっっていることが見て取れた。
近くに目を向けると義飾を待っていたのは美月だけではないようで、少し離れた所に入学式が始まる前に自己紹介した達也とエリカが立っていた。
美月に再度礼を言い、一緒に二人の所に向かう。
「二人も悪かったな。予定とかなかったのか?」
「いや、大丈夫だ。予定はあるがまだ時間はある。それに式が終わったのはついさっきだ。そこまで待っていない」
「そっか、そりゃ良かった。・・・お前は大丈夫なのか?」
二人に謝れば達也が気にしていないと答えた。相変わらず無表情で感情が掴みにくいが、機嫌が悪くなってる様子はない。
一つ頷いて隣に目を向ける。そこには義飾を射殺せそうな程睨んでいるエリカがいた。どうやら最初の邂逅がよほどイケなかったらしい。完璧に義飾に敵対心を持っている。一応、気を使って声をかけるが、穏やかな返答は期待できないだろう。
「勘違いしないでよねっ!あたしはあんたを待っていたんじゃなくて美月を待っていたんだからっ!美月が起こさなきゃかわいそうだって言わなかったら、あんたなんかほって先に行ってたんだから!」
予想通り堰を切ったように言葉を吐き出すエリカ。待たされた苛立ちも一緒に吐き出しているようだ。
その様子に、隣にいる達也はまたか・・・と肩を竦め、義飾の後ろに着いて来ていた美月はあわあわと慌て出す。
そして言われた当人の義飾は・・・一瞬虚を突かれたような顔をして、怪訝な表情をした。
「あーーそれはあれか?もしかしてギャグで言ってるのか?それとも素で言ってるのか?判断できないんだが・・・」
「ハァ?何よそれ?どういう意味よ?」
義飾の言葉に今度はエリカが怪訝な表情を浮かべる。いや、エリカだけではなく達也と美月も、義飾の言った事が理解出来ずに同じような表情を浮かべた。
三人のその顔を見た義飾は納得した表情をして、息を小さく吐いた。
「そっか・・・そうだよな・・・そりゃそうだよな。悪い、今言ったことは忘れてくれ。で、ID受け取りに行くんだよな?どこに行けばいいんだ?」
「あ、あぁIDなら窓口に行けば受け取れる。講堂を出てすぐそこだ」
「じゃあ行くか。って待たせてた奴の言葉じゃないな」
安堵と落胆が混ざった複雑な表情をした後、義飾は何もなかったように話を変える。
達也は気になるつつも、本人が忘れろと言ったのでそれに言及することはせず義飾の質問に答える。(言い争いの火種になることを当人が流したのに蒸し返したくなかったという思いもある)
美月も、二人が言い争いに発展せずにすんでほっと息を吐いた。
エリカだけは中途半端な所で話を変えられて納得がいかずもう一度義飾に噛み付こうとしたが、美月になだめられて渋々怒気を収めた。
(さすがにツンデレなんてもんがこの世界にもあるなんて調べてないからな・・・三人の様子を見る限り、あったとしても浸透はしてないだろうけど。・・・・・・なんか変な気分だ)
※※※
「あたしE組!!みんなは?」
講堂から出て四人で窓口に向かい、最後にIDカードを受け取った達也が合流したのを確認してエリカが問い掛ける。先ほどまで不機嫌だったのが嘘のような活発な笑顔だ。IDカードを受け取っったことで機嫌が治ったらしい。なだめ続けていた美月の尽力のおかげでもあるだろう。といっても治ったのは機嫌だけで、義飾に対しての敵対心は継続中だ。先の質問も“みんな”と言ったが、そこに義飾が入ってるかは怪しい。とりあえず義飾の事は脇に置いといて高校入学というイベントを楽しもうとしているのだろう。
義飾はエリカのその意図がわかっていたが特に何も言わなかった。義飾は邂逅時のエリカとの言い争いを少し悔やんでいた。一応前世の記憶を持っている精神的年長者であるのに売り言葉に買い言葉で喧嘩したのはかなりかっこ悪い。あの時は眠たいのに睡眠を邪魔されて不機嫌だった、というのは理由にならないだろう。十分な睡眠をとって気持ちが落ち着いてる今は、機会をみて謝ろうと思っている。
「私もE組です」
「俺もE組だ」
「なんだ、ここにいる全員E組か・・・すごい偶然だな」
「本当ですね!!なんだか運命を感じます」
エリカの問いかけに順に答えていく。結果全員が同じクラスだったことがわかった。そのことに義飾は感慨深げに呟き、美月がそれに同意する。少しオーバーな言い方だが美月もエリカ同様、高校入学というイベントを楽しもうとしているのだろう。もしかしたらただ浮かれているだけかもしれないが。
(運命ね・・・・・・。そんなんじゃなく、作為的なもんを感じるがな)
美月の言葉に義飾が胸中で呟く。勿論それを聞いた者はいない。しかし、楽しそうに話すエリカと美月に対比するような諦観とした表情を達也だけが見ていた。
「それでこれからどうする?ホームルームに行ってみる?」
ひとしきり美月と盛り上がったエリカがホームルームに行くことを提案する。 入学式が終わりIDを受け取ったら自主解散になってるのでこのまま帰宅しても問題はない。だが、新しい友人を作るなら一度ホームルームに寄った方がいいのは確かだ。美月も同じ思いなのかこちらを見上げている。
生憎、義飾は予定があるので断ろうとした所、それより先に達也が頭を振った。
「悪い。妹と待ち合わせしているんだ」
「そういや予定があるって言ってたな。妹ってことはわざわざ迎えに来てるのか?」
講堂で話していたことを義飾が思い出す。妹と聞いて一つ以上年下の中学生(それも学校まで兄を迎えに来るブラコンを拗らせた)を想像するが、達也はそれを首を横に振って否定する。
「いや、妹といっても学年は同じだし、入学したのも同じこの学校だ」
「あぁ?それってつまり・・・」
「あの、その妹さんってもしかして・・・・・・新入生総代の司波 深雪さんですか?」
義飾の言葉を遮るように美月が質問する。自信がなさそうな言い方だがやけに具体的なので確信に至る何かを掴んでいるのだろう。達也はその質問に、今度は首を縦に振ることで肯定した。
「へぇ~じゃあ、やっぱり双子?」
達也の肯定にエリカが尋ねる。まるで正解を確認するような言い方だが、義飾と美月も同じ思いなので何も言わず達也に目を向ける。しかし返ってきたのは予想を外れて否定の言葉だった。
「よく訊かれるけど双子じゃないよ。俺が四月生まれで妹が三月生まれ。一応年子だ。俺が前に一ヶ月ずれても妹が後ろに一ヶ月ずれても、同じ学年じゃなかった」
「そりゃ双子より珍しいな。それでも年子って言うのか?」
「ああ。年子は年ごとに生まれた同腹の子供のことだから、数え年が一つ違うなら学年は関係ない」
淀みなく説明が出来るのはよく訊かれることだからだろう。義飾の疑問にもすかさず補足を入れた事からも慣れていることがわかる。心なしか張り付いた無表情に辟易とした色が見えた。
「ふーん・・・やっぱりそういうのって、複雑なもんなの?」
優秀な妹と同じ学年、複雑でないはずはないが、たとえ気になったとしても口に出すようなことじゃない。
エリカのあけすけな質問に義飾の眉が少し寄る。悪気はないみたいだが、考えも足りないみたいだ。
「お前・・・それはデリカシーなさすぎ」
「うっ!・・・・・・ごめんない」
義飾の咎めに、自覚があるのかエリカが呻く。そして消え入りそうな声で頭を下げた。義飾はその様子に少し驚いた。たとえ自覚があったとしても義飾の指摘に素直に頷くと思ってなかったので、また癇癪を起こすと思っていたからだ。考えは足りなくても人並みの思いやりはあるようだ。ただ言葉を頭で反芻するより先に口から出てしまうだけなのだろう。初対面から思っていたがエリカはかなり直情型なようだ。
エリカの謝罪に達也は手を降って気にしてないことを伝えた。
「それにしてもよくわかったね。司波なんてそんな珍しい苗字でもないのに」
気にしていないにしてもあまり長く話したくないことなのか達也が話題を変えた。その質問に二人の少女が笑った。
「いやいや、十分珍しいって・・・まぁ“化生”には負けるけど」
エリカが苦笑いで達也に答えたあと、流し目で義飾を見る。その視線を受けて義飾は肩を竦めた。
「だろうな。全国に化生さんが何人いるかって、俺の親戚の数がそのまま答えになるだろうからな」
「えっ!ってことはあんたの家系しかいないってこと?」
「らしいぜ。さすがに詳しく調べてないから確かな事は言えないが、大叔父が自慢気に話してたよ」
流し目だった視線を義飾に向けて驚いた表情を見せるエリカ。既に義飾への敵対心は抜けているようだ。
このまま話が脱線するかと思われたが、続いた美月の言葉で引き戻された。
「苗字もそうですけど、お二人は面差しが似ていますから・・・」
「似てるかな?」
エリカの苦笑いに対して、こちらは自信なさ気な、控えめな笑みだった。
美月の言葉を受けて達也は首を捻った。そして、同じく義飾も首をかしげた。入学式を寝て過ごした義飾は先程から話に出ている新入生総代を見ていない。達也の妹だということは分かったが、それ以上に話が広がるとついていけなくなる。
そんな義飾の内情を知らずに話はどんどん進んでいく。
「そう言われれば・・・うん、似てる似てる。司波君、結構イケメンだしさ。それ以上に顔立ちがどうとかじゃなくて、こう、雰囲気みたいなものが」
「イケメンって、何時の時代の死語だ・・・顔立ちが別なら、結局にてないってことだろう」
「ちょっと待った。入学式に寝てた俺に説明をくれ。とりあえず司波の妹ってのはわかるが、それ以外何もわからん」
段々話についていけなくなることに寂しさを憶えた義飾が、完璧に置いて行かれる前に制止をかける。その途中で前世で聞き慣れた言葉が出てきて驚き、さらにその言葉が死語扱いされてることに愕然としたが、今はそのことは頭の隅に追いやった。
その制止を受けた三人は、苦笑いと呆れた表情を浮かべた。
「そう言えばそうだったわね。ってか最初から最後まで寝てたわけ?普通、途中で起きそうなもんだけど」
「ガッツリ寝てた。いつ始まって、いつ終わったのかもわからん。気がつけば柴田さんに起こされてた。昨日はあんま寝てなかったからな」
「なにそれ。もしかして入学式が楽しみで眠れなかったの?」
「ハハッ、まぁそんなところだよ。・・・ってかあん時は悪かったな。眠いのに寝るの邪魔されて気が立ってたんだ。そんなのは理由にならないだろうが、まぁ許してくれ」
呆れた表情を意地悪そうなものに変え、義飾をからかおうとしたエリカだが、返ってきた謝罪に思考が止まった。
エリカとしては入学式での一悶着は、既に水に流しているつもりだったので、今更謝られたことにびっくりした。
謝罪された以上、何も言わない訳にはいかない。意地悪気な顔から一転、バツが悪そうに顔を歪め、義飾から背けて小さい声でそれに答えた。
「・・・別にいいわよ。もう気にしてないし、それにあの時はあたしの態度も悪かったし。・・・あたしの方こそゴメン」
「ほんじゃ、お互い水に流すってことで。で、話を戻すが、司波の妹ってどんな奴なんだ?結局、司波には似てるのか、似てないのか、どっちなんだ?」
エリカの謝罪を聞いてすぐさま話を戻す。両者が気にしていないなら、これ以上この話を続ける意味はない。二人が仲直りして嬉しそうにしている美月の温かい視線に気恥ずかしくなったのもある。
話を戻すための義飾の質問に、美月が微笑んだまま答えた。
「お二人は顔立ちよりも、オーラが凛とした面差しをしていてよく似ています」
「あ~オーラね、オーラ。うん、なんとなくわかるわ」
美月の抽象的な表現に義飾は首をかしげたが、エリカが得心したように頷く。ただ調子良く便乗したようにも見える。
エリカのその様子に苦笑した達也だが、特に言うことはないようですぐに美月に視線を移した。
「オーラの表情なんて、よくそんなものが分かるものだ。・・・・・・本当に目がいいんだね」
達也の言葉に美月が身を強張らせる。まるで、隠し事がバレてしまったリアクションだ。そんな美月を達也の無表情が射抜く、僅かに警戒の色を滲ませて。
「え?美月、メガネ掛けてるよ」
その様子に気付いていないのか、それとも気にしていないのか、エリカが脳天気に問い掛ける。
エリカの問いに達也は意識は美月から外さず、視線だけをエリカに向けて答えた。
「そういう意味じゃないよ。それに、柴田さんのメガネには度が入ってないだろう?」
エリカがその事を確かめるために顔を寄せて、美月のメガネをのぞき込む。美月はかなり居心地が悪そうだ。それが顔を寄せられたからなのか、これ以上隠し事の露呈を恐れてなのかは判別つかない。
「ふ~ん・・・・・・でも、目だったらあんたも珍しい目してるわよね」
美月の内情を知ってか、知らずか、エリカはすぐに視線を義飾に移し、話を変える。矛先が自分から他に移った事で美月は安堵の息を吐いた。
「そうですよね。左右で色の違う目なんて初めて見ました」
「それってカラコンでも付けてるの?」
これ幸いとばかりにエリカに同意する美月。続いてエリカが誰もが思う疑問を投げかける。達也は何も言わないが、気にはなってるようで視線は義飾に向けている。
全員の視線が義飾に―――正しくは義飾の明るいブラウンの右目に集まるが、美月と違って隠すつもりのない義飾は、気にした素振りを見せずエリカの疑問に答えた。
「生憎、完全無欠の裸眼だ。ついでに言えば、頭も地毛だし、肌もファンデーションは塗ってない。全部母親譲りだ。それに、ハーフでもないし、クォーターでもない純日本人だ」
手を使って右の目蓋を大きく開きながら義飾が答える。先程の達也と同じでその言葉に淀みはない。それも当然だろう。今まで何十回とされてきた質問だ。それに対する答えは決まってくる
義飾の辟易とした表情に三人が苦笑する。しかし、質問以上に答えが返ってきたので、次に聞こうと思っていた事がなくなってしまった。言葉に窮している美月とエリカだったが、達也はそうはならなかった。
「純日本人って、なおさら珍しいな。オッドアイは白人によく現れるって聞いたけど」
「ん?あぁ、元々はちゃんと両目一緒の色だったんだが、色々あってな。オッドアイになったのは十歳の時だ」
「そうか」
先天性虹彩異色症は白人に多く現れる。しかし、東洋人でも一万分の一の低確率で現れることがある。その事を知っていた達也だったが、否の答えが返ってきて、言葉少なくそれを流した。
後天性虹彩異色症の場合、その要因は事故か病気だ。といっても、義飾の容貌を見ればどちらが要因かは想像できる。義飾に気にした様子はないが、詳細を語らなかったのはそれが原因かもしれない。勿論、ただ説明が面倒臭かっただけかもしらないが。
なんにしても、出会ったその日に追求するのは無礼だろうと考えた達也は、ちょうど良く時間切れ、待ち人も来たので、それ以上質問はしなかった。
後半はほとんど原作のコピペ。
原作に沿いつつ、出来るだけ剥離させたい。