リポート12 吸血鬼の夜 その5
深い闇の中に佇む2体の異形の姿。濃い魔力を放つその存在2体の異形はそれぞれ、赤い甲冑に身を包んだ異形の騎士と蝙蝠の翼を持つ金の体をしたデーモンだった
「また回りくどい事をするな、貴様は」
腕を組んでいる異形の言葉に問い掛けに蝙蝠の翼を持つ異形は
「それが私のやり方だ。文句を言わないで貰おうか?」
鼻を鳴らし背を向ける蝙蝠の翼を持つ異形は腕を組んでいる異形に背を向けて歩き去っていく
「……まぁ良い。あの方の指示に従うのならばそれでいいがな」
甲冑の異形もまた背を向けて、溶ける様に消えて行くのだった……
ブラドー島の地下でブラドーを支配している魔族から、ブラドーを解放する作戦を立てようとしていたのだが
「令子ちゃーん……私もう眠いよぉ」
日付が変わる頃まで話し合いを続けていたけど、答えは出ない。何せ魔族を相手にする作戦など考えても判るわけがない。この話し合いに参加できない、横島は既に寝ているけど、私達もそろそろ休まないと明日に影響する
「はぁ……それもそうね、ここで1回休みましょうか?」
美神さんが頭をかきながら呟く、ブラドーの城の構造までは判った。襲撃経路を決める事までは出来たけど、魔族の正体が判らないので攻め手がないのだ
「魔族と言うがな?それほどまでに魔力を感じん……下位レベルの魔族。知性とかも少ないタイプなのではないかの?」
ドクターカオスがそう呟く、確かにその可能性は充分に考えられる。私は半分は魔族だが、その私が魔族の存在に気付かなかった。極めて存在の薄い魔族の可能性がある……それにブラドーのような霊格の高い吸血鬼に同じく霊格の高い魔族では間違いなく気付かれる。つまりブラドーに取り憑いている魔族は良くて中級クラスの魔族の可能性が高い、だけどそれで考えると
「確かにその可能性は考えられるワケ。だけどそうなると、その魔族だけじゃブラドーの障壁は突破できない。その魔族をブラドーに接触させた魔族がいるんじゃない?」
エミさんの言う通りかもしれない、隠密能力が高く、そして極めて格の高い魔族が存在しているのかもしれない
「あー1つだけ心当たりが、父が目覚める前に金色の蝙蝠を見かけたのですが」
ピートさんが手を上げてそう呟く、金色の蝙蝠。それは間違いなく魔族が化けていた姿だろう……
「金色の蝙蝠か……それは確かに気になるね。だけど正直言って装備が心もとない」
唐巣神父の言う通りだ。除霊具はある程度は無事だったが、魔族相手ではそれでも足りないと思う。私達が呻いていると
「馬鹿じゃありませんこと?」
私達の話し合いを聞いていた神宮寺が私達を馬鹿にするようにして呟く、私達の視線が神宮寺に集まる中
「今この島には魔族が居ない、それで充分ですわ。ブラドーを見つけたら、結界でその周囲の精霊石なり結界札で周辺を隔離してしまえば良いじゃ無いですか?」
確かに口で言うのは簡単だが、魔族の侵入を防ぐだけの結界を作るのに、どれだけの精霊石と準備が必要か判っているのだろうか?
「それだけの結界を作るのにいくら掛かると思ってるの!?1億や2億じゃきかないわよ!?」
「命は買える物ではありませんわ、それでもなおそんなことが言えますの?馬鹿じゃありません?」
きつい言い方だが、神宮寺の言っている事は正しい。命あっての物だ。そんな事を言っている場合ではない……そもそもこの状況でなお、お金の事を考えることが出来る美神さんが異常と言える
「判った!判ったわよ!!使えば良いんでしょう!これで作戦は決まり!私はもう寝るわ!!」
不機嫌そうに言って奥の部屋に向かっていく、変なところで子供っぽいなあと苦笑していると
「あたしもそろそろ寝るワケ。蛍も休みなさいよ」
奥の部屋に向かっていくエミさん。神宮寺は提案した時点でこの部屋を出て行っている。本当に協調性のない人間だ……私は寝る前にっと周囲に人間が居ないのを確認してから
「通信鬼」
ぼそりと呟き、手の中に通信鬼を呼び出して
「もしもし?お父さん?」
『聞こえてるよ蛍。どうかしたかい?』
直ぐに返事を返してくれたお父さんに安心し
「金色の蝙蝠の魔族の化身っている?」
ピートさんの話を聞いた限りではその蝙蝠が魔族の可能性が高い
『うーん。流石にそこまであやふやな情報じゃあ判らないね、魔族は夜の眷属を使うのが多い。蝙蝠を使う魔族は結構多いからね』
やっぱり特定できないか、判っていた事だけどちょっと残念……
『特定は難しいけれど、出来るならその周囲の魔力とかを集めておいてくれるかい?今後魔族の特定に役立つかもしれない」
過激派魔族の特定は最優先課題のひとつだ。ここはお父さんの言うとおりにして少しだけ魔力を集めておく事にしよう
「判ったわ。じゃあおやすみ、お父さん」
明日は朝からブラドーの城に突撃する事になる、少しでも良いから休んでおこう。お父さんにおやすみと言って私も女性の部屋へと向かい眠りに落ちるのだった……
地下の部屋はまぁそれなりに快適だったけど
「うあー身体がバキバキ言ってる」
土を削って作ったベッドだったからか、身体がバキバキ言ってるなあと苦笑しながら背伸びをしていると
「コン」
するすると俺の背中を登って、頭の上に伏せるタマモを見て苦笑しながら、部屋を出ると直ぐにおキヌちゃんとシズクに会う、2人も俺に気づいたのかすぐに
「……横島おはよう」
【横島さん。おはよーございます♪】
「おはよう。シズク、おキヌちゃん」
シズクとおキヌちゃんにおはようと返事を返す。これで外だったらもう少し気分も良いんだけどなあと思っていると
「横島も起きた?」
「おう、ばっちりだ。ちょっと身体が痛いけどな」
軽くストレッチをしながら蛍に挨拶を返す。今日はブラドーの城に向かうらしいのでしっかりと身体をほぐしておかないと後が怖い
「私も少し身体が痛いかな?後で入念にストレッチをするから手伝ってね?」
ウィンクをしながら言う蛍。からかわれているのか?と悩んでいると
「朝からいちゃつくな、目障りですわ」
「ふぐおう!?」
後ろから尻を蹴られる。やたら金属質の痛みがぁ!?正直いってめちゃくちゃ痛い
「なにするのよ!神宮寺!」
「なにを?邪魔をしているのを蹴って悪いのですか?」
本当にこの人はかなり怖い、あの皮のブーツ絶対つま先に鉄が入ってるに違いない
「……大丈夫?」
シズクが水を掛けて治療してくれる。本当にシズクには助けてもらってるなあ……料理もしてくれるし、こうして怪我の治療もしてくれる。本当に助かる
「くう、あの女、絶対こんどへこませる!」
【私も手伝います。どうして横島さんを目の敵にするんですか!】
怒っている蛍とおキヌちゃんに
「いや、今のは多分俺が悪かったんだよ」
この狭い通路の真ん中にいた俺が悪いんだと思う。
「普通に通れたのに横島を蹴ったのよ。私は許せないわよ」
【本当です。酷いですよ!】
うーん。中々怒りを収めてくれないないなぁ……どうしよと思っているとカオスのじーさんが
「がっはは、それはあれじゃな、好きな子に意地悪をしたい……「【余計な事を言うな】」「余計な・事を・言わないでください」がっはあ!?」
蛍のローキック・おキヌちゃんのポルターガイスト・マリアのビンタがカオスのじーさんに殺到する
「かかか、カオスのじーさぁぁんッ!!!」
錐揉み回転をして吹っ飛んでいくカオスのじーさんを見て思わず俺は絶叫してしまった。もしかして俺もいつもこんな風なのか?確かにこれは怖いなあと思わず苦笑してしまうのだった。悶絶しているカオスのじーさんが復活してから広場に向かい、そこで固いパンと野菜スープで朝食を済ませた所で美神さんが
「それじゃあ。早速ブラドー城に向かうわ、先鋒は半吸血鬼の皆よ。私達は別の通路からブラドー城に向かうわ。良いわね」
美神さんの説明に頷き、振り返る。武器を手にする半吸血鬼の青年達の士気は高いし、そうそう死ぬことはない……らしい。それにこの島は吸血鬼と半吸血鬼が半々ずつ暮らしているらしい、魔族側もそれを理解しているから吸血鬼の皆を操らなかったんじゃないか?と美神さん達が話をしていた
(だからこそのレギオンとグールなのか?)
蛍に説明してもらったけど、レギオンもグールも昼間でも活動できる悪霊と死霊と言える。両者とも既に死んでいるので、今更太陽の光なんて弱点でもなんでもない、この襲撃を計算した上でレギオンとグールを召喚したと考えれば辻褄が合う。そして半吸血鬼の襲撃における騒動の中に紛れてブラドーの城に突入する……理に適っている訳だ。流石美神さんと言う所だろうか?
「隠し通路からの奇襲は私達で行くわよ、横島君は荷物もちになるけど良いわね?」
確認と言う感じだが、これは間違いなく決定事項だ。ピートとシルフィーちゃんの親父さんを助けたいという気持ちはある。だけどグールとかは怖い……足が震えて冷や汗が流れるのが判る。これは前のあの旧GS協会地下よりも危険な場所だというのは判る
「やります。大丈夫です」
GSになると決めたんだ、こんな所で逃げるわけに行かない。それになによりも
(いつまでも護られてばかりじゃみっともないだろ!俺)
怖いと逃げたいと思う気持ちもある。それでもなおやると決めた
「良い返事よ横島君。タマモとおキヌちゃん、それに冥子とシズク一緒に行動しなさい。それなら少しはましのはずよ。それじゃあ行きましょうか!」
神通棍を構える美神さんの言葉に頷き、雄叫びを上げて走っていく吸血鬼の後ろをついて、俺達も隠し通路からブラドーの城に向かうのだった……
なお出発前に蛍のストレッチを手伝ったのだが、多分俺はあの甘い香りと柔らかい感触を忘れる事は絶対にないと思うのだった
吸血鬼の作ったという隠し通路を通り、この島の中心の古城に続く長い石階段を上りきった所で
「ここで装備を整えるわよ、横島君は精霊石を忘れずに身につけておきなさい」
美神が自分の鞄から精霊石を取り出して、バンダナの少年。横島に手渡している……稀少な精霊石を渡す所を見るとよほど大事に育てているのだろう。
(ってなんで私はそんなに気にしているのですか)
別に他人なんてどうでも良いはずなのに如何してこんなにあの横島と言う馬鹿を気にしてしまうのか。それが自分でも理解出来ず、若干のイラつきを覚える。しかもそれでなんで私がイラつかなければならないのか判らず、それが更に私をイラつかせる
「わふ♪」
横島の足元をうろついている式神の犬と頭の上から私を見ている妖狐。そして肩の上で
「みみみみー!!」
手を振って鳴いているグレムリン。GSだというのに如何してこうも自分の傍に妖怪を置いて平気なのだろうか?私には理解できない。それに
(美神だって何を考えているのやら)
若手NO1と言われ、なおかつ自分でもそれを誇りにしているのにどうしてあんなのを自分の助手にしておけるのかが判りませんわ。1人離れた所で横島を観察していると判る
「……水の蓄えは大分あるから大丈夫。だけどそんなには使えない」
水神?そんなのがどうして人間に協力しているんですの?と言うか
(なんで横島の膝の上に座ってるんですの!?)
もうあれは歳の離れた兄妹にしか見えない。神としてのプライドとかはないんですの!?
(あの男が傍にいるとどうも落ち着きませんわ)
心に勝手に入ってくるわ、馬鹿な事をするわ。私とは全く違うタイプの人種だ。ああいう人間とは係わり合いになりたくないですわ
(魔導書に吊られて来たのは失敗でしたわね)
稀少な魔導書があるからと聞いてここに来たのは失敗だったかもしれない。少なくともあの馬鹿がいると知っていたら私はこんな場所には来なかったと思う。早く移動してくれないですかね?こんな埃っぽいところにいるのは嫌ですし、何よりもこれ以上横島と一緒にいて自分を乱されるのが嫌だ
(魔法使いは冷静で無ければならないというのに)
自分の持ちえる力よりもはるかに強大な力を使う事が出来る魔法使いは常に冷静で無ければならない。それが魔法使いとしての鉄則なのに……小さく溜息を吐くと周囲に人の気配がないことに気付く
(置いていかれましたか、仕方ないですわね)
どうせ私を待ってくれている人間なんていませんわ……ドレスの埃を払って立ち上がり歩き出そうとすると
「あ、神宮寺さん。もーどうしたんすっか?遅いから心配しましたよ」
「!?」
私を待っていた横島の姿に驚く、頭の上の妖狐とGジャンを掴んでいる水神が嫌そうな顔をしているのを見ながら
「私を待っていた?馬鹿じゃありませんか?私のことを聞いてないのですか」
私を待とうなんて馬鹿にも程がある。大体私は単純な攻撃力で言えば私に勝てるGSなんて殆どいない筈だ
「聞きましたよ?凄い魔法が使える魔法使いだって、精霊石とか除霊具を使わなくても強いって」
へらへらと笑っている横島。それだけ聞いて何故私を待っていたのかが理解できない
「……あんまりはなれると合流が難しくなる」
水神が早くと言う感じで服を引くが横島はそれを気にしないで
「ほら、神宮寺さん。行きましょう」
私に手を伸ばす横島の手を振り払い、横島の目を見て
「何をふざけているんです?私が貴方のようなへっぽこの手を何故借りなければならないのですか?一体何を企んでいるのですか」
「企んでいるなんて……ワイはただまぁ……ちょっとはその……神宮寺さんと仲良くできたらなんてなぁ?」
頬をかいている横島。前まで嫌って程見た私の身体だけを見ている下賎な視線は感じない、不思議と感じるのは純粋な好意……それが判るから、かえって苛立ちを感じてしまう
「ふん!これだから男は好きじゃ無いんですわ」
横島を無視して歩き出すが横島は私の行動を何も気にしてないように笑いながら
「神宮寺さん、待って!俺弱いからグールとかに襲われたら死ぬから!!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら走ってくる横島
「うるさいですわ!私は騒がしいのは嫌いなんです!気が向けば助けてあげるから黙ってついて来なさい!このへっぽこ!」
うぐうっとか呻く横島を無視して、私は古城の廊下を歩き出すのだった……
「いやいや!マジで!マジで置いていかないでええええ!!!」
「やかましいですわ!!!」
泣きながら追いかけてくる横島の顔面に軽い魔力弾を打ち込むと錐揉み回転しながら飛んでいく
「ふぎゃあ!?」
「コーン!?」
「みみみー!?」
「……直ぐ治す」
慌てている妖狐とかと痙攣している横島。これで少しは大人しくなると思ったのですが
「何をするんやぁ!!!痛いやないかー!!!」
即座に立ち上がりそう怒鳴る横島。信じられないですわ……今のは並みの妖怪なら一撃で殺せるだけの一撃だったのですが……
「うるさいですわ!また叩き込まれたいんですの!」
指先に魔力弾を集めると慌てて土下座して
「すんません!すんません!!大人しくしてるんでそれは勘弁してください!!」
ぺこぺこと繰り返し謝る横島に気勢を削がれて、指先に集めた魔力弾を霧散させながら
「大人しく黙ってついて来なさい。判りましたわね」
「はひ」
青い顔をしている横島を連れ、私は美神を探してゆっくりと歩き出すのだった……
なおその頃。くえすを待つと言って聞かなかった横島のことを心配している蛍達はと言うと
「【なんか嫌な予感がする】」
シズクとタマモがいるから、不安に感じつつも横島を残してきたのだが、グールや狼に横島が襲われているのでは?と言う不安ではなく、直感的に何か自分達に悪いことが起きたのでは?と言う本能的な不安を感じているのだった……
リポート12 吸血鬼の夜 その6へ続く
今回は次回への繋ぎの話になってしまったので少し短くなりましたね。次回は最初から戦闘回で行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします