魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート   作:tomato

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心理描写になるとどうしても手が止まる。結果的によくわからん文章が出来る。
その内、最初から書き直したいです。


第十四話

試合の決着らしきモノを迎えたにも関わらず、誰も口を開こうとしない。

試合の結果が信じられないというのもあるのだが、目の前の光景が、なんというか現実感を欠いていて受け入れがたいのだ。

観戦者は呆然としたまま目の前の光景を注視する。いや、若干二名ほど、意識に現実感が追いついて、慌てて顔ごと視線を逸らした。

 

 

 

ジャーマン・スープレックス・ホールド。

もしもこの場にプロレスに詳しい者がいたのなら、ブリッジの体勢でフィニッシュするこの技の名前がわかったのだが、生憎そんな者はいなかった。

さらに言えば義飾がしたのは普通のモノではなく、クラッチを腰ではなく少し高い胸の位置でしたハイクラッチ式と、相手を腕ごとホールドするダルマ式を混ぜたモノなのだが、これに関してはわからなくてもいい。

 

プロレスは勝敗云々より、観客を盛り上げる事に主眼をおいた興行色の強い格闘技だ。お互いが相手の攻撃を受ける事を前提に技が作られているので、実戦で使用出来るような技は少ない。

しかし、派手さを重視するがゆえに、安全面を度外視した技が幾つかある。この技もその一つだ。

この技は掛ける側は勿論、受ける側にも相当な技術が要求される。首から落ちないようにするために、自分から跳んで落下のタイミングを受ける側が捉えばければ大怪我は免れない。

一応、この受け身方法はプロレスの基本的な受け身の技術なので珍しいモノではないのだが、逆に言えばプロレスラーでなければ触れる機会はほとんど無い。

素人がふざけて掛けていい技ではないし、プロであってもリングの上でなければ躊躇する技だ。

そもそも男性が女性に掛けていい技ではない。特にスカートを穿いている時は。

 

ジャーマン・スープレックスは相手を後ろから抱き締め、後方へ反り投げる技だ。投げる過程で相手の体は上下が逆になるので、スカートは慣性と重力に従ってめくれ上がる事間違いなしだ。

更にいえば今回義飾が使用したのは投技としてのジャーマン・スープレックスではなく、固め技としてのジャーマン・スープレックス。

摩利を抱き締めたままブリッジの体勢を維持しているので、女性にとっては最も恥ずかしいであろう、あられもない姿でスカートの中を晒している。

証明の光を反射して白く輝く太ももに、それと対比するような黒いレースのパンツ。観戦者の内、男である達也と服部が顔を逸らすのは無理からぬ事だった。

 

摩利を拘束していた義飾の腕が緩み、ゆっくりと摩利の体が動き出す。動き出すと言ってそこに摩利の意思は無い。

まだ意識が回復しきっていないのか、下半身が重力に従ってずり落ちるだけだ。

そして、義飾が腕を完璧に外し、摩利の体がうつ伏せになったところでようやく停滞していた空気が動き出した。

 

 

 

「ま、摩利!!」

 

審判である真由美が、その職務を忘れて二人に駆け寄る。

摩利の今の状態は、パンツ丸出しでうつ伏せになっている。それだけでも十分酷いのだが、地面と激突した時、かなり鈍い音が響いた。勝ち名乗りを上げる事を忘れて摩利の安否が気になるのは当然の事だろう。

摩利の体を離した義飾がブリッジの体勢を崩して立ち上がる。まるで、地面と足の裏がくっついてるような立ち方だ。

真由美は駆け寄る際、チラッと義飾を見るが、生憎後ろ姿だったのでどんな顔をしているかわからなかった。

倒れている摩利の元に到着した真由美は、体を揺するために肩に手を掛ける・・・・・・前に、めくれ上がったスカートを元に戻した。

そして改めて肩に手を当てる。気を失っていたわけではないのか、そこまで強く揺すらない内に摩利は体を起こした。

 

「うっぐぅ・・・い、一体、何が・・・」

 

何事かと言葉を漏らしながら起き上がった摩利に、真由美は問題なさそうだと一応安堵の息を吐くが、さっきの鈍い音を思い出してすぐに顔を引き締める。

 

「大丈夫、摩利?すっごい音がしたけど、頭は大丈夫?」

 

「頭・・・・・・?」

 

真由美の問いかけに摩利は意味がわからないといった風に首を傾げる。右手で頭を抑えているが、それは意識を安定させるためのものらしい。

予想と違った反応に今度は真由美が首を傾げる。無事ならそれはそれでいいのだが、さっきの光景を見た者としては安易に頷き難い。

もしかしたらあまりの衝撃で混乱しているのかもしれない。精密検査が必要なのでは、と真由美の頭によぎった時、後ろから遅れてやって来た他の面々の内の、達也が言葉を挟んできた。

 

「・・・渡辺先輩が無事なのは間違い無いと思います。あたかも地面と激突してるように見えましたが、ギリギリで寸止めされてました。さっきの鈍い音はおそらく・・・」

 

そこで言葉を止めて義飾に視線を送る達也。それにつられて他の面々も義飾を見る。

後頭部を見せていた義飾は、その視線に気がついたのか振り返って眉を潜めながら達也の言葉に応える。

 

「なんだよ。最初に言っただろ、ルールの範疇に収まるように手加減するって。こんな技を固い地面の上で加減なしでやれば、良くて脳震盪、悪ければ余裕で死ねる。さすがにそこまでやるほど馬鹿じゃねぇよ」

 

応えた義飾の言葉はかなりズレていた。望んだものとは違う回答が返ってきて達也たちの喉が引っかかる。

そして、この中でおそらく一番冷静な鈴音がもう一度問い返した。

 

「いえ、それはいいのですが、さっきの音が渡辺委員長でないのであれば、化生君の頭から響いた事になりますよね?・・・すごい音がしましたが、大丈夫ですか?」

 

「あぁ?めちゃめちゃ痛い。でも男の子だからぁ」

 

つまりはやせ我慢という事か。義飾の返答に今度こそ鈴音が言葉に詰まる。

達也が寸止めしていたと言っていたが、それは少し間違っている。寸止めではなく技を掛ける段階から既に、摩利にダメージがいかないことは決まっていた。

摩利の頭が自分の頭より上にいかないように調節し、勢いでズレないように抱き締める。ハイクラッチ式とダルマ式を混ぜたのもこれが理由だ。摩利の自由を限りなく奪うことで、衝突のタイミングをこっちで完璧に把握する。というより、自分の頭で衝撃の全てを受け止める。

 

やせ我慢だと断言した義飾だが、そんな様子は微塵も見受けられない。頭を抑えてもいないし、顔を痛そうに歪めてもいない。コブも出来ていないのかと義飾の頭頂部に視線が集中するが、背が高いのでよく見えない。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。私にはまだ何が何やら・・・。試合はどうなったんだ?私は負けたのか?」

 

意識の混濁から復活した摩利が、立ち上がりながら話に入ってくる。混濁から抜けだしてもまだ混乱はしているようで、決着の前後の記憶が曖昧になっているみたいだ。

問われた面々は答えにくそうにしていたが、黙っていても仕方ないので代表するように真由美が答えた。

 

「そう・・・ね。一応、試合は化生くんの勝利という事になるかしら・・・。そもそも摩利は試合をどこまで覚えているの?決着の記憶が無いみたいだけど、最後の方の記憶もなくなっているの?」

 

「どこまでって・・・・・・最初の記憶はしっかりある。CADを化生にとられて近接戦を仕掛けようとしたところで記憶が途切れている。あの時、化生は何をしたんだ?何が起こったのか全くわからなかった。視界が明滅したから閃光魔法か?いや、音と衝撃もあった。スタングレネードを魔法で再現したのか?」

 

摩利が頭を捻って試合の考察をするが、それに頷く者はいない。何故、摩利がそういう結論に至ったのかと不可解そうな顔を見合わせた後、思わずと言った風に達也が訂正を入れた。

 

「いえ、あの時義飾は魔法を使っていないです。というより、使えていれば二科生にはなっていません。もしも渡辺先輩の言った通り、スタングレネードを魔法で再現しようとすれば、音と空気と光波、と少なくとも三種の振動状態を操作する必要があります。CADを持っていない状態でそこまで出来るなら、一科生と評価されていないとおかしいです。

あの時、義飾がやったのは――――」

「――――猫騙しだな。厳密には少し違うけど」

 

達也が言い切る前に義飾が遮って答えを言う。

答えを聞いた摩利は、信じられないといった顔で義飾を見た。

 

「ねこだましぃ?」

 

「あぁ、そうだ。猫騙しって知らねぇのか?相撲の戦法の一つで、立合いと同時に相手の目の前で手の平を叩いて、目眩ましさせる奇襲手段だ。主に、組み合えば絶対負けるような格上相手に対して一発勝負を掛けるために使われるな。そのせいで、横綱は使ったら駄目だっていう暗黙の了解が出来てる。有名な例を出すと――――」

「――――ちょ、ちょっと待て!だ、大丈夫だ。猫騙しが何なのかは知ってる。ただ、あの時のあれが猫騙しだと思えないだけだ。意識を強制的に遮断させられる感覚がしたぞ!とてもではないが、目が眩んだなんていうレベルじゃない!」

 

「それは・・・お前がビックリしたってだけだ」

 

「ハァ?・・・ビックリ?」

 

詳細を語ろうとした義飾を、摩利は慌てて遮る。語り出しからして、明らかに五分、十分で終わりそうにない。

時間がないわけではないが、今はそれより聞きたい事があるので、逸れそうになった話を強制的に元に戻す。

しかし、話を戻したせいで摩利はもう一度呆けた顔を晒すことになった。

 

「間抜けな顔になってるぞ。ビックリしただけってのがそんなに信じられねぇか?まぁ、確かにビックリって言い方だと少し軽い感じになるわな。ショック状態って言い換えれば、理解が追いつくか?」

 

「・・・・・・」

 

義飾から視線を送られ、摩利は閉口して話に聞き入る。年下から教えを乞うことを恥ずかしいとは思わず、敗者として勝者から学ぶ、武術家らしい摩利の勤勉な性格が出てきた。

 

「ビックリって言っても、度合いがある。軽い場合は目を見開いたり叫んだりする程度で済むが、重くなれば飛び上がったり腰を抜かしたり硬直したりって全身に影響が出る。そして、もっと強くなれば中に影響が出る。気絶、貧血、心臓麻痺。

ビックリして死ぬなんて馬鹿げた話に思うかもしれないが、あり得ない訳じゃない。それこそ、目覚まし時計の音にビックリして死んだっていう実例があるほどだ。

驚愕は十分、人を殺害せしめる。だったら猫騙しでも完璧なタイミングを捉えれば、ただの目眩ましの手段じゃなく、暗殺手段にすることができるはずだ。まぁ、初めてやったからまだそこまでは出来ないけどな」

 

義飾の超理論に摩利は口を閉口させたまま慄いた。

もしかしなくても自分は、もう少しで死ぬところだったのでは?

義飾の説明に出てきた暗殺という言葉に戦慄を禁じ得ない。そこまではまだ出来ないと語っているが、それはその内出来るということなのではないのか?猫騙しの難易度なんてわからないが、初めてでここまで出来るのは異常ではないのか?

摩利の頭に恐怖と驚異を伴った疑問が次々と沸き出て巡る。

そのせいで頭が纏まらず言葉に窮した摩利の代わりに、真由美が新たな疑問を義飾に投げ掛けた。

 

「あの、猫騙しについてはわかったんだけど、私としてはどうして摩利の魔法が発動しなかったかのほうが気になるんだけど。それと、試合中に摩利が魔法を発動した時以外に、サイオンが揺らいだような感じがしたわ。化生くんも魔法を使ったの?だとしたらCADもないのにどうやって?」

 

一つ投げれば数珠つなぎのように次々と質問が出てくる。

一度に複数の質問をされて義飾はめんどくさそうに顔を歪めるが、他の面々は真面目な顔で義飾を見る。

決着の衝撃が大きすぎて今まで忘れていたが、さっきの試合には不可解な事が多数あった。先ほどの達也の試合が終わった時の繰り返しになってしまうが、義飾以外の全員、聞き入る態勢を整えていた。

本来、無遠慮に魔法の仕組みを詮索することはご法度だとされていても、興味は抑えられない。

それに、真由美のした質問は魔法は仕組みには抵触しないので許容範囲内だ。

 

全員から期待のこもった視線で見られ、義飾は大きな溜息を吐き、頭を掻きながら答えた。

 

「一気に質問すんなよな・・・。まず一つ目の質問に対する答えだが、特に何もやってない。二つ目の質問の答えは、一つ・・・いや、二つ?一応、試合中に使った魔法は一つだ。そして最後は、普通に頭の中で魔法式を組み立てた」

 

ぶっきらぼうに、あるいは投げ捨てるように一つ一つ質問に答えていく義飾。しかしその答えはお粗末なので、とても頷けるものではない。それどころかさらに疑問は増えてしまった。

 

「あ、あの・・・特に何もやってないとは・・・?そもそも渡辺委員長は何の魔法を使おうとしたんですか?魔法が発動しなかった原因が化生くんでは無いなら、委員長の方に何か問題があったんですか?」

 

呆然としつつも、鈴音が冷静に頭を働かせ考察を口にする。そしてその調子のまま、摩利に質問した。

頭に出てきたものをそのまま言葉にしているため、声には張りがなく窺うような響きを持っているが、顔はそれ以外にないといった確信した色がある。

しかし、摩利は鈴音の質問に対して首を横に振って応えた。

 

「いや、私の方に不備はないはずだ。使用した魔法は基礎単一系統の移動魔法だ。発動に梃子摺るようなものではない。実際に魔法式を展開したところまでは順調だった。問題があるのはそれ以降・・・・・・というより、試合中に使った魔法は一応一つってどういう事だ?始まる前に予め魔法式を展開・・・いや、それはあり得ない・・・」

 

質問に答えながら試合の時に義飾が言っていた事を思い出して、義飾の顔を見やる摩利。義飾の顔には辟易とした色が強く出ていた。

 

「そこまで難しく考えることか?魔法が発動しない事自体はそこまで珍しいことじゃないだろ。達也と服部の試合でも、服部の魔法は発動しなかっただろ。それと、一応一つって言い方をしたのは、昔掛けた魔法の効果が今も残ってるからだ」

 

「それに関しては理由は明らかです。服部君が発動しようとした魔法は渡辺先輩と同じ移動系魔法。対象の座標を書き換えるこのタイプの魔法は、対象への認識がしっかり出来ていないとダメです。司波君が姿が消えたと錯覚するほど早く動いたので、その前提は崩れました。言うなれば、あの時魔法が発動しなかったのは魔法式の不備によるものです。

しかし・・・化生君の場合はこれに当てはまりません。魔法の発動まで動いてもいないですし、対抗魔法を発動した様子もありませんでした。あの時、化生君は本当に何もしてませんでした。

あと、昔掛けた魔法というのは?

・・・そろそろ、正解を教えてもらいたいのですが・・・。勿論、言いたくないのであれば言わなくていいですけど」

 

いくら考察を重ねても正解が出てこないことに観念して鈴音が義飾に答えを求める。マナーを守って最後に遠慮した言葉を付け足しているが、魔法師としての好奇心は隠しきれていない。

 

鈴音の問を受けて、義飾は肩を竦めながら辟易として答えた。

 

「まず、試合中に使ったのは種類的に言えば放出系の魔法。漫画を読んでる時に思いついたんだが、生体電気を一時的に強めて電磁波を放出、俗に言う“気当たり”って呼ばれるモンを再現した魔法だ。

そして昔掛けて今も効果が残ってる魔法は・・・そうだな、脳みそは肉体の自壊を防ぐために筋肉が全開を出せないようにリミッターを掛けてるって聞いたことあるか?そのリミッターを魔法で外した。種類的には精神干渉系。これも漫画から思い付いたな。

まぁ、タネを明かせば単純なことだ。俺は俗にいうBS魔法師ってやつだ。自己強化及び自己改変に特化したな」

 

 

 

“BS魔法師”

 

BSは『Born Specialized』の略で、直訳すれば生まれながらの特別。つまり、先天的に特殊な異能を持った者を表した言葉だ。

BS魔法師には幾つか特徴があり、一つはその異能は現代魔法で再現するのが困難なこと。そしてもう一つは、異能に特化してるせいで普通の魔法行使は不得手であること。

 

 

 

義飾の口から出てきた答えに、結び付かなかった義飾の実技成績と試合結果が、漠然と線で繋がる。が、細かい所はまだほつれたままだ。

得心しそうになった気持ちを立て直し、そのほつれた部分を紡ぐために真由美は追究を続ける。

 

「自己改変に特化したBS魔法師・・・。ってそれはおかしくない?BS魔法師は普通の魔法技能が極端に低いはずよ。場合によっては全く使えないこともある。化生くんは二科生だけれど、それでもこの学校に入学している以上、魔法技能が特別劣っているとは言えないわ」

 

「別に特化してるからってそれしか出来ないわけじゃない。俺の能力の概要は、魔法を使うとき自分を対象にした場合は飛躍的に魔法力が上昇するのと、無意識に張ってる自分のエイドス・スキンの意識的な改変。それを元にした魔法式の構築。

そして、能力の副次効果として俺が無意識に張ってるエイドス・スキンは、肉体だけじゃなく座標系とかその他諸々も守ってる。

系統に関わらず、俺は他人からの魔法による直接干渉を一切受け付けないんだよ」

 

義飾が付け足した補足に、周りの人間は呆然とした顔を晒す。

義飾が摩利に勝てた事には納得できたが、義飾の異能そのものはとてもではないが簡単に受け入れられるものではない。

 

無意識領域への意識的な干渉。そこにある魔法式の完全な把握。そしてそれを元に新たな魔法式の構築。

 

そのどれもが現代魔法の常識から大きく外れている。

魔法を学び始めて大体十年弱。その間に培ってきた自分達の知識を、横から殴るような衝撃を真由美達は錯覚した。

しかしその衝撃に混乱したのも一瞬の事。一度驚いてしまえば、無理矢理に心を納得させることは容易だった。受け入れられなくても、そういうものなんだと受け止める事は出来る。

義飾の語った内容は確かにあり得ないと断ずることが出来るモノだったが、そんなモノだからこそ異能と呼ぶに値する。

義飾に限らず、BS魔法師は常識を蹴っ飛ばした能力を持っていることがほとんどだ。それらと比べれば、義飾の能力はまだ可愛げがあるだろう。

 

 

 

「試合中に言っていた、魔法師に対する絶対的なアドバンテージとはこのことか。直接干渉の一切を受け付けないなら攻撃手段はかなり限られる。私はあの時、魔法の選択を間違ったんだな。移動系じゃなく、空気弾をぶつければよかった」

 

「そんときはさすがに躱すなり防ぐなりするけどな。ってか硬化魔法が使えるから生半可な攻撃じゃ当たってもどうってことはない。俺にダメージを与えたいなら、それこそ殺すつもりで、殺傷性ランクに登録されてる魔法じゃないと駄目だが・・・それはルールで禁止されてる。

最初から勝敗は決まってたんだよ。実戦ならともかく、ルールのある試合で俺が魔法師に負ける可能性は万に一つもない。たとえ体術に秀でた奴でも、殴り合いで征する事はできる」

 

摩利の強がりのように聞こえる言葉を義飾がバッサリ切り払う。それに続いて自信に満ちた、というより過信ともとれる言葉が出てくるが、さっきの話を聞いた後では否定は出来ない。一人だけ、深雪が最後の言葉を聞いて少しムッとしたが。

 

「まぁこれだけ聞けば結構有用な能力に思うかもしれんが、デメリットが酷くてな。自己改変に特化してるってことは自分以外を対象にした場合は・・・まぁお察しだ。

それにこの自己改変って言う言葉は、自分()改変するって意味と合わせて、自分()改変するって意味も含まれてる。

つまり、CADを使って他所から手を借りた場合も魔法力は著しく落ちる。それどころか起動式を元に魔法式を組み立てることもままならない。常に自分で魔法式を組み立てる必要がある。

俺がCADを持ってないのはこれが理由だ。ぶっちゃけCADに触ったのは入学試験の時が始めてだ。まぁ、その時も使ったとは言えないがな。

CADから返ってきた起動式を破棄して、予め頭の中で組んでた魔法式を使った。そこまでやってなんとか二科生だ」

 

「・・・・・・」

 

補足として入れられた衝撃の事実に、全員言葉を忘れたように愕然とする。特に最後の内容はアウトギリギリだ。不正と断ずることは出来ないが、正しいかと聞かれれば首を捻ってしまう。

 

頭を落ち着かせるために、各々が義飾の話を噛み砕いてる中、最初に喋ったきり今まで黙っていた達也が口を開いた。

 

「義飾、もう一つ聞いてもいいか?試合の時に、渡辺先輩は魔法を使った後にお前が渡辺先輩に肉薄した動き・・・、あれはどういうことだ?」

 

「どういうことって・・・どういう意味だ?」

 

達也の不明瞭な質問に義飾が問い返す。その他の面々も思考を一旦中断して達也を見やる。

視線が集中したことに構わず達也は一瞬、沈思黙考して頭の中で聞きたいことを整理して再び口を開いた。

 

「あの動き・・・あれは明らかに俺の・・・いや、九重流忍術の動きだった。義飾も師匠から師事を受けたことがあるのか?」

 

達也の質問の内容に、聞いていた者達はキョトンと目を瞬かせた。話が今までとは全く違う方向に飛んだのが意外だったのだ。

しかし、言われてみれば確かにそうだ。異能の方に気を取られていてそこまで頭が回らなかった。事前に達也の試合を見ていたことも理由の一つだろう。初見からあまり間を置かず二度目を見たので、そこまで驚くことが出来なかった。

冷静に考えれば、一五歳という若さでここまでレベルの高い体術を身に着けてるなんてかなり珍しい。しかもそれが二人もいて、同じ学校の、同じクラスにいるなんて天文学的な確立だ。

達也の質問を聞いて義飾は、少し躊躇するそぶりを見せた後答えた。

 

「・・・・・・・・・いや?忍術なんて習ったことは無い。九重某っていう人物に会ったことはないし、名前を聞くのも今日が始めてだ」

 

「?・・・だったらあの動きは・・・・・・?あれは別に秘術というわけではないが、それでも触れる機会はほとんど無いはずだ。習ったのではないならどうやって・・・?」

 

「どうやってって・・・普通に見て憶えた」

 

「ハァ?」

 

「だから見て憶えた。お前の動きを」

 

義飾の突飛な答えに、達也は一瞬何を言われたのかわからず、キャラに合わない素っ頓狂な声を上げてしまう。

義飾がもう一度同じこと繰り返し言うが、頭は纏まらず応える事ができない。そしてたっぷりと絶句したのち、ようやく理解が追い付いた。

 

「――!?一度見ただけで覚えたというのか・・・!!」

 

愕然とした心の動きが、達也と顔と言葉に表れる。兄の珍しい表情の変化に深雪が意外そうな顔をした。

それ以外の面々は未だ理解が追い付いてないようだ。いや一人だけ、達也と同じく武術に通じている摩利は義飾の言ったことの異常さに気付いて達也と同じような表情を晒している。

 

「そんなに驚くことか?そもそもお前のアレは、純粋に体術だけを使った移動術ってわけじゃないだろ。最低限の身体能力があれば模倣は簡単だ」

 

達也の驚愕に義飾はフォローを入れるが、その言葉にさらに頭が混乱へと陥れられる。

絶句したまま何の返答もしない達也に代わって、真由美が疑問に思ったことを口にする。

 

「純粋な体術じゃないってどういうこと?あの時達也君は魔法は使ってないはずだけど」

 

「魔法を使ったなんて一言も言ってないだろ。俺が言いたいのは、アレは単に、身体能力だけを頼った技術じゃ無いってことだ。

試合開始直後、服部は速攻で魔法を使って達也を倒そうとした。一言で言えばこれだけだが、その行動を細分化すればこんな工程になる。

試合開始の合図を聞き、まずはCADに意識を向ける。そして予め使おうと思っていた魔法の起動式に対応したキーを叩いて起動式の出力。その起動式に変数を追加して頭の奥に落とし込む。起動式が魔法式になって返ってきて、ようやく発動態勢が整う。

この一連の工程がたとえ一瞬で終わったとしても、対戦者の達也から意識を外す瞬間は必ずある。要するに達也のアレは、その瞬間に急加速をしてあたかも自分が消えたように錯覚させる技だ。

移動技術じゃなく、相手の隙を突く技術としての側面の方が強い」

 

「・・・・・・」

 

真由美の疑問に義飾は流暢に説明していく。推論が多分に入った説明なのだが、達也の顔が愕然としたものから真剣なものに変わって口を挿む様子がないので、大きく外れてるわけじゃないのだろう。

 

「タイミングはおそらく起動式に変数を追加する瞬間。その時が一番、魔法の発動に集中してるはずだ。それに観戦者も初撃がどっちになるかわかって達也から意識が逸れる。結果的に相手だけじゃなく、観戦者の目も欺くことになった。

この技で最も重要なのは洞察力とタイミング、身体能力は二の次だ。―――タネさえわかれば誰でも出来る」

 

―――そんな訳あるか。

 

バッサリと断定する口調で言い切った義飾に、達也は思わずそう言いそうになって必死に口を噤んだ。

義飾の顔に冗談の色は一切ない。本当に心の底からそう思っているみたいだ。

 

九重 八雲の門下に入って二年半、その間の修練の全てを否定されたような気がして、達也の頭が僅かに熱を帯びる。が、それだけだった。

頭の中に灯った小さな火は、冷ますまでもなく掻き消える。妬み、羨み、怒り、それらの感情は確かに存在しているが、そこから昇華することはない。

驚きから、自分の体質に対する諦観に頭を支配された達也は小さく息を吐く。そして改めて義飾を見た。

視線を送れば義飾もこちらを見ていたらしく、ちょうど目が合った。相変わらず軽薄な笑顔であったが、その目の奥に不安の色が僅かにあるのを達也は見逃さなかった。

 

(あぁ、そうか。最初に言い淀んだのは俺に気を遣ったのか。見た目と態度と言葉遣いに反して律儀というか、真面目な奴だな。いや・・・どれだけ取り繕っても真面目とは言い難いか)

 

義飾の意を汲みとった達也は目を伏せ小さく頷いた。その所作は周りからすれば儀式の説明を肯定しただけのように見えたが、目を合わせていた義飾はその意図を正しく理解出来た。

いらない気遣いだったかと義飾は達也から顔を背け、そのまま体ごと振り返る。そして壁に掛けてある制服を取りに行った。

義飾が背中を向けたことで空気が切り替わったのか、全員混乱から脱し、お互いに顔を見合わせ口々にさっきのことを話し合う。

自分の異能、達也の体術、そしてそれを一目見ただけで模倣した自分の技術。それらの考察を背中に受けて、義飾は悟られないように息を吐いた。

 

制服を左脇に抱えて戻ってきてもまだ議論は終わっておらず、いい加減そろそろ帰りたい義飾はそれを中断させるために右手に持った物を摩利に投げた。

 

「おい」

 

「―――ん?って!おっあ、と!・・・い、いきなり投げるな!それと試合中も言ったがCADは丁寧に扱ってくれ!!」

 

義飾の投げた物―――それが自分のCADだとわかり、摩利は危なっかしい手つきでなんとかそれをキャッチした。

そして苦言を呈すが、案の定義飾に堪えた様子はない。

 

「大事な物だったら・・・・・・ってこの話はもういいか。それよりも約束は覚えてるよな?俺に風紀委員を強要することは諦めてもらうぞ」

 

「推薦と言って欲しいのだが・・・・・・仕方ない、か。約束は約束だ。金輪際、私から君に風紀委員の話はしない。それはちゃんと誓うよ」

 

「お前からだけじゃない。別の人間に俺を推薦するように頼むのもなしだ。お前はあの時“俺を風紀委員に推薦するのは諦める”って言った。だったら少なくともお前が在学してる間はこの約束は有効のはずだ」

 

「も、もちろん、ちゃんとわかってるさ」

 

義飾に釘を刺されて摩利は思わずたじろいだ。その考えがあったわけではないが落ち着いた頃にもう一度勧誘を掛けてみるつもりだったので、その計画は立案直後に泡沫のごとく消えた。

 

摩利の様子に義飾は呆れたように溜め息をつきながらそっぽを向いた。

 

 

 

「ホントにわかってんのかよ・・・まぁいい。ところでよぉ、黒のレースはどうかと思うぞ。高校生が穿くには少し大人っぽすぎるし、何よりキャラに合ってない。男の趣味か?そいつとは話が合いそうだ」

 

顔を戻しながら義飾は話を切り替える。突然の話題転換に摩利は頭が追いつかず呆けた顔を晒す。しかしそれ以外の面々はすぐに理解出来たのか、慌ててなんとかしようとする。が、時既に遅くもうどうすることも出来ない。

義飾の言葉を頭の中でじっくり反芻を繰り返し、ようやく摩利も理解出来た。それに伴い摩利の顔は茹でダコのように赤くなった。

 

「なっ!?・・・おっま、お、お前・・・・・・・・・ま、まさか・・・?!」

 

スカートを押さえ、顔を赤くしたまま義飾を睨んで文句を言おうとするが、頭が纏まらず意味のある言葉が出てこない。

しかし、そんな混乱に陥った頭でも一つの可能性に行き着く事ができ、それを確かめるために摩利は慌てて振り返る。そこには摩利と目を合わさないようにと顔を逸らした真由美達がいた。

それだけで全てを悟った摩利はもう一度義飾を睨みつける。しかしその視線を受けても義飾に悪びれた様子はない。

 

「なんだよその目、俺は悪く無いだろ。試合が始まる前に、審判からそのままの服装でいいのかって聞かれてお前は頷いた。だから俺はてっきり、スカートの下にアンスコなりスパッツを穿いてるんだと思ったんだがな・・・。ってか仮にも模擬戦でスカートのまま来るのはどうなんだ?体操着に着替えなかったお前に非があるだろ」

 

「かっ・・・くっ・・・ぅう・・・・・・!」

 

義飾が淡々と正論を述べるが、とても受け入れられる精神状態ではなかった。しかし言い返す言葉は思い付かない。

羞恥え赤くなった顔が、別の理由で赤みを増す。

 

「黒って色もそうだが、全体的に随分攻めたデザインだったな。これから会う約束でもあるのか?だったらアドバイスだ。あまりがっついた感じは出さないほうがいい。黒は女を美しく魅せる効果があるなんて言うが、二十歳に満たない奴が着ても背伸びしてるように映るだけだ。相手の方が年上なんだったら、色気で勝負するより愛嬌をアピールした方がいい。

それと、言うまでもないが上下は常に揃えろ。いざって時に上下が違う色だったらそれだけで萎えるからな」

 

何も言わない摩利に構わず義飾は言葉を続ける。その内容は、セクハラと罵られても仕方ないモノだったが、未だ混乱の抜け切らない頭では非難の言葉は出てこない。

 

結局、義飾が満足して帰るまで、摩利は羞恥を煽られることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、達也くん。風紀委員会本部へようこそ」

 

演習室から生徒会室に戻って来て、さらにそこから摩利に引っ張られる形で達也は風紀委員会の本部を訪れた。そして、歓迎の辞を述べる摩利と室内を見比べて溜息を吐いた。

風紀委員の任務は基本的に荒事が多い。だから選ばれるのは男子がほとんどだ。委員長として摩利が立っているが、それは珍しい事例だ。

男所帯だからという言い訳が通じるかわからないが、風紀委員会の本部は散らかり放題の、かなり散々とした状態だった。

摩利は少し、と言っていたが綺麗に整頓されていた生徒会室を見た後ではその表現は正しくないように感じる。

足の踏み場もないほどではないが、机の上には色んな物が雑多かつ乱雑に置かれている。その中に書類や携帯端末に混じってCADがあるのが見えて、達也は片付けを決意した。

別に片付けなくても支障はないし、この散らかり具合から察するに新人は掃除をしなければならないなんていう決まりもないだろう。しかし、魔工師志望としてはこの室内の状況は耐え難い。

摩利に許可を貰って片付けに着手する。摩利も最初は手伝っていたが、自分と達也の作業スピードを見比べて早々に放棄、というより諦めた。先程摩利は本部が汚いのは男所帯だからと言っていたが、責任の一端は摩利にもあるだろう。料理は出来ても女子力はあまり高くないらしい。もちろん口には出さないが。

 

片付けを放棄して手持ち無沙汰になった摩利は達也に話しかける。手を動かしたまま達也はそれに応える。先輩相手にかなりおざなりな対応だが、片付けを全投げしてる以上文句が出てくるはずもない。

会話の内容は当り障りのないものだった。達也の志望進路。達也を風紀委員に勧誘した動機。そして達也と同時に、教職員推薦枠で風紀委員に入る生徒のこと。

その生徒が、先日の下校時に絡んできた森崎だと知って、達也は思わず手に取っていたCADを落としそうになった。

気を取り直して摩利に真偽を確かめると当然、是の答えが返ってくる。

そういえば、義飾のことを教職員推薦枠で風紀委員に入れようとしていた。そのために既に決まっていた推薦を拒否したのかと思っていたが、そうではなかったらしい。

推薦を取り消されそうになった件の彼には同情するが、これなら義飾の方が良かったというのが達也の率直な感想だ。

達也は改めて、先に帰った友人の事を恨めしく思った。

 

 

 

「―――しかし、化生を風紀委員に入れることができなかったのはやはり悔やまれるな」

 

達也が頭に義飾の姿を思い浮かべていると、丁度、摩利が義飾のことを話題に上げた。その内容は個人的には頷きたいものだが、諸々の事情を考慮に入れると素直に肯定出来るものではない。

 

「そうですか?自分としては同じ二科生の義飾が入ってくれるなら、周囲の目は自分にだけ集中することはないので喜ばしいですが、義飾自身も言っていましたがあいつは風紀とは真逆のところにいる。義飾が風紀委員になれば、反対意見は自分の比ではないと思うのですが・・・」

 

「確かにそうだろうな」

 

達也が述べた否定意見に摩利は間髪入れずに頷く。予想外の反応が返ってきて、達也は片付けの手を止めて振り返る。達也の視線に気付いた摩利は、説明するために一度深く頷いてから口を開いた。

 

「化生を勧誘した理由は、二科生に対するイメージ対策が主だが、実はもう幾つかある。大きなモノとしては、端的に言えば首輪だ。

入学してまだ間もない段階だが、化生は問題に巻き込まれた時、その問題を大きくしようとする傾向にある。だから、近くにおいて手綱を握ることでそれを抑制しようと考えていたのだ」

 

「手綱を握る・・・ですか?」

 

摩利の説明を聞いて沸いてきた懐疑に気持ちが、そのまま言葉となって口から出てくる。とてもではないが、あの義飾の行動を縛るなんて不可能なように思える。実際、摩利はこの数日間で義飾にいいようにされている。義飾を風紀委員に入れたとしても、摩利の心労が増えるだけだと思うのだが・・・。

 

「わかっている。そんなことは出来ないなんて今日でしっかり痛感した。しかし、魔法師に対して良い感情を持っていない化生を放置するのは、どこでどんな問題が起きるかわからん。せめて私の近くで起こしてくれるならすぐに対処が出来るのだが・・・」

 

口惜しそうにそう言った後、顎に手を当てて深く熟考する摩利。演習室ではああ言っていたが、まだ義飾を風紀委員に入れることを諦めてないらしい。

その様子に呆れの感想が浮かんでくるが、同時にひとつの疑問も浮かんできた。それは、昼休みの時からずっと気になっていることだ。

 

「あの・・・義飾が魔法師に良い感情を持っていないのは自分も知っているのですが、昼休みに言っていた義飾の功績と二年前の事件とは一体・・・?」

 

「っ!それは・・・」

 

達也の質問に摩利は目に見えて狼狽した。その反応を見てやはり言い難いことなのかと、達也は自分の予想が正しかった事を確認した。

何かしら事件があったことは義飾の口から聞いている。そしてそれが中学校の時に起こり、魔法師が関係していることもわかっている。

三年以内に魔法師が起こした事件の数なんてたかが知れてる。さらに中学生が関係しているものに限定すればその数はさらに絞れる。

摩利に質問したのは答えを知るわけではなく、反応を見るためだ。いわば確認のため、おかげで達也の頭には一つの事件が浮かんでいた。

 

「それは私の口から答える事はできない。ただ・・・、あまり気分の良くなる事件ではないと言っておこう」

 

言い淀みながらも、これ以上の詮索を防ぐために摩利の口から漏れた言葉に達也は確信を更に硬くした。

二年前、魔法師、中学校、気分が悪くなる。これらのキワードに該当する事件は一つしか無い。

 

「・・・化生本人から聞いたことはないのか?事件の詳細はともかく、概要ぐらいなら話していてもおかしくないと思うんだが」

 

摩利から質問が返ってきて今度は達也が言い淀む事になった。しかし、すぐに答えても問題ないかと思考を切り替える。

摩利の質問はそこまで真に迫ったものではないし、“あの事件”のことについては自分よりも詳しく調べているだろう。それに、義飾が自分に直接話したということは、そこまで秘匿に気を使わなくても良いはずだ。

 

「昔学校で魔法師による大きな事件が起きたこと、それによって学校全体が魔法師排斥の意識が強くなったことは聞きました。でもその事件に義飾が深く関わっているとは知りませんでした。・・・そういえば、その事件の被害者は義飾の友人だったようです」

 

「ッ!?」

 

達也としてはそこまで重要事項を話したつもりはなかったのだが、聞き取った摩利の反応は予想外に大きかった。

 

「そう・・・だったのか・・・・・・。化生には悪いことをしてしまったな。友人が被害に遭った事件など無理にほじくられたくなかっただろうに。

事件を記事で読むとどうしても画一的に印象しか受け取れない。少し考えればその可能性に行き着く事は出来たのにな」

 

大きく目を見開いた後、悔いるように俯く摩利。下手な慰めは意味が無いだろうと思って、達也は黙ったまま、肩を落とす摩利を見ていた。

 

 

 

 

 

「―――ところで、君は化生のあの強さをどう見る?率直な感想を聞きたい」

 

自分の中で踏ん切りを着けたのか、摩利は顔を上げて再び達也に質問する。その顔に気落ちした色は残っていない。その代わりに真剣な色が強く出ていた。

その顔と質問に、達也は後ずさりそうになるのを抑えて質問に答えた。

 

「・・・自分に聞かずとも、実際に戦った先輩の方が義飾の強さはよくわかっていると思いますけど」

 

「じゃあ聞き方を変えよう。魔法抜きで戦った場合、君は化生に勝てるか?」

 

 

 

即座に質問を切り返してきた摩利に、達也はすぐに答えることが出来ずに黙ってしまう。そしてさっきの試合を参考に、義飾を仮想敵にして頭の中で試合を行う。自分の情報は十分なのに対して、義飾の情報は一試合だけの不十分なものだ。頭の中で相対している義飾は本当の、本気の義飾ではない。

さっきの試合には驚かされたが、達也とて伊達に修練と努力を重ねていない。同年代では誰にも負けない自信はある。しかし―――

 

「・・・誇張も慢心もなく答えるなら、勝つことは難しい、いや、不可能だと思います」

 

どれだけ都合よく試合を展開させても、自分が勝つ絵が全く浮かばない。

 

「自分の技が尽く見切られ、盗まれるんです。勝てる要素を探すほうが難しい。正直自分は、義飾の異能よりもそっちの方に異常性を感じました」

 

「やはり、そうか・・・。もう一つ聞きたいんだが、化生に武術の心得があると思うか?」

 

「・・・いえ、試合が始まって技を模倣して使うまで、義飾にそんな印象は持っていなかったです。義飾は確かに体付きがゴツく身体能力は高そうですけど、姿勢はあまり良いとは言えないですし、重心もバラバラでした。

少しでも武術に通じているならそこら辺は真っ先に矯正されているはずです」

 

「そだよな。私も試合が始まるまで同じ考えだった。二科生ということを抜きにしても化生を侮る気持ちがあったのは事実だ。しかし、蓋を開けてみれば私は手も足も出なかった。あれは一体、どういうことなんだろうな。あれも異能の一つなのか?」

 

達也の答えを聞いて摩利は思考に没頭する。そして、達也も同様に思考を再開した。

中断していた脳内での試合を再び開始する。やはり何度やっても自分が勝つイメージは沸かない。だが、条件を変更すれば容易く結果は裏返った。

魔法抜きの場合、達也が義飾に勝つ可能性は万に一つもないだろう。しかし、魔法を使っていいなら、自分の異能を使ってもいいなら、達也が負ける要素はない。

相手がどれだけ優れていて特殊であっても、魔法師であるなら、達也には絶対的なアドバンテージがある。

 

元から結論が出ていた思考を切り捨て、達也は止まっていた手を動かして片付けを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんとか誤魔化せたか?)

 

生徒会室には戻らず、一人演習室で解散した義飾は帰途につきながらさっきの演習室でのことを頭に思い浮かべていた。

 

(自己改変に特化したBS魔法師・・・捻りもクソもない説明だけど、かえって信憑性が増したはずだ)

 

正確に言えば、そこで能力について述べた説明が問題なかったかどうか確認している。

あの場でした説明には嘘を幾つか混ぜていた。それが通用したかどうかが不安なのだ。

 

(まぁ出来ることは言った通りだから、嘘だとバレる危険はないか)

 

といっても、嘘をついた所は確かめようがない部分だ。たとえ嘘だとバレても、ゴリ押してうやむやにすることは多分出来る。だから不安は持っていても、同質量の安心もあった。

 

嘘をついた所は、何が出来るかではなく、なんで出来るのか、話の枝葉の部分じゃなく、根本的な所から嘘をついていた。

 

 

 

義飾はそもそも、BS魔法師ではない。

 

“先天的特異能力者”

そう呼ばれるには、義飾はある条件を満たせていなかった。

 

(BS魔法師、この言い訳で招く厄介事と避ける厄介事、それは絶対に後者の方が多いし、大きい。俺の選択は間違ってないはずだ。・・・自分が異端者だってのは、自分が一番よくわかってる。異能力者って言った方が、まだ世間の常識に近づけるはずだ)

 

これ以上考えても明確な答えが出てこない事を悟りながらも、義飾は思考を終わらすことが出来なかった。自分の本来の能力が呼び込むであろう問題の事を考えれば、暗い未来にさらに影が指すような気がする。

義飾は改めてこれからの学校生活に不安を抱いた。




摩利さん、おぱんちゅ見えてますよ。
というわけで、いつかの後書きで書いた通り摩利を辱めました。下着の色とかは全部作者の想像です。



主人公の能力がやっと明らかになりましたね。最後になんかゴチャゴチャ言ってますけど、出来ることは大きく変わらないんでこのまま受け取ってもらって大丈夫です。

義飾君の能力は、原作主人公の達也君との相似性と相対性を意識して作りました。
達也君は『魔法師絶対殺すマン』なんで、義飾は『魔法師に絶対殺されないマン』にしました。まぁ達也のトライデントは防げないんでかなり語弊があります。っていうか達也の魔法師絶対殺すマンっぷりが半端ない。術式解散がどう考えても、どうしようもない。お互いがお互いの天敵になるようにしたかったんですが、出来ませんでした。
一応、それ以外の魔法は効かないようにしていきます。間接的に攻撃する魔法も、その都度その都度、対処していきます。最終的には術式解散も防げるようにしたいです。

あとは、達也の戦略級魔法に対して、義飾はタイマン最強性能にしました。
格闘戦が強さの理由になってる魔法師には余裕で圧勝できます。早く呂 剛虎ボコボコにしたい。

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