麦わらの副船長   作:深山 雅

24 / 133
第23話 兄弟

 状況を整理してみよう。

 全員で夢を語り合った→俺、海賊船に勧誘された。

 うん、どうしてこうなった!

 

 「え~っと……落ち着いてよ」

 

 俺は、それはそれは真剣な眼差しを向けてくる3人を見上げた。……自分よりデカイヤツ3人に見下ろされながら凄まれる気分を想像してみて欲しい。

 マジでやめてくれって思うだろ?

 

 「そもそも、何で俺がお前らのうち誰かの船に乗ることになるんだ?」

 

 そんなこと一言も言ってないよね?

 でも3人は、口々に言い募ってきた。

 曰く、海賊は面白そうだけど船長になる気はない、なら誰かの船に乗るんだろう、それは俺たちの誰かじゃないのか……とのこと。

 ……確かに、海賊も面白そうとは言った。でも、海賊になりたいとは言ってない。賞金稼ぎって手もあるじゃんか。

 

 

 

 

 この様子を見るに、多分3人の思いとしては『自分が選ばれたい』という競争本能なんだろう。海賊がどうとかそういう細かいことは考えてないと思う。

 弟分に選ばれるってのはイコール、頼れる兄貴だと思われてるってことにもなる。

 つまりは……プライドを掛けた勝負? 何だその番外戦は。

 ……とはいえ俺は別に心理学者じゃないし、こんな分析しても正確なところは解らないんだけど。

 

 「別にそんなの考えてなかった」

 

 俺の返答にあからさまにショックを受ける3人……そこまでのことか!? 別に俺は何も悪くないのに罪悪感が湧いてくるじゃないか!

 

 

 

 

 でも冷静に考えてみると……スゴイ、俺未来の火拳と麦わら(とサボ)に勧誘されてるよ! っていうか取り合われてるよ! ヤバイ、ミーハー魂が擽られる!

 ……コホン、そんなことはどうでもいいんだよ、うん。

 よくよく考えれば、ソレも悪くない。

 だって、17歳での船出を待ってたら、頂上戦争終わってる。それなら、自分だけ予定を前倒しするよりも誰かと一緒のほうが自然な形での出航だ。

 多分、サボと一緒に出航することは出来ないだろう。天竜人の攻撃はともかく、船出自体は止める気無いからね、どっちみち無理。

 エースかルフィ。どちらにしても頂上戦争に行ける可能性は高い。エースは言わずもがなだし、ルフィもシャボンディ諸島でバーソロミュー・くまに飛ばされる時にコバンザメみたいにくっついて行けられれば何とかなる。俺の能力ならそれは決して不可能なことじゃない。

 うん、考えてみればそれ自体はいい考えかもしれない。

 ただ……どちらにせよ、一長一短がある。

 エースと一緒に行くなら、頂上戦争にはまず間違いなく行ける。確か、エースが作ったスペード海賊団は白ひげ海賊団に吸収されたはずだから。でもそれだと、出航時の俺は13歳。実力的に不安がある。修行は万全とは言えないだろう。

 え? 頑張ってエースと一緒に行って黒ひげティーチを何とか出来れば頂上戦争自体が止められるんじゃないかって? …………自然(ロギア)系の能力まで手に入れたエースを降したほどのヤツ相手に、俺にどうしろと? 間違って俺が殺されたりすれば、エースは絶対にヤツを追う。ヤだよ、俺。サッチポジションになるのは。ただでさえ確実性の無い目標なんだ、リスクの高すぎる賭けはしたくない。

 ルフィと行くなら、3年の猶予が出来る。反面、頂上戦争に行ける確率が下がる。くまにバラバラに飛ばされてしまう可能性だって充分あるからね。

 エースとルフィっていう個人を見ると……うんダメだ、どっちも好きだ。

 本当、どうしよう…………ん?

 

 「3人とも、何やってんの?」

 

 俺が考え込んでる間に3人は熱い勝負を繰り広げていた……じゃんけんで。

 

 「勝ったヤツがユアンを1人目の仲間に出来るんだ!」

 

 キラッキラと無邪気な笑顔でルフィが宣言した…………って、オイ!

 

 「俺は景品か!? ってか、当事者無視して話を進めるな!」

 

 え、俺の運命、じゃんけんで決まっちゃうの!?

 

 「ちなみに、誰が勝ったんだ?」

 

 「おれだ!」

 

 ……あぁ、それでそんなにキラキラした顔してんだねルフィ?

 俺は内心溜息を吐いた。

 困った、これは今しか決めることが出来なさそうだ。

 既に俺も誰かと一緒に海に出る方向で考えている。けど、それがエースかルフィか……今決めないと、このままルフィで決定する。1度そう決めてしまえばルフィのことだ、後からの異議なんて認めないだろう。エースだって納得しない、その辺のケジメは付けてるから。 

 修行期間を取るか、戦争行きへの確実性を取るか………………よし、決めた。

 

 「ルフィ」

 

 「? どうした?」

 

 俺の真剣な声音に、ルフィは小首を傾げた。

 

 「ルフィ、悪いんだけど」

 

 エースと行こう。修行なら航海しながらでも出来る。最終的にマリンフォードに辿り着けられればいいんだから。

 俺の言葉の先が気になるのか、ルフィの表情は強張っている。反対に近くで見てるエースとサボの表情には期待の色が浮かんでいる。

 

 「俺は………………」

 

 エースの仲間になりたい……と言おうとして、何かが引っ掛かった。何でだ?

 エースと船出……航海……航海………………っ!?

 

 「ユアン?」

 

 急に黙り込んだ上に口元を引き攣らせてしまった俺を心配したのか、ルフィが覗き込んできた。俺はそんなルフィの手をガシッと握り締める。

 

 「是非一緒に行かせてくれないかな!?」

 

 俺の口から出たのは、ほんの数秒前まで考えてたのとは真逆の言葉だった。

 

 「おぅ、いいぞ!」

 

 ホッとしたように元気よく頷くルフィ。

 

 「「えぇ~~~~~~~~!?」」

 

 エースとサボは目を丸くしてる。

 

 「仕方ないよな!? 勝負で勝ったんだもんな!? 頑張ったなルフィ!」

 

 俺は必死だ。ルフィを選んだ決め手を聞かれたりしたら困る。

 ここはルフィの健闘を讃える方向で話を進めよう。

 

 

 

 

 だって、思い出しちゃったんだよ……原作で出てきたエースの航海を……。

 スペード海賊団時代のエースには、アレがあったんだ!

 アレ……そう、『ルフィの命の恩人のシャンクスに挨拶に行こう』イベントが!!

 ヤダ、俺会いたくない! 『赤髪』のシャンクスに会いたくない! だって色々怖い!!

 実は、母さんが俺を産むとき何故祖父ちゃんを頼ったか……その理由が日記にあった。

 母さんは、俺が産まれる半年ぐらい前に赤髪海賊団を辞めてしまったらしい。理由はお頭と喧嘩になってしまったからだってさ……お頭ってシャンクスだよね!?

 詳しい理由は知らない。船長と船員としての喧嘩だったのか、それとも……露骨な話、男と女の喧嘩だったのか。

 前者ならまだしも、後者だった場合、俺何て言ったらいいのか……見当もつかない。

 そしてその頃の母さんの記述にこうあった。『大事なことが話せなかった』って。

 …………ダイジナコトッテナンデスカ?

 察しはついちゃうけどさ……。

 いやだからね、どうせそういう思わせぶりなこと書くなら、いっそはっきり明記しといてよ母さん。 

 だから俺も逃避しまくってさぁ……って、今言ってもどうにもなんないか。そもそも日記なんて、人に見せるために書くモンじゃないんだし。

 とにかく、それを信じるなら、俺ってばそもそも存在知られてないってことになるよね? 俺『モンキー・D』な上にこの顔なんだよ!? もし本当にそうなら……というか、心当たりがあるなら普通は気付く!

 そんな状態で顔合わせたりしたら気まずさMAXじゃんか!! 向こうが今どう思ってるかも解んないんだし!!

 そんな覚悟出来ません。少なくとも今は!

 ……ルフィを選ぶ理由がコレって、何とも情けないけどさぁ。でも偽らざる本心なんだよ。

 よし、気持ちを切り替えて頑張ろう。絶対に戦争に行けるように!

 

 

 

 

 まぁ、そんな紆余曲折もあったけど。

 来ましたよ、あの場面。

 エースがダダンからちょろまかしてきたという酒を出して……。

 

 「知ってるか? 盃を交わすと兄弟になれるんだ」

 

 そう、兄弟の盃だよ! 俺の分もあるよ!

 いやー、こんな日が来るとは……あの『転生してね♡』とか言われた時には思ってなかったよ。まさか盃兄弟入りすることになるなんて。

 

 「今日からおれ達は兄弟だ!!」

 

 チン、と盃がぶつかる音が響いた。

 

 

 

 

 あれ? でも、ということは俺、末弟? 末っ子?

 ……まぁ、嬉しいからいっか。




こうしてユアンはルフィの船に乗ることを決めました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。