和葉「うるさいです黙りなさい」ザシュ
グハッ
ラフコフ討伐戦から二日後
四十八層『リンダース』、そこで営業しているある鍛冶屋の中にキリハとキリトにアスカ、そしてもう一人、赤いワンピースに白いドレスをきたピンク色の髪の女性プレーヤーがいた。
「全く、三日前に来たと思ったらまぁたすぐに来てびっくりしたわよ。まぁそれでこっちも儲かるからいいんだけど」
彼女の名前はリズベット、愛称はリズ、この鍛冶屋『リズベット武具店』を経営している鍛冶師である。因みに熟練したメイスの使い手、マスターメイサーでもある。ブチ切れたらメイスで叩いてくる、本気で。後は、キリハとキリトが女だと知ってる数少ない(?)プレーヤーの一人でもある。だから二人は今フードをとっている。
「すいませんねぇリズ、まさか討伐戦でここまで武器の耐久値が削られるとは思わなかったので…」
「儲かるからいいって言ってんでしょ?気にしない気にしない。それに耐久値ギリギリで来られるよりはマシよ」
と、バツの悪そうな顔でキリトがリズに謝る。
「あ~、リズ、その、ホントに悪い…」
「なに謝ってんのよ?あたしの作ったダークリパルサーでラフコフを殺しちゃったこと?それも気にしてないって言ったじゃない。それにそのおかげで死者は出なかったんでしょ?むしろ、もしキリトが刺せなくてその人が死んじゃったら許さなかったかもね」
「相変わらず男前なセリフを言うなぁ、リズは」
「ぶっ飛ばすわよアスカ」
「すいませんでした!」
笑顔でメイスを取り出すリズに反射的に謝るアスカ。それとサラリと言っていたが、ラフコフを刺した水色の剣、ダークリパルサーを作ったのは何を隠そうリズである。その説明をするために、まずはキリハとキリトがリズと出会った頃の話をしよう。
時は遡り圏内事件から一週間後、ここ『リズベット武具店』にアスカだけがいた。武器を研いでもらいに来たのだ。
「はい、お待たせアスカ」
「いつもありがとうな、リズ」
「こっちだって商売でやってんだから当然よ」
そんな会話をしながらアスカはリズから自分のレイピアを貰い、金を払う。
ここまで来れば分かると思うが、アスカはキリハ達がリズに出会う前から会っていたのだ。が、別にそれは問題ではない。キリトとアスカは婚約者、そして小さい頃から一緒にいたせいかお互いに依存してしまっているのだ。片方が死ぬなら自分も死ぬレベルで。
では、何が問題かというと…、以前リズは頬を染めながらアスカにこう言ったのだ。「あたしをあんたの専属スミスにして欲しいの」と。おわかりだろうか。セリフ事態はおかしなことでは無いだろうが、頬を染めながら言っているのだ。つまり、リズはアスカに恋してしまっている。それも失恋確定の…。
そして、リズはもう一度その言葉を言う。
「アスカ、前も言ったと思うけど、あたしを専属スミスにしてほしいの。もちろんあんたの」
アスカは苦情して返事をする。
「前にも言ったけど俺以上に武器の消費激しい奴がいるから、そいつの専属スミスになってやってくれ」
リズは頬をプクーッと膨らませた。
「そんなこと言って、まだ一度も紹介されてないじゃない。それにあたしはアスカがいいの」
「あぁ~、分かった分かった。明日紹介するよ。…ていうかそろそろ紹介しないと俺殺されるかもだし…」
最後の方は何を言っているのか分からなかったが、明日ようやく会えるとのことで、少しだけテンションが上がったのは内緒だ。客が増えるし、何よりアスカのお墨付きだ。
(でもまぁ、多分移ることはないと思うけどね)
翌日
「あの、起きてください」
今日も客を捌いたリズは、もう今日の予約がなく今は客がいないので少し昼寝をしていた。すると突然起こされたのだ。パチッと目を開けるとそこには黒いフードを被った人物が二人いた。
「わぁっ!?あ、あんた達、何者!?」
「いやあの、怪しい者じゃあないんだが」
「見た目が充分怪しいでしょうがっ!!」
ビックリしたリズはかなり失礼なことを言っている。だがしかし悲しいかな、リズの言っていることは大体合っている。全身を黒づくめのフード付きコートで隠していれば、怪しいと表す以外どう表せばいいのだろうか。
「あぁすいません、自己紹介がまだでしたね。僕はキリハ、こちらはキリトです」
「アスカから聞いてないか?」
「リズベットよ。ってことは、あんた達がアスカが言っていた人達?アスカはどうしたのよ」
アスカが来ないことに若干ムッとしながらそう聞いた。リズの表情を見て理由を悟ったキリトは、内心アスカに対してイラッとした。
(あいつ、またフラグを立てやがって)
「(あ、これヤバイですね)アスカなら、ギルドの仕事があるので来れないと言っていました」
キリトのご機嫌が斜めになったことを悟ったキリハがリズの質問に答えた。
「ふーん、なら仕方ないか。それで?何をご希望かしら?」
「オーダーメイドを希望したいんだが」
「オーダーメイドねぇ、具体的にプロパティほ目標値とかを出して貰わないと無理よ」
「じゃあ、これと同じくらいで」
そう言ってキリトは背に仕舞っていた剣、エリュシデータをリズに手渡した。リズがそれを手に持つ直前にキリハが「あ」と声を上げそれに反応しようとした瞬間、リズはエリュシデータを落としそうになった。
「うわっ!おっも…!」
そう、重いのだ。念の為言っておくが、リズは鍛治氏として重い武器も扱わなければならないため
「これ…、《魔剣》じゃない…」
この世界の武器には二種類ある。一つは鍛治氏が作った《プレーヤーメイド》、こちらは鑑定すれば製作者が誰か分かる。もう一つは《モンスタードロップ》だ。こちらは鑑定したとしても、当たり前だが製作者は出ない。キリトの渡したエリュシデータは後者のモンスタードロップだ。通常、プレーヤーメイドとモンスタードロップの品質は前者に軍配が上がる。しかし希にエリュシデータのように《魔剣》と呼ばれる程に品質が高い物が出てくることがある。そこでリズに火がついた。鍛治師としてドロップ品に負けるものかと。こらそこ、やめときゃあいいのにとか言わない。
とにかく、火がついたリズは店の壁に掛けてあった一本の片手剣を外しキリトに渡した。
「これが今うちにある武器の中で最高の剣よ。多分その剣に劣ることはないと思うけど」
剣を持ったキリトは二、三回軽く降り首を傾げた。
「少し軽いな」
「当たり前じゃない。使った金属がスピード系だもの」
「それはキリトに向いていますね」
キリハがクスクスと口を抑えて笑った。キリトはそんなキリハを睨む(といってもフードを被っているのでリズからは見えないが)。
「キリハ、分かって言ってんだろ」
「えぇ勿論」
「…どういうこと?」
リズは自分の作った武器がお気に召さないと思ったのかムッとする。それにキリハが説明をした。
「あぁ、違いますよ。キリトは、というか僕達は基本的に『殺られる前に殺れ』をモットーにしているので軽い方が攻撃回数が増えるのですが、キリトは重い武器を好むんですよ。手数より一撃の重さですね。あ、因みに僕はどちらでも構いません。ですからリズベットさんの武器に不満があるわけではないので安心してください」
それを聞いてリズは機嫌を直したようだ。しかし問題が一つ。
「残念だけど、今キリトが望んでいるような武器はないわね。さっきも言ったけど、その剣が今うちにある中で最高の剣なのよ」
そう、キリトが望んでいる重い剣がないのだ。鍛治師として客の要望に答えたい。どうするかと悩んでいると
「そういえば、五十五層で未だ誰も手に入れられていない金属がありませんでしたっけ?それを使えばもしかしたらキリトの望む武器が作れるかもしれませんよ」
キリハの言葉にキリトとリズがポカーンとしたが
「「それだ!!」」
と言った。となるとやることは一つだ。二人は向き直り
「「(俺達が金属を持ってくるからリズベットは待っててくれ/金属を取りに行くのを手伝って)」」
と別々のことを同時に言った。しばらく固まったが、言い合いが始まる。
「待て待て、リズベットは鍛治師だろ?金属があるのは五十五層だから危ないだろ」
「舐めないで欲しいわね。これでも
「そういう意地は捨てろ。それで死んだら元も子もない」
「い~や~で~す~、そういうあんただって何かしらの意地は持ってるでしょ?」
「ぐっ…、それはそうだが…」
そんな言い合いを続けていると、キリハがあっと何かを思い出し
「言い忘れてたんですが、金属を手に入れるのに『マスタースミスがいないと無理なのでは』という噂がありましたね」
キリハのその一言で二人はピタッと言い合いをやめ、キリハの方を向く。
「…それホントか?姉さん」
どうやらキリハを姉さん呼びにするぐらい衝撃的だったらしい。それにキリハは笑顔で肯定する。
「こう言うときに冗談は言いませんよ?」
「だよなぁ…」
キリトが肩を落とした。どうしてもリズを連れて行きたくなかったらしい。単純にリズの身を案じてだ。当のリズはというと
「なら連れてって貰えるわよね?」
勝ち誇った顔をしていた。キリトは溜息をつき、両手を上げた。
「あ~、分かった分かった、降参だ」
ということで一同は五十五層に向かうことになった。
原作と違い、剣が折れるなかったようですね~。まぁそうしたのは自分ですが
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