その1
リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その1
授業を終えて帰って来た横島と美神さんの事務所に向かう。GSの勉強もあるし、色々と勉強をするには専門書のある美神さんの事務所の方が良い
「今日タマモが学校についてきて大変だったんだ」
姿が見えないと思っていたら、横島の学校に居たんだ
「コン?」
しれっとした顔で横島の肩の上に居るタマモ。どう見ても完全に自我を持ってるわね、私とおキヌさんに敵意を見せているし
(尾が増える度に強くなってるのね)
多分自我がハッキリしたのは7本目の尾が戻った時だろう。6本の時よりも感じる感覚が強くなっているので良くわかる
「おはよーございます」
「おはよう。横島君、蛍ちゃん」
事務所に入ると美神さんが見ていた書類を引き出しの中にしまう
「それは?」
妙にその書類の事が気になり尋ねる。美神さんは少しだけ眉を顰めて
「タマモの保護妖怪申請よ。九尾の狐が害悪って言うのはもう古い話だし、もうちょっとしたら許可下りるんじゃない?」
確かにそれもありそうだけど、ほかにも何かありそうな気がする
「マジですか!良かったなー♪タマモ!」
「コーン!」
ただ横島とタマモが喜んでいるから今聞くのは止めておこう。
【いらっしゃい横島さん♪いまお茶入れますからね?】
おキヌさんが持って来てくれたお茶とお菓子を食べながら
「今日は何か仕事があるんですか?」
「うーん。特にないかな?とりあえず横島君と蛍ちゃんのGSについての勉強でもする?」
いかに美神さんが一流のGSでもそう毎日仕事があるわけじゃないのよね。まぁ当然の事だけど、それならそれで今日はGSの勉強でも横島にさせようかな?と思っていると
ピンポーン
「MHKの者です」
事務所の外から聞こえてくる声。美神さんは無言で立ち上がり
「うちはMHK見てないわよ」
背中しか見えないが笑顔のような気がする、威圧感のあるタイプの怖い笑顔
(見てなくても受信料払わないといけないんじゃ?)
(その筈だけどね)
優しいと思っていたけど、やっぱりこう言う所は美神さんなんだと思う
「じゅ、受信料の取立てではなく依頼で来たんです」
外から聞こえる声に美神さんは振り返りざまに扉を開けて
「嘘だったら呪い殺すわよ?」
「「は、はひ」」
依頼者を脅すGSって正直どうなんだろう?だけど腕が良いのも確かなので……まぁ個性として割り切るしかないわね
「ほら。横島片付けるわよ」
「うーす」
依頼者が来たならここでお菓子を食べているわけにも行かず、私は横島に机の上のお菓子とマグカップを片付け
「依頼者の人の分のお菓子を用意するわよ。そこの戸棚」
あけるな!と書かれている高級なお菓子が締まってある戸棚から茶菓子を取り出すように指示をして私は同じくあけるなと書かれている戸棚から高級茶葉を取り出して、お茶の準備をするのだった……
依頼者のMHKの社員2人に横島君と蛍ちゃんが羊羹と日本茶を置く、当然私の前にも置いてくれている。こういう接客も何も言わなくてもやってくれるからありがたい
「通信衛星に妖怪?」
MHKの社員は鞄から写真を取り出しながら
「はい、これです。先日シャトルからの望遠カメラで撮影しました」
差し出された写真には大型の虎くらいの大きさの異形の姿が映っている。それを見た横島君が
「ずいぶんと大きいっすね?肉食っすか?」
私は見ただけで判ったけど横島君は駄目みたいね。今度は世界の妖怪・悪魔辞典でも貸しましょうか?見ただけでも判るように。蛍ちゃんは顎の下に手を置いて
「もしかしてですけど翼のある小悪魔「グレムリン」ですか?」
「当たり。戦時中は飛行機とか戦車とかに悪戯をしてパイロットを恐怖させたのよ」
実際グレムリンは危険とまでは言わないけど、警戒レベルの妖怪だしね
【怖い妖怪ですね】
「殺しをする妖怪なのか、これは不味いなあ」
横島君とおキヌちゃんがちょっと誤解してるわね。私は渡された写真を見ながら
「別に悪い妖怪って訳じゃないのよ。攻撃性とかも殆どないし、機械弄りと悪戯が好きな妖怪でね。多分今回もそれよ」
態々人を苦しめようとかする妖怪ではない。地上なら横島君でも除霊出来るような弱い妖怪だ
「でもなんでこんな所に……」
「さあねえ?もしかして上って降りられなくなったとかじゃない?」
猫じゃあるまいしとも思うが、その可能性も充分に考えられる
「今のところ深刻な被害は出ておりませんが、衛星が壊れてしまえばMHKは勿論民放も衛星放送も大混乱です。費用はいくらでも出しますので何とかしていただけないでしょうか?」
宇宙となると霊体でいく必要もあるし……危険手当とかもあるし……それに国からの依頼ならかなりの額を取れるわね
「10億。びた一文まけないわ。それが嫌ならNASAでもソ連にでも行くのね」
社員は顔を青褪めさせたが、宇宙と言う除霊場所を考えればそれくらいは普通だ
「判りました。それではよろしくお願いします」
「この美神除霊事務所にお任せください」
少し渋るかと思ったけど、思ったよりも早く契約することの出来た。私は奥の部屋から特別なハチマキとリストバンドを持って来て
「じゃあこれ。横島君それじゃあ行くわよ」
宇宙となると霊力が勝負になる。無論私が行けば一番いいのだが、幽体離脱した魂を元に戻すのは蛍ちゃんでは難しいし、魂の尾の維持をするの必要もあるので、これは蛍ちゃんに任せる。消去法で横島君になるので簡易の霊力のコンバーターを持たせる。これで少しは霊力が上昇するはず。仕事は直ぐ始まるので、急いでMHKに行かなければならない
「しかし10億って請求するほうも方だけど、支払うほうも大概だよな」
走りながら呟く横島君。その呟きを聞いた蛍ちゃんが
「相場よ。宇宙となると幽体離脱をしないといけないの、身体のない分危険性が増すわ。危険手当を考えればこれくらいよ」
本当蛍ちゃんはGSの知識があって助かるわ。幽体離脱しないと出来ないような除霊は危険なので、それ相応の危険手当がつくのが当然なのだ
「それと多分横島が宇宙に行くことになるからね。気合入れてよ?」
「へ!?」
「コン!?」
驚いている横島君とタマモ。私はMHKに向かいながら
「幽体を元に戻すのと、魂の尾が切れないようにサポートする人材が居るのよ。横島君は出来ないでしょう?」
うっと呻く横島君。本当はド素人に幽体離脱除霊なんてさせないんだけど……
「おキヌちゃんフォローしてあげてね?」
幽霊としての経験が長いおキヌちゃんがフォローしてくれれば大丈夫なはず。
【私頑張ります!】
おキヌちゃんも気合を入れた顔をしているから多分大丈夫
「うう……怖いなあ」
びくびくしてる横島君。確かに一人の除霊だから怖いのは当然だけど……
「頑張ってね。今回はMHKが放送したいらしいから頑張れば英雄よ」
10億を支払うが、除霊は撮影させてくれと言い出した。こう言う所はたくましいわよねTVクルーって
【横島さん。一緒に頑張りましょうね♪】
「はーなーれーなーさーいッ!!!
「おうふッ♪」
おキヌちゃんに正面から抱きつかれてだらしない顔をして居る横島君と、おキヌちゃんを引き離そうとしている蛍ちゃんを見て
(大丈夫かしら?)
若干の不安を感じながらMHKの放映局に向かうのだった……
着替え終えてスタジオに入るとそれと同時に
「こんにちわーMHK放送局!MHKシスターズです!今回は幽体離脱で宇宙空間の妖怪の除霊に挑戦する横島さんに密着取材をしようと思います!」
いきなりTVで良く見るリポーターにマイクをつけられる。TVでしか見ない人物がすぐちかくにいることに赤面するのだが蛍とおキヌちゃんの鋭い眼光を感じ、無理やりだらけそうになる顔を引き締める
「横島。こっちよ」
蛍に呼ばれてそっちに行くと魔法陣が用意されている。複雑な図形が3つ重なったそれを見て
「これは?」
「霊体を呼び出す魔法陣と魂の尾を維持する魔法陣。こっちは私が維持して、もう片方は蛍ちゃんが維持するわ。これでそのまま死んでしまうって事はないわ」
そうは言われも不安だな、だけど美神さんと蛍を信じよう。その魔法陣の中に座ると妙な感覚がする
「どうかした?」
「いやなんか、こうむずむずする感じが」
身体の中がかゆいと言えばいいのか?とにかくそんな感じだ。
【それじゃあ頑張りましょうね】
カメラを構えているおキヌちゃん。多分これで撮影するんだろうなあと思う。あとは俺が上手く出来るかか……
「始めるわよ。汝横島忠夫の魂よ!肉体の呪縛から解放され!その姿を見せよ!幽体離脱!」
「ほぎゃあああ!?」
信じられない激痛を感じ振り返り
【美神さん!なんてこと……するんです……え?】
美神さんの前には白目を向いている俺。そして俺の身体は宙に浮いている。これが幽体離脱!しかし鈍器で強打って随分原始的な……俺が文句を言おうとするとそれよりも早く美神さんが
「成功ね!横島頑張ってね!」
【行きましょう♪横島さん】
笑顔のおキヌちゃんに手を引かれ、俺は天へと登っていくのだった……
「横島君?どう?」
暫くしたところで美神さんの声がする。周囲を確認しながら
【いま空が藍から濃紺に変わってきました】
「それだともう少しで太陽からの太陽風が強くなるわ、霊体は軽いから飛ばされないように気をつけて」
【了解。俺の身体は大丈夫か?】
ちょっと不安になり尋ねると直ぐに蛍が
「大丈夫よ。私がちゃんと魂の尾を維持してるから。何の心配も要らないわ」
蛍の言葉を聞くと不思議と安心できる。判ったと短く返事を返し更に上に上ると
【きゃあ!】
【おキヌちゃん!】
突然の突風に飛ばされそうになったおキヌちゃんの腕を掴む。これが太陽風って奴か
【ありがとうございます。横島さん】
にこりと笑うおキヌだったが直ぐに真剣な顔になって
【あっちから凄い勢いで霊力が近づいてきてます】
俺には判らないけど、おキヌちゃんは索敵が得意らしいので間違いないだろう。それを裏づけするように
「方角・スピード間違いないわ!それよ!気をつけてかなり速いわよ!」
その言葉に気を引き締めた瞬間
【げぼあ!?】
【横島さーん!?】
巨大な何かに追突される。おキヌちゃんの悲鳴が少し聞こえる
(これが放送衛星か)
なんとか体勢を直して衛星を見る。予想よりも少し小さいなと思って観察していると突然俺の視界に影が落ちる。まさか……
【シャーッ!!!!】
【うおおおおお!?】
牙を向いて襲ってくるグレムリンの牙を両手で掴む。いかん!これは食い殺される!?
【美神さん!横島さんがグレムリンに襲われています!】
「そんな!?グレムリンはそんなに凶暴な妖怪じゃないわよ!?」
おキヌちゃんと美神さんがそんな話をしているのが聞こえるが俺に返事を返すような余裕はない
【シャアアアア!】
【ひゃあああああ!?食われる!死んでまう!!!!】
牙を鳴らすグレムリンの攻撃を必死に交わす。だがそこまでもちそうにない
「歌よ!おキヌさん!歌を歌って!綺麗な歌!」
蛍のその叫び声でおキヌちゃんが口を開き子守唄を謳い始める
【この子の可愛さ限りない、山では木の数、萱の数。尾花かるかや、花桔梗、七草千草よりも大事なこのこがねんねする】
その子守唄はとても優しくて、眠くなってくる。グレムリンはそれに対して苦しむ素振りを見せる
【ギグアア!?ギギギャアア!!】
尾を振り、翼を羽ばたかせ暴れるグレムリン。俺はこれでやっと一息つくことが出来た
【星の数よりまだ可愛。ねんねやころり、ねんころり】
おキヌちゃんが歌い終えると同時にグレムリンは叫び声を上げて飛び去って行った。
(あれ?)
グレムリンが飛び去った後には、抱えるくらいの大きさの丸い球体。もしかして卵!?
(こいつを護ろうとしてたのか……)
だからあんなに強暴だったのかと理解して、その卵を抱えあげる
【卵ですね。横島さん】
【ああ、悪いことをしちまったな】
あのグレムリンは子供を守ろうとしただけでなにも悪くない。卵を抱えているともぞもぞと動き出し
「みー♪」
【ぬわあ!?】
丸っこい身体に小さい牙と翼を持ったチビグレムリンが殻を割って孵化する。そして俺を見て
「みー♪みー♪」
すりすりと擦り寄ってくるグレムリン。可愛いけど……もしかして俺のことを親だと思ってるんじゃないだろうな?
【【どうしよう……】】
こんな可愛い妖怪なんて除霊出来ない……俺の腕の中でつぶらな瞳で俺を見るチビグレムリンを抱えて
【とりあえず、美神さんに相談しよう】
【で、ですね】
「みー♪みー♪」
俺の頭の上で楽しそうに鳴くチビグレムリン。俺は深く溜息を吐きながら、魂の尾を伝って身体の元へ戻るのだった
リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その2へ続く
グレムリン。これ可愛いですよね。原作を知ってる人なら判るとおもうんですが、あのぬぼーっとした感じが可愛いんですよ
あとレギュラーにする予定なので楽しみにしていてください。主に今はまだヒロイン枠ではなく、マスコット枠のタマモとの闘いとかを、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします