オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております


13.5

ナーベラル・ガンマは自室に戻ると肩を落とし、大きく息を吐いた。

普段気を張っている体の至る所から力が抜ける。 先ほどまでは偉大なる自分達の支配者である至高の方々と共にいたのだ、短く言葉を交わすだけで緊張も一入だ。

しかし、何時までも気の抜けたままではいられない。 休む間もなくナーベラルは気を引き締めなおして命令を遂行することにした。

<兎の耳>(ラビッツ・イヤー)により部屋外、廊下の動向を探る。

今のところモモンガとあんぐまーるが遠ざかる足音の他には特に気配は無い。

それを確認し、<伝言>(メッセージ)を使用してアルベドへの定時報告を開始した。

 

『ナーベラル・ガンマ。 どうしたのかしら?』

 

「はい、定時報告です」

 

報告の内容は概ね命じられた任務に沿った内容だが、モモンガとあんぐまーるがエ・ランテルに予定通り到着し、接触したことを確認するとアルベドの声の様子が少し変化する。

 

『それで? モモンガ様のご様子は? 私のことについでなど、何かおっしゃらなかった?』

 

「いえ……特に問題のあるご様子は無く。 ただ、冒険者という存在の実際の状態にややご不満げではありましたが」

 

「そう……では以前言ったとおり、さりげなく私をモモンガ様にアピールするのよ! ナザリック守護者統括として改めて命じます!」

 

命令するほどのことなのだろうか、とナーベラルは疑問に思う。 至高の存在の横に侍る女性を決める戦い、女同士の権力闘争だというのはわかる。

しかし、至高の存在はもう一人いる。 モモンガ様の正室になれなくとも、あんぐまーる様という選択肢もある。

シャルティアとそこまでして張り合う必要があるのだろうか?

ナーベラルがそう思う間にも、アルベドは興奮した様子でシャルティアが課せられた使命でナザリックを離れている隙にモモンガの心を射止めようとするアルベドの野望と希望的観測に彩られた未来予想図をまくし立てていた。

そのアルベドが、急に冷静さを取り戻した声を発する。

 

「あなたも、私に付くことの覚悟を決めなさい。 ユリ・アルファは完全に私に味方をすると表明したわ。 賢明なあなたならばどう選択したほうが将来的に得策であるか理解できるでしょう?」

 

「……はい」

 

ナーベラルは素直に返事をする。 それを肯定と受けとったアルベドの声の調子の機嫌が良くなる。

 

「他の娘たちもいずれ私の味方になるでしょう。 ルプレスギナ・ベータは私寄りという話だけど、ソリュシャンはシャルティア寄りだったかしら? エントマとシズはどちらになりそうなの?」

 

「ソリュシャンはシャルティア様に似た趣味を持っていますので。 エントマとシズは不明です。 今のところはどちらにも付かないと思われます」

 

あの二人は思考がわかり易いようでわかりにくい部分がある。

ただ、エントマは今誰に近しいかというと、数日前にモモンガとあんぐまーるが人間の村に赴き、戻ってきた直後にあんぐまーるがエントマを呼び出した事があった。

その折にあんぐまーるはエントマに特に用事を命じるでもなく小一時間ばかりエントマの姿を眺めたあと「貴様の立ち居振る舞いは我が精神の安息(はぁ…エントマちゃんかわゆ…)である」と言ったという。

至高の御方の一人からそのような言葉をいただき、エントマは相当に喜んでいた。

ただ、あんぐまーるは「もっともそれは貴様だけではなく貴様の姉妹たち全員に言えることであるが。 我が魂を癒す時には貴様達を呼ぼう」とも言ったので、ナーベラル含めプレアデスの残り5人もいずれあんぐまーるが疲れたときに呼び出されその役に立つのを心待ちにしている。

戦闘メイドたちにとってモモンガやあんぐまーる達至高の方々に仕えるのは心からの喜びだからだ。

 

『ああ、なるほど……仕方ないわね、ではエントマとシズの方を私の陣営に引き込むように行動しましょう』

 

アルベドはエントマ・シズの両名を引き込むために二人の性質や好みをナーベラルに質問し、ナーベラルは聞かれたとおりに答えた。

特に断ったり嘘を言う理由もないからだ。

 

「それで話は変わるんだけど……モモンガ様とあんぐまーる様、お二人の間のご様子は、どんなだったかしら?」

 

アルベドの声がやや鋭いものに変わる。

その変化に、ナーベラルは背筋に冷たいものが走るような感覚を抱いた。

 

「はい、特にご普段とお変わりは無く……私どもの前で振舞われるお二人と同じようにお言葉を交わされておりました」

 

「そう。 普段どおりなのね。 そう……特に何か違う部分は無かったというの? あんぐまーる様が私について何かおっしゃられてたとかは?」

 

その質問は、モモンガがアルベドに付いて何か言っていたかと尋ねた時とは全く雰囲気が違っていた。 まるで敵を警戒するような緊張感すらナーベラルは覚える。

 

「いいえ、特にそういったことは。 何も」

 

「何も? 本当に何も無いのね? ……そう。 じゃあいいわ。 あんぐまーる様がモモンガ様に対して何かいつもと違う様子をお見せになったときは、すぐに私に報告なさい」

 

アルベドの警戒と敵意はまるでナーベラルにすら向けられ、その発言を疑っているようにすら感じられ、ナーベラルは再び疑問に思った。

何故、あんぐまーる様がモモンガ様に対しどのようなご様子で居るか、という部分をそこまで重大視しなければならないだろうか?と。

 

「それで、他には? お二人の事で特に言うべきことはないかしら?」

 

声の雰囲気が元に戻ったアルベドだが、まだ二人のことで情報はないかと催促してくる。

ナーベラルは少し考え、言うべきか迷ってからしかし素直に答えた。

 

「……お二人は同じ部屋に泊まっておられます」

 

次の瞬間、アルベドの興奮は最高潮に達し、困惑と焦りと怒りの入り混じったような形容しがたい宇宙的で奇怪な叫び声をあげたために、耳元ではなく脳に直接それを受けたような鈍痛を憶えてナーベラルは思わず頭を押さえた。

 

その後しばらくかかってようやく定時報告が終わったナーベラルは肩を落として大きくため息をつき、ベッドに突っ伏しかけてから腕を突っ張って動作を中止すると、もう一度気を引き締めなおして<伝言>を使用する。

もう一つ、任務が残っているのだ。

 

『ナーベラル・ガンマ。 どうしましたか?』

 

「先ほどアルベド様への定時報告を終わりました、デミウルゴス様」

 

 

 

 

 

「……見掛け倒しじゃない、どころの話じゃないな。 化け物だ」

 

「そうだな、あんな筋力をあんな顔の小娘が……どんな鍛錬すればあんな事ができる? 人間業と思えねえ」

 

「剣一本しか武装をしてないが、防具の方に秘密があるのかもな。 腕力を倍増させる効果とか」

 

「それにしたって、そんな代物を手に入れられる時点で信じられねえ実力者だぜ。 また一気に俺達の頭を飛び越えていきそうな奴の登場かよ」

 

「男の方も、あの女を一言で従わせてたぜ。 あれもただモンじゃねえ。 むしろあっちが手綱握ってるリーダーだ」

 

「あの怪力娘が素直なもんだからな。 あの仮面の下の正体が実はどこかの有名人でもおかしくねえぜ」

 

ナーベラルが階段を下りて1階に戻ってくると、そこでは謎の新入り冒険者二人組の話題が飛び交っていた。

感嘆、瞠目、驚愕、そして畏怖。

二人の装備を見るに、只者ではないことは誰もが理解していたが、しかしそれが即実力に直結するとは限らない。

先祖から受け継いだものや、拾ったものである可能性もあるからだ。

それを確かめるために、新入りにちょっかいをかけることは珍しくない。 ここに居る全員がその洗礼を受けてきた。

どのようにそれを通り抜けてきたにせよ、彼らから見ても先ほどあんぐまーる…アドゥナが見せた尋常でないレベルの力は大きなショックを与えるに充分過ぎた。

素の実力にせよ、アイテムの特別な効果にせよ、それは生半可なものではありえず……それだけの鍛錬とアイテムを得られる背景があるからには、相当な地位や財力があって、そして「本物の」力を身につけた人間に他ならない。

味方としてもライバルとしても折り紙つきの強さを持つのは誰の目から見ても明らかだった。

だが、彼らを仲間としてチームに迎えるのは難しいという声も聞こえた。

あれだけの事をやって見せたのだから、当然敬遠や尻込みもされる。

自分達との実力差があり過ぎる、というチームも居れば、仲間になってももし万が一機嫌を損なったらあの馬鹿力で全身を砕かれるかもしれない恐ろしさを語り合うチームも居た。

 

「美人のガガーランだ」

 

そんな呟きがどこかのテーブルから漏れ、近くのテーブルで酒を噴出し、むせて咳き込むのも聞こえた。

 

ナーベはそんなテーブルの間を縫うようにして歩き、カウンターの方へ向かう。

今度は誰もナーベに絡みに行こうとする男は居ない。 投げ飛ばされて負傷した男とその仲間達は視線を合わせるのさえ避けていた。

触らぬ神になんとやら。

 

カウンターでは一人の女冒険者が宿の主人に泣き付いて愚痴をこぼしていた。

 

「金貨1枚と銀貨10枚なのよ!? 私が食事を抜き、節約に節約を重ねて必死な思いで溜めた金で今日、今日! 買ったばかりのポーション……」

 

「危険な冒険もポーション一つあるか無いかで運命が分かれることもあらあな。 同情はするがよ。 だがブリタお前、あの綺麗な顔の割りに喧嘩っぱやい狂犬みたいな女に弁償しろなんて言えるか? もう諦めろ。 災難だったんだ。 もしくは、あそこで縮こまってる連中の方に請求するかだな」

 

「あいつらがそんな大金持ってるわけないじゃない……いつも飲んだくれてるような連中……ああ……私のポーション……」

 

女、ブリタはこの世の終わりが来たかのような絶望の表情を浮かべ、カウンターに突っ伏した。

話の内容を聞くに、さっき投げ飛ばされた男が落ちたテーブルに居て、それでポーションの入った瓶を壊されるという不幸にあった女性のようだ。

確かに災難ではあった。 よもや離れた位置に居て見ていただけなのにとばっちりを食うとは思うまい。

ナーベはそれを見て、何を下等生物(ミイデラゴミムシ)はたかがポーションごときで泣いているのだろう、と思う。

下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)などそんなに入手の難しいものではないはずだ。

ナーベもナザリックから出立する際に幾つか「冒険者らしさを演出する自然な装備」として与えられ、持ってきている。

もちろん、ナザリックの財は下級のものであろうともみだりに使うべきものではない。

ナザリックにあるもの全ては至高の方々の財産であり、ナザリックのために使われるものだからだ。

その意味では一つたりともおろそかにしていいものではない。 紛失したり破損するなど持っての外だ。

しかし。

ナーベラル・ガンマは、ついさっきあんぐまーるに言われたことを思い出していた。

 

『……そして同時に誰かに手を差し伸べよ。 さすれば相手を半殺しにしても、貴様が助けた者たちが貴様の正当性を証言してくれよう』

 

あんぐまーるはナーベラルにも「そうせよ」と命じられた。

相手に好印象を抱かせ、味方を作ることは利益に繋がるのだということを。

それはナーベラルが冒険者ナーベとして任務を続ける上でもきっと助けになるに違いない。

そしてひいては、それがナザリックの利益に、そしてモモンガ様とあんぐまーる様たち至高の方々の名声を高める事にも繋がっていくかもしれない。

そう、下等生物(ヒメマルカツオブシムシ)どもの偽物の正義ではなくアインズ・ウール・ゴウンこそが正義であることを世界に知らしめる、そのために。

ならば、そうする事は「必要な使い方」であるとナーベラルは結論に達した。

 

「どうぞ、これを」

 

ナーベが赤いポーションをブリタの前に置くと、ブリタは顔を上げてまじまじとその血のような鮮やかな色合いの液体の入った小瓶を見つめると、驚きの声を上げた。

 

「え……これ……?」

 

「私の手持ちのポーションです。 お困りのようでしたので、差し上げます」

 

「そんな! あんたにこんな事して貰う理由は無いよ! なんでこんな……」

 

ブリタは困惑し、ナーベの顔を見つめる。

ナーベは柔らかな笑みを勤めて顔に浮かべる努力をしながら優しく言った。

 

「元はと言えば、私がトラブルに巻き込んで迷惑をかけてしまったようなものですから。 本当は先ほど助けてくださったお二人に差し上げようと部屋をお尋ねしたのですが、断られてしまいました。 むしろ、自分が投げる方向を誤ったために要らない被害を出してしまったと気に病まれておりまして、お二人が、このポーションは貴女に弁済としてあげてくれ、と」

 

作り話をでっちあげて上手くムササビとアドゥナの株を上げることも忘れない。

ブリタは感激し、何度も礼を言って遠慮なくそれを受け取る。

ナーベは至高の方々に言われたことを早速実践することが出来て満足そうに笑みを浮かべた。

下等生物(コクゾウムシ)に施しを与えてやることも悪くは無い、と。

 

 

 

ナーベが離れた後、ブリタと宿の主人は今まで見たことの無い赤いポーションを見て首を捻った。

ブリタはそれをエ・ランテルでも有名な薬師、リィジー・バレアレの元に持ち込んで鑑定を依頼する事になるのは、ナーベはおろかムササビとアドゥナにも知る由はなかった。

 

 

 

 

 

 

 




一方その頃のムササビとアドゥナ

「あっ美味しそうな臭いする! バームクーヘンみたいなの焼いてる! あれ買いたい! あっちはミニカステラみたいなのがある! あっあの食べ物なんか焼き鳥っぽい!」
「アドゥナ……縁日に来たのでは無いのだぞ……」

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