麦わらの副船長   作:深山 雅

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第41話 日記の中身① ~不憫なる赤鼻~

 いやー、平和だねぇ。

 海が荒れることもなく小船はゆったりと航海中だ。

 

 例によってルフィには明確な目的地がまだ無いので、航海士代理の俺が進路を取っている。

 適当に船の行くまま気の向くまま、と言っているけど、実際にはオレンジの町に向かっている。

 チラと目を向けると、干し肉に齧り付いているルフィと酒を飲んでるゾロ。ちなみに、2人とも食い尽くす・飲み尽くす勢いなもんだから、小さくなってもらった。これで少しは消費が抑えられるだろう。まぁそうは言っても、ゾロはちゃんと定期的に剣の手入れとかもしてるから、ただの飲兵衛じゃないよ? ルフィは食いっぱなしだけどな!

 俺はというと、ビーチチェアに寝そべってレモンジュースを飲みながら読書に勤しんでいたりする。うん、ビーチチェアもシェルズタウンで買ったんだよ!

 だって、船で読書する時はビーチチェアにトロピカルジュースでしょ!? パラソルも有ると尚いいけど!

 ……コホン。まぁ、俺の主張は置いといて。

 

 俺が今読んでるのはお馴染み、母さんの日記だ。何故今このタイミングでこれを読んでるのかっていうと……まぁ、過去に思いを馳せてるってとこかな?

 だって……さ。

 オレンジの町には行かなきゃいけないよ? そうでないとナミに会えないし。

 でも、そこにはアイツもいるんだよね。そう、『赤っ鼻』のバギーが! ……あ、バギーの二つ名、『赤っ鼻』じゃなかったっけ? 何だったっけ、え~と…………………………『道化』?

 ま、どうでもいっか。別に俺が心の中で言う分には赤鼻でも赤っ鼻でもデカっ鼻でもなんでもいいし。

 

 とにかく、うん、バギーがいるんだ。バギーってさ、心狭いじゃん? 原作じゃあルフィの麦わら帽子見ただけでどっかの誰かを思い出して腹立ててた。似てるとは思ってても本人の物だとは気付いてなかったのに、だ。それを踏まえて考えると……。

 うん、俺ってばすっごいマズくね!? 顔が思いっきり似てるんだけど!? ってかほぼ生き写しなんだけど!?

 そりゃあ別に、それで喧嘩売ってくるってんなら買うけどさ、余計な面倒は嫌だよ。

 出来れば顔を合わせずに済ませたいもんだ。

 ……と、こんな感じでバギーのことを考えてたら、日記読みたくなってね。一部公開してみよう。

 

 (ロジャー海賊団時代)

 『この前赤鼻に貰った宝石を換金したら、結構いい値で売れた。そのお金で前にクロッカスさんに進められた医学書を買った。面白かった。でも、赤鼻に宝石をどうしたって聞かれて売ったって答えたら、ショックを受けてたみたい。返して欲しかったのかな? 使わなかったのかって言われたから、買った医学書を見せてお礼を言ったら、落ち込んでいた。あたし、何かしちゃった?』

 

 いや、母さん? 多分赤っ鼻はそれを装飾品として使って欲しかったんだと思うよ? 男は女に服とかアクセサリーとか贈るの結構好きだからね……。貢物、みたいな?

 赤っ鼻……報われないヤツ……。

 

 (ロジャー海賊団時代)

 『北極か南極、どっちが寒いのかって赤鼻とシャンが喧嘩してた。レイリーさんに両成敗で殴られてた。痛そうだった。でも、あたしが南極の方が寒いって言ったら、赤鼻に切れられちゃった。何でそんなこと言うんだ、って。だって、しょうがないじゃない。海に直接氷が浮かんでる北極より、陸地の上に氷を張ってる南極の方が寒いんだもん。そう言ったらブスくれるし、ワケわかんない。でもその後に敵船が襲撃してきて、無茶苦茶張り切ってた。機嫌が治って良かったけど、本当に宝物好きなんだね。今日の戦利品に悪魔の実があったらしい。あたしは無理だけど、他の誰かが食べるのかなぁ?』

 

 原作でもあったあのシーンだね。

 母さん? 多分赤っ鼻は単に自分の味方をして欲しかっただけだと思うよ?

 

 (ロジャー海賊団時代)

 『今日冬島に着いた。島を探検してたら道に迷って、いつの間にか雪山で1人遭難してた。死ぬかと思った。親切な兄妹に助けてもらって九死に一生。2人は命の恩人! この恩は絶対に忘れない! 名前は、お兄さんがユアン、妹さんがユリアっていうんだって。もし将来あたしに子どもが出来たら、名前を貰おうっと』

 

 あ、俺の名前そこから来てたの!? と、初めて読んだ時思ったよ。母さんは俺が産まれてすぐ死んじゃったから、てっきり祖父ちゃんが名付けてくれたんだと思ってたけど、母さんだったんだね。

 でも、どうやったら雪山になんて迷い込めるんだろう……?

 

 (赤髪海賊団時代)

 『ドラム王国に到着。医療大国って聞いてたから1度来てみたかったの! 嬉しい。でも、王様はいい人みたいだけど、王子様は全然だってもっぱらの噂。この国大丈夫なのかなぁ?

 100歳を越えてるのにすごいピチピチなおばーさんに会った。凄い名医なんだって。くれはさんっていうらしい。見せてもらったけど、本当にすごかった。でも、町の人に追っかけられてたヒルルクって人はヤブ医者なんだって。色んな人がいるんだね』

 

 まさかのドラム王国! しかもDr.くれは&ヒルルク!

 まぁ、母さんはロジャー海賊団時代は海賊見習いをしつつクロッカスさんに色々教えて貰い、赤髪海賊団時代は船医をしてたらしいからさ、医療大国に興味を持ってても可笑しくないけど……。

 

 (赤髪海賊団時代) 

 『バスターコールが発動されたらしい。オハラって町が消えて無くなって、たった8歳の女の子が懸賞金を懸けられたらしい。本当に酷いことをする!』

 

 え~と……それって明らかにロビンのことだよね?

 うん、本当にこの日記色んなことが書いてあるよ……。

 

 (赤髪海賊団時代)

 『W7に着いた。ロジャー船長のオーロ・ジャクソン号を作ったトムさんがいるところ。でも、大昔にはここで古代兵器が作られてた、だなんてビックリ! トムさんの造船所の名前はトムズ・ワーカーズっていうらしいけど、海列車ってのの開発で忙しいみたい。ココロさんっていう人魚さんがお茶を飲ませてくれた。いいなぁ、人魚。羨ましい。あたしは泳げないもん……。

 海列車は、トムさんとお弟子さん2人で作ってるんだって。完成したら乗ってみたいな。……でもお弟子さんの1人、どうして海パン姿だったんだろう?』

 

 ……もう何も言うまい。

 

 (海賊辞めた後)

 『珍しい場所で珍しい人に会った。移動に困ってるって言ったら、船に乗せてくれた。渡し守みたいなことさせちゃってごめんなさい。いつも怪我を治しているお礼だって言ってくれたけど……うん、確かにあの人、会う度にいつも怪我するもんね。でもタダで乗せてもらうのはやっぱり悪いから、ちょっとお礼は渡した。いらないって言われたけど、それならいつか返してもらいに行くからそれまで持っててって言って押し付けた。小さなものだし、邪魔にはならないと思う。

 でも、それじゃ借りを返したことにならないって言われちゃった。男のプライドでもあるのかな? で、1つ約束した。口約束だし、そんな状況にもそうそう陥らないだろうから、意味は無いのかもしれないけど。

 さぁ、アレを返してもらうためにも、あたしはちゃんとこの子を産まないとね!』

 

 この子ってのは俺のことなんだろうけど……珍しい人って誰さ? 渡したお礼って? 約束って何したの?

 でも……どの道母さん死んじゃったんだよね。それらも全部宙に浮いちゃってるか。

 

 「……ァン! ユアン!」

 

 「!?」

 

 ルフィに呼ばれてるのに気付いて俺はパッと顔を上げた。結果的に無視されていたルフィは少し膨れている。

 

 「おれ、何回も呼んだぞ! どうしたんだ?」

 

 あ~、気付かなかった。思ったより集中してしまってたみたいだな。軽く流し読むだけのつもりだったのに。

 

 「ゴメン、ちょっと聞いてなかったんだ。どうした?」

 

 「肉くれ!!」

 

 迷いの無い断言に、俺はちょっと頭が痛くなった。

 

 「さっき渡しただろ?」

 

 そう、俺がルフィに干し肉を渡してからせいぜい1時間しか経ってない。しかも、ルフィをミニサイズにして食いでを増やしていたのに。

 

 「もう食っちまった! 次は普通の肉がいいな、干し肉飽きた!」

 

 ……贅沢言いやがって。

 

 「言っとくけどね、肉は干し肉しか無いよ? この船じゃ生肉は保存できないし、調理も出来ないんだからな」

 

 これは紛れも無い事実である。

 

 「ちぇ~」

 

 俺の言葉にルフィは面白く無さそうに寝転び……次の瞬間、飛び起きた。

 

 「元の大きさに戻してくれ!」

 

 「は?」

 

 急に何言い出すんだコイツ、と思ったけど早く早くと急かされたから、俺はルフィに使った能力を解いた。

 

 「解除」

 

 一瞬でルフィが元に戻り、すぐに手を空に伸ばし始めた。その視線の先には……。

 

 「なるほど」

 

 大きな鳥がいた。そうか、アレを見つけたのか。で、捕まえて鶏肉を食おう、と……調理出来ないって言ったの、忘れたのか? まぁ、丸焼きぐらいなら不可能じゃないか。

 それにしても、肉が欲しけりゃ自分で獲る! だなんて……しっかり野生の習性が身に付いちゃって。

 

 「ゴムゴムの~ロケット!!」

 

 バビュン、とルフィは飛んでいき……喰われた。鳥に。……って。

 

 「「アホーーーーーーーーーー!!」」

 

 ゾロと俺のツッコミが重なった。

 しまった、油断してた! これはあれか、原作のあの場面か!?

 

 「たーすーけーてー!」

 

 飛ぶ鳥に連れ去られてる真っ最中なもんだから、ルフィの声がドップラー効果を伴いながらどんどん遠ざかっていく。にしてもあの方角は……よかった、オレンジの町の方だ。

 

 「解除(キャンセル)!」

 

 俺はゾロを元の大きさに戻した。

 

 「俺がルフィの位置を見てるから、ゾロ、漕いで!」

 

 オールが1組しか無いからか、ゾロは意外にもあっさり俺の指示に従ってくれた。

 お前が漕げと言われるかとも思ったんだけどな。

 え? 月歩で追えばいいんじゃないかって?

 だってさ……ソレ、疲れるじゃん。行き先の当たりがついてるんだから、無駄な労力を使うことないじゃん。

 ええ、尤もらしいこと言ってゾロに漕ぎ手を押し付けましたが、何か?

 

 「おーい、そこの船!」

 

 「止まってくれぇ!!」

 

 あ、進路に溺れている男たち発見。

 さて、バギーとは出会わずに済むかな……。 


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