魔法科高校の転生者、あるいは一般人、しかし不良、もしくは問題児、または異端者、のちにチート   作:tomato

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ホントは昼食までいくつもりだったけど、書いてる途中で文字数が一万五千文字を超えたので急遽分割。
この話は流し読みで大丈夫です。義飾くんも昼休みに生徒会室行くよーってだけですので。

ってか展開が遅すぎる。
他の作品は十話前後で入学編が終わってるのに、この作品はまだ序盤も序盤。主人公の能力も明かされてない。いくら最初の話は文字数少ないからってこれはマジで遅い。

展開早めたいけど、原作大好きなんで丁寧に書きたい・・・。どうにかせんと・・・。



第十話

高校生活三日目の朝は最悪な目覚めだった。

本来、十分な睡眠を取れば寝起きの良いはずの義飾は、朝のアラームで目が覚めたら一コールの内にアラームを止めてベッドから出るのだが、今朝は目が覚めてもアラームを止めることはせず、アラームが一度鳴り止みスヌーズ機能が働いた所でようやく体を起こした。

体を起こしてもすぐにはベッドから出ず、頭を抱えてその場を動かなかった。

顔を洗っても気持ちは晴れることなく、朝食を作ってる時も上の空、その作った朝食の味はよく覚えてない。

そして、重い足取りを何とか動かして家を出た。

歩いていれば少しは気持ちも晴れるだろうと思っていたが、胸に燻ぶる後ろ暗い感情は、歩くたびに、いや、学校に近づくにつれ大きくなっていった。

理由は当然、昨日のことが尾を引いているからだ。

 

(あ~あ、最悪だ。最悪だよな、俺。もうちょい言葉を選べたはずだよな。いや、言葉以前に話し方?最初の怪物の下りはいらなかっただろ)

 

昨日の事と言っても一科生と二科生の対立のことではない。その後の、駅に着くまでに達也達の会話のことだ。

会話といっても、義飾が一方的に話して、最後は駅に着いたことを理由に逃げるように達也達の前から去ったのだが。

言いたい事を全て語った義飾はその後、キャビネットの中で頭を抱えて蹲った。

自分の本心を語るにしても、もっといい単語のチョイスがあったはずだと。

怪物やら犯罪者やらと、オブラートに包んでない言葉を使いすぎた。親しくても許されないだろうに、達也達とは出会って二日目だ。いや、半数近くは出会ったその日だ。

はっきり言って有りえない。駅から家に着くまではずっと後悔の気持ちで押し潰されそうだった。そして、その気持は目覚めた今も継続中だ。

 

(なんで途中でブレーキかからねぇかなぁ?言っていい事とダメな事の区別ぐらいつくだろ。この悪癖だけはホントにどうにもならん)

 

考えを巡らせば自分に対する不満と愚痴がどんどんと出てくる。人の目がないキャビネットの中なので、気を抜けばポロッと口から出てしまいそうだ。それを防ぐために義飾は、一人キャビネットの中で強張った表情を作っていた。

義飾には、昔からどうしても直せない悪癖がある。それは、ある事柄が関わっていると沸きやすくなり、冷めにくくなる所だ。その事柄とは当然、魔法だ。

この悪癖のせいで昨日は、魔法科高校にいる間ずっと、泡が浮き立っているような状態だった。そんな心境の時に火力を上げるような事をされれば当然一瞬で沸騰する。義飾にとっては救いなのは、怒りに感情を支配されても我を忘れない所だ。冷静にというより、冷酷に相手を責める事ができる。

昨日は騒動が終わっても興奮は冷めず、結局平時の感情が戻ったのは、達也達に色々言って、キャビネットの中で一息着いてからだった。

 

この悪癖は、昔ある事件に関わったことが原因と思うかもしれないが、それは少し違う。その事件に関わったことでさらに顕著になったが、それ以前からその傾向はあった。

子供時代の義飾は、かなり情緒が不安定だった。基本的に何にも関心を示さないのに、時々、異常な執着を見せる。

これは産まれて十年間、正体不明の不安に苛まれていたからなのだが、それだけが理由ではないだろうなというのが、義飾の自己分析だ。

十年間、義飾を苦しめていた不安。この不安は誕生前から存在していた、漠然とした予感と共に。

胎内での記憶はあまり明瞭ではない。時間の感覚すら曖昧だった。一日なのか、一周間なのか、一ヶ月なのか、それすらわからない。ただ一つ確かなのは、その不安のせいで、前世の自己は消失してしまったことだ。

前世の記憶をなくしてしまうような不安だったのだから、今世の自分にも何らかの影響を及ぼしていてもおかしくない。

おそらくこの不安のせいで、義飾の精神は大きく歪んでしまっている。

正気を失ったと言い換えても良いかもしれない。今でこそ不安は無くなり、日常生活を送るのに何の問題もないが、当時はこの不安による恐怖は恒久的に続くのだと思っていた。

母に抱かれている時も、父に頭を撫でられている時も、伯父に遊んでもらってる時も、安心したことはない。

前世が何歳で終わったか憶えてないが、産まれたての義飾の精神は肉体に準じたモノだった。

幼い精神が正体不明の不安に耐えられるはずもなく、義飾の精神は自覚なく歪曲していった。そしてその歪んだ精神は、魔法の才能にも大きな影響を及ぼしている。

 

 

 

(謝る・・・。謝る、かぁ・・・。謝ったほうがいいよなぁ。高校三年間友達がいなかったっていう事態に陥るかもしれん。伯父たちの反対を押し切ってここに入ったんだ。せめて、友達いるってアピールして余計な心配をかけさせないようにしないと)

 

伯父は基本的に義飾の意思を尊重し、基本的に応援してくれるが、さすがに進路を魔法科高校にすると言った時は、難しい顔で首を横に振った。

友人たちもそうだ。義飾と同じ高校に入るために勉強をしていた友人たちは、義飾の進路の変更に強く反発した。

この反発は、同じ高校に行こうと約束していたのに、土壇場でその約束を破られた憤りによるものだが、純粋に義飾を心配する気持ちもあっただろう。

義飾の通っていた中学では、嫌な事件が起きたために魔法師は、いや、魔法は悪だという風潮があった。これは事件に直接関わった者に限らず、全校生徒、果ては教師たちもそういう思いを持っていた。

だから、義飾の友人たちにとって義飾が魔法科高校に進学するのは、酷い裏切りのように感じただろう。

義飾に危険が振りかかるかもしれないし、義飾もそうなってしまうのではという危惧もあった。

友人たちを何とか宥め、伯父を説得してなんとか魔法科高校に進学することは許された。

 

反対を押し切って第一高校に入学したのだから、少なくとも友人関係ぐらいは充実していないと示しが付かない。

とりあえず、教室に着いたら頭を下げるまではいかなくても、言葉だけでも謝ろう。そう決意した義飾は、背負った重苦しい雰囲気の中に僅かな覚悟の色を混ぜて、キャビネットから降りた。

 

 

 

話は変わるが、この世界の電車は義飾の前世の世界と大きく形態が異なる。大人数を収容できる大型車両は、もうほとんど目に触れる機会はなく、現代の主流は二人乗りまたは四人乗りの小型車両だ。

電車の形態が大きく変わったために、それに関わる部分も色々と変わった。

電車の中で友達と偶然出会うなんてことは有りえないし、痴漢に遭っている女性を助けてその女性と懇ろな関係になる、なんてこともない。

しかし当然変わらないところもある。今や自家用車と変わらないくらいにプライベートな空間となっている電車だが、キャビネットを降りれば昔と同じような光景を見ることが出来る。

車両の中で友人と出会うことは無くなっても、駅の構内で出会うことはよくある。それが同じ時間に、同じ場所を目指しているならば、ホームで出会うのはおかしいことではない。

キャビネットから降り、その直後にやってきたキャビネットに友人が乗っていることも、まぁなくはないだろう。

今のように。

 

「「あっ・・・・・・」」

 

キャビネットから降り、何気なしに後ろを見た義飾は、その後にやってきたキャビネットから降りた達也と目が合った。

どちらともなく乾いた声を上げ、両者の間に気まずい空気が流れる。

達也が立ち止まった事を不思議に思った深雪が達也の後ろから顔を覗かせるが、義飾を見てその空気に呑まれた。

予想外の邂逅に義飾の足が一歩後退る。

気まずい空気が流れてるが、別に喧嘩しているわけではないのでここで別れるという選択肢はない。そんなことをしてしまえば教室で会った時、更に気まずい事になるだろう。しかし、駅から学校までの道はそれなりにある。その間、この気まずい空気の中にいるのは勘弁してほしい。

何とかして教室で再会する文句がないものかと必死に考えるが、

 

「おぅ・・・。一緒に行くか・・・・・・」

 

結局、そんなものは思い付かず、気まずい空気に喉を締められながらも何とか同行の誘いを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司波はいっつも妹と一緒に登校してるのか?」

 

「あぁ。一緒に暮らしているんだから、別々に家を出る理由はないからな」

 

「そうかもしんねぇけど、兄妹だからってずっと一緒にいれば息が詰まるだろ。お互いのことが煩わしくなったりとかしねぇの?」

 

「私がお兄様を煩わしく思うなんてありえません」

 

「・・・そりゃ仲がいいことで・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

先程からずっとこんな感じだ。一つの話題が終われば沈黙し、沈黙に焦れたどちらかが話題を提供するがそれもすぐに終わって、また沈黙が訪れる。今の会話で三回目のやり取りだ。

気まずい空気は、一切盛り上がることなく継続中だ。何とか会話のきっかけになるもの探すが、いいものは見つからない。

駅から教室に着くまでの間に謝罪の言葉を考えようと思っていたので今は用意できてない。それに今謝ると教室でもう一度エリカ達に謝らないと行けないので、それは二度手間だ。

だから昨日の事に触れずに話題を探しているのだが、元々義飾は魔法師ではなく一般人としての立場の方が強い。劣等生でも魔法師である達也の興味を引くような話題は持ち合わせていない。

深雪にいたっては、性別も才能も違う。探すだけ無駄だ。

頭を捻って必死に話題を考えている義飾だったが、達也がその努力をバッサリ切り捨てるように口を開いた。

 

「化生、昨日の話なんだが・・・」

 

「へぇ!昨日!?昨日がなんだ?」

 

達也が踏み込んできた話題に義飾の口から間抜けな声が漏れる。直前まで頭に浮かんでいたコトが吹き飛んでしまうくらい驚いた。

踏み込んできた事もそうだが、それが達也だったのがさらに意外に感じた。

 

「いや、タメになる話だったと思ってな。ああいう非魔法師の忌憚のない意見は、聞く機会がないからね。ありがとう」

 

「・・・・・・まさか礼を言われるとは思ってなかったよ。忌憚のない意見つっても、もうちょい気遣いがあったほうが良かったかなって反省してたのに」

 

踏み込んだ話題に続いて、お礼の言葉が出てきてさらに義飾の頭は混乱しそうになるが、一周回って落ち着いてきた。

そして本来であれば自分の方が先に謝罪するべきだったのにと思って、その罪悪感を誤魔化すように頭を掻いた。

 

「確かに遠慮のない物言いだったが、それがさらにお前の本心を垣間見たような気がしたよ」

 

「・・・まぁ、そうだな」

 

達也の的を射た発言に義飾は二の句が継げない。頭を掻いていた右手を少し下げ、首元を強く擦って、なんとか言葉を続けることが出来た。

 

「言い訳みたいに聞こえるかもしれねぇが・・・、俺の通ってた中学で昔、魔法を使った事件が起きてな・・・中学全体で魔法師排斥の意識が強くなったんだよ。まぁ、それだけが理由じゃないんだが、俺自身もあまり魔法師に対していい印象は持ってない」

 

義飾の話に達也と深雪は口を挟む様子はない。昨日と同じように遠慮のない物言いをされてるが、義飾が魔法師に対していい印象を持ってないのは昨日の話から十分にわかっている。今更驚くことではない。

 

「まぁ、その印象も入学までだ。魔法科高校に入学するのに、いつまでもそんな考えでいる訳にはいかない。結局、犯罪を犯す奴に魔法云々は関係ない。自制出来ない奴が犯罪を犯すんだ。魔法師が必ずしも悪人じゃない。そういう風に考えてたんだが・・・そこであの騒動だ。一瞬で頭が沸いたよ」

 

同意を求めるように達也達に顔を向けると、二人は同じように顔を歪めていた。やはり同じ魔法師である彼らにとっても昨日の騒動はあり得ないものだったらしい。

そこまで意識に大きな違いがなくて義飾は安心したように頷いた。

 

「なんというか・・・そんな状態でよくここに入学できましたね。も、勿論悪い意味ではないのですが・・・」

 

「ん?あぁ、無事に入学出来たって言えば嘘になるな。ここに入学するのはかなり反対されたよ。もう大反対だったな。友達は事件の被害に遭った奴を筆頭に勉強を邪魔してくるし、伯父も一般高校の資料を大量に送り付けてくるしで大変だったよ。友達を宥めて伯父を説得して、なんとか入学を許されたって感じだな。大伯父がここに入るのを支持してくれたのも許された理由だけど。入学試験までこぎ着けるのが一番大変だった」

 

その時の苦労を思い出したのか義飾の顔に影がかかる。しかし、口角が僅かに上がっているので、陰気な印象は感じない。義飾の口角が上がっているとどうしても嗜虐的な思惑があると邪推してしまうのだが、今回はただ昔を懐かしんでいるだけのようだ。

 

 

 

 

 

もはや、義飾と達也達の間に気まずい空気はなく穏やかかつ友好的な雰囲気だ。

その雰囲気の中に続々と達也と義飾のクラスメートが合流してきて、高校三日目の学校生活は幸先の良いスタートを切った。

 

はずだった。

 

 

 

 

 

「達也く~ん。義飾く~ん」

 

「おい、達也(・・)、呼ばれてるぞ」

 

「俺の耳がおかしくなければ、呼ばれているのは義飾(・・)の方だと思うんだが」

 

「達也く~ん。義飾く~ん」

 

「「・・・・・・」」

 

エリカ達と合流し、昨日の事を軽く謝って水に流して貰った義飾は、あとは学校に行くだけだと思っていたのに、遠方から聞こえてきた声に足が止まりそうになった。

隣を見ると達也も同じような顔でこちらを見ていて目が合った。

呼び名を改めて友好関係を深くした達也と義飾だったが、早速同族意識のようなモノが芽生えた。

 

「お二人は・・・会長さんとお知り合いだったんですか?」

 

「一昨日の入学式の日が初対面・・・の、はず」

 

「あんな女は知らん」

 

美月の疑問に達也は一緒になって首を捻るが、義飾はバッサリと断言する。拒絶の意思が強く見えるその言葉に、質問をした美月がたじろぐ。

 

「そうは見えねぇけどなぁ」

 

「わざわざ走ってくるくらいだもんね」

 

続いたレオとエリカの言葉には答えず、義飾は憮然とした表情を作り生徒会長の意図を考えた。

普通に考えれば昨日の事が理由なのだろうが、それでも生徒会長の意図は図りかねる。

あそこまで言われたのに、昨日の今日で話に来るなんてそういう嗜好があるのかと疑いたくなる。それにあの呼び方。わざとこちらの不愉快を煽りに来てるのか?

昨日の事が解決して、上機嫌になっていた義飾の頭に熱が加わっていく。

たかが名前で大袈裟なと思うかもしれないが、義飾は変わった名前をしてるので、小学校の時に名前をからかわれた事が何度かある。

自分の事を馬鹿にしてるだけなら我慢もできるが、両親が考えてくれた名前を馬鹿にされれば一瞬で沸く。もう両親に会うことは叶わないが、それでも両親に対する愛は健在だ。

義飾にとって名前は、かなりデリケートな部分だ。

 

「達也くん、義飾くん、オハヨ~。深雪さんもおはようございます」

 

「おはようございます、会長」

 

「・・・・・・」

 

深雪と比べてぞんざいな扱いの会長の挨拶を、達也は律儀に丁寧に返す。しかし、義飾は挨拶を返すどころか顔も向けない。ただ不機嫌なオーラを後ろ姿から放つだけだ。

生徒会長の存在を無視している義飾を飛ばしてエリカ達も挨拶を返していく。一応礼儀正しい対応を心がけてるようだが、その腰は少し引き気味だ。それは相手の生徒会長が理由ではなく、義飾の対応に不安を抱いたからだ。

 

「え~と、義飾くんもオハヨ~・・・」

 

「・・・・・・」

 

義飾以外の面々から挨拶が返ってきて、生徒会長は再び義飾に声を掛けるが、反応は返ってこない。いっそ清々しいまでの無視だ。相手が三年生だとか、生徒会長だとかは、義飾の意識には入ってないらしい。

 

「え~と、あの・・・化生くんもおはようございます」

 

「・・・・・・あぁ?」

 

結局、生徒会長の方が折れて、呼び方と言葉遣いを改める。それは、年長者として一歩譲ったというより、義飾の出す不機嫌なオーラに耐えられなかったからのようだ。

生徒会長が折れてようやく義飾から反応が返ってくる。しかし挨拶は返ってこない。本当に反応だけだ。

ドスの利いた声と、剣呑な視線を向けられた真由美は、ポーカーフェイスの笑顔を僅かに崩して、苦く笑った。

 

「す、少し、馴れ馴れしかったわね。次から気を付けるわ」

 

「・・・・・・ッ・・・」

 

まるで舌打ちが聞こえてきそうな顔で、というより実際、小さく舌打ちをして義飾は何も言わず顔を元に戻した。

その様子は、次なんかないことを言外に示していた。

誰の目から見ても義飾とのファーストコンタクトは失敗に終わっていた。

第一印象、といっても義飾と会うのはこれで三度目になるのだが、それを回復させるどころか悪化させてしまった真由美は、とりあえず他から攻めていこうと達也に顔を向ける。

義飾に対する態度は改めた真由美だったが、達也に対してはそのままでいくらしく、向けられた顔は人好きしそうな笑顔だ。

そのことに納得のいかない思いを抱くが、さすがに義飾と同じような対応をするわけにはいかず、その思いを飲み込んで達也は、真由美と会話しながら今日は波乱の一日になることを予感した。

 

 

 

※※※

 

 

 

「なら、生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ自配機があるし」

 

最初の義飾の対応と、達也の心情を除けば、生徒会長との話は何の問題もなかった。

生徒会長は深雪に用があったらしく、主に二人で会話し、達也は時々話に加わる程度だった。

義飾を含めた二科生組は会話には入らず、三人の会話を後ろから眺めるだけだ。・・・義飾だけは会話を眺めず、ただ進む先を見ているだけだが。

 

話が進むにつれ、真由美は段々饒舌になっていく。元々真由美の顔には笑顔が浮かんでいたのだが、最初と今とでは少し毛色が違うように達也は感じた。

自分の思い違いだろうと思ったが、次の真由美の発言で思い違いではないことがわかった。

 

「生徒会室なら、達也くんが一緒でも問題ありませんし」

 

言い終わった真由美の顔が邪悪に歪んだのを達也は見逃さなかった。

その顔と発言に頭の痛い思いをしながら、達也はなんとか言葉を返すことが出来た。

 

「・・・問題ならあるでしょう。副会長と揉め事なんてゴメンですよ、俺は」

 

達也の言葉に、後ろにいた義飾が首を傾げる。達也は副会長と何時会ったんだろう、と。

本当は達也だけでなく義飾も副会長の顔を見ている。入学式の日に、真由美が去った時に強い一瞥をくれていた男子生徒だ。

義飾にとってあれは、よくある日常の一コマなので記憶には残らなかった。

 

「心配しなくても大丈夫。はんぞーくんは、お昼はいつも部活だから」

 

「はんぞーくん・・・?それはもしかして服部副会長のことですか?」

 

「そうだけど?」

 

服部だからはんぞーくん。安直だが、センスは悪くないように感じる。しかし、真由美にアダ名をつけるように頼む事は無いだろう。

このアダ名も、付けられた本人は許容してるかはわからない。

 

「何だったら、皆さんで来ていただいても良いんですよ。生徒会の活動を知っていただくのも、役員の務めですから」

 

話を繋げたまま真由美が後ろを振り返る。人好きする笑顔で社交的な申し出をされれば、勢いで頷いてしまいそうになるが、意外にも拒否の言葉が義飾の横から飛んできた。

 

「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します」

 

真由美の申し出を断ったのはエリカだ。遠慮、と言ってるわりには拒絶の意思が強く見える。

申し出に対して間髪入れずに拒否の言葉が出てきたので、気まずい空気が流れそうになるが、最初の時点で義飾がこれ以上の空気を作ったので、相対的に空気が悪くなったようには感じなかった。

 

「そうですか・・・。化生くんはいかがですか?」

 

エリカの返答に納得の色を見せた真由美は、直ぐ様意識を切り替えて義飾に話を向ける。

四人いるにも関わらず義飾を名指ししたということは、元から義飾が目的だったことが伺える。しかし、その真意が見えない。

視線を向けられた義飾は剣呑な視線を真由美に返すが、相変わらずの笑顔が見えてすぐに逸らす。

受ける理由はないが、断る理由も特に思い付かない。角が立たない断り方も思い付かないが、そんなことは気にしない。

考えるのが面倒になり、これ以上真由美に付き合ってられなくなった義飾は、判断を他に任せようと達也に顔を向けた。

 

「・・・俺は別に行ってもいいぜ、達也が行くなら。関係ない奴が生徒会室で一人ってのも居心地が悪いだろうし。まぁ、昨日の詫びだ」

 

判断を丸投げされた達也は嫌そうに顔を歪める。しかし、真由美が顔を再び達也に向け直す頃には、元に戻っていた。

判断を任された達也だったが、その選択肢は一つしかないようなものだ。

ここで断れば、どうやっても角が立ってしまう。そうなれば、生徒会役員になるであろう深雪の心象に影響するかもしれない。

自他共に認めるシスコンの達也の答えは決まっていた。

 

「・・・・・・分かりました。深雪と義飾の三人でお邪魔させていただきます」

 

三人で行くことを告げた達也だったが、口に出してすぐに後悔した。

とてもではないが義飾は心強い仲間とは思えない。過ぎた言い方をすれば厄災のタネだ。

流れに任せて義飾と一緒に行くことになったが、それだけは避けるべきだったのではと思う。

慌てて返事を改めようとするが、時既に遅し。真由美はスキップしそうな足取りで去った後だ。

少しの間、呆然と真由美が去った後を見ていた達也だったが、なんとなしに義飾に視線を送る。

義飾は無表情で真由美が去った方向を見ているだけだ。一見、不安を掻き立てる要素はないように思うが、達也の胸中は不安で満たされたままだ。

昼休みの事を考えて、改めて今日は波乱の一日になることを確信した達也だった。

 


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