麦わらの副船長   作:深山 雅

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第61話 ニャーバン兄弟

 シャムとブチの猫かぶりは、めんどくさいのでスルーする。俺はとにかく、ルフィを起こさないと。

 しかし……どうしてくれよう、この単純ゴムは。ぐーすかと幸せそうな寝顔を晒しやがって。昨日みたいに首を踏み付けてやろうか? いや……。

 

 「起きろ」

 

 今回俺は、ルフィの閉じた瞼の上から容赦ない目潰しを放った。

 

 「どわっ!?」

 

 ルフィは驚いて跳ね起きる……ただし、船首の下敷きになっているから、半身はまだ地面にめり込んだままなんだけど。

 

 「何だ!? 驚いた!!」

 

 普通の人間なら眼球潰れてるような攻撃受けて『驚いた』の一言で済むんだから、ゴムって便利。

 

 「ルフィ?」

 

 目をパチクリとさせていたルフィが、俺の顔を見て固まった。失礼なヤツだな、俺はただ寝起きに優しい朗らかな笑みを浮かべているだけなのに。

 

 「何が起きたか、覚えてるか?」

 

 「んー、催眠術師を見て……覚えてねェ!」

 

 そーかそーか、記憶が飛んでやがるか……教えてやる。

 

 「お前はものの見事に催眠に引っ掛かって、暴れたんだよ。いや、その結果として敵の数が減ったからね、それはいいよ。でもどうかと思うよ、その引っ掛かりやすい性格……何か言うことはあるか?」

 

 「ごめんなさい」

 

 「素直でよろしい」

 

 俺はルフィの上に乗っかっていた船首を蹴り飛ばした。

 さて、ルフィが解放されたわけだけど、ゾロの方はというと。

 

 「その刀を返せ」

 

 シャムに刀をネコババされていた。

 

 「何だ、あいつ」

 

 立ち上がったルフィがキョトン顔になってるけど……うん。

 

 「お前が寝こけている間に出て来た敵戦力だよ」

 

 「ごめんなさい」

 

 お前、もうちょっと反省しろ!

 一方で緊迫した空気のゾロとシャム。

 

 「戦う前に、この邪魔な荷物を何とかしなきゃな」

 

 そう言ってネコババしていたゾロの刀2本を放り投げるブチ。

 でも残念。

 

 「じゃ、もーらい」

 

 俺は剃で刀の落下地点に向かい、キャッチした。

 にしてもゾロ、さっき凄い顔だったな。まぁ、この2本の内1本は親友・くいなの形見、和道一文字だもんね。それを粗末に扱われたらそうなるだろう。

 

 「ゾロ!」

 

 俺はキャッチした刀をゾロに投げ返した。ゾロもそれを易々とキャッチして……いや、だから何でそんな悪人面で笑うんだよ。

 

 「テメェら……覚悟は出来てんだろうな?」

 

 ゾロは結構切れていた。刀に手を出された剣士の怒りか。

 

 「チッ。刀3本使ったからって、何になる!」

 

 シャムが毒づいたが、負け惜しみにしか聞こえない。

 

 「刀3本使うのと……三刀流は、違うんだよ」

 

 ゾロ……カッコいいな、オイ!

 しかしまぁ、その迫力に圧されたせいかブチも早々に参戦することにしたらしい。

 

 「キャット・ザ……」

 

 空高く飛び上がり、シャムと対峙するゾロに狙いを定める……が。

 

 「もう少し周りに気を配れ。敵は1人じゃないぞ」

 

 「な!?」

 

 俺は空中のブチの更に上空に回り込んだ。いくら高く飛んでも、ただの跳躍と月歩を比べればこちらの方が機動力は圧倒的に上だ。

 

 「嵐脚……」

 

 ゾロに当たらないように気を付けて、と。

 

 「ま、待て!」

 

 俺が何をしようとしているかは解らなくとも、ロックオンされていることは肌で感じているんだろう。ブチは随分焦っている。

 当然だろう、空中では落下以外に移動など出来ない。つまり、逃れる術は無いわけで。

 

 「白雷!」

 

 今更だが、俺は原作で出て来たCP9の技は粗方練習した。指銃・撥のように実戦ではあまり役立たない程度のレベルでしかない技も

多いし、鉄塊拳法に至っては習得出来ていないけど、反対に結構自信を持ってるのが嵐脚だ。

 まぁ、現時点ではまず間違いなく本家(?)のカクに及んでいないだろうけど、W7までにはもっと威力を上げたいね。

 けれどそんな俺の技でも、ブチを沈めるには充分すぎた。

 

 「うっぐぅぁ!!」

 

 斬撃をどてっ腹に食らい、ブチはそのまま意識を飛ばしてしまったらしい。

 当然、その身体は重力に従って落下。嵐脚による加速も加わり、ブチは轟音と共に地面に落ちた。あーあ、めり込んじゃって。

 

 でも完全に落ちてるな。死んではいないけど、催眠で強化、なんてのは無理だろう。

 

 「ブチィ!!」

 

 かぎ爪を以ってゾロと切り結んでいたシャムが、相棒の惨状に気を取られてゾロから気を逸らした。おいおい、ただでさえ劣勢……どころか軽くあしらわれてたってのに、いいのか?

 

 「虎……」

 

 当然、その隙を見逃すようなゾロではなく。

 

 「狩り!!」

 

 「!!!」

 

 技1発。それがヒットしたことによって、シャムも沈んだ。

 

 ……ニャーバンブラザーズ……短い出番だったな。

 

 「い、一撃!?」

 

 「ニャーバンブラザーズが、2人とも……!」

 

 希望に目を輝かせていたモブたちも、あからさまにショックを受けている。

 

 「ユアン!おれもあいつらぶっ飛ばしたかったんだぞ!」

 

 着地した俺を待っていたのは、ルフィの怒りだった。理不尽な。

 

 「心配しなくても、まだ御大のクロが残ってるさ。俺だって偶には戦いたいよ。でないと鈍っちまう……あの2人、船番だって言ってよね。じゃあ、今船はもぬけの空かな。俺、ちょっと物色してくるよ」

 

 俺はルフィの隣を通ってベザン・ブラック号に向かおうとした……が。

 

 「……」

 

 「どうした?」

 

 立ち止まり、振り返った俺にルフィが不思議そうな顔をした。俺はニヤリと笑う。

 

 「良かったな、ルフィ。案外早くクロをぶっ飛ばせそうだぞ?」

 

 気配を感じる。言外にそう言うと、ルフィも好戦的な顔をした。

 

 「じゃ、俺はひとまず見てくるよ」

 

 無人の船に入り込むのに、わざわざこっそりする必要は無い。俺は軽く跳躍して船に乗り込んだ。

 

 「何だこのザマはァ!!」

 

 そんなクロの怒声を背中で聞きながら。

 

 

 

 

 「案外、そこそこあるじゃんか」

 

 クロネコ海賊団って、結構几帳面な集団だったのか?って思うぐらい船の内部は整頓されていた。お陰で物色のし易いこと、し易いこと。

 

 「私の分は残ってるんでしょうね?」

 

 「あれ、ナミ? いつの間に来たんだ?」

 

 甲板に出てみると、不機嫌そうなナミが腕を組んで仁王立ちしていた。

 

 「邪魔しないでって言ったでしょ」

 

 俺の手にある、宝を詰めた袋をジト目で見ながら不満を口にする。俺としてはナミの内心の焦りも解るけど、あえてそらっ惚ける。

 

 「邪魔? 俺は海賊としてその活動資金を別の海賊団から奪ってるだけだよ?」

 

 ナミの泥棒論も俺の海賊論も、正当なる暴論であるという点では似たり寄ったりだ。言い合っても水掛け論にしかならない。

 それを解ってるんだろう、ナミは口をへの字に曲げてそっぽを向いた。

 

 「はい」

 

 俺は苦笑と共に持っていた宝をナミに渡した。

 

 「は?」

 

 「仲間なら、別に資金を預けても問題無いでしょ?」

 

 キョトン顔でも咄嗟に受け取る辺り、ナミの条件反射って凄いな。

 

 「仲間……? あのね、私はあんたたちとは手を組んでるだけよ?」

 

 まぁ、そうだろう。けど俺も持ち逃げさせるつもりはない。その時はちゃんと捕獲させてもらいます。それに。

 

 「俺は海賊だからね」

 

 「……ワケ解んないわよ」

 

 「俺は海賊で、俺の船長(キャプテン)はルフィなんだよ。海賊団にとって、仲間入りも仲間抜けも、船長によって決定される。ルフィはナミを仲間として考えている。それなら俺にとってもナミは仲間なんだ」

 

 「………………後悔するわよ」

 

 「しないさ」

 

 俺が言ったことも感情論としてはウソじゃないし、理性の面でも同じこと。こう言っちゃ何だけど、後々ナミを説得するための理屈はもう考えてある。

 要は、ココヤシ村を救える目途が立てばいいんだ。

 そもそも、アーロンが何故実力では自分に遠く及ばないネズミ大佐をわざわざ買収していたか。それを考えれば、答えは簡単だ。

 そして俺は、アーロンのその努力(?)を無に帰せられる……いや、俺の力じゃないんだけどね。

 8年だ。そんな長期に渡って多くの人々が海賊に虐げられてきたと知れば、間違いなくあっちも動くはず。

 現在の所俺たちは、手配もされていなければ海賊旗も掲げていない『自称』海賊だ。そんな俺たちがソレを使ったところで、何の問題もないわけだし。

 ゴーイング・メリー号が手に入っても何とか理由を付けて、『海賊船』にするのは後にしよう。

 とにかくソレを取っ掛かりにすれば、話を聞いてくれるだろう。そうして安堵してくれれば、俺たちがアーロンと戦うことも認めてもらえる可能性が高い。

 まぁとにかく……それを言い出すタイミングは、まだだろう。

 

 「それで? 下の状況はどうなってる?」

 

 俺はヒョイと船から顔を出して下を見た。

 

 「もう止めて、クラハドール!!」

 

 下では丁度、お子様3人組に必死で押し留められながらも、決死の覚悟という表情でクロに相対するカヤが登場していた。

 

 「ありゃま。強いなぁ、あの子」

 

 ごめん、ぶっちゃけ忘れてたわ、あの子たちのこと。ごめんよメリー。

 

 「……状況は悪くはないわ。坂を突破しようとする海賊たちは油とウソップで止められているし、クロはゾロが相手しているもの。ただ……」

 

 ゾロが? ルフィは?

 俺の疑問は、すぐに解決された。

 

 「あんたの兄貴がまた眠らされてたりしなかったら、もっと楽だったんでしょうけど」

 

 ピキ、と俺は自分の口元が引き攣ったのが解った。

 再び下に視線を向けると、確かに、また寝ているルフィ……何故?

 それとも俺が悪いのか? ルフィから目を離した俺が悪いのか? 敵を殲滅する前に略奪に走った俺が早計だったのか?

 でも……それでも、1回の戦闘で3回も催眠に掛かるって……俺、もう切れていい?

 

 「よ~く解った。じゃ、俺はルフィを起こすよ」

 

 俺はニッコリ微笑んだんだけど、何故かナミに引かれた。何でだろう、別にナミに怒ってたりなんてしてないのに。

 すぅ、と俺は大きく息を吸い込んだ。そして。

 

 「起きんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 船から飛び降り、怒号と共にルフィにドロップキックをかましたのだった。


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