オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております





「……というわけで、この地軸の傾きによって北半球と南半球では見える星座が違うというわけですよ」

 

ナザリック大地下墳墓第六階層、円形闘技場の観客席最上段に腰をかけ、あんぐまーるとモモンガはブルー・プラネットの語る天文関係の薀蓄に聞き入っていた。

空にはトラックに積んだ大小様々の金剛石を広い黒の敷物の上にぶち撒けたような、現実ではもはやプラネタリウムでしか見られなくなった美しき神秘の星空が輝いている。

<永続光>の魔法を一時的にカットした今は、全天に広がる無数の星星は見上げるとまるで自分が銀河に向かって落下しそうな不思議な錯覚さえ覚えるほどに煌き瞬いていた。

 

「ここに再現した星空とはまた違う光景が、東南アジアやオーストラリアあたりの国々では見えているんですね……」

 

「我が故国の辺境の地ですら大気は澱み、星の光は塵の幕に覆い隠され……まして遠き異国の夜空など、それはかの二つの木の時代が如き光景なのでしょう」

(訳:私は田舎に住んでいますがそこでも大気汚染で星が見えなくなっています。 外国の夜空なんて想像もつかないですが、もし見れたら凄く幻想的なんでしょうね)

 

この空間の星空や昼夜の移り変わりには相当なデータを放り込んで作成している。

だがそれも再現できる限りの星座を配置したもので、相当な労力と拘りをもって費やしたものの、なお完璧に本物の夜空と同じとは言いがたい。

それでも本当の星の美しさなど知らない今の世代にとっては十分すぎるくらいに素晴らしい光景だった。

 

「南極や北極ではさらにオーロラなんかも見れたと言います。 私たちは画像や動画でしか見たことがありませんけどね」

 

そのブルー・プラネットの言葉に、あんぐまーるが食いつく。

 

「両極地の光景は星空のみならず、太陽の沈まぬ夜や永久の大氷原など思うだけで心が躍る。 その地に生きる雪の猛獣、泳ぐ鳥などの獣らなどもまた興味は尽きぬ、古くより一度は訪れてみたき土地と思っております」

(訳:南極と北極は星だけじゃなく白夜とか永久凍土とかもワクワクします。 あとシロクマとかペンギンさんメッチャ可愛い。 子供の頃から行ってみたいと思ってた場所です)

 

「そうですか! あんぐまーるさんも興味がありますか! ……でも温暖化で凍土も後退しているそうですからねえ。 シベリア辺りの地域の人にとっては冬が厳しくなくなってありがたいんでしょうけど、そこに生きる生物には環境の激変は好ましいことじゃないですから」

 

ブルー・プラネットは残念さと複雑な感情が入り混じった声でそう締めくくった。

人間が文明を発展させ豊かな社会と豊かな生活を享受できるようにする度に、現実世界の自然環境は失われ、多くの動植物が死滅した。

そのような今は失われた光景を求めて仮想現実の世界のゲームに入ってくる人も少なくはない。

三人はその複雑な部分を考え、しばし沈黙した。

 

「少し、湿っぽくなっちゃいましたね、すいません」

 

「いえ、そんな事は! ……そうだ、氷原といえば第五階層にも氷河がありますね。 本物の北極や南極とはまた違いますが」

 

「第五階層はまだ訪れたことが無かった。 平時より殆どの時を第九・十階層に詰めているが故。 一目見たく思います」

(訳:そこはまだ見たことありません。 普段はインしたらそのままみなさんとだべって居ますから。 行って見たいです)

 

モモンガが持ち出した第五階層の話題にあんぐまーるが興味を示したので、モモンガとブルー・プラネットは互いに頷いて立ち上がった。

 

「じゃあ、いい機会ですから、案内しましょうか」

 

「そのまま、ナザリック観光一回りでもいいですね。 でも、今日はどこか狩りとか行かなくて良いんでしょうかね?」

 

「仔細なし。 盟主とブルー・プラネット様に随伴致します」

(訳:別にいいですよ、モモンガさんと一緒に居るの凄く楽しいですし嬉しいですしブルー・プラネットさんのお話は超面白いし私も興味ある分野なのでもっと聞きたいですから今日はこのままずっとお二人と過ごします。 狩り?明日でいいです)

 

あんぐまーるが実に嬉しそうな感情を声に乗せてゆっくり立ち上がる。

そうして三人は順番にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用して第五階層へと転移した。

 

 

 

 

「何か問題がございましたか、モモンガ様、あんぐまーる様」

 

アルベドが、再び言葉を発する。 どういう事だ。

こんな……ナザリックのNPCに自発的に喋る機能を搭載したなんて話は聞いていなかった。

もしかしたら私が居なかった間に残ったギルメンが機能追加を施したのかも知れなかったけど、盟主の同じく驚いて口を開きっぱなしの表情を見る限り、それはない。

これは盟主さえも知らない異常な状況であることは明らかだ。

いや……口? 表情? 待って。 ほんと待って。 何かおかしい。 何か違和感がある。

うまく言えないんだけど、何かが普段と徹底的に違う。

思考がまとまらなくてぐるぐる回って反応ができないでいるうちに、今度はアルベドが自分から動き始めた。

 

「失礼いたします……何かございましたか?」

 

立ち上がり、盟主の元へと歩み寄って、すぐ間近に立って盟主の骸骨の顔を覗き込み始めた。

私ははっとして、声を出した。

 

「待て、アルベド。 貴様は本当にアルベドか」

 

私が最初に考えたのは、そこに居るのはアルベドではなく別の何か……プレイヤーか、ギルメンの誰かの変装・変身による悪戯か。

もしこれが前者で、ギルドに敵対的な他プレイヤーによる行動……この異常事態も含めて……だったら、大変なことになる。

私はそれを確認するためにも問いただした。

するとアルベドが私の方に振り返り、居住まいを正して軽く会釈しつつ答え始める。

 

「はい、あんぐまーる様。 私は守護者統括、アルベド。 至高の方々にお仕えするしもべの一人、紛う事なき私本人でございます」

 

その答えに、私は腰に帯びる剣の鍔をわずかに鳴らしながら油断無くいつでも抜ける構えを取りながら、盟主とアルベド、そして私自身のお互いの距離を測る。

 

「……ならば、下がれ。 盟主を前に不敬であるぞ。 誰が勝手に動いていいと命じたか」

 

「……申し訳ございません、あんぐまーる様。 モモンガ様、大変失礼を致しました、まことに申し訳ございません。 お許しください」

 

アルベドはあまりにも素直にこちらに頭を下げ、そして盟主へと再び振り返って深々と頭を下げて謝罪した後、しょんぼりとした様子で元の位置へと戻った。

そして私はアルベドと入れ替わるように盟主の側へとゆっくり慎重に歩いてゆき、その前に、アルベドやセバス、戦闘メイドたち傅くNPCたちの間に入って背後の盟主を守るような位置に付いた。

セバス他のNPCたちは動かないが、しかしこちらの様子を伺っているような気配はある。

私の背後で盟主が口を開いた。

 

「なんでもない……なんでもないのだ、アルベド。 ただ……GMコールが効かないようなのだ」

 

それに対し、アルベドは再び返答を返した。

 

「……お許しを。 無知な私ではモモンガ様に問われました、GMコールなるものに関してお答えすることが出来ません。 ご期待にお応えできない私に、この失態を払拭する機会を……」

 

私は振り返って盟主と視線を合わせた。 盟主も、頷く。

確実だ。 アルベドは完全に私たちと会話をしている。 間違えようが無い事実だ。

こんなAIはユグドラシルに実装されていないし、実装できるようなシステムは存在しない。

 

「……あんぐまーるさん、もう一つ試して確認したいことが」

 

盟主が小声で私に囁く。 私も小声で返す。

 

「なんなりと。 我は万難を廃し盟主の楯となります故」

(訳:何かあったらカバーします)

 

盟主は頷き、そしてセバスと戦闘メイドたちに指示を下した。

そして予想通り、セバスたちは返事を返し盟主の命令したとおりに玉座の下まで近づいてひれ伏す。

これで、動いて喋るのがアルベドだけではないことが明らかになった。

サービス終了時刻を過ぎてもサーバーが停止しない。 コンソールや他の機能が正常動作しない。

そして、NPCが喋って自分から動く。 普通ではありえないことの連続に、私は頭がパンクしそうになる。

もしや、こいつらだけじゃなくて他のNPCも……と考えを巡らせ始めたとき、盟主が声を上げた。

 

「あっ……! あんぐまーるさん、口です、口が……」

 

そう言って、盟主がアルベドの方を指差す。

その盟主の顔を見て、私も今までの違和感の正体にすぐに気づいた。

 

「盟主……盟主の口も、動いておられます」

 

私に指摘されて、盟主が自分の口に手を当てて「ありえない……」と呟いた。

私も自分の顔に手を当てるが、元々私は種族的に口というか顔が見えないのであるのかどうかわからなかった。

その代わりに盟主の顔を凝視する。 もう一つわかった。

盟主の顔は表情筋のない全くの骸骨そのものであるにもかかわらず、驚愕の表情をしている。

表情がわかる。 口が動いている以外、形状は全くわかっていないのに私には「驚いている、困惑している」という盟主の感情の機微が読み取れた。

どういう事だろう。 元々盟主は普段の会話からもわかりやすい性格をしていたけれど、それが何か関わりがあるのだろうか?

それともお互いアンデッド種族同士だから……待て待て待て待て、それってもしかして盟主の方も私のあるのか無いのかわからない顔の表情が読み取れているのだろうか。

それってヤバくない!?

このキャラクターでロールプレイしている意味の半分くらい無駄になっちゃうんですけど!

どうする、おちつけ、私。 普段の言動がロールプレイだということは盟主も承知の上だ。

初対面の時に印象すっごい最悪だったけどね! すっげえ親切にしてくれたのに、私はあんな応対で後でメッチャ凹んだけどね!

フレンドになってからはちゃんと意図を理解してくれてどれだけ私が救われたか。

くふー! 盟主メチャ性格イケメン。 聖人かなにかに違いない。

うん、いつもどおり、問題ない。 問題ない。

 

思考を戻す。

玉座に座ったままの盟主は頭を抱えて何事か悩み考えていたが、ふと私を見上げるとその考えを口にした。

 

「あんぐまーるさん……何が起こっているかわかりませんが、事態の把握が必要です。 手分けを……いや、NPCを使ってナザリック内外の情報を収集させたいと思いますが、どうでしょう」

 

それを聞き、私も一瞬考えてから返事をする。

ヤベえ盟主めっちゃ考えてる。 私は状況がよくわかってないのでまだ混乱してるのに。

というか普段頭脳労働は苦手で作戦とか他のギルドメンバーのみんなに任せてたし、私は盟主からその連絡と指示受けるだけの前衛脳筋だったからほんと頭回らないや。

でもこんな時に盟主だけに任せるの無責任だし、意見求められてるから短い時間で一生懸命自分の考えを纏めてみた。

 

「我は盟主の意見に賛同します。 されど……NPCだけではその行動に未だ懸念が残っています。 本来はここで盟主の楯となるべきなれど、我も情報収集とNPCらの動向の確認に出たほうが良いと考えます」

(訳:わかりました、モモンガさん。 でも、こいつらが何で自分で動いてるのかわからないしメッチャ怪しいんで、監視のために私が一緒に見てきたほうがいいと思います。 モモンガさん一人にするのは不安ですけど)

 

「え……それは……。 いや、わかりました。 こっちはこっちで何とかします。 あんぐまーるさんも、気をつけてください」

 

盟主は一瞬悩んだようだがすぐに決断を下し、そして威厳の篭った声でセバスに命じはじめた。

思うんだけど、盟主って声もメッチャイケメンじゃね? アニメの主人公とかそのライバルとか戦国武将とか似合ってそうじゃね?

 

「セバス。 あんぐまーるさんと共に大墳墓を出て、周辺地理を確認せよ。 基本的な方針はあんぐまーるさんに従え。 あんぐまーるさん、なるべくあまり遠くには行き過ぎないようにお願いします。 戦闘行為も極力避ける方が望ましいと思います」

 

「承知した。 これより盟主の命に従い、周辺調査へと赴く。 アインズ・ウールゴウンそして盟主に栄光あれ」

 

「了解いたしました、モモンガ様、あんぐまーる様。 直ちに行動を開始いたします」

 

私とセバスがそれぞれ盟主へと恭しく頭を下げ、そしてセバスが立ち上がってこちらを見た。

この後は私に続いて玉座の間を退出し、外へと向かうつもりだろう。

だが、私はすっかり大事な事を忘れていたことに気づき、盟主に向き直る。

そう、これをやっておかなければ私はここに帰ってきた意味が無い。

 

「……命令を遂行する前に、盟主へと挨拶を致さなければなりません」

 

「え、何ですかあんぐまーるさん」

 

私は盟主の前に跪き、頭を深く垂れた。

 

「永らくここナザリックを離れ、盟主並びに他の方々にはお詫びのしようもございません。 忘恩の徒と罵られようと言い訳すら叶いませぬが、アインズ・ウール・ゴウンが末席、あんぐまーる。 ようやく帰参の義、叶いました」

 

……我らが盟主、モモンガ様。 我が剣を捧ぐ御方。 孤高の身であった我に手を差し伸べお救い下された大恩ある人。

我が唯一無二の主君。

私は、やっと帰ってこれたのだ。 私が生き甲斐を見出した人の所に。

 

 

「……ええ、あんぐまーるさん。 おかえりなさい。 ずっと待っていましたよ」 

 

盟主のその声はとても優しく、そして顔を上げた私の目に映る盟主のその表情は、とても嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 




あんぐまーるはネナベ
ギルメンには中の人の性別は言ってないが、一部ギルメン(特に女性陣)にはバレていた模様
オフ会は田舎住まいなことを理由に不参加

第五階層では例のアレに遭遇しロール忘れて素の反応で叫び、剣でぶっ叩いた模様
逆に虫(恐怖公)は平気 ミミズとかも手づかみできる系女子

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