魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート   作:tomato

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第二話

魔法の世界は徹底した実力主義。と先に語ったが、教育に最も力を入れる高校ではそれが顕著に現れる。二科生制度がその最たる例だ。

第一高校の定員数は二百人。しかし、その二百人が魔法実技の個別指導を受けられる訳ではない。教育員の不足が理由だ。

入学試験の成績で定員二百名は真っ二つに振り分けられる。成績上位の百人は一科生、下位の百人は二科生として。個別指導を受けられるのは一科生のみ。二科生は不慮の事故で魔法を使えなくなった一科生の代わりに在学しているにすぎない。

 

一科生は優越感を、二科生は劣等感をお互いに対して抱いている。そこに差別意識が生まれるのは自然な流れだ。

補欠、スペア、一科生は色んな言葉で二科生を貶める。一応事実であるから二科生もそれを受け入れる。

制服に八枚花弁のエンブレムが一科生にだけ施されるのも差別意識を助長しているだろう。

事実、そのエンブレムの有無から一科生を《花冠(ブルーム)》、二科生を《雑草(ウィード)》と呼ぶ風潮が出来ている。

お互いの差別意識は、既に修復が難しい段階まできたいた。

 

 

 

 

 

(ブルームにウィード、なんでいちいちこんなシャレた名前に言い換えるかねぇ・・・。これ考えた奴は黒歴史確定だな。今頃悶えてるか、それとも今でも得意気か・・・。どうせならもっと突き詰めた名前考えろよな。オシャレじゃなくてオサレな感じに。)

 

 

数多の視線を受けながら、少年は入学式が行われる講堂の扉をくぐる。式が始まるまであと十五分もないので席はほとんど埋まっていた。仕方がないので席を探すために講堂内を探索する。

 

 

(そうだな・・・・一科生は《フロール・ヘルミナシオン》二科生は《マラ・イエルバ》なんてどうよ?なんか必殺技みたいだけど超オサレだろ。生い茂れ!《マラ・イエルバ》!!!・・・・・・うん、ないな。普通にダサいわ)

 

取り留めのない事を考えながら講堂を歩いていると、一つの事に気が付いた。席が前半分に一科生、後ろ半分は二科生と綺麗に分かれている。

 

(席は決まってないはずだが・・・。差別意識がそうさせてんのか、それともただ日本人らしい几帳面が出てるだけなのか。多分両方だな)

 

入学早々垣間見た差別意識に辟易としつつ、前の世界と変わらない国民性に安堵する。

前の世界と今の世界では西暦で一世紀近く開きがある。それだけ開いていれば技術レベルや文化に大きな違いが出来る。そんな中で変わらない所を見るとやっぱり嬉しく感じる。魔法なんてものがあるからなおさらだ。

 

 

ひと通り講堂を見渡した少年は止めていた足を動かす。向かうのはもちろん二科生が集中している後ろ半分だ。

エンブレムのない胸元を軽く撫でて、その手をそのまま右耳に持って行ってそこに在るピアスをいじる。

別に彼は一科生や二科生に対して思うことはない。そこまで魔法に頓着していない。というより、劣等生なんていうレッテルよりも大きいものがべったり張り付いてるので気にならない。周りもエンブレムが無いことより別のところに目が行くだろう。

後ろにいくのはただ入学式に興味が無いからだ。こういう行事が面白かったことなんて前の世界含めて一度もない。

 

歩みを再開するとすぐに空いている席を見つけた。隣に人が座っているが、近くで他に空いている席がないので仕方なくそこに座る。訳あって昨日はそんなに寝ていないので式が終わるまで寝ていようと思い目を瞑ると隣から声がかけられた。

 

「ちょっと、断りもなく隣に座るってどうなの?一言あってもいいんじゃない?」

 

「あぁ?」

 

睡眠を邪魔されて不機嫌になったのが声に現れる。

声がかけられた方を見ると勝つ気そうな女の子がいた。整った顔を機嫌が悪そうに歪ませてこちらを見ている。

 

彼の鋭い視線を向けられても怯まない様子から、印象通りの女の子みたいだ。

 

「席は決まってないって知らねぇのか?」

 

「そうだけど、もしかしたら友達が一旦席外してるだけかもしれないじゃん。そんな簡単なことにも頭が回らないの?」

 

「だったら開始直前に便所行くそいつと、物置いたりして席をとらない気の利かないてめぇが悪いな。俺にゴチャゴチャ言うのは筋違いだ。わかったらそのうるさい口閉じて前向いてろ」

 

「なっ・・・!」

 

不機嫌がそのまま言葉になって出てくる。少年のそのあまりな言葉に少女が絶句する。確かに自分の態度もあまり褒められたものではなかったし、少年の容姿から行儀が良い人物とは思えなかったが、少年の口から出た言葉は彼女の予想を上回っていた。

 

「何よその態度!そんな言葉遣いじゃモテないわよ」

 

「何だそりゃ、自分に言ってんのか?自分を戒めるのはいいが、自虐が過ぎると人を不快にするだけだぞ」

 

「くっ・・・このぉ・・・!」

 

「エ、エリカちゃん・・・」

 

少女と言い争いをしていると、少女の向こうから声が聞こえた。そちらに目を向けると、メガネをかけた女の子がエリカと呼んだ少女をなだめようとしている。

 

(メガネなんて珍しいな。この世界で初めて見たかもしれん。度は入ってないみたいだが、オシャレ目的ってわけでもなさそうだな)

 

前の世界よりずっと技術レベルが高いこの世界では、簡単な手術を受ければ視力はすぐに回復する。なのでこの世界ではメガネはただのファッションアイテムとして扱われる。一応、視力の低下以外にメガネをかける理由がこの世界にはあるが、今追求することでもないだろう。

 

「えっと・・・あの何か・・・?」

 

考え事をしていると、自分で思っている以上に彼女に視線を送りすぎたらしい。エリカと呼ばれた少女ほど剛気な性格はしていないようで、彼の厳つい容姿と鋭い目付きに射止められ体を縮こまらせている。

 

「あぁすまん。メガネが珍しくてな。かっこいいじゃん」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

こめかみを叩いてメガネを指すように言うと、彼女は困惑しながらも答えた。

しかし、そのやりとりが気に入らなかったのかエリカと呼ばれた少女がまた声を荒らげてきた。

 

「女の子にかっこいいなんてどんな神経してるの?口説きたいならもっと女心を理解することね」

 

「あぁ?今のはメガネを褒めただけだ。口説いてるわけじゃねぇよ。いちいち噛み付いてくるな」

 

「可愛い女の子にまずメガネを褒めるってどこに目を付けてるのかしら。美月だったら他にも褒める所いっぱいあるでしょ」

 

「初対面で容姿に言及するほうがおかしいだろ。ただの軟派野郎じゃねぇか。そんなに絡んでくるのはあれか?自分が褒められてないから妬いてんのか?それは悪かったな、ないものは見つけられないんだ」

 

「誰があんたに・・・っ!」

 

口を開けば開くほどヒートアップしていく二人。正確には少年はあしらっているだけなのだが、あしらい方に問題があるので少女の神経を逆撫でしている。

式の開始まであと五分とちょっと。たとえ式が始まっても治まる様子のない二人を止めたのは、先程美月と呼ばれたメガネをかけた女の子だ。

 

「あ、あの!私、柴田 美月って言いますっ!」

 

突然自分の名前を言った美月に、言い争いをしていた二人は虚を突かれる。二人の意識が再開する前に美月はさらに言葉を続けた。

 

「それで、この子は千葉 エリカちゃんで・・・」

 

「ちょっ美月!」

 

「それでこっちが」

 

「司波 達也だ」

 

自分の事を紹介されて意識が戻ったエリカが口を挟むが、美月は意に介さず話を続ける。どうやら多少無理矢理でも話をぶった切って場の空気を変えようとしているらしい。

最初の印象から内気な性格をしていると思ったが、そうではないみたいだ。

今まで静観を貫いていた美月の更に向こうにいる少年がその意図に気付いて美月の話を引き継いで自己紹介した。

 

少し上体を傾けて司波 達也と名乗った少年を見る。中々整った容姿をしているが、その表情は張り付いたような無表情をしている。目を見てもその視線にはどんな色も乗っておらずどこまでも無機質だ。

 

 

 

 

 

(司波 達也か・・・なるほどコイツが主人公(・・・)か)

 

その異様な雰囲気とその奥にあるものを見て彼はそう確信する。

 

 

(隠し事が多いっつーか、腹にイチモツ抱えてそうっつーか、闇が深いっつーか・・・何にしてもマトモじゃねぇな)

 

達也に目を向けた時、向こうもこちらを見ていたので両者の視線が交差する。しかしそれは一瞬で、彼は何も言わず視線を外した。

そして、美月に無視されてふくれているエリカを一瞥して流れに乗る形で自分の名前を言った。

 

化生(けしょう) 義飾(ぎしき)だ」

 

「ケショウ?変な苗」

 

「め、珍しい苗字ですねっ!漢字はどう書くんですか?」

 

案の定噛み付いてきたエリカを美月が慌てて遮る。場の空気が戻りつつあるのに、これ以上火種になるようなことは生んでほしくないのだろう。

言葉を遮られたエリカはさらにふくれるが、自分が悪いとわかっているらしく何も言わなかった。

 

「化けるに生きるで化生だ。変だの珍しいだのはよく言われる。名前は義理を飾るで義飾だ」

 

「義理を飾る・・・。いいお名前ですね」

 

「そうか?名前も変わってるって言われる事が多いから、そんな事言われたのは初めてだよ。ありがとう」

 

苗字はともかく名前は気に入ってるので、たとえ場を和ますための社交辞令でも名前を褒められるのは嬉しい。素直に口から礼が出た。

 

美月は普通に礼を言われた事に少し面食らった。先程までのエリカとの掛け合いから、義飾が容姿通りの人間だと思ってたので礼が返ってくるとは思わなかったからだ。

彼の為人が掴めない。彼に対して興味がわくと同時に、最初に抱いていた警戒心が薄れていった。

 

「二人共、そろそろ式が始まるぞ」

 

話が一段落着いたのを見計らって達也が声をかける。その声に促されるように壇上に目を向けると、確かにもう少しで式が始まりそうだった。話しやすいように横に向けていた体を前に戻す。時計を見ると開始まであと一分もなかった。

周りも式が始まるのを感じ取ったのか、段々と話し声が少なくなっていく。話し声が完全に聞こえなくなった時、入学式を始める合図が放送で流れる。

しかし、義飾は既に寝る態勢を整えていたのでそれが流れる頃には意識は闇に沈んでいた。

 




途中のオサレ単語はスペイン語です。
フロールが花で、ヘルミナシオンが発芽。マラ・イエルバは雑草です。
色々おかしいけど、言葉の響きで選びました。

咲き誇れ!!フロール・ヘルミナシオン!!!

やっぱ、ねーな

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