後分けるつもりなかったけどあまりにも長すぎて二つに分けましたすいません!!
「ミナー、パン取ってー」
「こぼさないでね?」
「あ!今目玉焼き取ったろ!?」
「そのかわりニンジンやったろ!」
わいわいがやがやと、十数人の子供達(主に男子)が騒がしく朝食を取っている。
「あはは、子供は朝から元気ですねぇ」
「元気すぎて、朝から叩き起こされたんだけど…」
「叩き、というかダイブされてたな」
その様子を少し離れたテーブルからキリハ達とサーシャは見ていた。アスカは少し拗ねており、その頭をキリトとユイが撫でている。
昨日、ユイが気を失っていたのは幸いにも数分だけだった。だが、長距離移動や転移ゲートを使う気にならず、サーシャの誘いもあったので教会の空き部屋を二部屋借りることにしたのだった。
キリト、アスカ、ユイは川の字(ユイが真ん中)で寝ていたのだが、何故かアスカだけが子供にダイブされた。アスカの「グハァッ!!」という声で他の三人も起きたのだが、ピクピクしているアスカを見ると笑った。
今朝からはユイの調子は良いようで、その証拠に子供にダイブされたアスカを見るとケラケラと笑っていた。その様子を見てひとまず安心したのだが、根本的な状況は変わっていない。それでも、キリトとアスカは心の底で気持ちを固めていた。
─ユイの記憶が戻る日まで一緒に暮らそう─
そのことをお互い確認したわけではない。けれど、自分と同じ気持ちを持っている事を確信していた。キリハも薄々気づいており、それでも構わないと思っている。二人が攻略組から抜けるのならば自分が補えばいい。
そう思いながら、カップを置いたキリハはサーシャに話しかけた。
「サーシャさん」
「はい?なんでしょう?」
「軍は治安維持の為に攻略組を抜けました。軍を率いていたシンカーは真面目な男です。昨日のような連中を放っておくと思えません。いつから、ああなんですか?」
「…徴税と称して恐喝まがいの行為が目立つようになったのは半年くらい前だったと思います。それを取り締まる人もいるようで、軍のメンバー同士で対立してる場面も何度か見ました。噂じゃ、上の方で権力争いか何かがあったみたいで…」
そうですか、と返してキリハは思考を始めようとして何かに気づき、キリトと共に入り口を見た。
「どうした?」
「誰か来るぞ」
「え?」
サーシャが入り口を見たと同時に、扉を勢いよく開けた音が響き、その数秒後に部屋のドアも開けられた。
部屋に入ってきたのは銀色の長髪をポニーテールに束ねた女性プレーヤーだった。軍の鎧にショートソードと
「サーシャさん!子供達は無事ですか!?」
「ユリエールさん!?」
しかし、その会話を聞いて警戒を解き、女性はサーシャの近くにいたキリハ達に気付いた。
「貴方達は…?」
「初めまして、僕はキリハといいます。こちらがキリトとアスカ。この子はユイです」
キリハが自己紹介をすると、女性は慌てて「ユリエールです」と頭を下げた。そして、何かに気付いたように呟く。
「アスカ…?それに、キリハとキリトって…。もしかして貴方達は攻略組の!?」
バッと顔を上げそう叫んだ。それに「えぇ」と返すと、ユリエールは納得したように頷く。
「なるほど…。奴らがボロボロになっていたわけだ」
奴ら、と言う言葉が昨日の連中を指すことに気付いたキリトは目を細めた。
「まさかと思うが、そのことで抗議でもしにきたのか?」
「とんでもない!寧ろお礼を言いたいぐらいです」
だろうな、と思う。もし本当に抗議しに来たのなら子供達の安否などしないだろう。ただの確認だ。
取りあえずユリエールを椅子に座らせると、彼女は姿勢を正し言葉を発した。
「今日はお三方にお願いがあって来ました」
「お願い、ですか」
キリハの返しのユリエールは頷く。
「はい。単刀直入に言います。シンカーとディアベルを、助けてください」
そう言ってユリエールは頭を下げた。キリハ達は慌てることなく、頭を上げさせる。
「頭を上げてください。まずは、説明をお願いします」
「…はい、分かりました」
元のギルドの名称は《ギルドMTD》。シンカーは資源を多くのプレーヤーで均等の分け合おうとギルドを作った。だが、組織としてあまりにも巨大すぎた軍は、アイテムの秘匿、粛清、反発が相次いだ。無論、シンカーとディアベル、キバオウは動き、首謀者(名前は教えてもらえなかった)をもう少しで追放出来る所までいった。しかし─
「─三日前、そのプレーヤーはシンカーとディアベルを罠にかけるという強硬策に出ました。出口をダンジョン奥深くに設定した回路結晶で二人を放逐してしまいました。丸腰で話し合おうという言葉を信じたせいで、現在二人はダンジョン最深部にいます」
その言葉を最後に沈黙が降りた。
シンカーがお人好しなのは分かっていたが、ディアベルまでもがその言葉を信じたとは思えない。キリトも疑問に思ったのか、ユリエールにそのことを聞いた。
「シンカーはともかく、ディアベルは元ベータテスターだぞ?あいつが他人の言葉を簡単に信じるとは思えないんだが」
「はい、ディアベルも最初はシンカーに言っていました。あいつは俺達を罠にかけるつもりだと。しかし、シンカーは、いざとなれば取り押さえれば大丈夫、こっちは二人だからと言ったそうです。それでディアベルは、彼を説得することは無理だと諦めたようで…」
思わず三人は頭を抱えた。せめてディアベルだけでも武装を持って行けよと思ったからだ。わざわざシンカーに合わせる必要は無かっただろう…。
「シンカーの影響でも受けたんですかねぇ?」
「「ありえる」」
キリハの言葉に二人は頷き、ユリエールを見る。
「それで、貴女がここに来たということは、二人がいるダンジョンが貴女では突破出来ないから。そして、軍のプレーヤーが信用できないから、ですか?」
まだそこまで説明していないにもかかわらず、言い当てたキリハにユリエールは目を軽く見開き、頷いた。
「…そうです。本当はキバオウにも協力して貰いたかったのですが、過激派を取り押さえるのに必死でとても声をかけられる状態ではありませんでした…
─キリハさん、キリトさん、アスカさん」
ユリエールは立ち上がり、深々と頭を下げ、言う。
「お会いしたばかりで何様だと思いになるでしょうが、どうか、私と一緒に二人を救出に行ってくれませんかっ…」
ユリエールの声は震えていた。それだけシンカーとディアベルが大切なのだろう。
彼女の話は嘘ではない─はずだ。少なくとも三人はそう思う。しかし、この
「─ママ、だいじょうぶだよ。この人、うそついてないよ」
今まで静かにしていたユイが突然そう言った。全員が呆気にとられる中、キリトが顔を覗き込むようにしてユイに問いかける。
「ユイ、そんなこと、判るのか…?」
「うん…うまくいえないけど…わかる」
アスカはユイに手を伸ばし、撫でながら言った。
「信じないで後悔するより、信じて後悔したほうが良いよな。どっちにしろ手伝うつもりだったんだろ?キリハ」
キリハはアスカの言葉に肩をすくめた。図星だ。返答に遅れたのはキリトとアスカがいたから。キリハ一人なら迷わず受けていた。
「そういうことですので、お手伝いいたします」
微笑みながらそう言ったキリハに、ユリエールは瞳に涙を溜めた。
「ありが」
「それを言うのは二人を救出してからで頼みます」
ユリエールの言葉をキリトが遮ると、今まで成り行きを見守っていたサーシャが両手をパンと叩いた。
「そういうことなら沢山食べていってください!ユリエールさんも久しぶりですからね!腕がなります!」
むん!となるサーシャに皆は笑い、アスカは料理の手伝いを申し出た。
二人が閉じ込められたダンジョンは、驚くことにこの『始まりの街』の黒鉄宮の地下にあるという。ベータテストになかったことから、上層の進行具合によって解放されるダンジョンと予想した。強さ的には六十層相当らしい。
で、そのダンジョンに潜った現在はというと─
「らぁぁぁぁぁぁあ!!」
─およそ一週間ぶりに二刀流を持ったキリトが暴れまくっていた。一応キリハとアスカはいつでも援護出来るようにしているのだが、必要なさそうだ。巨大なカエル型やザリガニ型などのモンスターが出現するたびに突撃しては制圧していった。
ユリエールは呆気にとられ、キリハとアスカは肩をすくめ、ほぼ無理やり着いてきたユイは「ママーがんばれー」と笑顔で応援していた。
「な、なんだかすいません…。任せっきりになってしまって…」
「いや、キリトも好きで暴れてるみたいなので気にしなくて良いですよ。…いつ交代してくれるかなぁ」
「…この子は僕に任せて行って来ます?」
「マジで?じゃあ頼もうかな。ユイちゃん、ちょっとママの所行ってくるからねぇねと待っててな」
「うん、わかった!パパもがんばって!」
ニパっと笑ってそう言ったユイの頭を撫でてからアスカは飛び出していった。変わりにキリハがユイの手をつかむ。
「アスカ!?ユイはどうしたんだよ!?」
「キリハに任せてきた!」
「ならいいか…ってそいつ俺の獲物!」
「良いじゃんか。さっきまで暴れてただろ?」
「良くねぇ!!」
ギャーギャーと言い争う二人を見て、ユリエールは耐えきれなかったように腹を抱えて笑った。途端、ユイがユリエールを指さして言う。
「お姉ちゃん、はじめてわらった!」
ニパっとユイも嬉しそうに笑った。
そういえば、とキリハは思う。先日、ユイが発作を起こしたのも子供達が笑顔になった時だった。周囲の笑顔に敏感なのだろう。それが少女の性格なのか、あるいは今まで辛い思いをしてきたからなのか。だが─
(…この子から目を離さないようにしましょう)
─これ以上、ユイを疑わないようにするためにも─
キリハはユイの手を握り直した。
次でユイ編はラストです
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