転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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銃の世界

 誠二郎にケーキを奢ってもらってから一週間後の土曜日、和葉は浩一郎のバイクに乗せてもらい、彼が指定した病院に来ていた。その病院の名前を言えば、浩一郎は迷うことなく来ることが出来た。それもそのはず、その病院は和葉が入院しリハビリを行っていた場所だからだ。一か月半のリハビリを終えた後も、何度も浩一郎に連れてきてもらっては検査をしていた。嫌でも覚えてしまうだろう。バイクの免許は持っているのだが、浩一郎が頑として自分が送ると言ってくれたので甘えている。流石に学校がある日は自分で来ていたが。

 病院の中に入り、指定された病室までたどり着く。患者のネームプレートは無い。ノックをし、扉を開けた。

 

「おっす、和葉ちゃんに浩一君!久しぶり!」

 

 中に入って開口一番そう言ってきたのは、和葉のリハビリを担当していた女性看護師、安岐 ナツキ。女性にしてはかなりの身長であり、男性患者にとってはある意味で目に毒になるであろうメリハリのついた体つきをしている。常に笑みを浮かべている顔は、まさに白衣の天使と呼ぶにふさわしい清楚さを感じさせるが、実際は砕けた口調で接し、笑顔のまま無茶ぶりをしてくる女性だったりする。

 

「ご無沙汰しています」

 

「お久しぶりです」

 

 二人はそう言って頭を下げた。途端、ナツキは腕を伸ばし和葉の肩の上から二の腕、脇腹を触る。

 

「ふむふむ、肉はついてきたけどそれでも細いねぇ。ちゃあんと食べてる?」

 

「えぇ、食べてますよ」

 

 というか、と和葉は苦笑しながら続ける。

 

「家族全員で食べさせてくるので、若干苦しい時があります」

 

 なので苦しくなったら正直にそう言っている。心配からきていることはわかっているが、限度というものがあるだろうといつも思っている。軽く浩一郎に恨めしそうな視線を送ると、彼は苦笑していた。それを聞いてナツキは「愛されてるねぇ」とケラケラ笑う。

 

「そういえば、菊岡さんはどうしたんですか?」

 

 浩一郎の問いにナツキは来ていないと答えた。曰く、外せない会議があるらしい。で、ナツキは和葉のリハビリを担当していたことから、今回の件に適任だろうということでシフトが外れたとのこと。

 

「上の方から言われたからそりゃあ断れないよね~。まぁ久しぶりに和葉ちゃんの様子見れるから全然いいんだけど」

 

 そういって漸く和葉の体から手を離し、二人をジェルベッドまで案内する。隣にはモニター機器が並び、ヘッドレスは真新しいアミュスフィアが置いてあった。

 

「じゃあ二人とも、電極貼るから上脱いで」

 

「「わかりました」」

 

 ナツキからの指示に二人は戸惑いなく上を脱ごうとした。それに多少は驚愕しつつも、そういえばこの二人は恋人だったと思いだし、二つのベッドの間をカーテンでしきる。

 

「先に和葉ちゃん貼っちゃうね。浩一君、恋人だからって覗くなよ~?」

 

 流石にしないことを伝え、ベッドに腰を下ろした。少し経てばナツキが来て浩一郎の上半身に電極を貼っていく。

 アミュスフィアにも心拍モニター機能はあるのだが、クラッキングなどでその機能が殺されてしまっては、と誠二郎が危惧したものらしい。本気で安全を気にしているのだな、と感じ取れる。

 

「よし、これでOKと」

 

 最後にモニターに異常がないことを確認したナツキがそう呟いたのを聞いてから、二人はアミュスフィアを被る。四、五時間は潜っていることを伝えると、二人の体は任せろとありがたい言葉を貰い、二人はログインした。

 

 

 

 キリハはGGOの世界に降り立つと、周囲に目を向ける。流石にSAOやALOと世界観が違うこともあり、街並みが大きく異なっていた。メタリックな質感を持つ高層建造物が並び、それらを空中回廊が繋いでいる。ビルの谷間にはホログラム広告が流れ、地上に近づくにつれその数は増えていった。キリハが今踏みしめているのも土や石ではなく、金属で舗装された道だった。背後を見れば、初期アバターの転送位置に設定されているのであろうドーム状の建物があり、目の前には街のメインストリートらしき道が伸びている。

 これらをさっと確認し、まずはアバターを確認しようとミラーガラスの前に立ち、自分の姿を確認する。

 

「…これはこれは」

 

 そこに映っていたのは、中性的な顔…というより、ぱっと見は男にしか見えなかった。ショートスパイクの髪と瞳の色は現実と同じく黒で、現実の自分を男よりの顔にしたらこんな感じなのだろう、と思える。身長はそこそこあり、百七十くらいだろうか。

 そうやって自分の姿を観察し、キリハはその場から動き始める。コウとの待ち合わせ場所は予め決めてあり、とあるガンショップで待っていると言っていた。とはいえ、誰かに案内してもらわないと迷ってしまいそうだ。なので、適当に通りを歩きPLを探す。屈強そうな見た目を持つものはやめておく、変に絡んできそうだからだ。そして目を引いた水色の髪を持つPLを発見、小走りで近づき背後から声をかける。

 

「すいません、少しいいですか」

 

 振り返ったそのPLは女性だった。ペールブルーの髪は無造作なショートであり、額の両側で結えた細い房がアクセントになっている。キリハの身長が高いこともあるが、それでもこのPLはかなりの小柄なアバターだった。そして、振り返ったその顔には警戒の色が浮かんでいる。はてと内心首を傾げ、その理由に思い当たった。そういえば今のアバターは男っぽい見た目をしていたな、と。

 通常、男性PLが女性PLに「道に迷った」と声をかける場合、その七割はナンパ目的である。キリハもその被害にあったことがあるので、そのめんどくささを知っていた。

 そのことを数秒の思考で考え付き、苦笑をしながらネームカードを実体化させ、相手に見せる。

 

「自己紹介もなくすいません。こういう者です」

 

 警戒しながらネームカードを手に取り、目を通したようだ。そしてすぐに目を見開く。

 

「Femaleって…、え?女なの…?その見た目で…?」

 

 混乱しているのがよくわかる。数分の間、視線のがネームカードとキリハの顔を行ったり来たりしていたが、漸く彼女の中で落ち着けたようだ。そうしてキリハはその少女に、今日始めたばっかりであること、ガンショップで待ち合わせをしていることを伝える。そういうことならと、道案内を承諾してくれたのでついていく。

 その途中改めて自己紹介をし合った。彼女─名はシノン─もこれから待ち合わせをしているらしい。BOBに参加することを話すと怪訝な表情をされたが、コンバートしたアバターであることを伝えると納得してくれた。

 

「なんでこの世界に来たの?」

 

「元々はファンタジーものをやっていたのですが、たまには殺伐としたものもやってみようかと思いまして。後は、そのゲームでの経験がこの銃の世界でどこまで通じるか気になったからですね」

 

 シノンの問いに、キリハは嘘と若干の本音を混ぜて答えた。実際、この世界で自分の力がどこまで通じるかは気になっていたところではある。ただ、銃を使う自分が全く想像できていないのだが。ちなみに敬語を外してもいいと言われたが、これが癖であることを既に言ってある。

 気づけばガンショップに着いていた。道は覚えていない、というか覚えられる気がしない。そのレベルで道は入り組んでいたのだ。つい、アインクラッドの《アルゲート》を思い出す。

 中に入ると、広大な店内には様々な色の光と喧噪に満ち、まるでアミューズメントパークのようだった。NPC店員の手に握られている銃や、壁に飾られている銃に目を奪われているとシノンが口を開く。

 

「本当はこういう初心者向けの総合ショップよりも、もっとディープな専門店とかの方が掘り出し物が合ったりするんだけど…。まぁこういうところで自分の好みの銃系統を決めてから、そういうところに行くのもありだから」

 

 歩いていこうとして、シノンは振り向いた。

 

「そういえば待ち合わせをしてるのよね?ここのどこで待ってるとかは言ってた?」

 

「確か…、『Untouchable(アンタッチャブル)』というゲームの所にいると」

 

 じゃああそこね、とシノンが指した方を向くと何やら巨大な装置が見えた。近づいてみると、幅三M、長さは二十Mほどあるだろうか。金属タイルが敷かれた床を五十CMほどの木の柵が囲い、一番奥に西部劇のガンマンめいたNPCが立っている。時折リボルバーを抜いては挑発めいたセリフを発していた。そして、そのゲームの周辺には多数のPL。

 キリハはその中からコウを探そうとするが、アバターの特徴を聞いているとはいえ、明確な姿を知らないので探せない。

 

「あ」

 

 シノンが誰かを見つけたように声を発し、目線の先を追うと、二人の男性PLがこっちに近づいてきていた。彼女の表情を見るに親しい人物なのだろうと思い、コウ探しを再開しようとした。

 

「…」

 

「や、シノンちゃん。そっちの人は?」

 

「アレン、コウさん」

 

 が、シノンの口にした名前に思い切り振り向く。それにシノンが驚くのが見えたが、それに構わず『コウ』と呼ばれたPLをジッと見つめる。それで気づいたのか分からないが、そのPLは口を開いた。

 

「もしかして君、キリハかい?」

 

 その言葉で、このPLがコウだということが判明した。肯定するために頷く。

 

「シノンちゃんと会ってたんだね」

 

「ここまで道案内してもらいました」

 

 と話していると、コウは今思い出したようにシノンともう一人のPLに振り替える。

 

「紹介するよ。この子が僕の彼女、キリハだよ。で─シノンちゃんはいいよね─こっちのプレーヤーがアレン君。この世界で仲良くなった二人だよ」

 

 よろしくお願いします、とシノンには改めて、アレンには初めましての意を込めて頭を下げる。シノンは「こちらこそ」と言い、アレンは静かに「…よろしく」と言った。

 

「それで?何故ここにしたんですか?」

 

 キリハの問いに、お金をもっていないだろう?と返す。それはその通りなのだが、なんの関係があるのか分からず首を傾げた。が、アレンとシノンはどういう意味か分かったようだ。アレンの表情からは何も感じられないが、シノンは驚いたような表情をしている。

 

「コウさん、まさかこれやらせる気ですか?」

 

 そう言いながらシノンが指したのは、目の前のゲームだった。




 一応補足しときます。
 今の時代でも片目が見えなくても条件を満たせば免許を取ることは可能だそうです。

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