麦わらの副船長   作:深山 雅

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第80話 海賊船、出航

 連日連夜、島をあげての宴が続いた。

 勿論、俺も遠慮なく飲み食いさせてもらったよ。やったね。

 

 

 

 

 そんな宴続きの日々の最後の夜のことだ。

 ウソップは櫓の上で与太話を始め、サンジはナンパをしまくり、ゾロはひたすら飲んでいた。

 ナミはアーロン一味の刺青を消してもらうためにバカ騒ぎには参加していない。同時に、新しい刺青も入れるらしい。

 そんな中、俺はというと。

 

 「染め粉?」

 

 ココヤシ村の人に染め粉が無いか聞いていた。

 何故かって? 勿論、髪を染めるためだよ。

 

 「そんな本格的なものじゃなくていいんだ。水で洗えば落ちる程度のもので」

 

 今回の1件で、どうやら俺まで手配されるらしいからね……俺の外見的特徴で真っ先に挙げられるのはこの髪だろう。……決して身長のことではないはずだと信じている。

 

 で、だ。俺としては、次のローグタウンで今まで集めた宝やその他諸々を換金するつもりでいる。

 写真こそ撮られていないはずだけど似顔絵ぐらいなら描かれてると思うし、怪しまれないためにも少しは変装した方がいいだろう。

 大きな特徴を1つ隠しただけで、案外気付かれないもんだからね。

 

 

 

 

 暫くすると、何故か生ハムメロンにご執心だったルフィがいつの間にかいなくなっていた。

 ……生ハムメロン、そこにあるのに。あいつ、探し物下手だな。どこまで行ったんだよ。

 放っておいて無くなってしまうのも可哀相だから、ちょっと取り分けておいた。

 そしてまた戻ってきたルフィは……両手にたっぷりと骨付き肉を携えていた。……オイ。

 

 「そんなに肉を持ってんなら、これはいらないな?」

 

 「生ハムメロン!!」

 

 差し出した皿に、そのまま食いつかれました。

 

 「お前は犬か。人間なら手を使え」

 

 俺が呆れながらそう言っても、ルフィはどこ吹く風だった。

 

 「そりゃあ、両手が塞がってるからな!」

 

 じゃあその肉の山をどうにかしろ。

 もういい、やめよう。食べ物のことでルフィにツッコミを入れようってのが、どだい無理な話なんだ。

 それに、今ぐらい広い心を持とう。

 

 「しっかり食べときなよ? お前はこの先1ヶ月、1日3食しか食べられないんだからな?」

 

 言うと、ルフィは齧りついていた肉を吹き出した。

 

 「何ィ! ……覚えてたのか!」

 

 「当たり前だろ、お前じゃあるまいし……まさか、あれは無効だなんて言わないよな? だって、先に言い出したのはそっちなんだし」

 

 ぐぅ、とルフィは言葉に詰った。反論する気は無いみたいだけど、泣きそうである……そこまでか!?

 

 「……そういえばお前、どこ行ってたんだ?」

 

 話題を逸らそう、うん。

 

 「生ハムメロン探してたら、食いもんが何も無ェ所に出ちまったんだ。墓があったぞ。風車のおっさんもいた」

 

 あぁ……そうか、あのシーンか。

 

 「ナミの笑顔を奪うな、だってよ! そんなことしねェのにな!」

 

 「そうだな」

 

 確かに、その気は無い。

 

 「6曲目! ウソップ応援歌!」

 

 俺たちが割りと静かに会話してる一方で、櫓のウソップは絶好調だ。

 

 「なぁ、ルフィ。今思ったんだけど……音楽家代理、ウソップでも良くね?」

 

 特別上手いわけじゃないけど、下手でもない。雰囲気的にはノリが良さそうだし、いいと思うんだけど。

 

 「ダメだ! ウソップは歌えるけど楽器は出来ねェ!」

 

 ……俺だって、出来るのハーモニカだけなのに。いや、一応前世では小学生の時にリコーダーとピアニカも習ったけど……正直、もう覚えてないし。その楽器自体無いし。

 仕方が無い、諦めよう。ブルックとの出会いまで……って、長すぎるわ!

 

 「なァ、ユアン」

 

 ハァ~、と長い溜息を吐いてたら、ルフィが肉を食いながら声を掛けてきた。

 

 「ん?」

 

 「お前さ、実はあの時凄ェ怒ってたよな?」

 

 あの時……?

 疑問が顔に出てたんだろう、ルフィが補足した。

 

 「アーロンの手下をやってた時だ」

 

 あァ……あの時。

 うん、アーロンの言い草があんまりにもアレだったもんだからさぁ。つい。

 

 「驚いたぞ! お前、いつの間にあんなに覇気を使いこなせるようになってたんだ?」

 

 え~?

 

 「確かにあの魚人たちの間を縫って移動してた時、覇気モドキを使って先読みはしてたけどさ。そこまでだったか?」

 

 俺の疑問にコクリと頷くルフィ……肉を齧りながらだけどな!

 

 「丸っきり先読みしてるみてェだった。だからあいつらも、手も足も出ねェ状態で終わったんだろーな」

 

 あぁ、うん。それはあるかも。

 

 これまでの航海で向上したのか? そこまで自覚は無いけど。

 ひょっとして……結構怒ってたのが逆に良かった(?)とか?

 覇気の修行で最も大事なのは疑わないこと。でも俺は心のどこかで覇気を……いや、自分のスペックを信じていないのか? でも怒って余計な考えを起こさなかったことでその枷が外れた、とか……。

 予想に過ぎないし、根拠も無いし、突拍子もないけど……可能性としては、無いことも無い。

 

 う~ん。これからも要練習だなぁ。

 

 

 

 

 そんな宴の夜も明けた、次の朝。

 

 「あっしらは、本業の賞金稼ぎに戻りやす。兄貴たちには色々お世話になりました」

 

 「ここでお別れっすけど、またどこかで会える日を楽しみにしてやす」

 

 俺たちがメリー号に乗り込む中、ヨサクとジョニーが陸に残って決めポーズを取っている。

 でもさぁ、多分俺たちってもうすぐ手配されるし、賞金稼ぎのコイツらとはもう会わない方がいいと思うんだよね。それって気のせいか?

 

 それにしても、だ。

 思えば、役に立ったか否かって言ったら微妙だけど、結構明るいやつらだったからムードメーカーとしては良かったよな、この2人。

 そんな2人と別れの挨拶を済ませていると。

 

 「船を出して!」

 

 1人遅れていたナミが道の向こうから叫び、駆け出した。

 

 「何のつもりだ?」

 

 「出してくれって言うんだから、出せばいいんじゃないか?」

 

 と、言いつつ俺は現在進行形で帆を張っている。

 ナミは見送りに来てくれていたココヤシ村の人たちの波を縫うように駆け回り、最終的にはメリー号へと飛び乗った。

 勿論、村人たちの財布をスるのは忘れてない。

 

 「みんな、元気でね!」

 

 《やりやがった、あのガキャーーー!!!》

 

 村人たちがナミにかける言葉は、怒りながらも温かい。いつでも帰って来い、とか……。

 しめっぽくなく、かといってあっさりしてもいない、賑やかな船出だよ。

 

 「じゃあね、行ってくる!!」

 

 ナミの笑顔も、晴れやかだった。

 

 

 

 

 さて。もう1つ、忘れちゃいけないことがある。

 

 「ルフィ、ペンキを見付けたんだけど……海賊旗描くか?」

 

 そう、まだこのメリー号には、あの麦わら帽子を被ったドクロが揚がってない。

 俺の人知れずな我が儘だったけど祖父ちゃんとの絡みも終わったし。手配もされるみたいだし。

 『自称海賊』から『海賊』になる潮時なんじゃないかと思う。

 

 「あったか! よかったー、よく見付けたな!」

 

 無邪気な笑顔になけなしの良心が痛む。ゴメン、本当は見付けたんじゃなくて、俺が隠してたんだ……という内心は、当然ながら面には出さず。

 

 「あぁ……物置の隅にあったんだ」

 

 と、あっさり誤魔化した。

 

 「マークはもう考えてあるんだ! 貸してみろ!」

 

 ルフィは引っ手繰るようにペンキを受け取ると、黒い布にサラサラと描きだした。

 どんなマークが出来上がるのか、と全員が興味津々で見ている……が。

 

 「どうだ!」

 

 ……出来上がったのは、何とコメントしたらいいのか解らないような代物だった。線は歪み、全体的にぐんにゃりしていて……うん、つまり早い話が。

 

 「ルフィ……お前、自分に画力が無いって、自覚してるか?」

 

 「失敬だな、お前!」

 

 ルフィは憤慨してるけど、周囲の面々は俺の味方だった。

 

 「こんな旗を掲げた海賊船には、乗りたくねェな」

 

 「ここまで下手に描けるのも、ある意味才能よね」

 

 「海賊旗ってのは、『死の象徴』だろ……? これで誰が恐怖を感じるってんだよ」

 

 「いや、ある意味恐怖だろ、これは」

 

 四面楚歌の状態に、流石のルフィも沈んだ。

 けどそう。ナミも言っていたように、ど下手くそなんだよ。

 そして下手すぎるルフィに代わり、ウソップが旗を描くことになった。途中調子に乗って、マークを変えようとしかけたから、その時はきっちり注意した。布とペンキのムダ使いは許さない。

 ウソップは絵が上手かったけど、その上手くなった理由が壁に落書きをし続けてきたかららしい。

 悪ガキだったんだな! ……スリ・窃盗・食い逃げの常習犯だったのは誰だって? ゴメンなさい俺たちです俺たちの方がよっぽど悪ガキでした!

 旗2枚にそのマークを描く。そしてその旗をマストの上に掲げ、さらに帆にも大きく描いた。

 

 そう、これでこの船は原作を知る者にはお馴染みの姿になったんだ。

 

 「これで『海賊船』ゴーイング・メリー号の完成だ!!」

 

 船長の宣言に、船内は俄かに活気付いた。やっぱり、こういうのは気分が高揚するよね。


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