「だから、出せって言っただろ!」
ルフィが檻の中で喚いてる。
「どうすんだよ、アイツ逃げちまったじゃねェか!」
……いやいや。
「逃がしたんだよ。だってお前、何をするつもりだった?」
溜息を吐きながら聞くと、ルフィは胸を張った。
「決まってんだろ! クロコダイルをぶっ飛ばす!」
だ・か・ら!
「馬鹿かお前は!」
「へぶっ!?」
お仕置きだ! ゴムな頬を抓り上げてやる!
「あぁ、ぶっ飛ばせ! あんなヤツ、好きなだけぶっ飛ばせばいいさ! でもな、時と場合を考えろ! ここをどこだと思ってんだ!?」
「アラバスタ!」
「範囲が広すぎる!」
ボコッと1発頭を殴っておいた。効いてない様子が腹立たしい。
俺は結構本気でイラついた。その苛立ちを逃がすためにもまた1つ、大きく溜息を吐く。
「ハァ……ここは湖の中、だろうが。こんな所で暴れるな。水没したらどうする気なんだ、カナヅチ」
言うとルフィは暫く考え、やがてポンと手を打った。
「あー、そっか」
そっか、じゃねェよ……。
「でも、それじゃお前ェ、ここが湖の中だって知ってたのか?」
………………ハイ?
「いやいやいや……見れば解るだろ?」
見事にアクアリウムが広がってるじゃありませんか。
「いやー、気付かなかった!」
しっしっしっし、と笑うルフィ。
コイツ……置かれた状況を理解してなかったんじゃなくて、そもそも把握してなかったのか……。
って、あれ?
「オイ……何で全員目が泳いでるんだ?」
某ストーカーを除き、檻の中のゾロもウソップも、さっき出したナミも視線が泳いでいた。
「……まさか……誰も気付いてなかったのか?」
え、何それ怖い。
俺が恐る恐る聞くと、ウソップとナミが慌てたように首を振った。
「! い、いや、気付いたぞ!? あのワニが鍵飲み込んだのを見てな!」
「私だって! アンタとクロコダイルの会話を聞いて……」
つまり、それまでは気付いてなかったと?
ゾロを見ると、サッと視線を逸らされた……お前もか。お前もなのか。
あははー、そっかー、気付いてなかったのかー………………って、おォい!?
お前ら、それなりの時間を檻の中で過ごしたんだろ!? なのに周囲の確認もしてなかったって!? ちょっと窓の向こう見れば、すぐに解っただろ!?
捕われてたんだぞ? 目の前に敵がいたんだぞ? 時間は刻々と過ぎてたんだぞ? 出られないなら出られないなりに、出来ることはあっただろ!? なのに、ただ檻の中にいただけ!?
それでいいのか!? 麦わらの一味!! せめてナミぐらいは気付いてて欲しかった……。
俺がしっかりせねば! 大袈裟な言い方かもしれないけど!
……何で、珍獣・チョッパーを除けば一味最年少の俺が(聞いてみたら、ビビも俺より誕生日が早かった)こんな決意をしてるんだろう。いや、まぁ、微々たる年の差なんだけどさ。
何だろう、目から汗が出てきた……。
「そ、それより早く! 水が入ってきてるわよ!」
ビビがフォローするかのように俺を急かしてきた。その指差す先を見ると、確かに穴から水が入り込んできている。
「あー、うん。そうだね……」
落ち着け俺。気を取り直すんだ。この程度のことで取り乱すな。
よし、復活。
「早く、私たちもアルバーナに行かないと! ……あそこは湖の中なんかじゃないし、ルフィさんが暴れても大丈夫よ」
その言葉に、ルフィが喜んでた。ってか、気合を入れまくってた。
「暴れるのはルフィだけじゃないだろうけどね。クロコダイル以外にも、エージェントたちを潰さなきゃならないわけだし。町も多少……いや、それなりに壊れちゃうと思うけど」
町が壊れるという言葉にビビは眉を顰めたけど、堪えたようだ。
「……反乱が起こるよりはずっとマシよ……あの伝電虫は確かに本物。あの時の会話が流れてたのなら、反乱軍もきっと止まってくれるはず……」
後半は自分に言い聞かせるようにしてたけど……言ってなかったか。
まぁ、言わない方が良いんだろうな。
あの放送だけじゃ反乱が防げてる保証は無い、なんて。
まず第1に、そもそも本当に放送出来てたか解らない。
何せ伝電虫は俺のポケットの中にいた上に、クロコダイルとはそこそこ距離があった。完全に音を拾えてる保証は無い。
まぁ、原作W7でナミがルフィとコビー&ヘルメッポの会話を盗聴してた時に使ってた伝電虫は、今回以上に距離があったのにちゃんと声を拾えてた。だから大丈夫だろうとは思うけど。
だけど、クロコダイルに外の状況が解らなかったように、同じ場所にいた俺たちも外の状況は解らない。だから、確証は無い。
じゃあ何故俺があんなにも自信満々だったかと言うと、何てことは無い。ハッタリだ。クロコダイルだって確証が持てない以上、こっちが強気なら何とかなるだろうと思ったんだ。
「グルルルルルルルルルル……」
第2に、放送が始まる以前にユートピア計画が発動してしまっていた場合、止まるに止まれなくなってるかもしれない。
タイミングも大事だよね。人間って熱くなると、冷静な判断が出来なくなるから。
要は、この国内放送作戦(←今、命名)。結構穴が多いんだ。
後半に俺が行った、クロコダイルを脅……コホン、言い聞かせる部分についてはさして問題無い。伝電虫はポケットから出してたし、ナノハナやカトレアに伝わらなくても、他の地域に伝わるってだけでも絶大な効果を持つから。いや、伝わる『かもしれない』というだけで充分。
けど、反乱を止めるという点に関してはかなり運の助けを必要としている。
「グルルルルルルルルルル!」
効果が期待できないわけではないけど、確実性は無い……そんな所だ。
けどそれは、言わぬが華ってヤツなんだろう。多分その効果で、今の所ビビは落ち着いてくれてるんだろうし。
それに、この懸念はこの放送『では』反乱を止められる保証が無いっていうだけのことだ。ちゃんと、別の案も考えてある。
ええ、ちゃんと考えましたよ。
自分で考えた作戦なんだ、穴が多いのは解ってた……だから、別の策も用意しておいた。公開放送よりもより確実に、反乱を止めるための策をね。
「グルルルルルルルルルルル!!」
ルフィはクロコダイルをぶっ飛ばすって言い続けてた。それは、長い目で見て反乱を鎮める方法だ。だから俺は、現在進行中の反乱を止めるための策を考えた。
クロコダイルをぶっ飛ばしてる間に反乱が起こってちゃ、結局被害は拡大するわけだし。
でもその詳細は、まだビビたちには明かせない。時間も無いし、今このタイミングで言っても混乱を招くだけな気がするし。
まぁ、何が言いたいのかっていうと……やっぱり、無駄に不安がらせる必要は無いよねってことだ。黙っとこう。うんうん……って。
「グルルルルルルルルルルル!!」
「いー加減うるせェ!!」
「グルゥァ!?」
威嚇してきてるバナナワニが流石にウザかったから、思いっきり蹴り入れときました。バナナワニ飛んでったよ! 何か痙攣してるけど……ま、どうでもいっか。
え? いつバナナワニがこの部屋に入って来たかって? 俺が考え事してる間にだよ。
水が入って来てからしばらく経って、ビビと俺が入ってきた扉とは反対方向にあった通路の床に大きな穴が開いてさ。そこから入って来てた。
クロコダイルがいなくなってそこそこ経ってるのに穴が開いたってことは、アレは多分、水が入り始めてから時間差で開くようにでもなってたんだろう。つくづく性格の悪い奴だな、クロコダイルは。
「オイ! どんどん入って来てんぞ!?」
俺が蹴っ飛ばしたバナナワニに続き、ぞろぞろと大量のバナナワニが部屋の中に入り込んで来るのを見て、ウソップが絶叫していた。
しっかしコレ、どんだけいるんだ? よくこれだけバナナワニ飼えてたな、クロコダイル。そこだけはちょっと尊敬するぞ。
……よし。
「ルフィ」
檻の中のルフィに声を掛けた。
「今、腹立ってるか?」
「当たり前だ!」
「じゃあ、その怒り。取りあえずあいつらで発散しときなよ。その間に他のやつらも出しとくから」
言ってルフィをミニ化し、檻の中から出した。
「よっしゃァ~~~~~~~!!」
檻から出したルフィをすぐさま元のサイズに戻すと、ルフィはあっと言う間にバナナワニの群れへと突っ込んで行った。何て単じゅ……いや、素直なヤツなんだ。果たしてこの世にあれほど素直な人間が何人いることか。自分自身が捻くれまくってることを自覚してる分、余計に眩しい。
何にせよ、これでMr.3も救助できるだろう。ひとまずバナナワニの胃から出しとけば、後は自力でどうにかするだろ。
Mr.3にはここで死んでもらっちゃ困る。アイツには後々、その能力を生かしてもらわないと。対マゼラン然り、合鍵作成しかり。
海楼石の手錠からの解放は俺の能力でも可能だけど、1人より2人。いないよりはいた方がいい。
まァ、それはひとまず置いといて。
俺は続けてゾロ、ウソップも解放し……ゾロもルフィ同様、解放直後にバナナワニの群れに突入してた。何気に鬱憤溜まってたんだろうか……最後に残ったストーカーと向き合った。
「さて、ストーカー」
「スモーカーだ!」
お前なんかストーカーで充分だ。しかし、その素早いツッコミ。実は自分がストーカーだって自覚があるんじゃないのか?
「細かいことは気にすんな……で、どうする? このまま沈む? それとも、海賊の助けを借りて外に出る?」
海賊の助けを借りて、の部分を強調してみた。
「グッ!」
ストーカーは、そりゃもう忌々しそうな顔で睨んできましたよ。さっきのクロコダイルには及ばないけど。
ふはは、悩め悩め! 現状では他の選択肢なんて無いだろうけどな!
え? やだな~、ローグタウンで『小さい方』だとか言われたことを根に持ってなんかナイデスヨ? ……ん?
「オイ、本当にソイツも出す気か!?」
何だか腕が引っ張られると思ったら、さっき出したウソップに引き寄せられて耳打ちされた。
「出した途端、おれ達のことも捕まえようとするんじゃねェか?」
あぁ、その気持ちは解るかも。でもなァ。
「大丈夫だろ。そもそも無理だろうし」
ニヤッと笑って再びストーカーと向き合う。
「今までの流れで気付いていると思うけど、俺も能力者だ。ミニミニの実を食べた、縮小人間。今回はそれで対象を小さくして、檻の隙間から出したわけだけど……変なことは考えるなよ? お前には、檻から出た後は勿論、このカジノから脱出するまで、ずっとミニサイズでいてもらう。この能力は俺が解除しない限り元には戻らない。嫌だろ? この先ずっと、1/10サイズで人生を終えるのは」
ま、いっそそういう風にして、『小さい方のストーカー』とか呼び続けてやるのも面白いが……いや、駄目だ。大きい方がいないと小さい方とは呼べない。
他のストーカー、ストーカー……あ! エースが『黒ひげ』のストーキングしてる! でもエースをストーカーとは呼びたくない! 却下だ!
どなたか! どなたか他のストーカーを知りませんか!? エース以外で! 教えてくれたら謝礼を出してもいいよ!? ……待て、今そんなこと言ってる場合じゃ無いって。
よし、落ち着け俺。
「脅迫!? 外道なヤツめ!」
……うん、ウソップ。後で覚えてろ。
これは脅迫ではない! 交渉だ! そして誰が外道だ、誰が!
「外道はクロコダイルだろ?」
俺がジロッと睨むと、ウソップがブンブンと首を横に振り。傍で聞いてたナミが呆れたような溜息を吐いた。
「外道はアンタよ……私もさっきまではクロコダイルだと思ってたけど。実際に目の当たりにしてみると、よく解るわ」
何ー? 俺はクロコダイルを外道の中の外道、キングオブ外道だと認定してたのに!
「じゃあクロコダイルは何になるんだよ?」
「アレは下劣」
うぉ、スッパリ言い切った!
下劣……下品で卑しいこと。道義的に下等であること。
うん、多分2つ目の意味だな。こう言っちゃ何だけど、クロコダイル、あんまり下品では無かったし。
って、それよりも。そろそろ脱出を考えないと。
「じゃ、まずはその十手。渡してくれないか?」
俺はストーカーに対して右手を差し出した。そう、ストーカーってばまた持ってるんだよ。海楼石入りの十手。コイツは一体いくつ同じ物を持ってんだ? やっぱり、ストーカーってのは執着心が強いのか?
「………………クソッ!」
ストーカーはストーカーで、今の自分に他の選択肢が無いことぐらいは理解してたらしい。もの凄く葛藤していたけれど、最終的には舌打ちと共にソレを檻の隙間から差し出して渡してくれた。
海楼石入りの十手(2本目)、ゲットだぜ! ……ここで『ピッ○カチュー!』とかいう合いの手が欲しい所だけど、流石にそれは高望みなんだろうな。脳内再生だけで我慢しよう。あぁ、チョッパーがいれば。
ん?
「脅迫して大人しくさせた上に、装備まで取り上げンのか。しかもアレ、絶対ェ返す気ねェぞ」
「まさに外道ね」
「2人とも……」
ヒソヒソと酷いことを言い出したウソップとナミを、ビビが少しだけ窘めてた。ビビ、何ていいヤツだ!
いいじゃんか、海軍から略奪したって! 特に、海楼石入りの武器なんて貴重だ! 例え火の中水の中、ついでに草の中森の中を探したって手に入れたい! 流石にスカートの中は嫌だけどな!
まぁ、あの3人は置いといて、だ。次はストーカーを小さくして……。
「1つ聞かせろ」
アレ? ストーカーがやたら真剣な顔で睨んできてるぞ。
「テメェ……イワンコフとどういう関係だ?」
あー、そういうことを聞くってことは、コイツはやっぱり知ってるんだな。イワンコフのこと。
俺は小さく肩を竦めた。
「どうって言われてもね。さっきクロコダイルに言った通りだよ。10年ぐらい前に、1度だけ会ったことがある……それだけの関係さ。特に何の繋がりも無いし、そもそも、向こうが俺のことを覚えてるかどうかも怪しいもんだ」
いや、忘れてはいないだろうけど。ドラゴンの甥だなんて、相当のインパクトがあっただろうから。
「ただ、風の噂で聞いたことがあったんだ。イワンコフがクロコダイルの弱味を握ってるって。残念ながらその内容までは解らないけど、折角だから利用させてもらった。それだけだ。」
「ちょっと待てィ!!」
俺とストーカーの会話に、ウソップがビシィッとツッコミを決めながら入り込んできた。
「じゃあ何か!? お前ェは決定打も無く、七武海をあれだけイジリ倒してたってェのか!?」
「そうだけど? いやー、何でだろうね? 俺ってば何1つ嘘は吐いてないのに、クロコダイルは何故か誤解してくれたもんなー。助かったよ」
「嘘を吐いてねェだと!?」
そうだぞ、嘘なんか吐いてないぞ?
「『イワンコフに会った時に受けた衝撃』っつってなかったか!?」
「言ったよ? いやー、アレは衝撃だったな。まさかこの世に、リアル2等身の人間がいるなんてな。俺ってば当時、ついつい言っちゃったよ。『顔デカッ!』って」
「ンな人間がいるかァ!!」
スパーンと頭を叩かれたけど、失敬な。本当のことだ。
「とにかく、俺は一言も、その『衝撃』が『クロコダイルの秘密』だなんて言ってないぞ? アイツが勝手に勘違いしてくれただけだ」
何でだろうね? という意味を込めて首を傾げてみると、ウソップはちょっと引いていた。重ねて失敬なヤツだな。
「でも、『22年前のローグタウンに海賊王の処刑を見物に来ていたとある海賊について話した』って言ってたわよね?」
ウソップと選手交代したのか、今度はナミが問いかけてきた。
「話したぞ? その条件に当て嵌まる海賊について」
俺は肩を竦めた。
「でも、それがクロコダイルだなんて、一言も言ってないよ? 22年前、一体どれだけの海賊がソレを見物してたと思う? なのにアイツ、勝手に自分のことだと思っちゃってさ……自意識過剰なヤツだよ」
困っちゃうね? という意味を込めて首を傾げると、ナミにまで引かれてしまった。2人して失敬なヤツらだな。
何だろう、2人の視線があからさまに外道を見る目のような気がするんだけど……。
俺は2人を無視することにした。そしてふと、本来の会話の相手に向き直ると。
「……」
檻の中で微動だにしていないストーカーにちょっと嬉しくなった。でも、話はここまでだ。
「いい加減、先に進んでもいいか? もうこれ以上、敵に話すことも無い。むしろ、もう出血大サービスってぐらいに質問に答えてやったぐらいだ」
それだけ言うと、俺は問答無用にストーカーを小さくした。
ミニストーカーは、俺が持って来ておいた瓶の中に入れておいた。コルクでしっかり密閉できるタイプのヤツだ。念のためにね。煙になっても出られないように。ついでに、瓶の半分ぐらいにまで水も入れておいた。これで下手に動けないはず。
え? 酸素? 空気穴は開いてないよ、その穴から出られても困る。完全に密閉されてるけど、脱出までの間ぐらいなら大丈夫だろ。どうせ碌に動けないだろうし。
俺がその注意を懇切丁寧にストーカーに言い聞かせてやってたら、何故かまたもや周囲の俺を見る目が外道を見る目になっていたが。しかも、ストーカーももの凄い怒りの形相だった。何だよ、俺はこうして敵を助けてやろうとする程度には優しいぞ。
閑話休題。
ルフィとゾロによるバナナワニ無双は、俺たちが檻の前でゴチャゴチャ話してる間に終わってた。
なお、途中で出てきたMr.3も既にぶっ飛ばしたらしい……合掌。
「玉の中から出て来たんだ! しかもその玉、鍵が付いてたぞ!」
ちょっとだけ興奮してるらしいルフィが、クロコダイルの捨てた鍵を掲げている。
「……もう檻からは出たんだから、いらないだろ? どうせ偽物だろうし」
「偽物!?」
俺が答えると、ビビがバッと振り向いた。あー、ビビ、あの鍵に思いっきり食い付いてたもんな。
「だって、あそこで本物の鍵を出す意味、無いじゃん」
あのシチュエーションで解放の可能性を与えてどうする。むしろ、あのまま始末できれば御の字だろう。
念のためなのか、ビビはルフィから鍵を受け取って、檻を開けられないか試していた。そして、鍵が鍵穴に入らないのを確認し、ガックリと膝を突く。
「私は……何のために、あんなに焦って……」
ちょっと憔悴してるようにも見える。
「落ち込むな、ビビ! あれはしょうがねェ!」
そんなビビを慰めるように、ウソップが拳を握って力説していた。次いで、ナミが労わるようにビビを立ち上がらせた。
「そうよ。むしろ、ここまでクロコダイルの行動を先読み出来るアイツが可笑しいのよ」
……アレ? 俺、可笑しな子認定された?
「アイツの外道っぷりは世界一なのよ、きっと! クロコダイルも上回ってる……だから、ああして掌の上で転がせるんだわ。私たちはそんなこと、むしろ出来なくていのよ!」
オイ! 何を言い出すんだ!
「言い過ぎだ! 俺だって自分が真っ当だなんて思ってないけどな、世界一ってことはないだろ! 世界中探せば、俺より外道なヤツなんていくらでもいるぞ!」
いる……よね?
「……お前ら、それぐらいにしとけ」
俺たちのやりとりを静観してたゾロが、待ったを掛けてきた。
「そろそろ、マジでヤバいらしい」
その視線の先には、どんどんと部屋の中に入ってくる水。しかも、ルフィとゾロが暴れて部屋が脆くなったせいか、最初に入り始めた時よりもずっと勢いが激しくなっていた。
うん、そうかからずに水没するだろうね。
「じゃあ、行こっか……ルフィ! ちょっと来てくれ!」
俺はルフィを手招きして呼び寄せ、小さくした。そして、続けて俺も小さくする。
ルフィも俺もカナヅチだから、等身大のままじゃあ周囲への負担が結構デカい。
幸いにも俺のミニ化は、水の中でも解けることは無い。海水に入れたとしても同様だ。俺は海水は小さく出来ないけど(それに海楼石も)、海水にミニ化したモノを入れても能力が解けることは無い。ましてや今回は湖の水、つまり真水だから、何の問題も無いのだ。
ついでに言っとくと、塩で能力解除されるということも無い。モリアの影が塩でゾンビから追い出されてたけど、俺がミニ化したモノに塩をかけても何も起こらない。
閑話休題。
まぁ、そんなわけで。
俺たちはその後、特に問題無くレインディナーズから脱出できたのだった……泳いでる最中にウソップの脳天を岩が直撃してたけど、大した問題じゃないだろう。うん。
レインディナーズの外に出てみると、何だかやたらと騒がしかった。町中の人々が半ばパニックになりかけてるのかもしれない。
『クロコダイルさんが!』とか、『どうなってんだ!?』とかそんな声が聞こえるから、どうやらアラバスタ国内放送は成功していたらしい。イェイ。
その一方で俺は、頭を打ったウソップと何故か水を飲んだらしいルフィを起こしにかかる。いくらカナヅチでも、息を止めることぐらいは出来るはずなのに……現に俺はピンピンしてる……しっかりしてくれ、ルフィ。色んな意味で。
「反乱は起こらねェかもしれねェが……このままじゃ、どっちにしろ暴動に発展しそうな勢いだな」
特に騒がしい方向……カジノの正面付近だろう辺りに視線を向け、ゾロが顔を顰めた。
確かに、民衆ってのは怖いからねぇ。
「当のクロコダイルがもういないんだ、暫く時間は稼げるだろ。クロコダイルは砂になって去って行ったから、あの集団も見付けてはいないだろうし」
むしろ、その為にアイツはわざわざ砂になって行ったんじゃなかろうか。
そういう意味では、砂人間は便利だ。例えばエースなら火だからバレバレだろうし、ストーカーなら煙だから目立つ。
ましてやここは砂漠の国だ。砂が多少舞ってても誰も気に止めやしない。
「どの道、後は短期決戦だ。ルフィがクロコダイルをぶっ飛ばせば、それで全ての片が付く。混乱も収まるさ」
俺がそれだけ言うと、ゾロは頷いた。
当然、『負けたならどうなるか』という道筋もあるけど、それは互いに口にしなかった。今の俺たちが第1に信じるべきは船長の勝利だからだ。
「でも、あれだけ騒ぎになってて、よく誰もあそこに乗り込んで来なかったわね」
ビビも喧騒の方角に目を向け、ホッとしたように呟いた。
あぁ、それは。
「だって、そのように指示を出しといたから」
種明かしをすると、どういう意味だ、と視線で問いかけられた。
「ペルって人からあの伝電虫を受け取った時、俺、大福に伝言を頼んでおいたんだ。放送が流れたら誰もカジノに入って来ないように通せんぼしといてね、ってチョッパーに伝えといて、的なこと」
俺は先ほど『会話が上手く流れない可能性』を自ら指摘したけど、ちゃんと『会話が上手く流れる可能性』の方が高かったのも事実だ。だから、手は打っておいた。
あんな内容の会話なんだ、それを聞けば国民……特に、このレインベースの住民は真偽を確かめようとカジノに押し寄せるはずだというのは予測が付く。
でも、実際に入って来られたら危険だし、こっちとしても邪魔だ。だから、入れないようにしといて欲しいと頼んだ。しかもそれは、地理的には難しくない。むしろ簡単だ。
何度も言うけど、レインディナーズは湖の真ん中にあるカジノ。つまり、あの正面の橋を守っておけば中には入れない。
尤も、それだと既にカジノにいる人間までは防げない。でも……。
「俺たちがカジノに入った時には、何故かもう建物内はもぬけの殻になってたしね~。運が良かったよね」
ね? と首を小首を傾げると、ビビにも、隣にいるゾロにももの凄く微妙な顔をされた。
「まさか……カジノに誰もいなかったのって……クロコダイルが人払いをしたんじゃなくて、ユアン君が何かしたの?」
え。
「やだな~、俺にカジノの人間を追い出すことなんて出来るわけないじゃん」
いや、力尽くで追い出すのは可能だろうけど、それじゃあダメだろ? その後また誰かが入り込むのは阻止できないし、店内で騒動を起こせばクロコダイルの耳にも入るだろうし。
「アンタなら、何か出来そうなんだけど?」
俺の至極真っ当な反論は、ナミの理不尽は言い掛かりによって撥ねつけられた。しかも、そのナミの発言にゾロもビビもうんうんと頷いてるし……。
「お前ら、俺を何だと思ってるんだ?」
正直、本当に疑問に感じる。
「外道だろ」
「外道ね」
「………………」
順に、ゾロ・ナミ・ビビだ……って、ビビ!? 遂にフォローも無しか!?
何だよ!? 俺、イジケるぞ!? 地面にのの字を書いてイジケるぞ!?
いや、今はそれどころじゃない……くそぅ、イジケることも許されないこの状況下が憎い。
「……とにかく。俺は、本当にカジノの客にも店員にも何もしてない。出来るわけないだろ?」
そう、俺は本当にカジノには何もしてない。
俺は……ね。
その後、ルフィとウソップを復活させてる間に、俺は子電伝虫を使った。レインディナーズに入る前に大福に託した、あの子電伝虫だ。
通話に出たのはサンジだった。大福は上手いことチョッパーに接触出来たらしい。そして、サンジも一緒になって橋の前にいたんだとか。
ありがとう、サンジ。そしてお前の活躍を奪ってゴメン。
その通話で2人(?)……それと、合流していたらしいペルもこちらに呼び寄せた。
彼らが来る間に、瓶詰めストーカーも解放しておく。ストーカーはもの凄く屈辱的な顔をしていたけど、流石に今はクロコダイルを優先することにしたらしい。
そりゃそうだ。ルーキーの小規模海賊団よりも、国家乗っ取りを企む七武海の方が重大事に違いないんだし。
加えて、多分檻の中でのルフィたちの様子に、何か思う事でもあったのかもしれない。そりゃあ勿論、絆された、とまでは行かないだろうが。
「今回だけだぜ……おれがテメェらを見逃すのはな……」
そのストーカーの口調からは、少しだけ棘が取れていた……俺は思いっきり睨まれたけどな!
さて、次はアルバーナか。
いよいよアラバスタ、最後の決戦だ。
かつて書いた文章を見ていると、その当時の精神状態が垣間見えます。ちなみにこの話の執筆当時は、ポケモンXYが欲しくて仕方が無かったようで。本文にまでその思考が侵食してます。
そして自サイトに掲載されているのはここまでです。なので連続投稿もここまで。この先はスランプを何とかしつつ頑張ります。