麦わらの副船長   作:深山 雅

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第121話 反乱軍

 今日も今日とて、俺たちは砂漠を進む。けど今日の俺はみんなの少し後ろを歩いている。これまではポケットにミニ化チョッパーを入れて歩いてたけど、今日はそれもない。

 何故か? エースと話すためだよ。そしてその話題は。

 

 「そういえば、エースって青い火出せる?」

 

 前々から聞きたいと思っていたこと、火の温度変化についてだ。

 

 「あァ? 青い火?」

 

 いや、そんな胡乱げな顔しなくてもいいじゃん。

 

 「何だ、いきなりそんなこと言い出してよ」

 

 「だって火ってその方が高温だし」

 

 「へー、そうなのか」

 

 ……知らなかったのかよ、火人間が。

 ちょっとジト目になりながら見ていると、エースは自分の手を炎に変えた。勿論、それは赤い……ってか、オレンジ色だ。

 エースはそんな火を見ながら、暫く難しい顔をしていた。俺も何も言わずにそれを見守る。

 けれどやがて、その火はエースの舌打ちと共に消された。

 

 「解んねェな……今まで、考えたこともなかったぜ」

 

 あ、やっぱりさっきの、試してたんだ。口を挟まなくて良かった。

 けど『考えたこともなかった』って……うん、そりゃそうか。普通ならただの火でも十分脅威なんだし。マグマが可笑しいだけだ。

 それでかな。エースはさっき1度試してみただけで、特に気にしてはいないみたいだ。

 う~ん………………よし。

 

 「そっか。じゃあ仕方が無いね。出来ないみたいだし」

 

 ここでポイント。あえて『出来ない』を強調して呟いてみる。

 

 「無いもの強請りはダメだよな、出来ないんなら。出来ないものは出来ないんだから」

 

 「………………オイ」

 

 おぉ、ドスの利いた声。

 

 「さっきから何だ、出来ねェ出来ねェってよ」

 

 「うん?」

 

 俺は首を傾げてみた。

 

 「だって、出来ないんだよね?」

 

 にこにこと出来るだけ無邪気な表情を作って見上げると、エースは明らかに面白くないという顔になっていた。

 うん、これって負けず嫌いの一種だよな!

 これで取り組んでくれたらいいな……まぁ、取り組んでくれたとしても本当に身に付くかは不明だし、出来たとしてもマグマに対応できる保証は無いけど。あくまでも、やらないよりマシなんじゃね? ぐらいの気持ちだ。

 ってか、マグマ以前にティーチに勝ってくれたら円満解決なんだけどな。それなら戦争そのものが回避できるよ……あ、そうだ。

 

 「エース」

 

 ふと思い出したことがあって、俺はエースの顔を見上げた……悲しいことに、見上げた。おのれ、今や身長差は頭1つぶ……いやいや、そんなことはどうでもいい。

 

 「この先のユバで『黒ひげ』が見付からなかったら、また探しに行くんだよな?」

 

 ユバに『黒ひげ』がいるわけないんだから、間違いなく行くだろう。確認を取ってみると、エースは急な質問でちょっと反応が遅れたみたいだったけど頷いた。

 

 「あァ、そうだ。それがおれの今の目的だからな」

 

 うんうん。

 

 「耳寄りな情報があるんだ」

 

 俺はニヤリと笑ってみた。

 

 「もしも道中で赤っ鼻な海賊に出くわしたら、『宝の地図をあげる』って言ってみなよ。色々と搾り取れると思うから」

 

 原作通りに行ったら、エースはアラバスタを出た後でバギーと会うはずだ。その時、宴会の料理と言わずに食料をありったけ奪……じゃない、貰っとけば助かるはずだ。エースだって並の食欲じゃないんだから。

 

 「赤っ鼻な海賊だァ? ……お前ェまさかそれ、やったのか?」

 

 「うん」

 

 ローグタウンで。囮にさせてもらいました。

 

 「でも流石に可哀そうだから、今度そいつに会う時が有ったらちゃんと渡そうと思ってるよ? 宝の地図。ほら、これ」

 

 俺は懐から1枚の地図を取り出してエースの眼前に突き付けてヒラヒラ振った。

 

 「何だこりゃ。大雑把な上に汚ェ地図だな。」

 

 そりゃそうだ。少なくとも22年以上前に書かれたものなんだから。

 そう、これは珍獣島で見付けた地図である。とどのつまり、空島の地図。本当ならこれは俺個人のものじゃないけど、どうもルフィもナミももう忘れてるみたいだし別に大丈夫だと思う。

 

 俺が次にバギーに会うとしたらインぺルダウンだろう。その時にはもう俺たちは空島は通過しちゃってるし、渡しても問題無いはずだ……その時点でまだそこに宝が残ってるかどうかは不明だけど。

 いいよね? だって俺は、『宝の地図をあげたい』って言っただけだ。『宝が絶対に手に入る』だなんて一言も言って無い。うん、嘘は吐いてない。

 あれ? 何だよエース、その哀れみの籠った目は。

 

 「誰だか知らねェが……不憫なヤツがいるもんだ」

 

 うわ~、バギーのヤツあちこちで不憫って言われてるよ。もうこれからは『赤っ鼻』じゃなくて『不憫』って呼んでやろっかな?

 俺は肩を竦めた。

 

 「そうでもないよ? ひょっとして、もしかしたら何かしらの宝を手に入れる可能性が無いことも無いかもしれないこともないかもだから。この地図自体は本物だしね」

 

 「本物? これがか?」

 

 「うん、だってこれってロジャー直筆だし……あ」

 

 しまった、ここまで言う気は無かったのに。ついポロッと。

 パッと手で口を塞いでももう遅い。零れた言葉は戻せないのだ。

 俺はこれを手に入れた経緯を話した。話し終えて再びエースの様子を窺って見ると。

 

 「………………」

 

 うん、エースの顔が凄いことになってる。まるで親の仇を見るような目で地図を見てるよ! 実際には親の仇じゃなくて親の形見なんだけどな! たった1文字で大違いだ!

 

 「……燃やしちまっていいか?」

 

 目がマジだ! 本気と書いてマジと読むアレだ!

 もし俺が今この地図を渡せば、すぐさま燃やされてしまうだろう。そう思わされるぐらいの雰囲気が感じられる。

 正直に言えば、エースの気持ちは少し解る。でも今回ばかりは、それは容認できない。

 

 「ダメ。だってこれってロジャーの遺品であると同時に、母さんの遺品でもあるから」

 

 もしもこれがそれ以外を経由してここにあるのなら、俺はエースの行動を止めない。或いは、これを発見したのはエースだったならそれはそれで仕方が無いと納得するしかない。

 でもこれを発見したのは俺たちで、しかも母さん経由。燃やして欲しくない。

 

 「ゴメン、もう視界に入れないから」

 

 まだ燃やすのを諦めてないのか、エースは地図を睨んでいた。なので俺はそそくさと地図を畳み、また懐に仕舞う。そしたらエースもやっと諦めてくれたらしい……盛大な舌打ちが聞こえた気がしたのは気のせいだよね、うん。

 こんな感じで色々と話していたんだけど、ふとエースが周囲を見渡した。

 

 「ところで……ルフィたちはどこ行った?」

 

 「あり?」

 

 言われてみれば確かに。

 

 「………………逸れたね」

 

 気付いてみると、目に付く範囲には俺たち以外の人間がいなかった。辺り一面、砂の海。

 熱心に話し込んでる間に逸れたってことですね。わーい、迷子だー……嬉しくない。

 いや、落ち着いて考えろ。あっちにはルフィとゾロがいるんだ。そう、ルフィとゾロがいるんだよ、ルフィとゾロが。大事な事だから3回言った。

 ド級の天然と方向音痴があっちにいるんだから、迷子なのはきっとあいつらの方だ。うん、俺は迷子なんかじゃない、きっと!

 

 「………………取りあえず、先に進むぞ」

 

 俺が深く納得していると、エースが微妙な顔で促してきた。

 確かに、それがいいだろう。先に進めば、目的地は解ってるんだからどこかで再会できるだろうし、最悪でもユバで落ち合える。よし行こう。

 そう結論を出して、先に進もうとしたんだけど。

 

 「……砂漠って面白いね」

 

 「こいつの尾も取る気か?」

 

 うん、出来れば。

 はい、何が起きたかというとですね、俺たちの目の前に巨大サソリが現れたんですよ。進もうとしたら、砂の下からいきなり。

 このサソリ、流石にサンドラオオトカゲほどデカくはない。でもエースよりはデカい。その体のサイズに比例して、尾もデカい……毒がたっぷり詰まってそうだな。

 ちなみにサソリの視線は、解りにくいけどエースに向いている。そしてエースもやる気、いや殺る気みたいだ。

 

 「丸焦げにはしないでね、尾を取るから。ウェルダンはダメだよ、レアだよ、レア」

 

 俺は少し下がって場所を開け、ヤジを飛ばしてみた。エースは『はいはい。』とでも言わんばかりの苦笑を浮かべて手を振る……何だろう、エースが予想以上に大人びてしまってる。前までなら、こんな言い方したら食って掛かって来たのに。

 

 

 

 

 サソリを焼いて尾を採集し、さぁ今度こそ行くぞ! ……と、思ったら。

 

 「…………………………」

 

 「…………………………」

 

 何でだろう、今度はカメレオンみたいなヤツに道を塞がれた。いや、向こうは塞ぐ気は無いんだろうけど。涙目でエースのこと見てるし。きっと目撃したんだろうな、サソリが焼かれたのを。

 その後すぐに、トカゲはエースの下僕と化した。

 

 

 

 

 トカゲの背に揺られながら、俺はふと思い出していた。

 そういえばルフィたち、この砂漠で砂族とかいうのに出くわすんじゃなかったっけ? 

 何の因果か俺はエースと一緒にいる。てことは俺、偽反乱軍のいる町に辿り着くことになるのか? 何てったっけ、偽反乱軍のヤツ。名前忘れちゃったな……ま、いっか。俺的には取りあえず、搾り取れられればいいからさ。

 

 

 

 

 そうして、やってきましたイドの町! ぶっちゃけ町の名前も今の今まで忘れ去ってたけどな! いや、そのまた後で起こるイベントにばっか気を取られてて、砂族と偽反乱軍のこと忘れてたんだよね。ゴメン。

 今俺たちは、町長のものらしき家にいる。何故かと言えば、美味そうな匂いに釣られたからだ。

 え? 話の展開が速い? ……逆に聞くけど、知りたいか? ここに着くまで、どうでもいい雑談を続けながら砂漠を渡ってただけなんだぞ? 否。答えは否だ! よって割愛させてもらう!

 

 「んで、こーして久々にちゃんとした食事を摂っている、と」

 

 「何か言ったか?」

 

 「いや、別に」

 

 俺の呟きが少しだけ聞こえたのか、エースが皿から顔を上げながら不思議そうな顔をした。俺がそれに首を横に振ると、特に気にした様子も無くまた皿に戻る。

 はい、俺たちは今食事中です。まともな料理はナノハナ以来だよ。砂漠ではサバイバル料理が主だったから。サンジの料理は美味いんだけどね、やっぱりこれは気分の問題だよ。

 部屋の隅では偽反乱軍らしき男4人が『砂族が来た!』とか『逃げるぞ!』とか『命あっての物種だ!』とか言って騒いでる。よっぽど慌ててるのか、今の所こちらに気付く様子は無い。

 まぁ、その意見には一部賛成するよ。確かに命あっての物種だ。けどなぁ……だからって。

 

 「お前ら、そんな腰抜けで反乱軍を名乗るたァいい度胸してるな」

 

 うんうん、そうだよね。俺は手と口を動かすことは止めないまま、その言葉に大きく頷いた。

 

 「大の男が4人も揃って、やってることは随分とみみっちい。」

 

 全くだ。

 

 「折角上手いこと潜り込んでるんだからさ、もっとこう、生かさず殺さずのギリギリまで搾り取ればいいのに」

 

 「………………お前ェ、それは何か違うんじゃねェか?」

 

 え、何が? 

 

 「何だテメェら、いつの間に入り込みやがった!」

 

 「メシ泥棒!」

 

 否定はしない。

 けど、俺たちは決してコソコソと侵入したわけじゃない。むしろ堂々と入り込んだんだ。なのに気付きもしなかった鈍感ヤロウどもはそっちじゃないか。

 それに俺たちが『メシ泥棒』なら、そっちは『メシ詐欺師』だ。

 よって、俺たちが非難される謂れは無い。あぁ、無いとも。

 だから、突っ掛ってきた偽反乱軍たちを叩きのめしたのも正当防衛だ。食事の邪魔はダメだよ、うん。

 

 「おかわり」

 

 「はいィ!」

 

 たった1人向かってこなかった、偽反乱軍のリーダーらしき男にエースが茶碗を差し出すと、男は冷や汗と愛想笑いを浮かべながら傅いた。現金な。

 

 「あ、俺は酒ね」

 

 「はい、ただいま!」

 

 俺の要求にもあっさり従うし。長いものにはぐるぐる巻きなタイプか、これは。

 そしてコイツ……カミュって名前らしいけど、コイツの名前も俺は忘れてた……は、ガバッと土下座して砂族退治を頼んできやがった……本当に現金なヤツ。

 

 「いいぜ。ただし、条件がある」

 

 エースの返答に、カミュは目を輝かせた。あ、ちなみに俺は黙々と食べながら成り行きを見守ってる。

 

 「はい、何なりと!」

 

 ………………ほぅ。

 

 「何なりと?」

 

 俺が口を開くと、カミュはいかにもゴマすりな笑顔で頷く。

 

 「はい、そりゃあもう!」

 

 ふふふ……言質は取ったぞ?

 

 「じゃあ、色々と聞いてもらおうかな」

 

 俺はにっこりと微笑んでみた。そしたら何故か引かれた。しかもエースは視線を逸らして明後日の方を向いている。何故だ。

 まぁいい。揚げ足取りの前で『何でも』なんて言う危険性、しっかりと学んでもらおうか。

 

 

 

 

 「いやー、世の中何があるか解らないもんだよ。ルフィたちと逸れてしまったけど、そのお蔭で色々手に入ったし。運命って怖いよね」

 

 「おれはお前が怖ェぜ……」

 

 「え? やだな、ちゃんと限度は弁えたよ?」

 

 「………………あれでか?」

 

 俺たちは今、イドの町をこっそり抜け出して砂漠に出ている。多分もうすぐ、そう掛からずにルフィ達と合流出来るはずだ。

 そんな俺たちだけど、偽反乱軍から色々頂いておいた。

 

 エースは水と食料。何度も言うけど、砂漠にいる以上これらはあればあるほどいい。

 俺は金品を全部貰っておいた。だって現状ではあいつら、あの町にいる限り食いっぱぐれないじゃん。あいつらに必要なのは、己の身と戦うための武器だけ。だからそれ以外は遍く受け取っておいた。金だけじゃないよ、荷物その他もね。大したことじゃない。ただちょっと身包みを剥いだだけだ。

 

 それほどの金額は持ってなかったけど……そもそも、偽反乱軍なんてやってる連中だ。そんな大金は初めから期待してなかったから別にいい。無いよりはマシって程度だ。

 

 「エース。生かさず殺さず、だよ」

 

 苦笑と共にそう告げるとエースは頭を抱えていたけれど、やがて悟りを開いたかのようなすっきりした表情で顔を上げた。

 

 「そうだな……ユアンだからな」

 

 おい、それはどういう意味だ。

 そうこうしてる内にも、砂漠の向こうから歩いて来る人影が見えてきた。エースにしろ俺にしろ視力は悪くないから、その一団が何なのかはすぐに解った……ってか、俺の場合は気配でも解った。

 

 「おーい!」

 

 エースがトカゲの上から手を振って呼びかけるのを、俺は黙って見てた。だって2人揃って手を振る必要性も無いし。

 

 「エース! ユアン!」

 

 向こうもこっちに気付いたらしくて、ルフィが真っ先に走って来た。

 砂族ってルフィたちだったのか、とエースが納得してたけど、俺は怒られてしまった。

 

 「ユアン! 何で急にいなくなんだよ! また迷子になってたんだろ!」

 

 「…………………………」

 

 うん、色々可笑しいね。

 もの凄く悔しいけど、認めよう。確かに今回逸れた……迷子になったのは俺だ。俺とエースだ。あぁ、認めるよ。ちくしょう。

 でも俺、『また』って言われるほど迷子になった覚え、無いんだけど?

 

 「……悪かったよ、つい話に夢中になってさ。でも俺、そんなにいつも迷子になんてなってないぞ?」

 

 何やら厳めしい顔つきで説教をしようとするルフィに反論したけど、聞き入れてもらえなかった。

 

 「何言ってんだ! お前、時々いなくなるじゃねェか!」

 

 今の俺たちの構図には、何ら不自然な点は無い。傍目には普通に、叱る兄と叱られる弟だ。

 けど……理不尽だ。

 

 「いつもは迷子になってるのはお前の方だ」

 

 そう。俺たちが逸れるのは大抵の場合、俺が迷子になった時じゃなくてルフィが迷子になった時だ。今回が例外なだけであって。

 

 「何!?」

 

 本気で気付いてなかったのか、ルフィは『がーん』状態になってる。でもよく見てみろ。少し後ろにいるみんなも、『その通り』と言わんばかりに頷いてるだろ? 隣にいるエースだって、『だろうなァ』と呆れてる。

 

 その後、ちょっと落ち込むルフィに毎度お馴染みの干し肉を渡して機嫌を取り、俺はエースと共にイドの町の現状を説明した。

 反乱軍を騙った偽物が用心棒をやってるってね。そんで、砂族退治の助太刀(?)を頼まれてその引き換えに色んなブツを貰ったこともだ。

 俺たちの持ってきた情報を踏まえて、偽反乱軍をどうするかの処遇……というより判断は、ビビに委ねられることになった。

 ビビの結論は要約すると、イドの人たちを守ってくれるのならば偽反乱軍云々は大した問題じゃないということらしい。そしてそのために、そいつらの根性を試したいのだとか。

 

 作戦は簡単。ルフィを先頭に麦わらの一味でイドに接近して偽反乱軍を引き摺り出し、その対応を見るというもの。ただしナミとビビ、それに面が割れてる俺はその包囲網には不参加。エースは俺と同じく面が割れてるけど、1度だけヤツらに発破をかけるからと待機するらしい。

 というわけで、作戦開始!

 

 

 

 

 結論から言おう。

 カミュ率いる偽反乱軍は多少の被害を負いながらも最終的には根性を見せ、ビビの合格を貰った……無論、ヤツらはそれを知らないけどな。

 サンジとウソップがクサい芝居で偽反乱軍を持ち上げながら(←ゾロはやってなかった。顔の赤いゾロという珍しいものが見られたからよしとしよう)逃げて行ったので、俺たちもそれに合流して走る。

 命を懸けたヤツは怖い、と走りながら誰かが……多分サンジが呟いていた。

 見せてもらえた結果にみんな満足しているのか明るい表情をしているけれど、そんな中でマツゲに乗っているビビだけがやけに真剣な顔をしている。

 そしてその理由は……それからすぐに解るのだった。

 

 

 

 

 再び砂漠で歩を進めながら、ビビと共にマツゲに乗るナミが反乱軍について聞いていた。その時俺もマツゲのすぐ隣を歩いていたから、話はよく聞こえる。

 ビビは語った。10年以上前に一緒になって遊んでいた幼馴染のことを。

 少年はビビを命がけで守り、コブラ王の『この国が好きか』という問いにすぐさまイエスと答えたのだという。

 大人の都合で離ればなれになってしまったようだけど、きっと今でも再会すれば仲良く交流出来たんだろう。そう思えるぐらいに、昔話をするビビは楽しそうというか、嬉しそうだった。

 そう、何事も無ければ……。

 

 「でも、それのどこが反乱軍の話なの?」

 

 尤もと言えば尤もなナミの質問に、ビビは振り返らずに答える。

 

 「これから行くユバの町に、反乱軍は駐留しているわ。そしてそのリーダーの名は……コーザ」

 

 「!? それって……」

 

 「そう」

 

 ビビはそこで初めてナミに振り返った。

 

 「今話した少年よ」

 

 その言葉に、ナミは息を飲んでいたけれど……うん。

 

 「なら話が早いな。反乱軍のトップが知己なら、説得もしやすいだろうし」

 

 事もなげに言うと、ナミに呆れたような顔をされた。

 

 「あんたって、時々楽天的ね」

 

 わざとだよ。暗くならないようにな。

 ってか、時々って何だ、時々って。俺は基本的に楽天的なつもりだぞ……時々どつぼに嵌っちまうけど。

 ビビも苦笑気味だ。ちなみに、ビビの話を聞いてたのは俺たち2人だけだったりする。他のみんなは特に気にしてないらしい。というよりむしろ、またもや現れた巨大サソリを食べるのに忙しいようだ。特にルフィが。

 この前ルフィが見付けたようなサイズのサソリだと小さいけど、あれくらいの大きさになると身も詰まってるようだ……しまった、食べ損ねた。多分エースが焼いたんだろうけど、不覚だったな。

 

 「ナミすわぁ~ん♡ ビビちゅわ~ん♡ 2人もいかがですか?」

 

 サンジがサソリのハサミを抱えて、そう持つのではなく抱えて駆け寄って来た……って、俺の分は? ………………期待しても無駄か。俺、男だもんな。

 

 「もう、何やってるのよ! さっさと行くわよ!」

 

 ナミは苛立たしげにそう言うと、返事も聞かずにマツゲを促した。

 ユバも、もうすぐだ。

 

 


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