麦わらの副船長   作:深山 雅

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第60話 ルフィの暴走

 剃刀を使って超特急で北の海岸に向かうこと、1分も掛からなかった。まぁ、普通に走っても3分程度の距離だしね。

 クロネコ海賊団は、まだ上陸していなかった。

 

 「よ。……どうした?」

 

 現れた俺に、3人は目を丸くしている。

 

 「おま、今、空から……えぇ!?」

 

 ウソップは俺と空を交互に指差しながら、口をパクパクさせている。

 

 「剃刀だ。解除」

 

 小さくしていたルフィを元のサイズに戻すと、またウソップが目を見開いた。

 

 「どっから出て来た!?」

 

 あぁ、もう、最初にちゃんと説明しとくべきだったか。

 

 「悪魔の実の能力」

 

 「悪魔の実!? マジでか!?」

 

 「ちなみに、ルフィもな」

 

 俺は隣に立っているルフィの頬をビヨンと引っ張った。

 

 「伸びた!?」

 

 おい、さっき『何が出来るか』って話題になったとき、そう言ってただろ。

 

 「おれはゴムゴムの実を食ったゴム人間だ!」

 

 俺が手を離しても、ルフィはそのまま自分で自分の顔を引っ張ってみせた。

 

 「ちなみに俺は、ミニミニの実を食べた縮小人間ね」

 

 詳細に関しては、また後日改めて説明しよう。

 

 「そんなことより…… 随分と早く来たな」

 

 ゾロは既にバンダナを巻いて臨戦態勢になっている。俺はその言葉に肩を竦めた。

 

 「こっちの方に気配を感じたんだよ」

 

 ゾロは? 顔になってるけど、その傍らでナミが納得顔になった。

 

 「例の覇気ってやつね。それより、私も聞きたいんだけど? 何で空から現れたの? そういえば、珍獣島でも空を飛んでたわよね?」

 

 ……あー、大岩に登った時か。今更だな。

 

 「あれは月歩……詳しいことは後でだ。来たみたいだよ」

 

 海岸付近に見えてきた、クロネコ海賊団の船……確か、ベザン・ブラック号だったっけ?

 よし、やるとするか。

 

 

 

 

 

 「何だ、誰かいるぞ!?」

 

船から降りてきた男たちが、坂の上で立ち塞がる俺たちを見て驚いていた。

 

 「忠告だ、今の内に引き返せ! お前たちの企みは既にバレている! この村には、このおれの8000万の部下がいる!!」

 

 まずはウソップがハッタリをかました。

 ……戦闘中のハッタリというのは、明らかにウソって解るウソじゃダメだと思うんだけどね! こんなのに騙されるヤツなんて……。

 

 「何ィ!? 8000万!?」

 

 いたーーーーーー!! ジャンゴ騙されとる!?

 

 「ウソに決まってんでしょ、船長!」

 

 部下にツッコまれてるよ、オイ。

 

 「げ、バレた!?」

 

 ウソップがショックを受けている……って。

 

 「お前、あれマジで騙すつもりで言ってたのか……」

 

 「何だ、その人を哀れむような目は!」

 

 いや、だって色々可哀相というか。

 

 「テメェ、よくもおれを騙したな!」

 

 ジャンゴが怒ってるけど……あれは騙される方もどうかと思うぞ?

 

 「船長、大変です! あの小さな船に宝が!」

 

 あ、俺たちの見付かっちまった。

 

 「何だかやけに小さいですが……おそらく、200万ベリーはあるかと!」

 

 200万ベリー……あれは1/10サイズにしてあるから、単純計算で……2000万ベリー!? アーロンの手配額と同じぐらい!? いや、そんな単純な話ではないだろうけど。

 アルビダの宝、バギーの宝、モーガン親子の私物……そんなになるか。うわー、俺頑張ったな~。ふっ、だがこのクロネコ海賊団、そしてクリーク海賊団からも奪ってやる。

 

 「それはおれの宝だ! だがやる!」

 

 ウソップが更なるハッタリを思い付いたらしい。

 

 「この村を諦めれば、それに免じて宝をくれてやろう!」

 

 ………………って。

 

 「「ふざけんな、このバカ!!」」

 

 ナミの棒と俺の拳がウソップの頭に直撃した。

 

 「あれは私の宝よ、1ベリーだってあげないわ!」

 

 あ、やっぱり狙ってたの!?

 

 「いや、あれ俺たちのだから! ってかむしろアレ、ルフィの食費だから!」

 

 ローグタウンで換金して、食料買い込むんだ!その後はもう、アラバスタまで補給出来なさそうだし!ローグタウンできっちり備えとかないと、途中で干物になりかねない!

 

 「そんだけあれば、メシたくさん食えそうだな!」

 

 ……何だろう、ルフィの無邪気な笑顔に無性にイラッとした。

 

 「その宝は勿論頂く……が、それでおれたちが買収される理由はない」

 

 ジャンゴは冷静だった。

 

 「解ったら、ワン・ツー・ジャンゴで道を開けろ。ワン・ツー・ジャンゴ!」

 

 しかしあいつが催眠術師だと解っている俺たちは、そのチャクラムから目を逸らした……はずなのに。

 

 「何道を開けてるんだ?」

 

 俺はちょっと、いやかなり腹が立った。見事に催眠術に掛かりやがったルフィに! あ、何だろう、笑みが浮かんでくる……。

 するとルフィは、ハッと意識を戻した。

 

 「!? な、何でもないぞ!!」

 

 あれ、あっさり戻ってきたな? 腹は立つけどルフィが単純なのは解ってるから、目を覚まさせるには実力行使しないといけないかと思ってたのに。

 見るとジャンゴも自分の催眠術に掛かっていた……そりゃ、ウソップのウソにも騙されるのも納得だ。

 ジャンゴって、憎めないタイプだよな。だが、その宝を奪うことは許さん。何故ならば。

 

 「つまりそれは、ルフィからメシを奪うということか」

 

 「何!?」

 

 ルフィは目に見えてガーン状態になった。

 

 「だってそうだろ、食費が無くなったらメシを食えなくなるんだから」

 

 食い逃げ、って手もあるけど、そうしょっちゅうやることも出来ないだろう。

 空腹のルフィがどれだけめんどくさい存在であることか!!

 

 「おれのメシーーーー!!」

 

 ルフィは船に手を伸ばし、飛んでいった。その際。

 

 「ゴムゴムの~大鎌!」

 

 しっかりと雑魚クルーを多少潰してくれた。うん、食欲に忠実なルフィ凄ェ!

 

 「ゴムゴムの銃!」

 

 「ぐはぁっ!!」

 

 船で宝を抱えていた男が、ルフィにぶっ飛ばされる……哀れ、ただのモブがガチで(ピストル)を食らうことになるなんて・・・。

 

 「メシ代! 取り返したぞ!」

 

 うん、ご苦労様。

 どん、と胸を張るルフィに俺は賞賛の拍手を送った。

 

 「な、何だアイツ!?」

 

 「手が伸びたぞ!」

 

 「足もだ!」

 

 ざわざわと雑魚クルーが騒いでいるけど……敵にまでちゃんと説明してやる必要はないだろう。

 

 「チッ……ヤツに構うな! おれたちはとにかく村を襲わなきゃならねぇんだ! これがキャプテン・クロの計画だということを忘れるな!」

 

 ジャンゴの一喝に、モブたちは自分の役割を思い出したらしい。一発で部下を鎮めるジャンゴは、何だかんだ言ってもそれなりに上に立つ器といえるだろう。いや、単にクロが怖いだけなのかもしれんが。

 

 《うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!》

 

 モブたちは一斉に村へと突撃しようとした。けどそれも無理な話。

 

 「どわっ!」

 

 前しか見ていなかったせいで足元がお留守になっていた連中が、坂に撒かれていた油に滑って転倒した。

 

 「必殺・鉛星!!」

 

 油の上でわたわたしていた男たちに、ウソップがパチンコで攻撃を仕掛けた。

 でもさ、これって……。

 

 「油に火を点ければ話早くね?」

 

 そしたらコイツら纏めて火達磨に……。

 

 「何怖いこと考えてんのよ!」

 

 俺の呟きはナミに聞かれていたらしく、ツッコまれた。棒で殴打されて……痛い。

 

 「冗談だよ、冗談……指銃・撥!」

 

 「ぐっ!」

 

 1回のパチンコで放てる玉は、1発のみ。ウソップも頑張って連射しているけれど、全員を沈められているわけじゃない。

 通常なら牽制程度にしか使えない撥も、足元が油塗れっていう状態なら、効果は充分。勝手にすっころんでくれた。

 

 「おいテメェら! 何やってやがる!!」

 

 ジャンゴが苛立ったように叫ぶ。

 

 「そんな子供だましに引っ掛かりやがって! ……よし、テメェらこれを見ろ!」

 

 ジャンゴは再びチャクラムを取り出した。

 

 「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる! あんな油なんて、飛び越えられるぐらいにな!」

 

 「何? 思い込みで強くなろうってんの? バッカみたい」

 

 ナミは呆れているけれど……催眠をバカにしてはいけない。

 

 「気を付けた方がいい。要するに、火事場のバカ力が発揮できるようになるってことだからね」

 

 「何だと?」

 

 ウソップとナミが不思議そうな顔をした。ゾロは……変わらないな。何がどうなろうと斬るだけだ、とでも思ってるのかもしれない。

 俺は軽く溜息を吐いた。

 

 「人間は通常、自分のパワーを抑えているんだ。肉体に掛かる負荷なんかを無意識的に考えて、リミッターを掛けてる」

 

 思えば、ルフィの一撃の重さも、その辺に理由があるのかもしれない。

 例えば、俺が全力で岩を殴れば拳が痛くなる。下手をすれば骨が折れる可能性だってある。でもルフィは、どれだけ本気で殴っても、自分の手を痛めることなんてない。ゴムだから。それで常に、真実『本気』の攻撃を出せる。

 まぁ、何が言いたいのかというと。

 

 「ワン・ツー・ジャンゴ!!」

 

 《うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!》

 

 場合によっては、大幅なパワーアップをすることが出来るってわけだ。

 モブの1人が思い切り振るった腕が崖に当たり、崖は大きな音を立てて抉れた。

 

 「何てパワーだ!」

 

 それまで特に反応を示していなかったゾロが、驚きの表情を浮かべた。

 でも俺としては……あーあ。何だろう、遠い目になってしまう。

 

 「………………そーだなー」

 

 「何よ、そのやる気のない声は!」

 

 顔色を悪くしたナミに食って掛かられた。

 だってさぁ……よく見てみろよ。俺、頭痛くなってきた……。

 

 「お前ら、下がってろ。おれたちがやる」

 

 言われたナミもウソップも、素直に下がろうとした。

 

 「おい、ユアン! ……どうした?」

 

 ゾロも俺の様子に気付いたらしい。どんな様子かって? 頭を抱えてるよ。

 

 「どうしたも何も……見てみろよ、アレ」

 

 俺が指した指の先には。

 

 「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 またも見事に催眠に引っ掛かったルフィがいた。

 

 「え?」 

 

 ジャンゴが間抜け面を晒した。

 

 「な、何て単純なヤツなの!」

 

 下がるのを中断したナミも呆れている。ちなみに、ウソップも同様だ。

 でも……。

 

 「あいつが単純なのは、昔からだ」

 

 言うと、何か同情的な視線を向けられてしまった。確かに、苦労はさせられてきた。けど俺としては、その単純さには助けられてる部分もあるんだよね。

 何しろ、『『赤髪』に似てるなんて気のせいだ』と言って『気のせいか』と納得させられてくれるぐらいだし……ちなみに、エースは全然誤魔化されてくれなかったことをここに追記しておこう。いや、ルフィが言い始めた頃は納得してくれてたんだけどね。手配書で本人を見てからは……うん。納得してくれなくなった。多分、母さんの日記を読んでたからでもあるだろうし、祖父ちゃんも態度を見ていたせいでもあるだろう。そうでなければ他人の空似で納得してくれただろうに。

 閑話休題。

 

 「ゴムゴムの~~銃乱打!!!」

 

 《うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!》

 

 残像が見えるほどの拳の嵐に、折角パワーアップしたモブが大量脱落した。残った者たちも、その衝撃に催眠が解けてしまったみたいだ。

 

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 まるで暴漢に襲われる乙女かのような悲鳴を上げて逃げようとするモブたち。

 

 「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ルフィはベザン・ブラック号に飛びつき、そのまま。

 

 「船首をもぎ取りやがったぁ!!!」

 

 バキバキと、力任せにその黒猫の飾りが付いた船首を引き剥がした。

 

 「随分とデカイ凶器だな」

 

 「いや、そういう問題か!?」

 

 俺が素直な感想を口にしていると、ウソップにツッコまれた。何だか今日の俺はツッコまれてばっかだな。別にボケてるつもりはないのに。

 ジャンゴも流石にこれは拙いと思ったらしく、再びチャクラムを取り出し、ルフィに向けた。

 

 「ワン・ツー・ジャンゴでお前は眠くなる! ワン! ツー! ジャンゴ!」

 

 ルフィはまたも見事に催眠に掛かり、パタッと眠りに落ちた。そのせいで抱えていた船首の下敷きになっていたが……問題ないだろ、あいつゴムだし。

 にしても、凄い衝撃だった。船首が地に落ちたと同時に、地響きがしているかのような震えが伝わってきたよ。

 なお、その際に船首の下敷きになってやられたモブが数人いた。哀れ。

 

 「何か、ほぼ全滅って感じね」

 

 ナミはもう戦闘態勢を解きつつあった。

 

 「そうでもない。結局まだ主力級の敵は出てきてないし、キャプテン・クロ本人ともいずれは戦り合う必要がある。とはいえ大分数も減ったし、一般クルーに関しては後は任せるよ……どうやら、お出ましみたいだし」

 

 ベザン・ブラック号で動く2つの気配……シャムとブチのニャーバン兄弟ブラザーズだろう。

 

 「おいおい、船が壊されてるぜ!」

 

 「こりゃどういうことだ!」

 

 その声に、残っているモブたちが歓声を上げた。うん、信頼は厚いみたいだね。

 

 「ようやく骨のありそうなヤツでも出てくるか?」

 

 さっきの俺の『お出まし』発言を聞いていたのだろうか、今まで全く活躍の場が無かったゾロが笑う……うん、悪人面だ!

 

 「降りて来い、ニャーバンブラザーズ!」

 

 ジャンゴは得意げにヤツらを呼び寄せた。

 

 「まぁ、それなりにやりそうだね……この場は頼むよ。俺は取り敢えず、ルフィを起こしてくるから」

 

 ゾロが頷いたのを見て俺が剃でルフィの元へ向かったのは、船からニャーバンブラザーズが飛び降りてきたのと同時だった。


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