麦わらの副船長   作:深山 雅

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第24話 腐れ貴族

 俺にとっては、盃を交わしてから1番態度が変わったのはルフィだった。

 それまでも俺に対して年上の威厳を見せようとしてたんだけど、それがあからさまなったんだ。何て言うか……兄貴風?

 うん、解る解る。兄ちゃんって弟に偉ぶりたくなるんだよね、特にこれぐらいの年だと……微笑ましいなぁとしみじみしながら見ています。

 とはいえ、少なくとも現時点では俺の方が強いし、精神年齢も高いから(そう信じてる)空回り気味な感じが拭えないんだけどね。

 尤もこれは俺の主観であって、客観的に見た場合1番態度が変わったのはエースだろう。

 エースはルフィを俺と同じように扱うようになった。つまり『年下の友だち』から『弟』に認識が変わったんだ。こちらも見てて微笑ましい。

 なんだか、俺がやたらと上から目線みたいだけど……でも可愛いんだもん、そう思うのはどうしようもない。

 

 

 

 

 しばらくの間、特に問題の無い日々が続いた。

 途中祖父ちゃんの襲来なんかもあったけど……うん、俺も投げ飛ばされた。でも大丈夫、命には関わらない程度の怪我で済んだ。

 ちなみに、聞いてみました。こんな生活環境に放り込んで、俺たちが海兵を目指すって本気で考えてるのかって。答え? 予想通りだったよ! 『ワシの孫じゃし』の一言で終わらせられちゃったよ! 実力さえあったのなら本気でシバきたいと思った俺はきっと間違ってない!

 他に言うなら……そうそう、マキノさんが来てくれた!服くれたんだよ!

 ……俺を見てちょっと固まってたけどね!? 何だよ、そこまでかよ皆して! それでもすぐに柔らかな微笑を浮かべたマキノさんは優しいな!

 独立国家も作ったよ。実際は子どもらしい秘密基地みたいなもんだけど、ああいうのって楽しいよね。

 まぁ、そんなこんなで平和な生活を謳歌してたんだけど……俺は忘れてはいなかった。この次に起こる出来事を。

 

 

 

 

 天竜人のゴア王国訪問。その予定日がいよいよもうじきという頃合いになって、俺はちょっと行動を起こした。行動っていう程のことでもないけどね。

 簡単に言えば、体調が悪いフリをしたんだ。寝込むほどじゃないけどあんまり動けない、程度に。

 だから、毎日の基礎トレーニングも中断してるし食事も少し残している。ルフィあたりは残り物にがぶりついて喜んでるけど、エースとサボは心配している。

 ゴメンナサイ、演技なんです……と、ついつい告白したくなることもあったけど、あえて黙る。

 俺ってばまたもや妙な策略考えてます。でも、前回のようなことにはならない……と思う。

 今回の俺の目的は大きく分けて2つ。

 それは……。

 

 

 

 

 「サボを返せよ、ブルージャム!!」

 

 取り押さえられたエースとルフィの悲痛な声が響いた。

 そう、サボの父親が海賊を使ってサボを連れ戻しに来たのだ。

 そろそろだと思っていた……俺は内心溜息を吐いた。

 天竜人がもうじき訪れるのなら、この日も近いと。

 

 「返せだと? 妙なことを言う……サボは元々うちの子だ。子どもが産んでもらった親のために生きるのは当然だろう!」

 

 ……前半はともかく、後半は反吐が出そうな理屈だ。

 考え方は人それぞれではある、あるけれど……何のために生きるか、なんてそれこそ当人が決めることだろうに。

 正直殴ってやりたかった。こんなでっぷりした中年親父なら俺にだってやれる。

 でも……やらない。俺はグッと拳を握って我慢した。

 ブルージャムという海賊一味がいるから無理、という現実的な問題もあるけれど、それ以上に……俺が『ここ』にいる、ということを知られるわけにはいかないからだ。

 サボを取り戻そうとするエースとルフィがブルージャムたちに邪魔されている。

 

 「そういえば、もう1人のガキはどうした?」

 

 確かユアンといったな、とブルージャムは哂った。3人ともにピクリ、と反応したのが解った。エースとルフィの視線がサボに……いや、サボの服のポケットの中にいる、小さくなった俺へと向けられた。 だが、俺が顔を見せてない以上、俺たち以外にはサボを見ているようにしか見えないだろう。一同は首を傾げていた。

 

 俺はここ数日、グレイターミナルへと向かうと『疲れた』と言って休んでいる。もっと言うなら、小さくなってサボのポケットの中にいる。休むためだって言ってね。グレイターミナルは治安が悪いから1人になるのは不安だって言って、こうして行動自体はともに出来るように。

 体調不良を装ってたこともあってそれ自体はあっさり受け入れられたよ。まぁでも……何でサボなんだよ、俺たちじゃダメなのか、と拗ねる兄が若干2名いたけど。だって2人とも、熱くなると俺がいること忘れるだろって言ったら黙っちゃった。思い当たるフシはあるんだね。

 まぁ、実際はこの時のためなんだけど。

 今日だけこんな行動を取ってたらあまりのタイミングのよさに怪しがられる可能性もあったから、数日前から続けてこうしてた。

 

 

 

 

 サボは、言うことを聞くからエースとルフィを傷つけないでくれ、と懇願した。

 

 「お願いします……大切な……兄弟なんだ!」

 

 ……我が子がこんなに涙を流しながら痛々しい様子でいるのに、言質を取ったとばかりに笑うこの中年貴族親父は、狂ってるんじゃないかとすら思う。

 反対にエースとルフィは必死だ。ここでこのまま別れたら、色んなことが終わってしまうというのを本能的に察知してるんだろう。

 

 「おれ達なら大丈夫だ! 一緒に自由になるんだろ!? ここで終わる気か!?」

 

 エースの呼びかけにサボは振り返らなかった。それでも、涙を流し続けているのが俺の位置からはよく見える。

 

 

 

 

 こうしてサボと……周りを固められてるためにポケットから出る機会が無かった俺は、高町へと向かうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 俺がこの行動を取ったのは、出来るだけ自然な形でサボと行動を共にするためだ。こういった流れなら、俺が今回の事件においてこちら側にいても全く可笑しくない。不可抗力だからね。

 さっきも言ったけど、俺には今回2つの目的がある。そのためにはサボと一緒じゃないといけないんだ。

 前回策略を考えた時にはその策に溺れたけど……今回は、そこまで不測の事態を招くようなことをしたいわけじゃない。

 

 

 

 

 1つ目の目的は、天竜人の攻撃を阻止すること。これは難しいことじゃない。要は、その船に近付かなければいいだけなんだから。

 原作では革命軍に助けられたような描写があったけど……実際のところは解らない。だったら、あんな理不尽な攻撃は避けて欲しいと思う。

 

 

 

 

 そしてもう1つの目的は、サボが今回出会うはずの人物にある。

 それは……我が伯父に当たる革命家ドラゴン、そしてエンポリオ・イワンコフとの面識を得ることにある。

 どちらが大物か、といえばドラゴンだろうけれど、俺が会っておきたいのはむしろイワンコフの方だ。ルフィと行くと決めた以上、少しでも役に立つ可能性がありそうならば出来る限りの根回しをしておきたい。

 サボはドラゴンと会い、その最中でイワンコフはドラゴンを呼びに来ていた。つまりドラゴンとイワンコフ、同時に会える可能性が高い。母さんの日記には兄・ドラゴンのことも書いてあったから、俺がドラゴンのことを知ってても可笑しくない。その上でドラゴンとの伯父・甥の関係を示唆すれば、イワンコフの記憶にも残るだろう。

 そうなったら、インペルダウンでの助力を願い出やすくなる。

 あの時最終的にルフィはLEVEL6まで到達することはできたんだから、もう少し早ければあそこでエースを助けられたかもしれないんだ。最終目的は頂上戦争ではあるけれど、それならそれで構わない。出来る限りのあらゆる可能性と手段を考えておいて損は無いだろう。

 出来ることなら、今回この国に来ているはずのバーソロミュー・くまにも会っておきたいけど……流石にそれは贅沢な望みだろうな……。

 

 ハァ、と溜息を漏らす。

 サボが泣いていて、エースとルフィが必死になっていて……それなのに俺はこんなこと考えてるなんて……。

 なけなしの良心と罪悪感が、ズキズキと痛んでいた。

 


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