(リーファちゃん達、無事かなぁ)
ここはスイルベーン付近の森の中。そこの木の陰でスプリガンの青年─コウ─ばシルフ狩り゙を行っていたサラマンダーによって別行動になってしまった二人を案じていた(他にもパーティーメンバーはいるがどうでもいい。)
(いやまぁ、こっちの方が人数多いから危険度は二人よりも高いけど)
そう思いながら苦笑すると、声が聞こえた。どうやら、サラマンダーの部隊がようやく追いついたようだ。数は十人程。舐められたものだ。たかが
さてと、なんて呟きながらコウは小太刀を二本腰から抜いて、木の陰から飛び出した─。
所変わって森の上空。二人のシルフが夜空を猛スピードで飛んでいた。
「ほらレコンもっと速く!!」
「無茶言わないでよ〜・・・」
そう言う少女─リーファ─に泣き言を返す少年─レコン─。しかしそれでも、レコンはリーファに追いつこうと必死だ。そんな彼をリーファは好ましく思う。決して口には出さないが。
リーファは、自分が世間一般の女子とは少しズレていると自覚している。恋愛よりも部活、ファッションに金を使うくらいなら剣道で使う。恋愛に全く興味が無いわけではないが、まぁ薄いだろうなと思っている。少女漫画なんか興味無いし、クラスメートのいうイケメンカッコイイ!がよく分からない。
─どう見たってうちの
毎度そう思う。一応「この人カッコイイよね!」と聞かれたら「うん、そうだね〜」なんて答えているけど。
恋愛しようにも、まずマトモな男子が少ない。自分に近づく男子は皆が皆胸目当て、下心丸出しだ。いや、下心あるのは構わないのだが(というか全く無い方が怪しい)簡単に攻略出来ると思われているのは心外だ。中には無理矢理迫ってくる者もいた。そんな奴らは心身共にボコボコにしたけども。
その点、レコンは安心出来る。今までの男子同様下心は感じるが、純粋に自分と仲良くなりたいと思っているだけ、と判断した。というか、自分と話す時とか自分の名前を呼ぶ時とかにどもるのが新鮮で弄りたくなる。なんというか、初心で面白い。決して表には出さないが。
後はまぁ、姉二人と楽しみを共有したいという相談をしてこの世界に誘ってくれたのはレコンであるし、褒めたりすると顔を真っ赤にして慌てるのを見ると、なんか守りたくなる。
─あれ?これ、そのうちヒモ男に引っかかるパターンじゃない?─
そう思わなくはないが、自分が判断出来なければ家族がしてくれる。人を見る目は確かだから間違えることは無い。
そういえば、とリーファはレコンを家に連れていった時を思い出す。その時点で両親と会っていて今の関係を口出しされていないという事は、レコンは大丈夫ということか。リーファとてレコンとの関係は悪くないと思っているし、
「─リーファちゃん!!後ろ、もう追いつかれた!」
レコンの一声で現実に戻ってきたリーファは、後ろを確認する。確かにレコンの言う通り、七人のサラマンダーが見えた。これはもう戦闘は避けられないな、と判断したリーファは腰から抜刀しながらレコンに指示を出す。
「レコン!戦うよ!何人落とせる?」
「っ!二人は絶対に落とすよ!」
レコンは目を見開いた後、自分に喝を入れるようにそう叫んだ。
レコンは変わった。最初の方こそリーファの勢いについて来れなかったが、最近は意地でもついて来るようになった。その変化にリーファは内心、微笑ましくなりながら気持ちを入れ替えるように叫ぶ。
「─行くよ!」
先に動いたのは、当然だがリーファだった。急停止から急上昇、弧を描くように上からサラマンダーへ突撃する。それに一瞬驚いたサラマンダー達だったが、すぐに反撃の姿勢を取った。しかし─
「がっ!?」
─突然、最後尾にいたサラマンダーが断末魔をあげ、赤い
「このガキ─」
レコンに武器を振るおうとした一人を、今度はリーファが上から奇襲し縦に両断した。
サラマンダー達がリーファに気を取られている間に、レコンが隠蔽スキルをフルに使い背後から仕留める。追撃をかけられるなら、リーファがかける。これが二人の戦い方だ。だが、これが通用するのは最初の一回きり、それ以降はそれぞれの実力が試される。
あっという間に二人も倒されたサラマンダー達は、三人がリーファに、二人がレコンについた。リーファは正直、戦闘用ステータスではないレコンが心配だが、こっちが三人でよかったと思う。そんな事を考えている間に、サラマンダーが三人同時に攻撃を仕掛けてきた。
(三人同時とかっ!)
こちとら女なんですけど!?と思いながら一人目のランスを刀で受け流し、二人目は弾き、三人目は急上昇で避ける。そのスキにレコンの様子を見ると挟み撃ちにされていて苦戦しているようだが、『随意飛行』を習得したおかげでなんとか耐えているようだ。それに安堵した瞬間、下から『
(しまったっ!あのサラマンダー、魔法剣士か!)
幸い、追尾型ではないので旋回して回避する。恐らく魔法を放ったのは、サラマンダーの指揮官か。
(先にやるなら、魔法剣士からかな)
そう考えながら、リーファは突撃しようとして─
「─リーファちゃん!!後ろ!!」
─レコンの先程よりも必死な声で咄嗟に振り向くとサラマンダーが一人、目の前まで来ていた。リーファはランスを上から刀の腹をぶつけて軌道を逸らし、そのままサラマンダーの胸を両断する。
(今の人、レコンの方に行ってた人じゃないっ!)
まさかと思いながらレコンのいた方向を見る。そこにあったのは、赤と緑のリメンライトだった。相打ちか、それとも残っていたサラマンダーにやられたのか。どちらにせよ、レコンは宣言通りに二人倒してくれたようだ。欲を言えば、彼には生き残って欲しかったが。
ふと、飛翔速度が落ちてきている事に気付いた。滞空制限が迫ってきている。リーファは舌打ちを一つ、サラマンダーに落とされる前にと森へ急降下した。何十もの枝を掻き分けて背を木に預けるように着地し、追ってきた上空のサラマンダーを睨みつける。
三人のリーダー格と思われる男が一歩前に出て口を開く。
「悪いな、お嬢ちゃん。こっちも任務なんでね。有り金とアイテムを置いてってくれれば殺しはしない」
「何言ってんだよカゲムネさん!久しぶりの女プレーヤーじゃねぇか!殺そうぜ!」
そう言いながらバイザーを上げた男の暴力的な視線に、リーファは嫌悪感に溢れるのを自覚した。この男の様に『女性プレーヤー狩り』を好んで行うプレーヤーは少なくない。中には「MMORPGの醍醐味は女プレーヤーを狩ることだ」という者もいる。
リーファは深く息を吐き、刀を上段に構えた。
「後一人は道ずれにするわ。デスペナが惜しくない人からかかってきなさい」
「・・・頑固なお嬢ちゃんだ。仕方ない」
肩を竦めたリーダーのカゲムネと呼ばれた男はランスを構え、助走をつけるために浮き上がる。両隣の男達も追随した。リーファは、たとえ三つの槍に同時に貫かれようとも全力の一撃を決めるつもりだ。
三方向を囲まれ、サラマンダー達がリーファに突撃しようとした─その時。
「おぅわぁ!?」
サラマンダーの後ろの枝が揺れたと認識したと同時に男の悲鳴が聞こえ、黒い影が地面に落ちた。
「いてて・・・着地が苦手だなぁ・・・」
「もっとゆっくり降りれば良いだろ」
頭を擦りながらぼやくウンディーネの男性と、上からゆっくり下降してくるケットシーの女性。
男性の方はウンディーネ特有の水色に染まった短髪で、全身が初期装備で包まれており腰に
女性の方は、パッと見は黒猫。黒い長髪にケットシー特有の黒い耳と尻尾が付いている。こちらも全身初期装備であり、片手剣が背中に装備されていた。
リーファは咄嗟に逃げろと叫ぼうとした。どう見ても
だが、ふと思い出した。この世界に来ると言っていた二人の事を。
基本的にALOでは例外を除き、他種族パーティーは組まない。目の前の二人は他種族であり、予め聞いていた種族がどちらも一致している。
まさかと思いながらリーファは口を開いた。
「─もしかして、キリトさんとアスカさん?」
中途半端な所で終わってしまったので、もう一話頑張ります!
和葉「無理だったら斬りますね」
作者「久しぶりの一言がそれかよ!?」
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