魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート   作:tomato

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戦闘描写に梃子摺って遅くなりました。
そのうち修正したいです。


第十三話

義飾と摩利、二人の模擬戦が決定してそのまま一同は演習室に向かった・・・わけではない。

模擬戦には許可書の発行や、演習室の貸し切り、そして事務室に預けてあるCADを引き取ったりと、色々と準備が必要なのだが、すぐに二人の模擬戦を始められなかったのはそれらの理由が原因ではない。

義飾の攻撃から立ち直った服部が、またもや口を挟んできたのだ。

 

模擬戦の準備をしていた面々を呼び止めた服部は、標的を義飾から達也に変更して非難を再開した。模擬戦で実力を確かめることができる義飾のことは一旦、置いとくことにしたらしい。

義飾の時と同じように二科生であることを理由に実力がないと決めつけて達也の風紀委員入りを反対した服部だが、そこでとうとう深雪の堪忍袋が切れた。

生徒会室に入った時から服部の達也に対する態度に怒りを感じ、それを溜め込んでいた深雪は、それら全てを解放するように反論を捲し立てた。

身内を擁護する発言は過ぎれば不快をもよおすものだが、確信を持った声色はそういう感情を起こさせない。本当にそうなのだという気がしてくる。思わず、唖然とした視線が達也に集まった。

しかし、それを言われた服部は真剣に捉えなかったらしく、含みのない優しい声で深雪を諭した。さっきまでとは全く逆の態度は、服部は本来、限定的であるが面倒見のいい優秀な先輩なのだろう。

穏やかかつ、親身に教えを諭す口調は、気が立っている下級生を宥めるには十分なものだろうが、今回はその口調が逆効果になってしまった。

服部に諭されて深雪はさらにヒートアップし、語気が若干荒くなった。そして、おそらく隠しておかなければならないこと、達也の秘密を口走ろうとしたところで、達也が止めに入り、深雪の勢いは萎んだ。

 

二人の間に入った達也は、俯いて消沈した深雪に一度視線を送った後、改めて服部と向き合い、そして、模擬戦を申し込んだ。

達也の予想外の申し出にみんなが言葉を失う中、服部は激昂して罵倒を達也に叩きつける。しかし、深雪を窘めた時の自分のセリフで反撃されて言葉を詰まらせた。

対人戦闘スキルは実際に戦ってみないとわからない。妹の目が曇っていない事を証明するため。色々と理由を述べて、何故模擬戦を申し込んだのか淡々と説明した達也だが、それは建前、あるいは別の意図があるように感じた。

 

そして服部はその意図を挑発であると受け取り、静かな、というより抑制された口調で達也の申し出に応えた。

 

 

 

本来であれば模擬戦の順番は先に決まった方から、義飾と摩利の模擬戦を先にするのが普通なのだが、本人たちの感情を優先して達也対服部の模擬戦を先にすることになった。

諸々の準備を終わらせ、一同は場所を生徒会室から模擬戦を行う第三演習室に移していた。

模擬戦は第一高校ではそこまで珍しいモノではないが、さすがに一科生と二科生が、それも今年入った新入生と生徒会役員が戦うなんてことは今までなかった。

一科生の生徒会副会長対二科生の新入生。結果などやるまでもなく決まっているような決闘だが、戦う本人達の顔は強張ったような無表情だ。いや、服部の顔には僅かに余裕が垣間見えた。

それも仕方のない事だろう。もしも模擬戦の賭け事が許されていたら誰も達也には賭けない。一科生と二科生の壁はそこまで厚いわけではないが、それは一科生下位と二科生上位の話だ。

一科生の中でも上から数えた方が早く、生徒会副会長に選ばれている服部と、ただの二科生、それもどちらかと言えば実技の成績が良くない達也とでは、その差は一朝一夕で埋められるものではない。

それに、服部と達也では学年が一つ違う。たかが一年と思うかもしれないが、高校から魔法教育が本格化する都合上、この一年は到底無視出来るモノではない。

 

 

 

出来レースのようなこの模擬戦は、やはり呆気無く、しかし予想外の形で決着した。

勝ったのは達也だ。それも圧勝、いやこの場合は秒殺というべきか。まばたきを数度もしない内に勝負は着いた。

試合開始の合図がされた瞬間、服部は魔法を行使しようとCADに指を走らせたが、その時には既に達也の姿は最初に位置にはなく、服部の眼前に移動していた。

服部がギョッとのけぞったのも束の間、達也の姿は再び消え、服部の死角である右側面数メートルの位置に現れた。

そして、服部は結局何も出来ないまま地面へ崩れ落ちた。

 

「・・・勝者、司波達也」

 

摩利が勝ち名乗りには呆気にとられたような響きがあった。それは摩利だけでなく、他の面々もそうだった。

達也の勝利で終わった結果もそうだが、試合時間が実質五秒もなかったという内容はとても呑み込めるモノではない。

淡々と後片付けを始めた達也の背中に質問が飛んだのは当たり前の事だった。

劣等生である達也が勝利出来た理由、それはなんてことはない。達也の魔法技能が現行に魔法評価項目に入らず、そして、魔法以外の技術で服部の油断を突いた。言ってしまえばこれだけだ。

服部が慢心せずに、最初に達也の出方を窺っていれば試合時間はもう少し伸びたかもしれないが、結果そのものは変わらなかっただろう。

はっきり言って達也の対人戦闘スキルは高校生の枠を逸脱している。忍術使い・九重八雲の教えを受けた体術、普通の魔法技能から外れた才能に、ただの高校生が持つには不相応なCAD、そしてそれらを十全に扱う技術。

その強さに驚くと同時に、何故ここまで強いのかという疑問も沸いてくる。

確かに今の御時世は平和とは言えない。数年前に日本国内で戦争があり、世界情勢も安定してるとは言い難い。遠くない未来に再び日本で戦争が起こるだろう。

国で保有している魔法師の数と質が国力に直結している現状、魔法科高校に入学しているなら、それと無関係ではいられず、強すぎて困るということはない。

しかし、ただの高校生、それも数日前までは中学生だった人間がここまでの強さを有しているのはやはり異常だ。

九重八雲という高名な忍者に教えを受けているといっても、師事を得ただけで強くなるわけではない。強さ得るにはそれに見合うだけの労力と時間が必要だ。

ここまでの強さを培うだけの理由、それがただシスコンを拗らせただけなら笑うだけで済むのだが、当然それだけが理由ではないだろう。

 

 

 

 

 

達也の強さの理由。気にならないわけではないが、今聞いても答えが返ってくるとは思えなかった。達也の強さは、達也の闇に直接繋がっている。それが見なくてもわかった義飾は、片付けを終わらせた達也と入れ替わるように演習室の中央に足を進めた。

先程達也が立っていた開始線、そこで足を止める。反対側には摩利が立っている。両者とも気負いした様子はなく、これから戦うとは思えないほどリラックスしている。

摩利は装いに変化がないのに対して、義飾はブレザーを脱いでおり、元からベストもネクタイも着ていないのでカッターシャツのみの、かなりラフな格好だ。

シャツの袖をまくり、さらに戦闘態勢を整える。右手の袖をまくり終え、続いて左手。

左手の袖が肘まで上げられ、今まで隠れていた左手の傷跡の全貌が明らかになり、外野から小さな悲鳴が上がった。

義飾の左腕にある傷は、薬指と中指の間から始まり、両断するように手の甲を通って、抜けるように肘まで続いている。その傷跡は長さもそうだが全体的に大きく、ケロイドの盛り上がりが離れた所から見てもよくわかった。

思わず目を覆いたくなるような傷跡だが、武術を修めており、小さい怪我程度なら見慣れている摩利は軽く目を見開いた程度でそれ以上の反応はしなかった。

それよりも気になることを発見した摩利は、自分のCADの調子を見ていた手を止めて義飾に問い掛ける。

 

「・・・CADが見当たらないが、事務室に取りに行かなかったのか?」

 

摩利の言葉に、傷にばかり注視していた面々もそのことに気がつく。

袖をまくった義飾の腕にはブレスレットが着いてるだけで、他には何もない。手には何も持っておらず、ホルスターも着けていないので、CADの類はどこにも見られなかった。

戦う準備が完了していた気持ちが躓いてしまったのを感じながら、摩利は言外に待っている事を伝えるために、腰に手を当てて姿勢を崩した。

 

「必要ねぇよ」

 

しかし、摩利の事を見ずに、アクセサリーを外しながら義飾の口から漏れた言葉は予想外のモノであった。

堪らず摩利の眉間に皺が寄る。観戦者の外野の顔も僅かに歪んだ。

 

「それは・・・どういう意味だ?強がっているだけならまだ撤回できるぞ」

 

摩利の言葉に小さいトゲが含まれる。しかし、摩利の態度の変化に構わず義飾はすぐに答えない。指輪とブレスレットを外し、それらをまとめてポケットに仕舞って、ようやく摩利に視線を向けた。

 

「どういう意味って、そのままだ。CADなんて必要ない。まぁ厳密に言えば、持って来てない、っつーか持ってないってのが正しいんだが」

 

大きく肩を竦めながら答える義飾。その仕草は、自虐しているようでもあるし、自信があるようにも見える。

義飾本人はこのまま戦う気でいるみたいだが、対戦者である摩利はとてもではないが受け入れられるものではない。

風紀委員長と二科生、唯でさえ実力に開きががあるのに、もっと差が出来てしまう。そんな状態で勝っても、この模擬戦の目的である義飾の実力を確かめる、なんてことは出来ないだろう。

まさかそれが狙いなのではと勘繰るが、義飾の態度からはそんな感じはしない。

本当にCAD無しで摩利と戦うつもりだ。

 

「持っていないのであれば学校の物を借りることだって出来る。風紀委員会の本部にも幾つか使ってない物があるはずだ。調整に少し時間が掛かるが、そのくらいの時間ならいくらでも待つ―――」

 

「いらねぇつってんだろ。ってか有っても無くても一緒なんだよ。俺の実技成績は見たんだろ?あんなんで実戦に通用すると思うか?」

 

「・・・・・・」

 

義飾の弁は確かに理は通っている。しかし頷き難いのも事実だ。いくら実技成績が悪くても、CADを持ったほうが魔法の行使が楽になる以上、持たない理由はない。

超能力者という例外はあるが、その数は圧倒的に少なく、義飾がそうだという届け出も学校には送られていない。

超能力は特殊な魔法技能なので、もしそうであった場合は必ずしも学校に申告しなければならないということはないが、それも一つの評価対象になるので申告しない理由はない。

腰に当てた手を顎に持って行き熟考する摩利だが、義飾の方は既にヤル気満々らしく、開始線につま先を揃えた。

 

「別にやる気がないわけでもないし、負けた時それを理由にゴネるつもりもない。俺にとってはこのままが一番本気を出せるんだよ。たとえCADを用意したとしても、試合中に使うつもりはない。それにだ・・・・・・」

 

そこで一旦言葉を止めて、改めて正面に視線を向ける義飾。摩利もその視線を真っ向から受け止めるが、義飾から得も言われぬ空気が漂っていて、摩利は思わず喉を鳴らした。

 

「二年前のあの事件、加害者のリーダー格の奴は脊椎を損傷、いや、もっと詳しく言ってやろうか。腰椎の完全損傷、頭蓋骨の陥没、左大腿骨、肋骨、鎖骨の骨折、右肩の脱臼、内蔵の軽度損傷。治癒魔法のおかげで後遺症はなかったが、ニュースで重傷じゃなく、重体だと伝えられるような状態だ。

ここまでやって、なんで俺が過剰防衛とされなかったかわかるか?相手がCADを持っていて、俺が持っていなかったからだ。

お前はこの事件を実績として鑑みて俺を風紀委員に推薦してるんだよな?だったら可能な限りあの時の状況を再現した方がいい。それがお前が望む、実力を確認するのに一番適した方法だ」

 

義飾から漏れる空気、それは怒気だった。

言葉遣いは昼の時ほど荒くなく、どちらかと言えば穏やかで、顔は歪むでも嘲笑うでもなく、薄い笑みが浮かんでいるだけだ。それでも怒っている。しかし、その怒りは摩利に向いている訳ではない。

そのことを自分の洞察力や経験からではなく、義飾から齎されるモノで分かった摩利は、空気に当てられてさらに口を強く噤んだ。

 

「心配すんな。状況再現って言っても、さすがにルールの範疇に収まるように手加減はする。

だから、安心して掛かって来い(・・・・・・)

 

その言葉が引き金だったわけではないが、掛かって来いという明らかにこちらを挑戦者とした発言にカチンときた摩利は、説得は無意味だと諦め、黙ったまま開始線に足を揃えた。

さっきの達也の試合の内容も、摩利に踏ん切りを付かせた理由の一つだ。

 

「・・・いいだろう。希望通り、このまま試合を始める。あらかじめ言っておくが、私は千葉道場に入門していて、高校入学と同時に本家道場に推薦された。魔法だけだと思っていると痛い目を見るぞ。服部副会長のように、簡単にいけると思わないことだ」

 

「ご親切にどうも。だったら俺も最初に言っておく。俺は、かーなーりっ!強い!」

 

両者の宣言を聞いて、真由美が一歩踏み出す。達也と服部の模擬戦では摩利が審判を務めたが、摩利は今回対戦者なので、残った者の中で一番地位の高い真由美が審判をすることになった。

二人の間に立ち、両者の顔を窺って戦意を確認した真由美は、常の笑顔を引っ込めて口を開いた。

 

「ルールは先程と同じですが、念の為にもう一度説明します。

直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も禁止。

相手の肉体を直接損壊する術式も禁止です。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は大丈夫です。

そして、素手での攻撃は大丈夫ですが、武器の使用は禁止です。蹴り技を使う場合は、今ここで学校指定のソフトシューズに履き替えることが義務付けられてますが、二人共そのままの格好で大丈夫ですか?」

 

自分にはあまり関係なく、一度聞いたからとほとんどルールを聞き流していた義飾の耳に真由美の確認の言葉が入ってくる。

真由美は摩利と義飾の両者に呼び掛けているが、その顔は義飾の方を向いていた。

その視線の意図に気が付いた義飾は、小さく頷いた後、両手を広げて、もう指輪の類を着けていない事を示した。

ただの指輪であっても、着けて殴れば十分武器になる。たとえCADを持っていなくても、武器の使用を禁止している以上、認めるわけにはいかなかった。

義飾の両手を確認した真由美は、数歩後ろに下がって再び口を開いた。

 

「双方、準備が出来ていると判断して次に進めます。

勝敗の判定は、どちらか一方が棄権するか、明らかに戦闘行動が不能だとわかったときです。この判断は審判である私が行いますので、予めご了承下さい。終わった後、再審の要求は聞くことは聞きますけど、結果が覆ることはないと思って下さい。

ルール違反が一つでもあった場合は、その時点で負けとします」

 

本日二度目のルール説明が終わり、二人の戦意は周りに伝わるほど高まっている。

摩利はCADに手を添えて構えているが、義飾は特に構えることをせずただ突っ立ているだけだ。

CADを持っていないので準備のしようがないと思うかもしれないが、義飾の立ち方は本当に自然体、達也のように開始直後に動き出そうとする気配すらない。

その様子が更に摩利の警戒を煽り、両者の間の空気は益々ピリピリとしてきた。

 

試合の邪魔にならない所まで下がった真由美が手をあげる。

開始の気配に観戦者の喉が思わず鳴った。

 

 

 

 

 

「それでは・・・・・・始め!!」

 

真由美の開始の合図が終わるやいなや、摩利は直ぐ様CADに指を走らせた。

合図で始まる類の魔法師の試合は、先に魔法を当てたほうが勝つ。一撃で仕留めることが出来なかったとしても、ダメージを受ければそれ以降の魔法行使が難しくなるからだ。

さっきの試合で服部はこの定式に従ったのに負けてしまったが、あれはかなり特殊な事例だ。基本的にこの定式が崩れることはない。

だから、試合の立ち上がりがさっきの試合と同じになるのは仕方のない事だ。しかしその内情は全く違う。

服部は最初の一撃で仕留めようとしたが、摩利は牽制のつもりで放っている。

起動式を出力するのと同時に腰を少し落とし、義飾が突っ込んできてもすぐに対処出来るようにしている。さすがに、さっきの達也の試合を見て悠長に立っているだけなんて出来なかった。

 

服部よりも早いスピード起動式が展開され、さらに腰を落として義飾の行動に備える。展開された起動式は服部が選択したモノと同じ基礎単一系統の移動魔法。

服部の試合では見ることは出来なかったが、正常に発動した場合、相手は十メートル以上吹き飛ばされることになる。そうなれば試合の結果は決まったようなものだ。

 

しかし、摩利の起動式の展開を義飾は何もせずにただ黙って見ていただけだった。

開始の合図が聞こえていなかったのかと思うぐらい微動だにしていない。

思わず、摩利は魔法の発動を中止しようとするが、義飾の顔に挑発的な笑みが浮かんでいるのが見えて、そのまま魔法の発動を続行する。

無防備な相手に魔法を行使するのは気が引けるが、既に試合は始まっている。

何も行動を起こさないのは、そういう作戦かもしれない。この形の試合は魔法を先に当てた方が勝つと言ったが、それは魔法師対魔法師の場合だ。

元から魔法を使うつもりがないであろう義飾には関係ないかもしれない。あえて初撃を譲って、そこから攻勢に出る。身体能力に自信があるならば、悪くない作戦だ。

義飾の考えに当たりをつけた摩利は、魔法を発動したその後に備えて、さらに体に力を入れた。

 

 

 

起動式を元に組み立てられた魔法式が現実世界に投射される。そして、その魔法式が義飾を捉え、魔法の効果が遺憾なく発揮される―――事はなかった。

 

「えっ?」

 

漏れでた声は誰のモノなのか?少なくとも自分のものではない。しかし胸中は一緒だろう、と摩利は呆然とした頭でそんな呟きが浮かんだ。

魔法を使われたのにも関わらず義飾に一切の変化はない。立ち位置はそのまま変わらず、姿勢を崩してもいない。

それを外野は信じられないといった顔で見ている。魔法を発動した摩利も、同じような顔をしている。

周りの驚愕を気にした様子もなく、義飾は大きく溜息を吐く。そこには隠す気のない落胆があった。

 

「まっそんなもんだろうな。別に期待してたわけでもねぇけど。三巨頭なんて呼ばれてる奴がこの程度なら、他もダメだろうな。

ところでよぉ、三巨頭って呼ばれるのはどんな気分なんだ?やっぱり誇らしいと思ってるのか?俺だったら恥ずかしくて憤死モンだが」

 

息を吐いた後、嘲笑を含んだ言葉が義飾の口から出るが、摩利はそれに答える事ができない。未ださっきの衝撃が頭の中を木霊していた。

 

 

 

「まぁそれはどうでもいいか。これで俺がなんで魔法師相手に無傷で勝てたかわかっただろう?俺は魔法師相手に絶対的なアドバンテージがあるんだよ。さて、これで試合を終わらしてもいいが、一発は一発だ。それじゃあ―――――いくぞ?」

 

摩利の思考が回復するのを待たずに、義飾が試合の再開を宣言する。その瞬間、摩利は強烈な敵意のようなものに襲われた。まるで義飾の体が何倍にもなったかのような威圧に、摩利の体は蛇に睨まれた蛙の如く硬直する。しかし、幸か不幸か、その硬直が摩利の思考を回復させた。

元に戻った思考を働かせ、体に命令を送ろうとする。

瞬時に思考を戦闘状態に戻すことが出来たのは流石だが、その隙を義飾が見逃すはずがなく、摩利が動くよりも早く、義飾は摩利の眼前に移動していた。

 

「ッ!!」

 

先ほどの達也を彷彿とさせるような義飾の高速移動に摩利の喉から焦った声が出る。そして、外野からも息を呑む音が聞こえた。

眼前に移動したと言っても両者の距離にはまだ余裕がある。学校で対人戦闘のスペシャリストと呼ばれている摩利ならば十分に対処出来る距離だ。魔法で迎撃することも、体術で防御することも出来る。

 

だが、今回はその優秀さが仇となった。

 

義飾との距離は、そのどちらでも選べる絶妙な距離だった。

あと一歩近ければ体術で対処するし、一歩遠ければ魔法で対処する。その判断をする、ちょうど中間の位置。

どちらか一方しか出来ないのであれば選択の余地などないのだが、選べてしまう摩利はどうするか迷ってしまった。

 

たとえ刹那ほどの迷いであっても、立合いにおいてはその一瞬が命取りになる。

さっきの攻防から義飾には魔法の効果は薄いと気付いた時にはもう遅く、摩利の左手は義飾の右手に掴まれていた。

摩利の左腕に着いたCAD、それを包み込むように義飾の右手が被さる。たったそれだけのことだが、摩利の戦闘力を削るには十分だ。

魔法師はCADが無くても魔法を使えると言っても、発動速度などの実戦に大きく関わる部分はCADに依存している。

摩利が着けている汎用型のCADはボタン操作が主流だ。ボタンを押せなくしてしまえば、ほとんどの魔法師を無力化することが出来る。それに義飾の場合は、たとえ起動式や魔法式を展開した後であっても、自分にダメージが返ってくることはない。

 

手段の一つを奪われた摩利は、直ぐ様頭を切り替える。ただの魔法師であればこの時点で負けは確定だが、生憎摩利はただの魔法師ではない。試合前に言った通り、魔法を使わない戦闘技術も会得済みだ。

摩利が修めている武術は剣術。確かに無手での戦闘は摩利が得意とするトコロではないが、剣術の中には無手での戦闘を想定した技術が幾つかある。

手元に得物がない場合もそうだが、戦場を想定していた場合は、甲冑を着ている相手を確実に仕留めるためにまずは相手を組み伏せることだってある。投げる、あるいは足をかけたりして相手のバランスを崩した後で得物でとどめを刺す。

 

摩利が修めている徒手空拳は投技がほとんどだ。

腕を掴まれた時は驚いたが、まだ勝負が決まった訳ではない。逆に考えれば腕を掴まれたのは好都合だ。

打撃戦に挑まれたら勝機はなかったかも知れないが、これなら投技を使う事が出来る。

義飾の胸倉を掴んで、投げに移行しようとした摩利だったが、両足が力を入れるより先に、地面から離れた。

 

首を吊り上げる感覚、一瞬の浮遊感、そして回る視界。

自分の状態をいち早く把握した摩利は空中で体勢を整える。義飾の手は既に離れているので受け身は容易だった。

地面を手で叩いた勢いを利用して、中腰の体勢で立ち上がる。

義飾との距離は凡そ五メートル。投げられた距離もそうだが、義飾の一連の動作がよく見えていた観戦者は別のところに驚愕する。

 

義飾の投げ方には一切の技術がなかった。

摩利の襟元を左手で掴み、そのまま片手で摩利の体を持ち上げ、力任せにぶん投げた。

摩利は、武術を修めていても女性なだけあってそこまで重くはない。しかし、それでも人一人を片手で持ち上げ、五メートル近く投げ飛ばすなんて異常な膂力だ。

生徒会室の時からその片鱗は見えていたが、実際に目の当たりにすると戦慄は禁じ得ない。

しかし、投げられた摩利は全く違うところに慄いていた。

 

「CADが・・・」

 

摩利の口から漏れ出た呟きに観戦者は摩利の左手に視線を向ける。そこには、あるはずのCADがなかった。一体どこに、と視線を巡らせれば、義飾の右の手の平に摩利のCADが収まっていた。

 

「さて、とりあえずは満足したが、まだやるか?ってか出来るか?」

 

右手のCADを弄びながら問い掛ける義飾。もう試合が終わったつもりであるのが、言葉だけでなく態度からも伝わってくる。

一通りCADを弄んだ義飾はそれを後ろに放り投げた。CADが地面に落ちる乾いた音が演習室に響き渡る。

 

「っ!も、もう少し、丁寧に扱ってくれると助かるのだが」

 

あまりの粗雑な扱いに、摩利は今が模擬戦の途中だということを忘れて苦言を呈す。

CADは精密機械だ。一応、戦闘時に着用することを想定していて、耐衝撃にかなり気を使った設計はされているが、扱いはそれなりに丁寧でなければならない。

魔法師にとってCADは実戦では必要不可欠なアイテムだ。命を預ける物である以上、乱暴に使うことなんてやってはいけないことだ。

義飾のCADの扱いに、CADの持ち主である摩利は勿論の事、魔法師である観戦者もいい顔はしない。

 

「大事な物だったらもっとしっかり持っとくことだな。

で、やるのか?やらないのか?どうするんだ?」

 

摩利の苦言や、外野の視線など物ともせず、義飾は再度問い掛ける。

CADを無くした魔法師なんて、拳を痛めた拳法家のようなものだ。戦えないことはないが、戦力はガタ落ちしている。

それに、魔法を抜いた状態の義飾と摩利の戦力差はさっきの攻防ではっきりしている。摩利に勝機はない。

 

しかし、模擬戦を申し込んだ側として、そして風紀委員長としてこのままで終わるわけにはいかない。

中腰の体勢から更に膝を曲げ、低く構える。それだけで摩利の意図は伝わってきた。

 

「もう一度言うが、舐めるなよ。CADがなくても人並み以上に戦える」

 

態度だけでなく、言葉でも試合の続行の意思を伝える。その声色には、CADを粗雑に扱われた恨みも僅かに混じっていた。

摩利の言葉を受けた義飾は呆れたように顔を背ける。そして小さく唇を動かして呟いた。

その呟きはごく小さいものだった。「人並み程度じゃ・・・」という言葉は、誰の耳にも入ることなく中空に溶けて消えた。

 

 

 

試合の続行を決めた摩利が下半身にグッと力を込める。そして、まるで縮めたバネを解放するように一気に踏み出した。

義飾との距離は凡そ五メートル。当然、一足で到達出来る距離ではない。一歩、二歩、そして三歩と進んだ所で摩利は準備していた魔法を発動した。CADは魔法の発動を高速化するためのツールだ。時間が十分にあるならば、今回みたいに実戦でもCADなしで魔法は使える。

発動したのは自己加速魔法。魔法式に捉えられた摩利の体がさらに加速する。

突然の急加速に、離れて試合を見ていた者達は摩利の姿を見失った。そしてそれは、対戦者である義飾も同じであるはずだ。

正面から見ているならば、視覚情報で受け取る加速度はさらに増す。それこそ、義飾の目には摩利は映っていないかもしれない。

魔法による後押しを受けて摩利は義飾の目の前まで到達する。そこから近接戦を仕掛けようとしたところで、摩利の眼前でナニカが炸裂した。

 

 

 

ナニが炸裂したのかわからない。だがその衝撃は、視覚と聴覚を伝って摩利の意識を彼方へと弾き飛ばした。

自分がどこに立っているのかわからない。いや、立てているのかも怪しい。チカチカと視界は明滅し、浮遊感に似た脱力が摩利の体を襲う。

そして、後ろから抱きすくめられる感覚に意識は僅かに回復するが、完璧に回復した時には摩利の視界は反転していた。




最初に言っておく、ジャラジャラ着けたアクセサリーに意味なんて無い。

はい、というわけで仮面ライダーゼロノスの決め台詞です。
セリフを出したのに意味は無いです。ただ、好きだからです。

変身するのにデメリットのあるライダーってなんでこんなにかっこいいのか。

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