「なぁ、ユアン……エースのヤツ、何であんなにピリピリしてるんだ?」
サボの疑問も当然だろう。
結局、ルフィを撒いてもエースの機嫌は回復しなかった。
ただでさえ最近不機嫌なのに、さらにめんどくさそうな状態になってる。
「今日祖父ちゃんが孫を連れてきたんだよ」
うん、端的に言えばそれだけのことなんだけどねぇ。
「孫? お前もそうだろ? 兄弟か?」
「ううん、違う。俺に兄弟はいない……多分。だから従兄弟だと思うよ。俺より1コ上」
日記を読む限り、母さんは俺以外産んでないし……ってか、原作知ってるからね! ルフィの父さん知ってるからね!
「ったく……エース! 大人気ないぞ!」
いいぞ、サボ。もっと言ってやって!
「るせぇ! アイツの……アイツのせいで! メシを腹一杯食えなかったんだ!」
え、1番気になってるトコそこ!? サボも呆れ顔だよ!
んで、またむっつりとそっぽ向くエース。
「嫌なヤツだったのか? 口が軽そうとか」
サボもエースの警戒心は知っている。その秘密もだ。サボに関しては、エースが自分から明かしたらしい。
俺は苦笑いした。
「嫌なヤツじゃないよ。口も……軽いわけじゃなさそうなんだけど……何て言うのかな? 素直そうな子だよ、良くも悪くも」
なるほど、とサボは俺の言葉の裏を察してくれた。
「ウソが吐けないタイプってことか」
そうなんだよね。ルフィって、口が軽いわけじゃないと思うんだ。約束だって守るだろう。でも賭けてもいい、誘導尋問にはあっさり引っ掛かる。しかも、引っ掛かったことにも気付かないだろう。
「まぁ、そうだね……でも、根性ありそうだから、このままいけばその内ここまで来るだろうね」
山賊が嫌いな以上、ダダンの所に1人でいるなんて嫌だろう。今日は橋を落としたから追って来られなくなったけど、落とした以上俺たちも今後あの橋は使えないから別のルートを辿ることになる。そうなればまた追って来るだろう。原作どおりにいけば……。
「3ヶ月もあれば、追いついてくるようになるんじゃないかな?」
俺の言葉にエースが苦い顔をしたのが解った。
「また、そんな怖い顔して……ご飯のことはともかく、それ以外のことは何とかならない? そもそも、何をイライラしてたの? ……俺がこの間言ったこと、まだ怒ってるなら謝るよ。それでも許せないってんなら、せめてサボとぐらいまともに話してあげてよ」
そう、そこだ。ルフィのコトが起こった以上、せめてそこの所は解決しておかないと。悠長になんてしていられない。まともに接してくれないんじゃ話にもならない。
……アレ? エース何でそんなに真っ赤になってんの?
「それは! お前が! ……お前が……あんな……!」
この赤みは……怒ってる感じじゃないけど……待てよ?これってひょっとして……。
「あ、あんなこと……言いやがるから……!」
エース、お前………………………………照れてたのか!?
え、何俺が『いてくれて嬉しい』とか『すごく感謝してる』とか『産まれてきてくれてありがとう』とか言ったから!? それで、サボもきっとそうとか言ったから!?
え、でもそれで見た目不機嫌になるって! 何それどんなツンデレ!?
アレ? でもそうすると……。
俺がルフィを庇ったり自己紹介したって言ったときに不機嫌になったのは………………ヤキモチか!? 妬いてたのか!? え、何ソレ!?
「へー、ほー、ふーん」
「な、何だよ! そのニヤニヤした顔は!!」
「別に~?」
うわぁ、可愛い。兄ちゃんなのに可愛いとか思っちゃったよ!
「おいエース……何があったんだ?」
「うるせぇ!!」
サボに怒鳴るエース……けど、こうやって吐き出したなら多分こっちはもう大丈夫だろう。
となると問題は……やっぱルフィか。
3ヶ月この状態ってのは嫌なんだよな……ずっとピリピリしてるエースと一緒にいるのもしんどいし。
それに……このまま流れ通りにルフィが海賊に拷問されるのも流石に可哀相だ。
個人的に、仲の悪いエースとルフィってのにも違和感あるしね。
けど1番の問題は、多少説得したぐらいで無くなるほどエースの警戒心が少なくないってことだよ。
……というより、庇っただけで不機嫌になられるんじゃあ、説得なんて火に油を注ぐだけってことになるかもしんない。
原作でのアレは、拷問されても秘密を明かさなかった+欲しい言葉をくれたってのが重なったからだよな……となると、ルフィの誠意がエースに解れば突破口は開けるか。
取っ掛かりさえ掴めればルフィは無邪気だし、エースも面倒見いいし、何とかなるだろう。
ならば…………俺、卑怯者になってみようかな。
浮かんだ案はかなり酷いものだし、良心も痛むけど……やってみようか。
本当に、時々自分で自分が怖くなるよ。