リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その2
電話が突然切れて直ぐに美神君の姿はなく、事務所の中はボロボロになっていた
(何があったんだ?)
書類棚などにある鋭い切り傷。これを見る限り得物は日本刀かそれに準ずる刀剣類だと推測できる
「……アシュタロス。これを見ろ」
同じように事務所の中を調べていたネビロスが木箱を差し出してくる。それには濃厚な霊力と怨念が残されていた……普通のものではまずこうはならない、考えられるのは1つ
「妖刀の類か……これは厄介な代物だな」
妖刀は本当に厄介な部類になる。所有者を操る程度は簡単にやるし、精神感応を使う物も多い。それだけ作った人間の思いが込められ、そしてそれだけ人の血を吸って来た危険な存在だ
「横島君が追われてるんだな。間違いない」
私は確信した今蛍達が事務所にいないのは横島君を助けるために行動しているのだと
「何故そう言える?娘の可能性があるのでは?」
怪訝そうな顔をしているネビロス。ムルムルも戦っている所しか見てないから知る由もないが
「横島君は人外キラーでロリキラーなのだよ。だから間違いない!」
私がそう言うとネビロスは不思議そうな顔をして
「なんだそれは?」
ああ、そうか。ネビロスは知らないのか横島君の特性を
「その言葉のままだよ、横島君は人外で子供に好かれるのさ。物凄くね、九尾の狐にグレムリンにミズチにまで好かれているのだよ」
私の将来の義理の息子は凄いだろう?とネビロスに言っていると
「アリスは人間で言うと12~14歳くらいだ」
それで確かアリス君はゾンビ……あ、人外だ……しかも横島君の基準だとロリだ
「まさかのドストライク!?」
トトカルチョを見る。頼む違っていてくれ……そう祈りながらスーツの中のトトカルチョの紙を見て
【魔人アリス 参戦予定】
「ギャース!!!!なんで!?何でなんだ!?横島君!!!!」
「なんだそれは?」
私の手元のトトカルチョの紙を見ているネビロス。これは説明せざるをえないか……簡単に説明すると
「つまり最高指導者のお遊びにして、その横島とやらが誰と結婚するかと言うものか……」
流石ネビロス賢い……1を話して10を理解してくれるので本当に頼もしい。普段はベリアルも賢いんだけど、最近暴走気味だから役に立たないんだよなあ……
「アリスが決める事だ。私には関係ない、アリスが幸せならばそれで良い」
理想の養父だな。ネビロスは……だが譲れない事はある
「蛍が横島君の妻になるんだ」
そうそこだけは譲れないと強調するとネビロスはさらりと
「魔界は一夫多妻。妾でも構わないだろう」
私はこの時少しだけネビロスが凄いとおもうのだった……ってこんな事をしている場合ではない
「早く横島君とアリス君を探しに行かないと!」
「だな、急ごう」
ここにはもう手掛かりがないと判断し、私とネビロスは再び東京の街へと走り出したのだった……
シメサバ丸とか言う妖刀に襲われている女の子を助け、そのまま近くの公園に隠れたのは良いんだけど……
(あかん。外人さんや)
金髪と紅い目……どこからどう見ても外人さんだ。どうしようか?俺英語喋れないんだけどなあ……エミさんか唐巣神父の所に逃げ込もうかなあと考えていると
「お兄ちゃん!そのグレムリン抱っこさせて!」
目をキラキラさせて流暢な日本語で話しかけてくる。お兄ちゃんと呼ばれたことに少しだけ驚きながらも
「日本語喋れるの?」
日本語を喋れるのか?と尋ねると目の前の少女はニコニコと笑いながら
「喋れるよ~♪お兄ちゃん早く早く!」
チビに手を伸ばしているので頭の上に手を伸ばしてチビを少女の前に持っていくと
「み?み」
くんくんっと匂いをかいで何かを考えているような素振りを見せるチビだったが
「みっ!」
「かわいー♪」
チビは少女の手の中に飛び乗った。おお、これで冥子ちゃんと2人目だな。チビが家族以外に懐くのは
「俺の名前は横島だ。んでこの狐がタマモ、そのグレムリンがチビな?」
グレムリンを知っているって事はこの子の親もGSなのかもしれないなと思いながら自己紹介すると
「私アリスだよ!よろしくね♪お兄ちゃん」
チビを抱き抱えながら笑うアリスちゃん。見たところ12歳位かな?幼女ではなく美少女と言う感じの少女だ
「観光に来たの?」
こんな小さい子が1人で日本に来ているとは思えない。でもここまで日本語が上手だともとから日本に暮らしている可能性もある。何をしに来たの?と尋ねると
「赤おじさんと黒おじさんのお友達に会いに来たんだよ。でも難しい話をしてるから出てきちゃった」
あ、赤おじさんと黒おじさん?なんと言うかこの子の感性も独特なんだなあと思いながら
「その2人がどこにいるのか判る?」
まぁなんにせよ。その黒おじさんと赤おじさんとやらの所に連れて行けばいいかと思い尋ねるが……
「わかんない♪」
てへっと舌を出すアリスちゃん。どうやらこの子は迷子になってしまっているようだ
(うーむ。どうするかなあ)
俺自身もシメサバ丸に追われているのでいつまでもこの公園にいるわけには行かないし……かと言ってこの子をこのままここにおいて行くのは余りに不憫だ、それにシメサバ丸に襲われる可能性もあるし……せめて警察官に預けたほうが良いのかもしれない……
「お兄ちゃん。今度は狐さんを抱っこしたいなあ」
頭の上のタマモを見て目を輝かせているアリスちゃん。俺はタマモを抱っこして
(悪いけど少し頼むな)
アリスちゃんはその外見通り小さい動物とかが好きなようだ。きっと保護者と離れて寂しい思いをしているだろうから、励ますという意味も込めて頼むと言うと
(クウ)
小さく返事を返すタマモをアリスちゃんに差し出すと
「わーい♪もふもふー♪」
「クうううう!?!?」
いきなり抱き締められて頬ずりされているタマモが目を白黒させてるけど、すまん我慢してくれ
「えーと黒おじさんと赤おじさんのお友達の名前は判るかな?」
アリスちゃんの目線にあわせて尋ねるとアリスちゃんは俺の背後を指差して
「刀飛んできてるよ?お兄ちゃん」
「うえ!?」
アリスちゃんの言葉に驚きながら振り返ると、確かにそこにはこっちに向かって飛んできているシメサバ丸の姿が
「やべえ!アリスちゃん!」
さっきみたいにアリスちゃんを脇に抱えて走っていては間違いなく不審者と見られてしまう。蛍や美神さんに迷惑をかけるわけには行かないのでアリスちゃんの前にしゃがむと
「おんぶしてくれるの♪ありがとー♪」
軽い重みが背中に乗ってくる。アリスちゃんを落とさないように両腕を後ろに回す、若干柔らかい感触を感じるが
【身体をよこせええええエエエ!!!!】
凄まじい勢いで突撃してくるシメサバ丸を前にその感触を楽しんでいる時間は勿論ないし
(ワイはロリコンじゃ無いからドキドキなんかしてない!)
背中に当たるほんの微かな柔らかさに興奮なんかしてないし、するわけがない
「あはは♪お兄ちゃんはやーい♪もっとー♪」
背中の上で無邪気に笑っているアリスちゃんの声を聞いていると
(なんか自分が汚れている気がする)
そう思うと何故か目から塩水が溢れて来るのだった……
おキヌと一緒に横島を探しているんだけど、途中で横島の気配に何か別の気配が混じる
【これ……なんの気配ですか、物凄く重くて暗い】
顔を青くさせながらおキヌが呟く、公園のベンチの上に残されていた横島の霊力。しかしそれだけではなかった
「……怨霊・死霊の類……」
どす黒くそして重い霊力。私が高島と出会った時代……平安時代にはこんな霊力はそこかしらにあった。
「……早く横島を見つけよう。きっと横島は気づいていない」
【そうですね。急ぎましょう】
横島の今の霊力では相手を出来る相手ではないし、あの切り札の篭手でも高位の死霊を消し飛ばすだけの能力はないだろう
(恨みがある限り生き続ける)
魔族とはまた違う厄介さを持つのが死霊。無論その全てが悪と言う訳ではないが……警戒する事に越した事はない、幸いにもこれでもかって霊力が残っているのでそれを辿って探せばいい、公園から出た瞬間
「シズク!乗りなさい!」
車に乗っている美神が私を呼ぶ。どうやら準備は出来たようだ
「……判った」
不快ではあるが、今の時代に生きるには金が必要だ。そして美神から金を貰っている以上それなりの対応と言うのは必要だ。車に乗り込み美神と蛍の話を聞きながら、私はぼんやりと考え事をしていた
(そのうち契約すると言っていたが、どうなるんだろうか?)
今はまだ見習いと言う事で美神の所で働いているけど、蛍とかの話ではそれなりの金がもらえるらしい
(圧力鍋と言うものが欲しい)
これだけは譲れない、TVと言う箱の中でやっている番組で見た。今の時代の料理法……それは私の知らないものが多いが実に興味深く欲しいと思った
(まずは胃を掴む事)
食べることはすなわち生きること、幸いにも私は料理とかは好きだったので平安時代の料理は覚えている。まぁ今のものと比べれば雑なのだが、基本は理解しているので直ぐに現代の調味料や料理方法も覚えた
(……今度は洋食を覚える)
横島は何でも美味いというが、出来る料理は多いほうが良い。そう蛍とおキヌよりも作れる料理の種類を増やさなければ
「それで横島君は?」
運転しながら尋ねてくる美神に首を振る。探してはいるが見つけてはいない
「……霊力を辿って探していた。だけど途中で凄まじいまでの邪悪な霊力が混ざってきた。横島は危険だとおもう」
タマモがいれば匂いを辿る事もできたが、今は横島の守りをしているのでいない。霊力を辿る事が唯一横島の元に行く方法なのだ
「またなにかトラブル?横島君を一人にしたのは間違いだったかしら?」
そう苦笑する美神。確かに横島はトラブルを引き寄せるが、それを差し引いても面白いやつだと思う。とりわけ私が属する魔族や神族は人間の外見ではなく、中身を重要視する。その面では横島はとても面白い存在だ
【美神さん!あっちのほうですごい騒ぎになってますよ!シメサバ丸じゃないですか?】
空から見ていたおキヌがそう叫ぶ、その指差した方角を見ると何重にも重なった怒声が聞こえてくる
「急ぎましょう!凄く嫌な予感がします!」
「本当に早く一人前になりなさいよ!ここまでトラブル引き起こすなら自分で対処できるくらいには!!!」
そう怒鳴り車を走らせる美神。確かに今の横島は確かに弱い、だけどその才能は間違いなく並の人間を超えている。平安時代でもあれだけの潜在霊力を持っている人間はいなかった
(……護れば良い)
簡単な話だ。横島の才覚が完全に目覚めるその時まで私が、いや私達が護れば良い。そしてその才能が完全に開花したとき、横島がどうなるのか?陰陽師となるのか、それとも妖使いとなるのか?それとも美神のような退魔師になるのか?
(今から楽しみ)
今の横島は何も書いてない紙と同じなのだ、そこからどんな絵と色がかかれていくのか?そこをもっとも近くで見ることが出来る……
(本当に楽しみ……)
そしてその時横島がどの道を選ぶのか?それが楽しみで楽しみで仕方ない。人間を選ぶのか?それとも私達を選ぶのか?それとも全く異なる道を選ぶのか?まだ横島は自分の歩く道のスタートラインにも立っていない……だからこそ傍にいたいとおもう。一番近くで横島がどう変わっていくのか見ることが出来るのだから
「ついたわよ!ホラ降りて降りて!!!」
大騒ぎをしている建物の近くには警察と言う私の時代で言う検非違使だ。その人間達の間をすり抜けて屋敷の中に足を踏み入れると
【カカカッ!!!手に入れたぞ、拙者の身体ああああ!!!】
「ちくしょー!おっさんなんて庇うんじゃかったああああ!!!」
シメサバ丸から伸びた触手で腕を絡め撮られている横島の後ろで泡を吹いている男と
「あはは♪おっもしろーい♪」
横島の背中の上で笑う小さな少女。だけどその身体に生気は無く死霊の類だと判る。とりあえずあの後ろの子供はどうでも良い。まずは横島を助ける事が最優先だ
「【ヨコシマ……】」
背負っている死霊を見て蛍とおキヌの視線が鋭くなる、これでは助けに来たのか止めを刺しに来たのか判らない
「いやー!!ワイは悪くない!無実なんやああああ!!!
シメサバ丸と蛍とおキヌの両方から横島を守らないといけないので、私は屋敷の中の池に腕を伸ばすのだった……
なおその頃芦のビルに放置されたベリアルはと言うと血涙を流しながら、自身を縛る戒めの破壊を試みていた
「アリス。アリス……アリスアリスアリス!!!今私が行くぞオオオ!!!」
流石ソロモンの魔人とでも言うべきだろうか?自身を縛っている戒めを破壊し立ち上がる。その体からは湯気のような魔力があふれ出していた。しかしアリスの名を繰り返し呼ぶその姿は、ロから始まりンで終わる。変態にしか思えなかった
「アリス!私のアリスぅ!まだお義父さんの傍から離れないでおくれええええ!!!」
魔人と言うカリスマを投げ捨て、涙を流しながら走るベリアルは正直残念すぎる魔人で、監視している魔界正規軍も神界騎士団もそんなベリアルから目を逸らすのだった……
横島と親馬鹿ロリコンになりつつあるベリアルと遭遇するまであと30分……
リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その3へ続く
次回はシメサバ丸戦ともう1つの戦闘の開始を書いていこうと思います。アリスの本領発揮はまだまだ先です、どんなかつやくをするのか楽しみにしていてくださいね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします