転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 あけましておめでとうございます!
 今年もこの作品をよろしくお願いします!


フェアリーダンス
未帰還者


 積雪の残る一月中旬早朝、埼玉県南部に建つ古い日本家屋から鋭い声が響き渡っていた─

 

「─てやぁぁぁぁあ!!」

 

「シッ!」

 

─より正確に言えばその家の道場から、だ。そこには木刀を打ち合ってる二人の少女と、道場の中心で正座をしてる一人の少年がいた。

 少女達はそれぞれ、剣道の型と自己流で打ち合っていた。木刀が折れかねない音を出しているが、当の本人達は気にしていない。

 

「腕上げたなぁ!スグ!」

 

「あったりまえだよ!佳奈ねぇ達が寝込んでから二年経ってるんだから!」

 

 本気で打ち合いながら二人の少女─佳奈とその妹、直葉は笑みを浮かべて語り合う。何せ久しぶりの手合わせであり、つい先日まで激しい運動を禁止されていた佳奈の気分が高ぶるのは当たり前だった。それを見ている少年─明日加は、佳奈の気持ちを察してるが故に苦笑するしかなかった。

 

「ふっ!!」

 

 直葉が鋭い突きを佳奈の喉元目がけて放つが、佳奈は横から思い切り弾き一閃。それを無理矢理戻した木刀で防御。そのまま巻き上げて飛ばし、面を狙う。佳奈は避けようとするが、突然膝からガクリと落ちてしまう。何とか倒れずにすんだが、顔を上げれば木刀が寸止めされていた。

 

「そこまで!」

 

 明日加が手を上げて勝負を止める。直葉は木刀を下げ大きく息を吐き、佳奈は大の字で後ろに倒れた。

 

「だぁくっそ!負けた!」

 

「仕方ないけど、やっぱり動き落ちてるね?前の佳奈ねぇならさっきの軽く避けるもん」

 

「二人共お疲れ」

 

 明日加が用意しておいたタオルを手渡す。二人はそれを受け取り、それぞれ首にかけた。

 

「ありがとな」

 

「ありがとう、明日にぃ」

 

「どういたしまして。さ、風呂入っておいで。朝食は作っておくから。この後病院だろ?」

 

 二人は明日加の言葉に素直に従う。実際汗をかいてるのは二人だけであり、何よりこれが一番大事な事だが、明日加がこの中で一番料理が上手い。

 明日加の作った昼食(因みに米、鮭、卵焼き、味噌汁の和食だった)を食べ終えた後、家を出てタクシーに乗る。行き先は家から南へ十五キロ、埼玉県所沢市─その郊外に建つ最新鋭の総合病院、桐ヶ谷家が()()()()()()()()()施設の一つだ。そこの一部屋に、三人の家族が入院している。

 

 二カ月前、SAOの舞台であった《浮遊城アインクラッド》は一人の少女が茅場昌彦を倒した事によって幕を閉じ、生き残ったプレーヤーは全員解放される─()()()()()。だが実際には、昌彦を倒した和葉(キリハ)を含めたおよそ三百人のプレーヤーが未だ眼を覚ましていない。その事を知ったのは、佳奈と明日加は見知らぬ部屋で眼を覚まし、お互いを同じ部屋で見つけるとすぐに抱擁を交わして、そこに現れたスーツを着た眼鏡の男から聞いた時だった。その男は、自分を《総務省SAO事件対策本部》の人間だと名乗った。

 それは一万人が閉じ込められてすぐに結成されたが、結局この二年間手出しが出来なかったそうだ。これらは二人がその男─菊岡誠二郎─から話を聞いた直後、桐ヶ谷家(峰高と翠)に裏を取って貰ったので、この話は全て真実だ(気になることがあったのでもう少し調べるそうだが。)

 最初、三百人が眼を覚まさないのはただのタイムラグと思われていた。しかし、何時間、何日と経っても三百人が目覚めたという報告はなかった。行方不明の茅場昌彦の陰謀が継続していると世間では騒がれたが、佳奈や明日加など、昌彦の事を知っている者達はそう思わなかった。彼は、自分で決めたルールは絶対に破らない事を知っているからだ。

 不慮の事故か、はたまた何者かの陰謀か、昌彦の死によって初期化されたはずのSAOメインサーバーは、今もなお不可侵のブラックボックスとして稼動し続けている。ナーブギアに一体何が起きているのか─。

 

 高級ホテルのロビーのような一階受付で三人は通行パスを受け取り、エレベーターに乗り込む。数秒で最上階の十八階に到着、その階の突き当たりに、和葉の部屋がある。部屋に入ると、眠っている和葉の横に先客がいた。扉の開く音を聞いたその人物はこちらに顔を向ける。

 

「あぁ三人とも。来たんだね」

 

「兄さんこそ」

 

 その人物は結城(ゆうき)浩一郎(こういちろう)、明日加の兄で現在十九、大学一年生だ。

 

「こんにちは、浩一さん。毎度ありがとう」

 

「前から疑問に思ってたんだけど、浩にぃ大学はどうしてるの?いつもこの時間にはいるけど」

 

「見舞いに行くって事で午前中に抜けてきてるんだ」

 

 浩一郎は笑顔でそう言った。それに三人は呆れたように溜息をつく。一見真面目な浩一郎だが、どうも昔から和葉の事となるといつもな何かしでかす傾向がある。そんなんで良いのかと聞くと、 単位を落とすことはないから大丈夫、とのこと。

 浩一郎と直葉、佳奈と明日加で和葉のベッドを挟んで座る。和葉は、頭のナーブギアさえ無ければただ眠っているようにしか見えない。やはり多少は痩せ細っているが、それほどに見た目が変わっていなかった。浩一郎は和葉の手を両手で握り、自分の額に持ってきてそのまま動かなくなる。それを三人は気にしない。浩一郎がどれだけ、和葉の事を想っているか知っているから…。時折聞こえる小さな嗚咽には、聞こえないふりをした。

 

 

 ベッドサイドに置かれた時計が控えめなアラーム音を鳴らし、浩一郎の意識を呼び起こした。いつの間にかこの場には浩一郎が一人、他の三人がいない。何も言わずに帰るわけないと首を傾げた時、扉の外から聞こえる声に気付いた。軽い言い争いをしているようだ。ちょっと出て来る、と心の中で和葉に挨拶をしてから浩一郎は部屋を出る。そこにいたのは─

 

「おや?やぁ浩一郎君、君も来てたんだね」

 

須郷(すごう)伸之(のぶゆき)、浩一郎達の父、結城彰三(しょうぞう)が経営している会社《レクト》の社員であり、浩一郎が毛嫌いしている男だ。いや、浩一郎だけではない。佳奈も明日加も直葉も、この場の全員がこの男を嫌っている。

 

「君からも何とか言ってくれないかい?僕はただ和葉さんに一目会いたいだけなんだ」

 

「だから、あんたには会わせないって言ってんだろ」

 

「今まで来てなかったクセに何を今更…」

 

「心外だな直葉ちゃん。今までも来ていたよ。たまたま君達と会わなかっただけで。それに会社が忙しいのは知っているだろう?」

 

 明日加は何も言っていないが、それは自分が口を出すと更にこの場に空気が悪化すると分かっているからだ。このままじゃ病院に迷惑がかかるな、と浩一郎は思い()()()()()口を開いた。

 

「まぁまぁ、一目会いに来ただけと言ってるんだから良いじゃないか」

 

 まだ何か言いたげだった佳奈と直葉は、浩一郎の言葉に渋々といった様子で口を閉じる。一方の須郷は上機嫌となった。

 

「流石浩一郎君、話が分かる」

 

「いえ。さぁどうぞ」

 

 浩一郎は病室のドアを開けて須郷を中へ入れ、舌打ちをしながら佳奈達も中へ入る。

 和葉を目にした須郷は笑みを浮かべて近づき、和葉の髪に触れようと─

 

「─何和葉に触れようとしてるんですか?」

 

─して浩一郎に腕を掴まれる。その顔には、笑みが浮かんだままだった。浩一郎は須郷に口を開く間も与えず続ける。

 

「貴男は先程、和葉に会いに来た"だけ"と言ってましたよね?何故、触れようと?」

 

 だけ、の部分を強調する浩一郎に、須郷は一瞬言葉につまった。

 

「それは…でもそれくらいいいじゃないか。だって、僕と和葉さんは()()()で─」

 

「─君と和葉の婚約は認めていないはずなんだがな?」

 

 須郷の台詞を遮った声は入口から聞こえてきた。全員がそちらに顔を向ける。

 

「「「(親父/お父さん/お義父さん)!?」」」

 

「よ」

 

 片手を上げて挨拶したこの男は桐ヶ谷峰高、佳奈達の父親だ。本日は仕事が入っており、見舞いに来られないと言っていたはずなのだが。

 

「こんにちは峰高さん。お仕事は片付いたんですか?」

 

「やぁ浩一郎君、いつもありがとう。

 どうしても和葉の顔を見たくなってね。即行で片づけてきた」

 

 あぁ、と四人は察した。誰が見ても分かるくらいに峰高は娘に甘い。所詮親バカというやつだ。

 四人への挨拶はそこそこに、峰高は須郷へ顔を向ける。

 

「こんにちは、須郷君」

 

「…こんにちは、峰高さん」

 

 須郷は苦虫をかみつぶしたような苦い表情で挨拶を返した。

 

「前にも言ったはずなんだが、私は基本的に娘達の恋愛に口出しするつもりはない。だが、勝手に婚約者を名乗られるのは止めて欲しい。和葉本人が君を好いていれば別だがな」

 

「…和葉さんが、僕に好意を示してくれれば良いんですね?」

 

 須郷の言葉に峰高は頷き、肯定する。須郷は俯き気味だった顔を上げた。

 

「分かりました。好意を持たれるように努力します。

 では僕はこれで」

 

 そう言って須郷は病室を出て行った。それからしばらく誰も喋らなかったが、足音が遠のいて聞こえなくなった所で佳奈が口を開く。

 

「親父、さっきの本気か?」

 

()が冗談で言うと思うか?」

 

 佳奈の問いに、本来の一人称に戻して逆に問う。佳奈は首を横に降った。峰高はああいう冗談を言わない。

 

「安心しろ。万が一、あいつが婿に来た場合、徹底的に鍛えて考え方を変えてやる。

 まぁ、俺的には浩一郎君に来てくれると嬉しいんだがな」

 

「僕、ですか?」

 

 そう言いながら峰高は浩一郎に顔を向け、浩一郎は少し困惑しながら聞き返した。

 

「あぁ、君はあいつと違って佳奈達と仲が良い」

 

 何より、と峰高は続ける。

 

「和葉は君のことを好いているからな」

 

 峰高の言葉に浩一郎は少し目を見開いた後、静かに呟く。

 

「そうだと…嬉しいですね…」

 

 

 

 

 

 五人は和葉にまた来る事を伝えてから病院を出た。

 

「お前らなにで来た?タクシーとかなら、この後横浜に行くからついでに車で送るぞ」

 

 浩一郎はバイクで来たそうなので遠慮する。残りの三人は峰高の好意に甘えようとした時、佳奈の電話が鳴った。メールだ。それを確認すると、佳奈は峰高に言う。

 

「親父、送って欲しい場所ができた。浩一さん、スグを送って貰ってもいいか?」

 

「良いよ」

 

「誰からのメールだ?」

 

 明日加の問に、佳奈はメールを見せながら答えた。

 

「─エギルからだ」

 

『from エギル

 例の物を手に入れたぞ。今すぐ来るか?

      to佳奈』

 

─行き先は、台東区御徒町にある喫茶店『ダイシー・カフェ』。




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