リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その4
妙神山に入るなり門から飛び出してきた巨大な影。私はその影に見覚えがあった、老師の古い知り合いだというロンと言う龍族の孫に当たる子供の土竜だ。人見知りが激しくて来た時にしか姿を見なかったそのモグラが嬉しそうに鳴きながら
「きゅーん♪」
「おんんぎゃああああ!!!!」
……横島さんを押し潰した。その衝撃的な光景に一瞬目が点になる、子供ではあるがその体格は猪よりも少し大きくて、人間に圧し掛かったらそれだけでも致命傷になりかねない
「よ、ヨコシマァ!?!?」
「よ、横島!早くどくの!モグラ!!!」
【よ、横島さん!死んじゃったら駄目ですからね!どいて!どいてあげてください!!!】
「コーン!コーン!!!」
蛍さん達がどくように言うがモグラは小さく首を傾げながら
「きゅ?」
なんで怒られているのか判らないようでクリクリとした目で私達を見つめている
「どいてあげてください、横島さんが危ないですからね?」
完全に白目を向いている横島さん。折角才能に溢れた人が来てくれたのに何もしないうちに死んでしまうのは余りに勿体無い
【彼はその程度では死なないですけどね】
(!痛)
一瞬頭に走ったノイズと痛みに顔を顰める。さっきもその感じがして私らしくないことを美神さんに言ってしまった……頭を数回振ってから
「ほら、どいてあげてください、会えて嬉しいのは判りますけどね?」
繰り返しどいてあげてくださいと言うとモグラは
「きゅー」
小さく鳴きながら横島さんの上から離れて、痙攣している横島さんを突いている。起きて、起きてと言っているように見える素振りだがサイズがかなり大きいので横島さんがごろごろ転がっている
「のわあああ」
「みむううう!!」
横島さんとチビの鳴声が重なる、慌てて走って横島さんを転がしているモグラを止めるのだった……
「あー死ぬかと思った」
「みーみみうむう」
身体を起こして砂を払いながら横島さんが呟く、そしてその肩の上でチビもそんな感じの鳴き声を上げていて思わず微笑んでしまう。
「大丈夫?痛い所とかはない?」
「おう!全然平気だ!」
あれだけの巨体に押し潰されて、しかもあれだけの勢いで転がされていたのに全然平気って凄いですね……
「……モグラ。自分の体格を考え「きゅー!きゅー!!」お、重い……離れなさい」
シズクさんにも圧し掛かろうとしているモグラ。あれは私も経験している、龍族の気配を感じて懐いてきているのだ。私も最初に会ったときは押し潰されそうになって正直焦った……
「これこれ、迷惑をかけてはいかんぞ?」
朗らかな老人の声にモグラはぴたっと止まってきゅーっと返事を返す
【あれ?おじいさんでしたっけ?】
「うむ。久しいのう、幽霊の娘。土竜族当主ロンと言う。主の名は?」
【おキヌです。よろしくお願いしますね、ロンさん】
おキヌさんと挨拶を交わしているロンさんを見ていると、ロンさんはシズクさんのほうに向かい
「蛟のシズク殿でしたな。先日は我が孫が迷惑をかけて申し訳ない」
拳を作りそれを左手の手の平に押し付け頭を下げるロンさん。シズクさんは別に気にしてないと呟いて興味なさそうにしている
「じいさんじゃないか!なんで爺さんもここにいるんだ?」
「ほっほ。元気でよろしい、なにこの場は竜気に満ちているのでな。我が孫が育つのに適した環境なのじゃよ」
楽しそうに笑いながら話をしている横島さんとロンさん。だけどいつまでもこうしているわけにも行かない、何故ならここは修行場なのだから、とは言え美神さんが来ないうちに修行を始めるわけにも行かない
「きゅーきゅー♪」
「おー良し良し、良い子だなあ」
モグラが横島さんに擦り寄って嬉しそうに鳴いている。横島さんも穏やかに笑いながらその毛並みを撫でている
「みーむ!」
「コン♪」
チビとタマモがモグラの前に鳴いて一鳴きする。モグラは円らな瞳で2匹を見つめて
「きゅう!きゅきゅー♪」
「みむむーみみー♪」
「ココーン♪」
なにか意気投合しているみたいですが、私にはどんな会話をしているのか判らないので見つめることしか出来ない。ただそのほのぼのとした光景を見ていると自然に笑みが零れて来るのが判る
「まぁ美神さんが来るまで軽く使える霊能力を聞かせてもらいましょうか。ええっと蛍さんでいいんですよね?」
紹介状に書かれた名前を確認しながら尋ねる。若干蛍さんの目が鋭い気がするけど気にしないことにした
「はい、芦蛍です。今回はよろしくお願いします」
小さく頭を下げる蛍さん。こうして向かい合っているだけでも判る。彼女も霊力が多く才能に溢れた少女だと……久しぶりの修行者に加えて才能溢れるその姿に私は小さく笑みを零しながら
「はい、よろしくお願いしますね。蛍さん」
そう返事を返し、美神さんが来るのを待つのだった……彼女も弟子をとるという立場にいるのだから、私の言葉をちゃんと受け止めてくれる筈だと思いながら……
足元に転がる石を蹴飛ばしながら私は先ほど言われた言葉を思い返していた
【しかし基礎を疎かにするのは褒められたことではないですよ?もっと初心を大事にするべきで。特に弟子を育てると言う意思があるのならなおの事です】
確かに私は横島君や蛍ちゃんにGSの基礎をあんまり教えてなかったかもしれない……蛍ちゃんは知識が豊富だし、横島君の潜在能力も非常に高かった。態々教える必要がないと思ってしまったのだ
(でも私も唐巣先生に教わった時はきっちりと基礎を教えてもらった……)
その基礎があるから今のGSとしての私があるのかもしれない……
「あーっもう!」
髪をかきむしりながら立ち上がる。今回の事は私の落ち度だ。だから非常に腹ただしいけど我慢して受け入れる、それにいつまでもここでうじうじしていても意味がない、私はここに修行をしに来たのだから……落ちていた除霊道具を拾って妙神山の門を潜ると
「きゅきゅううううううううう!?」
悲壮そうな鳴声に思わず目を閉じて眉を顰める。今の鳴声どこかで……ゆっくりと目を開くと
「きゅう、きゅううう」
横島君の後ろに隠れようとして全然隠れることができてない、モグラがいた……なんでここにいるのかしら
「あ、漸く来られたのですね。では早速修行を始めましょうか?ロンさん、モグラは連れて行ってくださいね?」
小竜姫様が笑いながら言うその視線の先には老人が微笑んでいた。
「退魔師殿。久しぶりと言いましょうかのう?まぁ積もる話もありますが、今は自身の修行を頑張ってくだされ。ほら行くぞ」
「きゅ!」
老人の後ろを着いて行くモグラ。どうしてあのモグラと老人がここにいるのだろうか?
「……竜気に満ちているから龍族には心地良い場所。だからここで育てている」
シズクの説明にふーんっと返事を返す。育ちやすい環境で育てるのは大事だろうし……まぁ判らないわけではないし……もしかすると龍族って繋がりで知り合いなのかもしれないしね
「では修行を始めましょう。こちらです」
小竜姫様に案内されて奥の建物の中に入るとそこは
「……あんた達のセンスってどうなってるの?」
どこからどう見ても銭湯としか思えない光景が広がっていた。目の前の暖簾には「男」と「女」の文字がかかっているのが余計にそう思わせる
「まぁそれは気にしないでください。老師の趣味ですから、ここで俗世の服を脱いで着替えてください。勿論横島さんもですよ?」
ええ?っと驚く素振りを見せる横島君は
「いや、俺はまだ修行出来るくらいの霊能力ないんすけど?」
霊能力者の最高峰の修行場と言われる妙神山で修行出来るほどの経験を横島君はまだ積んでいない。いきなりここで修行をするのは酷なのではないだろうか?
「小竜姫様。それは少し無謀だと思うんですけど?」
「……私も賛成できない」
蛍ちゃんとシズクにそう言われた小竜姫は苦笑しながら
「違いますよ。横島さんは修行じゃなくてその潜在霊力を見て見ようと思いますので、一応着替えてくださいね」
「はぁ……判りました」
チビを頭の上に乗せて男の暖簾を潜る横島君。そして自然な流れでついていこうとするシズクとおキヌちゃんを蛍ちゃんが捕まえて
「じゃあ着替えましょうか」
「……駄目だったか」
【……無念です】
にっこりと怖い笑顔で笑う蛍ちゃんにそうねと返事を返し、私は女と書かれた暖簾を潜るのだった
「それでどんな修行にします?」
番台に座りながら尋ねてくる小竜姫様。私は置いてあった服に着替えながら
「そうね。手っ取り早く短時間でパワーアップできる修行がいいわ。私はね?蛍ちゃんと横島君は出来れば数日時間を掛けて見て欲しいわね」
年齢的にもまだ霊的成長期に入っていない蛍ちゃんと横島君と違って私はもう霊力が成長と共に増大するとは思えない、となればこういう場所で魂に負荷を掛けて成長させるしかない
「いいでしょう。今日1日で貴女の修行を終わらせましょう、そのかわり、生きるか死ぬかになりますがよろしいですね」
その言葉は脅しではないと判る。なんせここはあの有名な妙神山なのだ……並の修行ではないと言うことは判っている。それこそ本当に死んでしまう可能性がある事だって判っている
「上等。それでこそよ」
並みの修行では私の霊力は上昇しないと言うことは理解している。それこそ生きるか死ぬかの瀬戸際で無ければ駄目だろう
「大丈夫なんですか?美神さん」
心配そうに尋ねてくる蛍ちゃんの頭を軽く撫でて
「大丈夫♪心配要らないわ、私は美神令子なんだからね!」
蛍ちゃんはおかしそうに笑いながらそうでしたねと呟く、着替えを始める。私は少し早く着替えを終えて
「じゃあ小竜姫様お願いします」
「よろしい、では奥へ……」
番台から軽やかに飛び降りて私の前に立つ小竜姫様に連れられて、私は修行場の奥へと足を踏み入れたのだった……
「なんじゃこりゃ……」
着替え終わり奥の扉を潜った先は奇妙な世界だった。ストーンサークルとか言うのが沢山あってなんか不気味な雰囲気だった
「みむ」
胴着のポケットから顔を出しているチビも何かに怯えているような素振りを見せている。ここはどこなんだろうかと思い、辺りを見回していると
「なるほど。異空間で稽古をつけてくれるって訳ね」
「それに霊力の密度が高いですね……慣れるまでは辛いかも……」
「……私は居心地がいい、霊力がどんどん回復する」
同じように着替え終わった美神さん達が姿を見せる。じゃあおキヌちゃんはっと
「なにしてるのさ?」
【え?ええーと……えへ♪】
俺の頭の上に浮いているおキヌちゃんがぺろりと舌を出す。どうせ驚かせようとしたんだろうなあと苦笑していると
「コン」
構えと言わんばかりに頭の上に乗るタマモ。はいはいっと言いながらタマモを抱っこしていると
「人間界では肉体を通してでしか、魂と霊力を鍛えることは出来ません、ですがここでは魂と霊力を直接鍛えることが出来ます」
小竜姫様の説明を聞いて納得する。さっきから感じている身体の重さはもしかすると魂にかけられている負荷なのかもしれない
「ではそこの法円を踏んでください。美神さんだけで良いですよ」
俺と蛍を見ながら言う小竜姫様。思わず前に歩きかけていたので良いタイミングで声をかけてくれた
「これを踏むとどうなるわけ?」
首を傾げながら美神さんがその円の中に足を踏み入れるとバシュウと凄まじい音を立てて女性の姿をした何かが姿を見せる
(どこと無く美神さんに似ている)
髪型や姿がとても良く美神さんに似ていると思った。ナイスボディの所もそっくりだ
「な……なにこれは……!?」
驚いている美神さんに小竜姫様が笑いながら
「貴女の影法師(シャドウ)です。霊格・霊力・その他貴女の力や経験を取り出して形にしたものです。影法師はその名の通り、貴女の分身です。彼女が強くなる事がすなわち、貴女の霊能力のパワーアップな訳です。そしてこれから貴女は3つの敵と戦ってもらいます」
そこで言葉を切った小竜姫様は少しだけ、鋭い光をその目に宿し
「1つ勝つごとに1つパワーを授けます。全部勝てば3つのパワーが手にはいるのです……但し1度でも負けたら命はないものと覚悟してください」
え……負けたら死ぬ?その言葉に俺が絶句していると美神さんは
「心配ないわ。黙ってみてなさい……そうと決まれば早い所始めましょうか!」
いつも通りの強気の笑みを浮かべて影法師に構えを取らせる。だけど本当に大丈夫なのだろうかと不安になりながらその背中を見つめていると
「大丈夫よ。横島、美神さんは強いわ。だから見てましょう」
「……いざとなれば私が乱入するから心配ない」
蛍とシズクに言われて、俺は不安に感じつつも美神さんが決めたのだから、俺が言える事はないと思い近くに座り込んだ
「剛錬武!」
小竜姫様が鋭い声で呼ぶと美神さんの前に1つ目の岩で出来た巨人が姿を見せる。はっきり言ってかなり強そうだ……
「では始め!!!」
小竜姫様の声と同時に巨人が咆哮をあげて美神さんの影法師に突進する
「行けーッ!!!」
美神さんはそれに応戦するために影法師を見てそう叫ぶ、影法師は凄まじいスピードで突進しながらその手にした槍を巨人に突き刺すが
ガギンッ!!!
凄まじく硬い音が響き渡る。影法師の槍は巨人の肌を貫く事無く完全に弾き返していた。凄まじい防御力だ……
「剛錬武の甲羅はそう簡単には貫けませんよ?力も強いので充分に気をつけてください」
くすくす笑いながら言う小竜姫様だけど、笑いながら言えることじゃ無い
【美神さん!冷静に冷静になってください!】
「そうですよ!少し考えたら弱点は判りますよ!」
蛍とおキヌちゃんが同時にそう叫ぶ、もしかして2人ともあの巨人の弱点に気付いた?でも弱点なんかないように思えるけど……
「……良く考えて、横島なら判る」
シズクにそう言われてじーっと巨人を観察する。甲羅は硬い……でもその甲羅が全身を覆っているんだから弱点は……あれ?あるじゃないか、甲羅に覆われてない部分が
「甲羅が硬い、なら甲羅がない部分を攻撃すれば良いのよ!」
美神さんが影法師に指示を出す、影法師は巨人の拳を紙一重で回避し、その手にしている槍で巨人の目を貫いた
「ギガアアアア!?」
断末魔の雄叫びを上げながら消えていく巨人を見ながら額の汗を拭っている美神さん
(これが経験なのか)
あんな短時間で弱点を見抜き、それを攻撃する……はっきり言って今の俺に同じ事が出来るか?と考えるが、その光景を俺には想像できない
「修行のために来ているんだからちゃんと見てなさい、いいわね」
俺を見てそう笑う美神さんにうっすっと返事を返し拳を握るのだった……
リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その5へ続く
次回も戦闘回がメインになります。小竜姫様との戦いは少しはしょってみようと思います。横島と蛍の事もありますしね、徐々に魔改造が始まっている横島ですけど、横島らしさって本当に難しいですね。もっと頑張らないとと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします