オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております


十一

 

法国の兵士達はもはや泣き声に近い絶望の悲鳴や呻き声をあげ、何人かは地面に膝を付く。

天使の攻撃が通用せず、自分達の魔法すら通らない。 そんな相手に最後の切り札すら使う前に奪われる。

最後の希望が潰え、もはやこいつらに戦意らしい戦意は無くなってしまったのだろう。

指揮官さんを除いては。 指揮官は私の愛馬、影の雌馬の蹄に残った片腕を未だに踏まれながら悔しげにこっちを見上げている。

 

「おのれ……! 最高位天使さえ呼べれば……! お前達など!!」

 

これだけ圧倒的な力の差を見せ付けてもまだ諦めないのは、よほど根性が据わっているんだな。

少しは見直そう。

でも、「攻撃を当てることができれば」とか「○○が使えれば」なんて言い訳に縋ってるからお前たちは弱いんだよ。

まずは攻撃を当ててから。 まずは攻撃を避けてから。

それができて……できるまでレベルを上げて、やっと始めてスタートライン。

 

「……負け犬の遠吠えに過ぎぬな。 いかなる武器を持とうと、使う貴様ら自身が弱ければ何の意味もない。 もっとも、貴様らのいう最高位天使とやらを呼び出したところで」

 

私は指揮官を見下ろしながら<上位騎獣召喚>を使用した。

地面に描かれた複雑な幾何学模様の絡み合う魔法陣から光が吹き上がり、無鱗飛竜が飛び出して空へと舞い上がる。

 

「我らからすれば児戯に過ぎぬ。 呼ぶならば最低限このくらいのものを呼び出してから言え」

 

夜空に甲高い耳障りな、恐怖を音で表したような咆哮を響かせて、おぞましき邪悪を具現化した無鱗飛竜は私達の頭上で羽ばたき、旋回を始めた。

その声に兵士達は両手で耳を塞ぎながら苦しみ、叫び、地面を転げまわる。

指揮官は両腕ともに使えないから特に苦しそうだ。

各種バステ特に行動阻害効果を乗せたこの声を作るために、目的のデータクリスタルを手に入れるまでレアドロップ確率上昇の課金をかなり注ぎこんだ。

さらに、いくつかの耐性貫通、無鱗飛竜自体のレベルも含めると最終的に神器級装備2~3つくらいの手間はかかったかな……?

 

『あんぐさん、防具にも神器級を揃える手間をかけましょうよ』

 

弐式炎雷や武人建御雷さんの忠告が思い出される。 いや、私は回避重視のスタイルですし。

武器や騎獣で手一杯ですし。 防具まで神器級揃える余裕なんてとてもとても。

それに、影の雌馬にしろ無鱗飛竜にしろ、全力モードでの私の場合、敵は先に乗ってるこいつらの足を止めるか撃ち落せないとどのみち話にならないんだよな。

 

「この程度の幼稚なお遊びに警戒していたとはな……すまないな、アルベド。 わざわざスキルを使ってもらったのに」

 

「とんでもありません、モモンガ様。 想定以上の何者かが召喚される可能性を考えれば、御身を傷つけようとする可能性は出来る限り低くすべきです」

 

クリスタルを手で弄びながら、盟主とアルベドがゆっくり歩いて近づいてくる。

 

「そうか? いや、その通りだな。 あんぐまーるさんも、咄嗟にいい判断で昔を思い出しましたよ」

 

「我は盟主の剣となり楯となる身。 元より危地に飛び込み尖兵となるのが我が役割なれば。 数年ほどの歳月では我が剣は鈍りませぬ」

 

指示や打ち合わせが無くてもお互いの役割は心得ている。

ギルドの中でも盟主と私は特に一緒に狩りに出かけたり敵対ギルドと戦った回数が多いのだ。

それこそ、私がアインズ・ウール・ゴウンに名を連ねてからはずっと、お互いがログインしている時で一緒に居なかった時間の方が珍しいというくらいに。

 

『モモンガさんのオプション』

『モモンガさんのスタンド』

『モモンガ専用ドローン』

『もうお前ら結婚しろ』

『何で俺にじゃないんだ……爆発しろ!』

『言うな、モモンガさんがナンパしてくるという事の方が予想外すぎる』

 

皆からも色々言われたっけなあ……あれ? 後半なんかおかしいぞ?

まあいいや。

盟主の側に立つ騎士を名乗るには、それはできて当たり前じゃないといけない。

そのくらいの事は当たり前にこなさないと、盟主の側に居る資格は無い。

だから、沢山沢山練習したんだ。 たっち・みー様や弐式炎頼様や武建御雷やぶくぶく茶釜様たちギルドメンバーに手伝ってもらって。

 

「馬鹿な……最高位天使以上のモンスターを召喚できるというのか? 何なのだ、お前たちは……。 魔神……魔神だというのか?」

 

指揮官さんがまだ何か言っている。

あんなんと私の無鱗飛竜を一緒にされても困る……同格以上のプレイヤーと戦うときに乗る事考えて作ってるんだから、と言いたかったけど彼の顔が異常に青白いし、こりゃ先に出血何とかしないと死ぬな。

私はアイテムボックスから刀身が真っ赤に焼け、熱されて歪んだ空気のエフェクトが立ち上る剣を取り出す……もちろんこれも神器級アイテムだ。

炎属性のダメージ効果を乗せている。

私はそれを左手に握り、少し屈むと指揮官さんの右肩の傷口に押し当てた。

 

「っいぎゃあああああああああああ!?」

 

肉の焼ける臭い。 ブスブスという音とともに小さな黒い煙が立ち上る。

ああ、これだよ。 ずっとコレがやりたかった。

お前をこうしてやるって決めてたんだ。 溶けた鉄を背中にゆっくり流してやるのでもいいけど。

これが私の怒りを表現するのに最も相応しきもの。 我が怒りの具現化。 次は口の中に焼けた石をひとつずつ頬張らせてやろう。

よし、止血は完了した。 消毒も出来ただろう。

まあ火傷そのままにしておけば結局感染症になって死ぬからあとで要治療の呪文かポーションだね。

指揮官さんは出血で体力を失い、気力も削がれてるだろうに傷口を焼き潰される激痛にも耐え、大きく息を吐いて喘ぎながらも気絶していない。

本当に大したものだよ。 部下の兵士たちは次は自分達が同じ目に逢うのか?って言いたげなくらい怯えきり、意識を手放している人すらいるのに。

 

「お前、お前たちは…」

 

まだ何か言おうとしている。

あ、そうか。 何でもいいから喋り続ける事で精神を保っているのかな。

 

「お前たちは、何者なんだ……アインズ・ウール・ゴウンという集団も、モモンガ、あんぐまーるという名前も聞いた事はない…。 いや……最高位天使を超える怪物すら従える、魔神すらも超える存在なんて、いちゃいけないんだ……。 お前たちは、一体……」

 

指揮官さんの声はもう泣き言に近かった。 哀れで惨めったらしいその有様に、私はなんら同情しない。

その背中を容赦なく踏みつける。

 

「その魔神とやらよりも我らの格が上だと理解できるならば、不敬であろう。

我らが盟主モモンガ様の御前であるぞ。 地べたを這いずる弱者には相応しい態度があろう」

 

肺の中の空気を一気に押し出され、声も出せずに指揮官さんは呻いた。

盟主がやれやれ、という態度で指揮官さんの前まで歩いてきて、仮面をゆっくりと取る。

 

「我々はアインズ・ウール・ゴウンだよ。 何度も言わせないで欲しいものだね。

さて、おしゃべりはこれぐらいにしようじゃないか。 これ以上はお互いにとって時間の無駄だ。

さらなる無駄を避けるためにこれも言っておくが、周辺には転移魔法阻害効果を発生させている。

それに周辺には部下を伏せてあるので、逃亡は不可能だと知ってもらおう」

 

盟主の顔を見上げた指揮官や兵士たちの「ひっ」という声がまばらに上がる。

その白い骸骨の顔の双眸に灯る赤い光は彼らをこれまでで一番の、本当の絶望に叩き落した。

目の前に居るのは、死そのものを体現した絶対者(オーバーロード)

人ではない存在、畏怖と敬意を持ってひれ伏し命を乞うべき相手を敵に回していたと知った彼らは自分らの愚かさを悔いても遅い。

指揮官は何かを喋り、訴えようと必死にもがいていたが、私の靴底と地面に挟まれてに背中と胸を圧迫されているので何も声を出すことが出来ない。

何をしようと何を言いたかろうともう遅い。

お前達の運命はとっくに決まっている。 私が、お前達が住民を殺し尽くしたあの村を見つけたあの夜に、既に裁定は下されていた。

命乞いなど今更聞きたくもない。 あらん限りの苦痛と絶望と恐怖を味わって死んで行け。

あの日お前達があの村の人たちを地獄に突き落としたように、今日はお前達が地獄に叩き落される番だ。

 

「確か……こうだったな。 無駄な足掻きをやめ、そこで大人しく横になれ。 せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

 

盟主が厳かに宣言した。

やっべ。 盟主めっちゃかっけ。

 

 

「少しばかり、やり過ぎましたかね……」

 

「そうでしょうか。 あの者らの如き下郎、卑劣漢には相応しき末路かと」

 

「いえ、そうではなく……ちょっと格好つけて悪乗りが過ぎてしまったかと。 アルベドの目がありますし」

 

 

盟主と私が並んで小声で話しながら、村への道を歩く。

戦意を完全になくした指揮官と兵士をナザリックに護送するのをアウラたちに命じ、仕事は全て済んだ。

夜空には月と星が昇り、光源は殆どないのに不思議と歩くのに苦労はない薄明かりだった。

私は「ああ……」と答えてから少し後ろをついてくるアルベドの方をちらっと振り向く。

 

「やっべ。 モモンガ様かっけ。 くふふふふふ」

 

アルベドはそんな事を呟きながら歩いている。

兜の下でどんな顔をしているかもなんとなく想像できる。

うん、盟主最高に格好良かったもんで。 今日はかなり神がかっていた。

 

「全く問題はないかと思われます。 統率者たるに相応しい演じ方でありました。

……以降、平素よりこの態度で問題無いのでは? アルベドの反応も悪くは無く、違和感は毛ほども無いかと存じます」

 

私がそう答えると、盟主は「そうですかね……」と照れくさそうに頭を掻いた。

その後、アルベドからガゼフをなぜ助けたのかと後ろから質問を投げかけ、将来の布石とかアルベドが自分に命じて掃討してくればとか奴らを直接手にかけるのは私が上奏したことだからとか、

まずはガゼフに戦わせて現地の人間の強さを測ったのだとか恩を売るためでもあるとか、何人かは殺さずに捕虜にして情報を得るためだとか、

いくら物理無効があるからといってアルベドには愛するお方が敵の攻撃を受けるのは耐え難いとか、私もそれに同意できる部分があるしアルベドをしっかり壁役として使ってあげた方がいい、アルベドほど最適な護衛は居ないのだからとか、

その進言に対してアルベドの私への態度が若干和らいだような気がするとか

そんな事を話したり考えたりしながら歩くうちに、私たちは村へと到着した。

留守番役を果たした死の騎士を先頭に、私たちは村人の出迎えを受ける。

そこにはもちろんガゼフも居た。

 

「おお、戦士長殿。 ご無事で何より。 もっと早くにお救いできれば良かったのですが、お渡ししたあのアイテムは何分発動とその準備に時間のかかるものだったためにギリギリになってしまい申し訳ない。 代わりにあんぐまーるさんを援護に向かわせたのですが、間に合ったようで何よりです」

 

「いや、モモンガ殿、あんぐまーる殿には感謝する。 私や部下達が助かったのはあなた方のお陰だ。 ……ところで、彼らは?」

 

ガゼフの態度というかこちらに対する雰囲気がちょっと変わった……かな?

友好度がちょっと上がった感じ。

体中痛々しい傷だらけなのに元気だね。 良かった。

盟主がガゼフの問いに追い返しました、流石に全滅させるのは無理だったと返す。

もちろん嘘だけど、ガゼフも何か感じ取ったようで……鋭いね。

フォローすべく私が口を出す。 納得させられるかな。

 

「あの指揮官をはじめ、何人かは殺した。 案外引き際を心得る者たちであったな。 勝ち目が無いと見るや撤退に切り替え、仲間の死体も回収する手際ぶり。

さぞや高度な訓練を受けた精兵と見受ける。 伏兵を警戒したために追撃は断念せざるを得なかった。

……だが、仇はとった」

 

ガゼフは細い目でこちらを見る。 ……失敗したかな?

が、緊張しかけていた空気が穏やかなものに変わった。 一応はガゼフはこれで納得してくれた、というより追及しないことにしたようだ。

うん、今はそれでいいよ、お互いにいらない詮索や衝突はしたくないしね。

ガゼフの事結構嫌いじゃないよ、私。 方向性違うけど、お互いなんか似たような部分あるし。

だから喧嘩はしたくない。 できればね。

今気が付いたけど、ガゼフの左手の薬指に光る金属のリング。 既婚者かぁー。 ……既婚者だよねぇーこんないい男ならさぁー。

はあぁぁ……。 別に恋愛的な意味でガゼフの事好きってわけじゃないけどさぁー。

冷静に戻る。

うん、いいやもうとっくに諦めてるし何時ものことさ羨ましくない。

 

「お見事、幾たびもこちらを救ってくださったお二人に、この気持ちをどのように表せばいいのか。 王都に来られた際には必ずや私の館に寄って欲しい。 歓迎させていただこう」

 

「そうですが……では、機会があればその時はよろしくお願いします」

 

盟主とガゼフはその後少しやり取りをし、私たちは帰る事になった。

ガゼフは部下とともに村に止まっていくようだ。 大怪我した部下もいるしね。

私達が夜道を行くことを心配されかけたが、私達ぐらい強ければ心配は無用だったと謝られた。

それにしても、今日は色んなことがあった。 あり過ぎた。

でも、結構なんとかなった。 盟主が側に居てくれたからだ。

盟主はいつだって私を助けてくれる。 私を支えてくれる。 私を導いてくれる。

だから、私も盟主の側にいる。 この剣を捧げるために。

 

「帰りますか、我が家に」

 

盟主が小さな声で私に囁き、私もそれに頷いた。

帰ろう。 ナザリックが私達の家だから。

 

 

 

 

 

 

 

「……然るに、やはり盟主はそれらしき態度を守護者たちだけにあらず、我にも取ったほうが良いかと思われます。 少なくとも、彼らの面前では」

 

「やっぱりそうですかねえ……。 仲間同士だから敬語を使っているのは当たり前としても、敬語と尊大な演技を交互にすると違和感があるし、統一したほうがいいかなとは思ってましたが……」

 

「ギルド長という明確な地位の違い、また我はギルド内でも最も新参という立場からも、上下関係をはっきりさせても不自然はないと思われます」

 

「わかりました。 では今後はそうさせて貰います。 で、これの宣言も草稿に加えるという事で……」

 

ユグドラシル内で揃えたりギルメンが製作したりした立派な調度品や家具の並ぶ盟主の自室。 

私と盟主はここで今後の方針をナザリック内のNPCに伝えるための演説の草稿を練っていた。

プライベートな話も絡むということで、NPCはメイドたちはおろかアルベドも外してもらっている。

居るのは部屋の隅で不動の姿勢を保つ死の騎士のみだ。

二人で意見を出し合い、何度も修正し手を加え様々な事を書き連ねて、だいたい一息ついたところで私はセバスが淹れてポットに入れてくれておいたお茶に手を伸ばす。

花の模様のプリントされた綺麗なティーカップに自分に注いで、ゆっくりと香りを味わう。

うーん。 いい香り。

今の私はご飯は食べれそうに無い体だしお腹も一切減らないけど、嗅覚は存在していて良かった。

お茶の香りを楽しむだけでも結構悪くないものだね、アロマだと思えば。

……レモンやオレンジの香りのアロマセット、また開封してなかったなあ。

ホワイドブリムさんの作品の続きも読んでないし、結構もとの世界に未練を残していると言えばいる。

でも現状どうやったら帰れるのか、帰る方法があるかすらわからないし、別にいいよね。

帰れたところで、どうするんだろう。 盟主は特に何も言わない。

でも、なんだか帰らなくてもよさそうな、帰りたくなさそうな感じでいるような気がする。

じゃあ、私も帰らなくていいや。 盟主のお側におりますから。

セバスたちとも約束したし。

私がそんな風に考えているのを盟主もなんとなく気づいているのだろうか?

だから盟主の方からも何も尋ねてこないのかも。 帰りたいと思いませんかって。

……前からだけど、盟主は私にかなり気を使っているような感じがする。 何か失敗してもあんまり言ってこないし、フォローに回ってくれるし。

本当にありがたく思います。 だから私は盟主に忠誠を誓うのです。

 

ノックの音がし、アルベドが入室の許可を求めてきた。 盟主が厳かにも静かな声で許可を出し、アルベドは恭しい作法にかなった態度で入室し、一礼した。

 

「ご報告させていただきます。 あの村近郊で捕獲したスレイン法国の陽光聖典なる部隊の指揮官および部隊員数名は、氷結牢獄に収監しております。 これからの尋問は特別情報収集官が行う手はずにございます」

 

「ニューロニストであれば問題ないだろう……」

 

ニューロニスト……ああ、あのぷよぷよちゃん。 ちょっとキモ可愛いよね。

今度仕事ぶりを拝見がてら、遊びに行こうっと。

盟主とアルベドが幾つか伝達事項のやり取りをする。

そのアルベドの左手薬指には光るもの…リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

上機嫌そうにそれをさするアルベドは、なんだかこっちにこれ見よがしだ。

いや、それ見せ付けられても困るんですけど。

盟主もアルベドのそんな様子を見て何か言いたげだ。

 

「……盟主。 この際だからはっきりとアルベドに寵愛を注ぐと宣言なさっては?」

 

さらっと言ってのける私。

口を大きく開けてこっちをガン見する盟主。

驚愕に目を見開くアルベド。

 

「ななななななな何を言っているんですかあんぐまーるさーん!?」

 

「そ、そんな私がモモンガ様の寵愛を頂けるなど……勿体のうございますが私はいつでもこの体をモモンガ様に捧げる覚悟でございます!!」

 

あ、なんかアルベド超ハイテンションになっちゃったよ。

そして盟主、何故にそんな困惑するのですか。 そもそももとを辿れば……。

 

「ああああああアルベドよ、お前の私に対する愛情は私が歪めたものでけしてお前の本心ではなくてですね、だから……」

 

「……モモンガ様が変えられる前の私はどのような私だったのでしょうか!? モモンガ様が変えられる前と今とでこの忠誠に大きな違いでもありましたでしょうか! でしたらこのままでも良いかと! 全然構いません!」

 

「いや、しかし……」

 

「ご迷惑でしょうか!?」

 

「え、いやそんなことはありま…そんな事はないぞ」

 

アルベドの勢いにロールプレイが崩れかける盟主。

そうだよねー嫌だったりアルベドのこと好きじゃなかったりしたら「自分を愛している」なんて書かないもんねー。

有無を言わせず畳み掛けるアルベド

 

「ならよろしいのではないでしょうか!?」

 

「た、タブラさんが作った設定を歪めたのだぞ? 取り戻したくは無いのか、かつての自分を」

 

「タブラ・スマグラディナ様であれば、娘が嫁に行く気分でお許しくださると思います! そうに決まってます!!」

 

なんとか抵抗を試みる盟主に一切譲るところの無いアルベド。

いいぞーそのまま押し切っちゃえーとか思いながら私は両頬杖をついて二人の様子を眺める。

 

「ああ、このまま結婚式でも構いません!! 玉座の前に一同も集めてありますからそこで高らかに宣言を! もしくは今すぐ寝室で初夜を迎えても私は全然構いませんので!! ……そうしましょう! 先に既成事実を作って置けばもう外堀を埋めて完全勝利!!」

 

「え、ちょ、待って、待てアルベド! 待てって! あんぐまーるさん!? 見てないで助け……なんで手を振ってるんですか!? あああああ引きずられる!」

 

アルベドは暴走したテンションと勢いのままに盟主を掴んで寝室のに引っ込んで行く。

ちらっとこっちを見てなんか凄く感謝しているみたいな表情を見せたのは、私との関係が改善された証だと思いたい。

アルベドの事は友達だと思っているもの、私。 喧嘩したくないしね。

後には遠くなっていく盟主の叫びの残滓が残された。

 

「……自分で招いた厄介ごとなんだから、自分で解決してくださいよ盟主」

 

私はそう呟いて、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げ、そして自分のリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出した。

ギルドに入ったその日、盟主が御自ら手にとって私にくれたものだ。

戯れに、それを自分の左手薬指に嵌めてみる。 天井の照明の光を受けて綺麗に輝いていた。

 

「……馬鹿か私は。 私のは忠誠心と恩義で恋愛感情じゃないっての。 盟主のばーか。 ばーかばーか」

 

床に何かが転がった金属音が部屋に響く。

目を向けると、盟主が召喚して剣を持たせておいた死の騎士の姿が何処にも無かった。

こいつはあいつと違って時間経過で消えるのか。 ユグドラシル通りだね。

あとで盟主に教えておこう。

それから少ししてやってきたセバスに、アルベドから助けてあげるように命じて私はテーブルに突っ伏して少しの間不貞寝した。

 

 

 

 

 

 




書籍1巻分描写は残りはラストシーン玉座の間ですが、次回の11.5に回し、守護者らNPC視点+各国視点にします。

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