転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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本当は一話で終わらせるつもりだったんですが、思った以上に長くなりそうだったので分けることに。


ヨツンヘイム

─なんでこんな事になってるんだろうなぁと、私は少し現実逃避したくなった。いやまぁ、私が原因ではあるんだけど。最初に斬りかかろうとしたの私だし。でもだからって─

 

(─明日にぃ、暴れすぎじゃない?)

 

 そう思いながら前を見ると、明日にぃがウンディーネのパーティーを持ち前の速さで蹂躙してた。今はメイジ達だけとは言ってもそれは凄いこと。だって邪神を狩ってる人達だよ?レア装備でガッチガチに固めてるし、バフも盛ってる。それなのに向こうの攻撃を全部避けて一方的に攻撃してるんだから、普通の人が見たら絶句する光景よね。

 私?明日にぃ達の無茶苦茶っぷりにはもう慣れたよ。昔から一緒にいるしね。

 あぁそうそう。言い忘れてたけど、ここに佳奈ねぇと浩にぃはいない。で、今いる場所は邪神モンスターしかいないALO最難関ダンジョン、《ヨツンヘイム》。別名《氷の国》。一ヶ月前くらいにアップデートで追加された場所だよ。じゃあ、なんで私達がここにいるか説明するね。

 …って私、誰に向かって語ってるんだろう?

 

 

 1時間くらい前、サクヤ達と別れた私達はログアウトしようと近くの宿を探した。そしたら森の中に小村が見えたから、これ幸いと降りたのが間違ってたんだよねぇ…。多分、全員眠過ぎて正常な思考ができてなかったんだと思う。

 まず、村にNPCがいない事に疑問を持ったけど、宿屋にはいるだろうって事でそこは無視。一番大きな家を見つけて入ろうとしたら突然、村にあった三つの建物が同時に泥みたいに崩れた。その瞬間に佳奈ねぇは翅を広げて「逃げろ!!」って叫んだんだけど、それに反応出来たのは浩にぃだけ。私と明日にぃは反応出来ず、口みたいに開いた地面に食べられた。後で分かったことなんだけど、この村自体が巨大モンスターの疑似餌だったんだ。今まで情報が無かったってことは多分、最近実装されたんだと思う。このアルン高原、通る人多いもん。勿論ユイちゃんの案内で降りたんだけど、あの疑似餌、マップにも表示される仕様だったのよ。初見殺しね。

 幸いだったのは、あれは捕食するためじゃなくてヨツンヘイムに強制的に移動させるためのトラップだったって事と、ユイちゃんがこっちにいてくれた事。最悪の事態に変わりないけど。

 で、私と明日にぃはどうしようか相談した結果、邪神狩りパーティーと合流して出口まで同行させて貰うことにしたの。出口はあるんだけどそこには扉を守護する邪神がいるし、私達だけじゃそこに行くまでに死んじゃう。まぁさっきも言った通り、ここは最近実装されたばっかだからパーティーに遭遇する可能性も低いし、どっちにしろ運任せなのよね。

 早速ユイちゃんに周囲にプレーヤーがいるか探してもらったけどいなくて、ただここにいるだけじゃ絶対に助からないから移動することにしたの。こっちには可愛くて優秀なユイちゃんがいるし、出口に近づけばパーティーと遭遇する可能性も高まるかもしれないからね。

 決まったら即行動ってことで移動しようとしたその時─すぐ近くから邪神の咆哮と地響きみたいな足音が聞こえてきたんだ。どう考えても邪神です、本当にありがとうございました。全然有難くないし、ここにいるのは邪神しかいないから当たり前なんだけど。

 で、急いでその場を離れようとしたら、もう一つ今すぐにでも消えそうな邪神の声も聞こえてきた。一匹でも危険なのに、二匹も遭遇したらただの絶望、でも様子がおかしかった。ユイちゃんが言うには、二匹の邪神はお互いを攻撃しあってるらしい。どうせだし、様子を見に行こうって話になって声のする方に向かった。そして私達が目にしたのは、ユイちゃんの言った通り大きさ二十mはありそうな邪神が二匹、争ってる姿だった。大きい方は、縦に三つ重なった顔に腕が四本生えて、それぞれに大剣を持ってた。まぁギリギリ人型だったかな。もう一匹の少し小柄な方はなんというか…水母(クラゲ)に象の頭がくっついたような姿をしてたんだよね。触手には鋭い鉤爪がついてた。

 しばらく様子を見てたんだけど、ずっと水母の邪神の方が劣勢だった。逃げようとしても逃げられなくて、ひたすら人型邪神の攻撃を浴び続けて、どんどん弱々しくなる声を聞いてたら助けたくなっちゃったんだ。正気かって疑われるかもしれないけど、思っちゃったから仕方ないよね。

 明日にぃはすぐに了承してくれたけど、問題はどうやって助けるか。下手に助けて、私達がやられたら意味がない。頭を抱えて考えてたら、明日にぃがユイちゃんに近くに水面があるかって聞いたの。ユイちゃんは疑問も持たずに周囲を探して、二百mくらい走れば凍った湖があるって。すると明日にぃが、湖まで走るよって。もうこの時点で私は嫌な予感がしてた。その予感は大当たり、明日にぃはピックを手に持って─三面邪神に思いっきり投げつけた。それが当たった瞬間、私達はユイちゃんの示す方に走り出した。何でかって?邪神が追いかけてくるからだよ。

 明日にぃがピックを投げつけたのはタゲをこっちに向けさせるため。後ろから怒りの咆哮と地響きが追いかけてくるのは生きた心地がしなかったね。ていうか明日にぃ速すぎ。私の腕を引っ張ってくれたのは嬉しいんだけど、佳奈ねぇより速くて目が回ったよ。

 それはともかく、私達は氷結した湖の真ん中当たりで立ち止まった。勿論、三面邪神も追いかけてきたけど、重みに耐えられずに氷が割れて水に落ちた。そのまま沈んでくれれば良かったけど、まぁそう上手くはいかないよね。二本の腕をオール代わりにして泳いできた。でも今度は逃げなかった。三面邪神の後ろから、水母邪神が来るのが見えたから。

 水母邪神は水の中に勢いよく飛び込むと、さっきまでは自分を支えるのに大半を使っていた二十本くらいある触手全てを、三面邪神に巻きつけた。三面邪神は剥がそうともがくけど、二本の腕は使えないから引き剥がせない。そう、水母邪神は水棲モンスターだったのよ。そりゃあ陸上じゃあ劣勢にもなるわよね。自分を支えるために触手の大半を使ってるんだから。でも水の中なら本領発揮出来るから、今度は一方的に攻撃できる。そこからは水母邪神が青いスパークを浴びせて、あっという間に終了。

 本来ならすぐにその場を離れるべきなんだろうけど、何故かその子は私達を襲わずに背中に乗っけてくれて、そのままどこかに移動し始めた。二十mの高さから落ちたら流石に死んじゃうから、私達は景色を楽しむ事にしたの。クエストが発生したわけじゃないし、何かのイベントかな。まぁ、邪神を助けるなんて私達くらいだろうから、今までこの情報が出なかったのは当たり前かな。

 あ、そうそう、その時にこの子の名前を付けたの。名前は『トンキー』、あんまり縁起は良くないけど可愛いからオッケー。トンキーっていうのは、ある絵本に出てくる象の名前。最後には餓死しちゃうからあんまり私は好きじゃなかったなぁ。あともう一つ、トンキーに乗ってる時にも邪神と遭遇したけど、一匹も襲ってこなかったのよ。何でかなって考えたら、その邪神達は一匹も人型じゃなかったんだよね。そこから考えると、邪神にも敵味方があるみたい。これは明日にぃも同意見。

 そのまましばらく歩いていたら、凄く大きな穴の前でトンキーが止まった。どうしたんだろうって思ってたら、突然その場で蹲ったんだ。見た目が完全に白くて大きい饅頭(まんじゅう)だったよ。柔らかかった体表は硬くなるし、でも死んだわけじゃないし、更にはウンディーネの邪神狩りパーティーが来るしで大変だったよ。

 向こうのリーダーさんは私達にトンキーを狩るのかどうか聞いてきた。勿論狩るわけない。でもこの人達に狩らせるわけもないから、見逃してもらおうと思ったんだけど。そんなことを向こうが認める筈もなくて。一応、私達にトンキーから離れる時間はくれた。本当は離れたくなかったけど、明日にぃが私の手を引っ張ってトンキーから無理矢理離した。明日にぃの事だから、さっき友達になったばっかりのトンキーより私を優先したんだろうってことくらい分かる。でも私は、そんな明日にぃの気持ちを無駄にしたんだ。

 重装備で攻撃されて、上位魔法で焼かれて。それだけで私は心を痛めたのに、そこにトンキーの小さな悲鳴が聞こえてくるんだよ?もう我慢できなかった。

 私は心の中で謝って、一番近いメイジに向かって走りだした。その人は足音に気付いてこっちを向いたけど、遅い。私は抜剣して斬りかかろうとしたら─私の横を風が通った。そのすぐ後に聞こえる斬撃音。メイジが少しだけ体を浮かした後に連撃を加えられて、その人は声を出す暇も無く消滅した。そこでようやく、明日にぃが私を追い越してメイジを葬った事に気付いた。

 明日にぃはそのまま他のメイジに走り寄って、並んでいたメイジの一人を吹き飛ばした。そこでようやく向こうの人達は異常に気付いたようで、何かを言おうとした。その前にその人も吹き飛ばしてたけど。メイジ達は長文の大型魔法から短文の高速魔法に切り替えたんだけど明日にぃの方が明らかに速くて、スペルを言い終わる前に斬られる人が多数。ホーミング型も混じってたけど、当たる直前に持ち前の速さで回避してた。ホーミングって言ったって直角で曲がるわけじゃないからね。まぁ、消えたように見えるレベルの速さが無いと出来ないけど。

 そういえば、明日にぃの通り名は『閃光』って言ってたっけ。目の前で見てる今なら分かる。レイピアの刺す動きが速すぎて、光が乱反射してるように見えた。

 

 ここまでがさっきまでに起きた出来事。さてと、私も見てるだけじゃなくて参戦しないと。向こうさんも気付いたみたいだし。

 二人とも死んじゃったら、三人に謝らないと。特に浩にぃ。私達の中で、一番和ねぇの事を想ってる人。あの須郷(いけ好かない男)よりもよっぽど任せられる。やっぱり、姉達には幸せになって欲しいからね。あの男の好きにさせてやるもんですか。




ただ明日加を活躍させたかっただけ

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