今日は休日。
あいにくと朝から土砂降りなために、真姫と一日丸々使ったデートに行くことができないのが心苦しい。
やることを考えていたところ、そういえば裕也に新しく貸し出されたゲームがあったなと思い出す。
自室のカバンからゲームを回収した後、リビングにある据え置きハードを起動しソフトを入れてゲームを始める。
まずは流しでストーリー全体の流れを掴み、その状態でまずは裕也のおすすめのキャラをクリアしにいく。
そのあとで俺が誰か適当にクリア……を繰り返し続け、その中で会話や選択肢より女性への扱い方を学び続ける……というのが、裕也に課せられたゲームをやる上での俺のMissionだ。
「ええと……新しい選択肢が出てきた。なになに? ううむ、悩むなぁ。いや、こっちのほうが正解かもしれないな」
「おはよう真士、今日は早起きなのね……あら、また角井さんのゲームをやってるの? 今度は、いったい何を借りてきたのかしら?」
「ええとなんだったっけ。確か、アニメ化したらしいなんとかって作品なんだけど……ごめん思い出せない」
「なんでその肝心のタイトルを覚えてないのよ……さすがに一フレーズくらいは、覚えてるものじゃない?」
「いやぁ、タイトル画面まで戻ればわかると思うんだが……めんどくさくない?」
「それは同意するわ。でも、だからほんの少しでも覚えるんじゃない」
「真姫のおっしゃる通りです」
「分かればいいわ。ほら、続きやりましょ」
体感時間で数十分ほど気が赴くままプレイをしていたのだが、真姫に声をかけられたためにふと時計を確認してみると、既に時は八時過ぎ。
雨の音で起きたのはだいたい五時半くらいだったのだが、どうやら思った以上に長々とゲームをプレイしていたみたいだ。
俺に続きをせかしつつも、突如真姫は俺の足元に不意にしゃがみこみ、何かを拾い上げる。
それはどうやら俺が今プレイしているゲームのパッケージで、いつの間にか下へ落としているのに気付けなかったようだ。
真姫はじっとパッケージの一点を見つめながら俺の隣に腰を下ろす。
「ふぅん……ドギマギめもりーす4ね。よくわからないけど、たぶんこの緑色の髪の子がメインヒロインってことかしら? センターにいるもの」
「あー、たぶん?これの話で一番最初に登場したのも彼女だしなぁ」
「……でもあなたが今話してるのはその子じゃなくて銀髪の子じゃない。またサブヒロインって立場から始めてるの?」
「ん? いや、俺が話してるのは真姫だけだが……」
「もう、そういうことは話してないわよ。そうやっていつも私のことを見てくれるのはうれしいけど、今はこのゲームの話をしてるのよ? しっかりしなさい」
「あー、ゴメン。……またっていうがなぁ……俺も別にそこらへん詳しく考えてないし、裕也のおすすめに従ってクリアしてるしなぁ……」
「それは角井さんのおすすめなのであって、こういうゲームはメインになる子から仲良くしていくべきじゃないかしら?」
「ううむ……それは確かに一理あるんだけどなぁ」
「はぁ、本当にそこらへんははっきりしないんだから……」
真姫は何かがお気に召さないのか、先ほどからしきりに緑髪の少女を推してくる。
思いかえせばそうだ、俺が裕也からゲームを借りてプレイするたびに、真姫はいつもこうだった気がする。
俺は裕也のおすすめ通りにとりあえず進めてるが故に、メインヒロインが誰かとかをあまり重視していないのだが、真姫は今回のようにメインヒロインらしきキャラを執拗に推したがる。
「ゲームで重要なのはメインキャラじゃないの?」
と一度は諭されたことはあるが、俺が求めているのはゲームの内容ではなく参考になるか否かであるために、あまり色の言い返事ができずに毎度こうして押され始める。
「もう、いつものことだからいいわ。早く進めてちょうだい」
「お、おう……うむ」
「なによ? どうかしたの」
「いや、やっぱり真姫は可愛いなぁって思うんだよ。メインとかサブとか関係ないな。オンリーワンな俺だけのヒロインだ。何度言っても足りないよ。愛してる、真姫」
「……っ! もう、そうやって唐突に言うのやめてちょうだい、意味わかんないわ!」
「じゃあ……そうやって言われるのは嫌かい?」
「そうもいってないわよ! あの……その、嬉しいわ。嬉しいわよ! 私だってあなたが好きだもの!」
「そんなに顔を真っ赤にしちゃって、ほんとにかわいいなぁ……ああ、もう我慢できない。抱きしめていい? あとキスしちゃう」
「ちょっとぉ! 抱きしめるのはいいけど、いつもキスはごはんと歯磨き終わったらって言ってるでしょ! だぁめぇ!」
「ふはははは、よいではないかよいではないかぁ!」
「だからっ……イヤァ!」
「あんたたち……朝っぱらから盛るのは構わないけど……せめて静かにしなさい?」
「アッ……あのっ……母上」
「おばさま……あのっ!」
「問答無用!」
眠気を妨げられたためなのかお怒りになった母が怒声とともに拳骨を落としてから早数十分。
俺と真姫は頭に大きめのたんこぶを生やして朝食を取っている。
真姫はさっきからぶすっと頬をふくらまして俺と目を合わせてくれやしない。
やはり少し悪のりが過ぎたのがいけないのだろうか?
でも仕方がないんだ。真姫がかわいすぎるのがいけないことなんだ。だから世界の何も悪くないんだそう思ってる。
ああ、怒った真姫も可愛い。確か昼過ぎには雨もやむようだし、機嫌を直してもらうために二人っきりでという前提で遊びに誘おう。
と、ここまで希望に浸っていたところで母さんと義母さんの両方から視線を感じる。
前者は言わずもがな、後者は生暖かいなんか気恥ずかしい視線だ。
「アンタもしかして反省していないのかしら?」
「滅相もございません母上。どうかその拳をお納めください」
「フフフッ、本当に真士君は真姫が心から好きね。母親として嬉しいわ」
「ちょっと
「あらぁ?そういうこと言っちゃうのかしら? そんな
「ぐっ……痛いところに切り込んでくるわね……」
「昔は逆の立場だったのに、時の流れは速いわよねぇ……?」
義母さんと、うちの母親が突如昔話に花を咲かせる……のか?
いや、これはただの昔話じゃなく、完全に煽り合いである。お互いにストレートでぶん殴り合う恐ろしい世界である。
こんな空間にいられるか。俺は真姫をつれて部屋に戻るぞ。
真姫が食事を終えたことを確認し、そっと腕を取って二人の共同私室に戻る。
真姫もあの状況は辛いのか素直にしたがってくれたのがうれしいところである。
「ふぅ、ママもおばさまも、仲がいいのか悪いのか途中でわからなくなっちゃうわね」
「ケンカするほど仲がいいってやつなんだろうなぁ……被害者の矛先は俺たちに向けられるから勘弁したいんだが……」
「そうね。あと真士、私、朝のことはまだ許してないわよ」
「わかってるさ。これから晴れるっていうんだ。久々に近場でデートをしよう、目的は決めないでさ」
「近場って……まぁ、いいけど。あなたと一緒だけど、大丈夫よね」
真姫の肩をそっと抱いて昼からの予定を話す。
近場と聞いて真姫は少し体が硬くなったが、俺とのデート自体はしたいと思ってくれているようで、癖である髪弄りをしつつ承諾をしてくれた。
さて、今日は何処を回ろう。神社は希ちゃんに出会う故にあんまり真姫を連れていくのは好ましくない。
秋葉原UTX付近とかどうだろう。幸い裕也たちの助力もあってスクールアイドルそのもの全体についての情報にはそこそこ詳しくなったつもりだ。
いや、それも真姫がいまだ話題に出してくれない以上よろしくないだろうか。
そうだ、ここ最近例の和菓子屋に寄ってなかったな。真姫に一度も食べさせたことはないはずだし、ぜひあの味に対する感想を分かち合いたい。
色々おもいつくが、時間に限りはある。無理のない範囲でまわっていこう。
俺が楽しむのも大事だが、真姫にも当然楽しんでほしいんだもの。
.ドギマギめもりーす4
超大手ギャルゲーシリーズ第四弾。これまでにない新機能、リアルタイム病み愛システムが搭載された画期的作品である。(嘘です
・真姫の疑問
しっかりとある内容に絡ませていきたい大きな伏線です。皆様予想していただければ。
・母親美穂、義母優姫
真士の母である美穂。かかあ天下を地でいく人で優姫とはそりも合いづらいが同時にとても仲がいい。
真姫の母である優姫。夫を立てるのがうまく、誘導するのにも優れる。美穂は嫌いではなくむしろライバル。
なんやかんやでお互いの息子娘が互いにデレデレしあうのはこの人たちのせい。
なお今までなぜ優姫が出なかったかというと、朝は真士と真姫よりも早く出て、夜は真姫の父とともに遅くに帰ってくるという事情のため。
今回は珍しく在宅している。
・家庭事情
実は東原家と西木野家は共同生活を送っている。
理由として東原父の不在が多いことと西木野両親の帰宅が常に遅いことが表向きだが、
実際は【真姫と真士が互いにいて当たり前だと思えるくらいにする】という両家の実質的洗脳計画によるものだった。成功もしている。
・和菓子屋
例のあの店。真姫にとっては真士との逢引中に、一番会いたくない相手がいる。そんな場所である。
評価が色付きになりました皆様ありがとうございます。
これから多少プレッシャーも感じてくるのだろうなと思いますが、このまま書きたいことで続けていきますのでよろしくお願いいたします。
読了ありがとうございました。