オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

12 / 21
この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております




日の入りとともに平野は赤く昏く美しくも妖しい色に染まり行き、それはガゼフとその部下たちの運命を暗示しているかのようでもあった。

敵の数はたかだかこちらの2倍強、徒歩の兵のみであったがその統制された動きは相当に高度な訓練を受けた者達のそれであり、いかなる手段によってか騎馬であるガゼフたちを常に包囲しその輪を縮めながら移動している。

ガゼフの騎兵隊は完全に檻の中に入っていた。 だが、ガゼフとてむざむざ敵の手にかかるような男でもない。

まずは村から少しでも遠ざかり、戦いの余波が及ぶのを回避する。

しかるのち、強行突破。 この包囲を脱したとしてもさらに二重三重の包囲が敷かれているのは容易に想像できたが、しかし今はそれに賭けるしかない。

もとより、取れる選択肢は少ない。

ついてきた部下たちの何人かは確実に命を落とすだろうが、彼ら個々の技量と運に期待するだけである。

村も中で戦ったほうがまだ有利であったかもしれない。 モモンガ様の力も借りれよう。 だがそれは確実に村人を巻き込む。

ゆえに、ガゼフはあえてその方法を採らなかった。

 

「敵に一撃を加え、村の包囲網をこちらに引き寄せる! しかる後、強行突破して撤退だ! 遅れるなよ!」

 

部下達が口々に応!と叫ぶ。 誰一人、死を恐れて二の足を踏むものは居ない。

恐れれば鈍り、余計に死を招く。 覚悟を決めて危地に飛び込む準備の出来た者たちばかりだった。

 

「行くぞぉおお!! 奴らの腸を食いちぎれ!!」

 

雄たけびのようなガゼフの号令ともに、騎兵隊は一塊となって突撃を開始した。

ガゼフを含む何人かの弓矢を持つ者は、馬を走らせながら包囲する兵たちに矢を射掛ける。

しかしその矢は敵兵に当っても容易に弾き返され、効果が無い。 軽装に見える敵の装備は、何らかの魔法による防護が施されているのは明白だった。

そして、敵が手を先頭のガゼフに向ける。 ガゼフが魔法による攻撃を予想し身構えたとき、自らの乗騎が突然けたたましく嘶いて前足を高く蹴り上げた。

疾走中にこのような動作を行った馬は急ブレーキをかけられた状態になり、バランスを崩して倒れる。

背から振り落とされたガゼフはなんとか馬の下敷きになる事だけは回避した。

精神操作系の魔法を馬にかけたのだという事はすぐに理解できた。

それも、ガゼフだけを狙って。 敵の狙いが最初からガゼフ一人であることは明白。

 

「戦士長!」

 

後ろから来たガゼフの部下が馬上から手を伸ばすが、しかし同時に空中から降下してくる天使が襲い掛かる。

ガゼフはとっさの判断で剣を抜き、天使を切り払った。

鋭く力強い剛剣の一閃が天使の胴体を薙ぐが、両断には至らない。

深手を負ってはいるが、そのまま一旦上昇した天使はまだ戦闘能力を失っていないようで、空中からガゼフを狙う隙を窺っていた。

通り過ぎた部下の背中が遠ざかっていく。

 

「なるほどな」

 

ガゼフは深く切り込んだはずの自分の剣が思ったほど天使にダメージを与えていない理由に思い当たったようだ。

なんらかの技を発動させ、剣に力を込める。 刀身が僅かな光をともした。

再び急降下してくる天使に、ガゼフはカウンターで切り上げる。

こんどこそ両断された天使は体を微細な光の粒子へと分解して消滅して行った。

馬を失い、取り残されて孤立したガゼフに包囲の輪が縮まる。 

上空を数多くの天使たちが舞っていた。 完全な多勢に無勢。 このまま孤軍奮闘しても全く勝ち目は無いだろう。

救援が必要かと思われたその時、遠ざかっていたはずの馬蹄の轟きと雄たけびが戻ってくる。

部下達が反転して戻ってきたのだ。

 

「突破したら撤退だと言っただろうが」

 

苦笑するガゼフの表情は、どこか嬉しそうに見えた。

確かにガゼフは良い部下たちを持った。 その行動がどんなに愚かでも、しかし指揮官を見捨てて逃走する兵よりはずっといい。

彼の部下達は一旦脱出した包囲を後ろから逆撃する。 そして、そのまま乱戦に持ち込もうとする。 いい手だ。

しかし、それには戦力が足らない。 魔法攻撃によって落馬し、天使に討ち取られていく。

ガゼフは、天使と戦いながら敵の指揮官を探した。 もうそれ以外に勝利できる可能性は無いだろう。

一度に30体近くの天使が同時にガゼフに襲い掛かった。

 

「邪魔だぁあああああ!!」

 

ガゼフの裂帛の気合とともに振るわれた剣撃が一瞬6つに見える。

それと同時に、周囲を取り囲み剣を繰り出さんとしていた天使が6体、両断されて光の粒になって消滅した。

驚くべき剣技。 いや、何かのスキル。 おそらくはガゼフの切り札、奥義と言っていい技だろう。

周囲の敵味方からも歓声と驚愕のどよめきが上がる。 そしてガゼフの部下達の士気が目に見えて向上した。

しかし、敵の攻囲が緩むことも無く、さらに複数体の天使がガゼフを襲う。

天使の一体がガゼフに切りかかるが、しかしガゼフは超速の反応で、先に切りかかった天使の斬撃を紙一重で避け、同時に天使が剣を振り下ろすよりも先に、後からのガゼフの剣が天使を斬っていた。

そのまま、流麗な美しい動作で切り返してもう接近していた一体の天使を仕留める。

次々と天使を倒していくガゼフの光景に部下達も勢いを増し、一瞬だが不利な状況を押し返すかに見えた。

しかし、いかにガゼフ一人が奮戦しようとも数と質、そして支援の有無の差は埋めようが無い。

やがて再びガゼフ達が敵に押され始めた。 何よりも、天使は倒しても次々と召喚され、そして召喚する敵兵を倒したくとも天使に阻まれる。

一人、また一人と部下は倒れてゆき、やがてガゼフ一人となるのは明白だった。

だが、ガゼフはようやく敵の指揮官を見つけ出したようだ。

ガゼフの活躍を見ても圧倒されること無く、冷静に指示を出し続けていた男。

周囲を飛び交う天使よりも一回り大きい別の天使……監視の権天使を控えさせている、顔に傷を持つ男だ。

彼はガゼフの徴発にも、檻に閉じ込められた獣が吠えているだけ、と一蹴していた。

ガゼフは指揮官に向かって手傷を負った体を鞭打ち、突進するがしかしそれは叶わない。

既に回りに立っている部下の姿は無く、全ての攻撃は彼一人に集中していた。

魔法の雨に打たれ、襲い掛かる天使を切り捨て、全身に傷を増やしながらもなおガゼフは歩みを止めない。

もはや気合だけで立っているのだろう。 そして最後まで、戦う意思は放棄しないようだ。

天使に何度も切りつけられ、殴打を受けてついにガゼフは倒れ伏した。

立ち上がろうとするが、もはや体に力が入らないのだろう。

 

「止めだ。 ただし一体ではやらせるな。 数体で確実に止めをさせ」

 

最後まで油断しない慎重さの窺える敵指揮官の指示が飛ぶ。

ここまでか。 そう思われたその時、突如としてガゼフは跳ね上がり、叫び声とともに剣をふるって近づいてきた天使の攻撃を防いでいた。

驚いた。 まだ起き上がるだけの力が残っていたとは。

だが、ガゼフの呼吸は乱れ、苦しそうに息を吐いている。 限界を迎えていることは確実だ。

だが、意志の力だけでガゼフは立っているのだ。

彼の、この国を愛し守護する者という叫び声が、その強く何者にも屈しない強靭な精神だけが、ガゼフ・ストロノーフの両足を支えているのだろう。

 

「そんな夢物語を語るからこそ、お前はここで死ぬのだ、ガゼフ・ストロノーフ」

 

敵指揮官の冷ややかな、僅かな嘲笑を含んだ声が届く。

 

「こんな辺境の村人など切り捨てればこのような結果にならなかっただろう。 村人数千人よりもお前の存在こそが王国にとって価値がある。 それがわからんはずは無かろう? 本当に国を愛しているならば、村人の命など切り捨てるべきだった」

 

……敵指揮官は、そのガゼフの選択こそが愚かしいと言わんばかりに告げる。

それを利用して彼を引きずり出し、殺そうとした……村人の命を犠牲に巻き込もうとした者の言い草か。

 

「お前とは……平行線だな。 ……行くぞ?」

 

ガゼフはもう言葉を話すだけで辛いだろうに、あえて口をきく。

だがその言葉とは裏腹に、震えるガゼフの足は動けそうに無い。 立っているだけでやっとなのだから。

 

「そんな体で何が出来る? 無駄な足掻きをやめ、そこで大人しく横になれ。 せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

 

「何も出来ない……と思うなら、お前がここまで来て俺の首を、取ったらどうだ?」

 

ガゼフはあくまでも敵に言い返し、徴発する。 敵がここまで来れば、逆にその首を取るくらいの力は残しているのだろうか。

剣を構えるガゼフの両腕もまた震え、必死に保持しているので精一杯だろうに。

 

「……無駄な努力を。 あまりにも愚か。 私達はお前達を殺した後で、生き残っている村人も殺す。 お前のした事は少しの時間を稼ぎ、恐怖を感じる時間を長引かせただけに過ぎない」

 

「そうか、村人を殺すのならば我は貴様らをこそ生かしておく訳には行かんな」

 

指揮官のその言葉についに私は口を開いた。

唐突に聞こえてきたその声にガゼフと指揮官の表情が驚愕の形に固定される。

<霊体化>解除。 同時に、影の雌馬の背から飛び上がり、剣を抜き放つと同時に上空と飛び交う天使の一体を下から上へと一閃。 粒子化して消滅する天使の隣に居た天使に、今度は降下しながら上から下へと切り下ろす。

両断され、天使は左右に体を分離しながらやはり粒子となって消えた。

草の上に着地し、ガゼフを守るようにその前に立つ。

 

「あんぐまーる……殿!?」

 

「何だ、何者だ!? どこから現れた!!」

 

左手で短剣を抜き、そして右手の剣と同時に投擲。 2体の天使が顔面を貫かれ、消滅する。

アイテムボックスから2本目の剣を……禍々しきオーラのエフェクトを放つ灰色の刀身を持つ刃こぼれした剣を取り出し、右手に握る。

後ろから接近していた天使に、振り向きもせず無造作に突き出すと、その切っ先から立ち上るオーラに触れた天使は剣に触れても居ないのに破裂して雲散霧消した。

正属性に対して比例ダメージを与える負のオーラ効果。

 

「盟主、敵の脅威度は『低・☆1~2級』、ガゼフ・ストロノーフ殿を確保。 転移妨害、周辺に伏兵等無し」

 

『了解した。 ではそろそろ交代だな』

 

その声をガゼフが耳にした瞬間、彼の姿は掻き消えて……そして盟主とアルベドが入れ替わりにそこに立っていた。

周囲に倒れ伏しているガゼフの部下達の体も一緒に転移されている。

便利だよね。 だからガチャのハズレアイテムとはいえ、あれは好き。

敵指揮官はさっきまでの冷静さはどこへやら、目に見えて狼狽している。 仕留める寸前だった対象が消えて、妖しげな連中に入れ替わったのだから、そりゃあビックリするよ。

取り囲む兵士達にもその困惑の空気が伝わっている。

上空に居た天使たちは一旦下がり、防御に回された。 明らかにこちらを警戒している。

さて、どう出るつもりかな? と思っていると盟主が前に出た。

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。 我々はアインズ・ウール・ゴウン。 私はモモンガ。 こちらはあんぐまーる。 そして後ろに居るのが我々の部下でアルベド」

 

あ、盟主今度はアルベドハブらないでくれた。

自己紹介したというのに、敵指揮官は名乗らないどころか挨拶すらしない。 無礼な奴め。

彼らが黙っているので、盟主が言葉を続ける。

 

「まずは皆さんと取引をしたい事があるので、少しばかりお時間をもらえないでしょうか?」

 

もちろん、受けようと受けまいとお前達に待っている結果は既に決まっているのだけど。

 

 

 

 




…SSでもガゼコプターしたら怒られるかな?と思ったのでやらないでおいた

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。